動力炉専門部会経過報告書の提出

専門部会解散にあたって


 動力炉専門部会は、原子力委員会専門部会の今回の改組にともなって、その任務を終了し解散されることとなった。同部会は、その前身たる専門小委員会の開催以来1年半にわたる活動を終えて解散されることとなったものであるが、解散にあたって瀬藤部会長名をもって正力委員長あて次のような経過報告書が5月23日開催の第20回定例委員会に提出された。

昭和33年5月15日

原子力委員会

    委員長 正力松太郎殿

動力炉専門部会 部会長 瀬藤象二

動力炉専門部会の経過について

 本部会は、昭和31年8月当時動力炉専門小委員会として第1回の会合を開催してから1年有半にわたり、動力炉の技術的、経済的問題について、前後14回の検討、審議をかさねてきたのであるが、今般原子力委員会専門部会の改組拡充を機とし、本部会は一応所期の目的を達したものとして解散することになったのでここに本部会の今までの経緯を報告いたします。
 なお、本部会の活動に関して委員各位をはじめ、各関係者およびかげにあって研究を進め資料を作成されたかたがたならびに武藤教授を委員長とする原子炉地震対策小委員会の委員各位の絶大なる御協力があったことを特に申し添えます。

動力炉専門部会経過報告書

目次

第1章 部会の目的、構成、経過

1.1部会の目的
1.2検討項目
1.3部会の構成
1.4部会の経過

第2章 検討事項の概要

2.1英国型動力炉の検討
2.2濃縮ウラン型動力炉の検討
2.3安全性の検討

第3章 英国型実用原子力発電所 Text-book の作成

第4章 濃縮ウラン型原子力発電所 Text-book の作成

第5章 原子炉地震対策小委員会の活動

第6章 今後の検討方針に関する見解

第7章 部会の資料目録

第1章 部会の目的、構成、経過

1.1部会の目的

本部会は、昭和31年8月9日の原子力委員会の決定により、わが国における動力炉の問題について専門的見地から調査審議を行うことを目的として発足したものである。

1.2検討項目

1.2.1昭和31年8月28日に開催された第1回の部会(当時動力炉専門小委員会といわれていた)においては、当面の検討項目として、一応次のような方向が考えられた。

(1)輸入動力炉の規模、型式および経済性についての検討
(2)転換型動力炉に関して天然ウラン方式と濃縮ウラン方式の得失についての比較検討
(3)動力炉敷地についての検討
(4)ケルトニウム使用動力炉についての研究
(5)濃縮ウランの国産化の経済性についての検討
(6)動力炉開発と化学処理工場建設との関連についての検討
(7)船舶用動力炉の研究
(8)燃料サイクルの研究
(9)増殖型原子炉の可能性
(10)トリウム動力炉の可能性に関する検討
(11)その他

1.2.2英国型動力炉の耐震力策を調査審議するため、昭和32年3月14日原子力委員会は、動力炉専門委員会に原子炉地震対策小委員会を設けることを決定した。

1.2.3原子力委員会は、昭和32年7月1日新たに原子力委員会専門部会運営規程を制定し、動力炉専門委員会は、その名称を動力炉専門部会と改めるとともに、専門委員を増加し、当面の検討項目として天然ウラン型および濃縮ウラン型動力炉の調査検討を行うことを決定した。

1.2.4英国型(天然ウラン型)動力炉に関する調査検討の結果を総括的にはText−bookとしてまとめたので、次に濃縮ウラン型原子力発電所(PWR、BWR)に関する技術的諸資料を整理編集して一書を作り、これにより問題点の摘出は行うとともに、わが国における動力炉開発方針を策定する上の参考資料とすることならびに英国型動力炉についてもその安全性の検討は特に重要であるので、さらに主として技術的見地から具体的事項について検討を進めるため、昭和32年11月1日の原子力委員会において次の検討項目が決定された。

(1)濃縮ウラン型動力炉の調査検討
(2)英国型動力炉の安生性の調査検討


1.3 部会の構成

1.3.1動力炉専門部会の構成は次のとおりである。

(勤務先は主として発令時のものによる)

(部会長参与)瀬藤 象二 東京芝浦電気(株)専務取締役
(参 与)稲生 光吉 三菱日本重工(株)技師長
(専門委員)荒川 康夫 電力中央研究所 主任研究員
川村 泰治 電源開発(株)原子力調査室長
吉田 確太 東京電力(株)常務取締役
吉岡 俊男 関西電力(株)技術研究所長
木村 久男 三菱電機(株)原子力技術部長
森川 辰雄 東京芝浦電気(株)原子力部副部長
島  史郎(株)日立製作所 原子力課長
前田七之進 富士電機製造(株〉企画部長
大山 義年 東京工業大学教授
武田 栄一 東京工業大学教授
佐伯 貞雄 通産省公益事業局術長
小林 貞雄 日本原子力産業会議企画部長
嵯峨根遼吉 日本原子力研究所理事
今井 美材 原子燃料公社理事

(参加者)三谷  昇 通産省公益事業局調査課長
杉本 朝雄 日本原子力研究所 原子炉開発部長
弘田 美弥 日本原子力研究所原子炉開発部
一本松珠き 関西電力(株)常務取締役
辻本  進 東京電力(株)千葉火力建設所長
松本 政吉(株)日立製作所日立工場原子力開発部副部長
前沢 芳一 三菱電機(株)原子力技術課長
穴原 良司 富士電機製造(株)原子力課
(幹 事)法貴 四郎 科学技術庁原子力局次長
田宮 茂文         〃    政策課
井上  力         〃    調査課

 なお、各種質料の作成に、また英国型実用原子力発電所のText-bookおよび濃縮ウラン型原子力発電所のText-book作成に際し、原案のとりまとめについて以上のほか多くのかたがたに協力願った。

1.3.2原子炉地震対策小委員会の構成は、次のとおりである。

(委員長)武藤  清 東京大学工学部教授
(委 員)仲  威雄   〃    〃
那須 信治        〃    地震研究所長
谷口  忠 東京工業大学教授
内藤 多仲 早稲田大学名誉教授
棚橋  諒 京都大学工学部教授
馬場 善雄 大阪大学工学部助教授
竹山謙三郎 建築研究所所長
川村 泰治 電源開発(株)原子力室付
川畑 整理 日本原子力研究所建設部次長
前田 一雄 中部電力(株)原子力課長
一本松珠き 関西電力(株)常務取締役
吉岡 俊男  〃     原子力部長
神谷 貞吉 電力中央研究所技術研究所土木部長
若林 良一 東京芝浦電気(株)鶴見研究所原子力研究課長
松本 政吉(株)日立製作所日立工場原子力開発種副部長
前沢 芳一 三菱電機(株)原子力技術課長
園田  晋 昭和電工(株)企画部次長兼原子力課長
大築 志夫 清水建設(株)研究部
甲野 繁夫 鹿島建設(株)原子力室長代理
管田 豊重(株)大林組研究部次長
嵯峨根遼吉 日本原子力研究所理事
久布白兼致   〃     理事
小林 貞雄 日本原子力産業会議企画部長
(幹 事)梅村  魁 東京大学工学部助教授
竹内 盛雄 早稲田大学第一理工学部教授
小堀 鐸二 京都大学工学部助教授
久田 俊彦 建築研究所第三研究部長
小野 宏治 関西電力(株)建築課
竹山  宏  〃     原子力部
弘田 実弥 日本原子力研究所動力炉準備室
望月 恵一    〃        〃 
秋野 金次    〃        〃 
椹  富彦    〃        〃 

1.4 部会の経過

本部会の審議経過は次のとおりである。

第1回(準備会)
日時 昭和31年8月28日
議題
1.設立経過および主旨説明
2.運営要領(案)の審議
3.英国型動力炉に関する一般的討議

第2回
日時 昭和31年9月17日
議題
1.英国型動力炉について
2.訪英調査団の調査事項について

第3回
日時 昭和31年9月29日
議題
1.英国型動力炉について
2.燃料問題について
3.訪英調査団の調査事項について

第4回
日時 昭和32年1月22日
議題
1.英国型動力炉の調査報告および検討
2.地震対策について

第5回
日時 昭和32年2月26日
議題
1.英国型動力炉の地震対策について
2.英国型原子力発電所の問題点について
3.東京電力グループの設計による原子力発電所の説明

第6回
日時 昭和32年4月8日
議題
1.原子炉地震対策小委員会の経過報告
2.英国型動力炉の問題点検討

第7回
日時 昭和32年6月7日
議題
1.原子炉地震対策小委員会の経過報告
2.英国型動力炉の問題点検討
3.PWRの発電コスト試算について

第8回
日時 昭和32年7月12日
議題
1.原子炉地震対策小委員会の経過報告
2.濃縮ウラン型動力炉の検討方針
3.英国型実用原子力発電所Text-book検討
4.BWRの発電コスト試算について

第9回
日時 昭和32年8月13日
議題
1.英国型実用原子力発電所Text-bookの要約、問題点(案)の検討
2.濃縮ウラン型動力炉の検討方針

第10回
日時 昭和32年9月12日
議題
1.濃縮ウラン型原子力発電所Text-bookの作成について
2.原子炉の安全問題について

第11回
日時 昭和32年10月29日
議題
1.英国型実用原子力発電所Text-bookの作成完了確認
2.英国型動力炉の安全性検討
3.濃縮ウラン型原子力発電所Text-bookの検討

第12回
日時 昭和32年11月18日
議題
1.英国型動力炉安全性の検討報告
2.英国型動力炉の導入にともなう問題点について

第13回
日時 昭和32年12月11日
議題
1.濃縮ウラン型原子力発電所Text-bookの検討
2.原子炉地震対策小委員会の経過報告
3.ヤンキー型原子力発電所の事故と災害に対する検討結果の報告

第14回
日時 昭和33年4月24日
議題
1.濃縮ウラン型原子力発電所Text-bookの原稿確認
2.経過報告書作成について
3.動力炉の検討に関し、今後の進め方について意見交換


第2章 検討事項の概要

2.1英国型動力炉の検討

 本部会の前半における努力はほとんど英国型動力炉の検討に注がれた。一昨年秋に派遣された訪英原子力調査団が出発するまでに3回の部会を開催して、調査団の調査事項について検討するとともに、輸入にともなう問題点をあらかじめ討議し、また調査団が帰国するやその調査報告を検討してその問題点を審議し、総括的には第3章に述べるように英国型実用原子力発電所text-bookに取りまとめるとともに特に地震対策については第5章に述べるような原子炉地震対策小委員会を設けて耐震対策の研究を進めた。

2.2濃縮ウラン型動力炉の検討

 前項に引き続き、後半は濃縮ウラン型動力炉の検討に努力が向けられた。多くの委員から濃縮ウラン型動力炉のうちPWR、BWR型に関する仕様書、コスト試算、ハザードリポート等の資料が数多く提出され、これらの動力炉の適応性が述べられた。濃縮ウラン型についても第4章に述べるようにText-bookとしてまとめることになった。

2.3安全性の検討

 本部会の当初から英国型動力炉の安全性については特に重点をおいたところであるが、初めのうちは、資料の入手が困難な面もあり、十分な検討は不可能であった。しかし英国型のText-bookには、当時入手されていた資料ならびに考察の結果を一応述べておいた。その後資料の入手にともない技術的見地からさらに具体的事項について検討を進める計画をたてたが、日本原子力発電(株)側でも英国型動力炉の安全性を検討することになり、しかもメンバーがほとんど重複することになったので、会社側で検討した結果を本部会に報告することとし、本部会ではその報告書を受理して、安全性検討の参考資料としたのである。
 安全性の一環として、地震対策についても本部会で一応取りあげたが、原子炉地震対策小委員会で十分な研究を進めることとなった。
 濃縮ウラン型動力炉の安全性については、PWRも、それぞれハザードリポートが入手されており、Text-bookの作成に当ってもこれらが取り入れられた。

第3章 英国型実用原子力発電所Text-bookの作成
 動力炉専門部会では、昭和31年夏以降1ヵ年にわたり主として英国型動力炉について検討中であったところ、その間訪英調査団による調査も行われ、また各種の資料も徐々に公表されるに及び、それまでにわかったこと、わからない箇所を一応整理しておく必要があると考えられたので、英国型実用原子力発電所Text-bookとしてまとめることにした。
 Text-bookの作成に当っては、専門委員をはじめ関係者のかたがたに各章の原案作成の分担を依頼し、それぞれ勤務先の担当者各位の協力をも得て、各種のデーターを根拠とし、あるいは簡単な計算を行って総括的な説明を行った。その原案を再三にわたって調整するとともに、不明な点、疑問の点、あるいはより詳細に知りたい点等を問題点として摘出して記述した。
 このText-bookは本報告書に添付して提出するが、ここではその章名だけを掲げておく。

第1章 発電所の概要
第2章 原子炉
第3章 蒸気系統
策4章 電気設備
第5章 制御および運転
第6章 建設
第7章 発電コストの試算

第4章 濃縮ウラン型原子力発電所Text-bookの作成
 本部会では、濃縮ウラン型原子力発電所に関しても若干の検討を進めていたのであるが、この型についても総括的にText-bookにまとめることが適当であろうと考えられ、英国型と同様に作成することとした。
 濃縮ウラン型の対象としては、PWR型およびBWR型を採り上げ、特に実用型と目される13万4千kWのヤンキー型PWR発電所と18万kWのドレスデン型BWR発電所に焦点を合わせた。
 本Text-bookの作成に当っても、専門委員をはじめ関係者のかたがたに各章の原案作成の分担を依頼し、各方面の担当者各位の協力を得て編集を進めた。
 Text-bookの編成は、英国型の場合と同様な各章のほか、廃棄物処理、安全性の章を加えるとともに、英国型まで含めてPWR型、BWR型の各型の比較を試みた章を追加した。
 しかし、いずれの型にしても決定的な長所、短所は存在しないので、各型の比較によって優劣を決定するというよりは、それぞれの性質、特徴の評価を行うことに意味があったと思われる。同様なことは発電原価の試算についてもいえることであって、試算の過程においてそれぞれの型の特徴を知ることができるが、多くの不確定要素を含むため結果としてでた発電原価のみをもって、いずれが経済的であるかということを判定できる段階にはないと思われる。

 本Text-book目下印刷手配中で、印刷完了の上提出することとしここではその章名を掲げる。

第1章 概要
第2章 原子炉および付属装置 PWR編、BWR編
第3章 燃料 PWR編、BWR編
第4章 蒸気系統および電気設備 PWR編、BWR編
第5草 制御および計測 PWR編、BWR編
第6章 放射性廃棄物処理
第7章 安全性
第8章 建設
第9章 運転保守
第10章 建設費および発電原価の試算
第11章 各型の比較

第5章 原子炉地震対策小委員会の活動
 原子炉地震対策小委員会は、英国型動力炉の耐震設計検討ならびに動力炉の耐震対策研究の方針等について調査審議することを目的として、昭和32年3月に設直された。
 同年7月までに7回の委員会と8回に及ぷ幹事会を開催して、英国型動力炉に対する予備的仕様書案の作成と耐震実験テーマおよびそのタイムテーブルを立案した。
 仕様書案はあらかじめ英国に送付するとともに耐震実験は日本原子力研究所その他において実施された。
 その後、仕様書に対する英国AEAの一応の見解も公表され、また耐震実験も進捗し、かつ日本原子力発電株式会社から訪英交渉団を派遣されることが考えられていたので、その後の情勢を勘案して委員を増加し、英国型動力炉の地震対策に関し早急に問題の集約を行うことになった。このため地震対策小委員会は昭和32年10月、11月の2ヵ月にわたって、3回の委員会と、7回の幹事会を開催したが、その運営は、小委員会の調査審議を能率的に行うため、(1)地震、地盤、震力の基礎資料関係、(2)耐震実験関係、(3)耐震設計関係、(4)構造資料関係および(5)仕様書関係の研究班を編成して各班において研究調査の基礎資料を作成し、幹事会で検討のうえ、これを地震小委員会で審議することとした。これらの詳細については、別に原子炉地震対策小委員会の経過報告書で報告したとおりであるが、結論として細部については種々困難はあるにしても、一応耐震的には設計が可能であるという見通しを得るにいたったのである。

第6章 今後の検討方針に関する見解
 昭和33年度から専門委員が増員になる見通しがついたので、各専門部会は改組されることになり、従来の安全専門部会は二つに分けて安全基準、安全審査の両部会とし、燃料関係についても核燃料、核燃料経済の二つの部会が設けられ、動力炉専門部会はここで一応解散することになったものである。
 本部会の最後の会合において、動力炉の検討方針に関し今後の進め方について意見交換を行ったところ、次のようないろいろの意見があった。

1.今後は、原子炉部門の専門部会の数も増加して安全関係、燃料関係の計四つになるがこれらは動力炉に関連するものであっても専門化するので、別に動力炉としての総合的立場にたって検討するものも必要である。

2.原子力開発のおくれているわが国の場合、先進国に追いつくためには一段飛んで、増殖炉を目標とすべきであるとして長期計画にも採り上げられているので、一応増殖炉の技術的検討を行っておくべきである。

3.増殖炉の検討よりも前に、それにいたる過程の転換炉の検討を行うべきである。

4.現在の動力炉研究を、現実的な型の研究と理想的な型の資料収集という二つに分けて考えると、わが国では将来の理想を追いすぎる傾向があり、技術は一歩一歩築きあげられるべきものであるという点からすれば、まだ現実の型に対する分析が足りない。

5.機器、燃料等の試作、加工技術を実際に研究するためには、動力炉の型についての見通しがないといろいろの型に対して研究することとなり勢力を分散し真の推進を期し難い面があるので、現実の型にかぎらず将来への方向づけも必要である。

6.本部会の解散にともない、原子炉地震対策小委員会も解散になるが、さきに地震対策小委員会において指摘されたとおり英国型に対する今後の研究テーマとしての免震方策あるいは濃縮ウラン型の地震対策等についても、引き続き研究調査を推進すべきである。

 これを要するに、動力炉開発の方針としては、長期的に見て将来の燃料サイクルに適応したもので、そのときそのときの段階において最良の原子炉を開発すべきである。
 英国の場合はコールダーホール型の改良に専心しつつ将来の型を研究しており、またカナダは重水型のみに専心し、いっぽう米国は最良の型を選ぶべく全面的に開発を進めている。
 わが国の場合、いずれの型を目標として進めるべきかを本部会として今の段階において決定することは困難であるが、主要な先進国の動向を見守りながら、わが国情に適した動力炉開発方針を考えることが必要であり、そのためには外国で開発されつつある各型について全面的に検討することが適切な処置であろう。

第7章 部会の資料目録

(本章には、本部会において資料として使われたものの目録、合計125が掲載されているが紙面の都合で割愛した。)