原子力委員会

昭和33年度原子力関係予算について

 昭和33年度の原子力関係予算は、年度中に支出可能な現金額77.9億円のほか、債務負担行為額33.8億円を合せて総額111.7億円となった。これを32年度と比べると、現金額において17.9億円(30%)、債務負担行為額において3.8億円(13%)、総額において21.7億円(24%)と着実な増加をみせた。
 33年度原子力予算の内訳は、別表に示すとおりであるが、以下そのおもなものについて述べることとする。

1.日本原子力研究所

(イ)各種原子炉の設置
 33年度においては、32年度に完成したウォーターボイラー型原子炉を引き続き稼働することにより種々の実験研究を行うほか、32年度に建設中のCP−5型原子炉も33年8月に設置完了、10月ごろに臨界実験を行い、34年1月ごろより本運転に入り、これによる実験および訓練を開始する。35年秋の完成を目標とする国産1号炉については、いよいよ建設に着手し、その完成に必要な計測制御、燃料加工等の工学的研究を32年度に引き続き更に推進する。
 33年度予算において特筆すべきことは、新たに試験用動力炉1基を海外に発注することとしたことである。すなわち現在原子力研究所に設置され、あるいは設置予定のウォーターボイラー型、CP−5型および国産1号炉はすべてそれから発生する中性子を利用する研究用具であるが、これと本質的に性格の異なる動力を取り出し研究することのできる試験炉を現在の段階において導入し、両々相まって研究をする必要があるので、将来の発電炉として大きく期待されている濃縮ウラン型実用発電炉の導入とその国産化に資し、同時に原子力船舶の研究開発の推進を図るため36年度に完成する予定をもってこの炉の導入を行うこととした。

(ロ)各種の研究
 発電用原子炉開発のための長期計画で強く打ち出された増殖型原子炉の研究については、熱中性子増殖の臨界実験を行うほか、高速中性子増殖の指数実験にも着手する。また燃料再処理のためのテストプラントの建設に着手し、燃料加工、廃棄物処理等の研究を進め、高度の放射性物質を取り扱って実験するためのホットラボラトリーの建設契約を締結し、放射線利用研究施設としてのリニアック、コバルト60の照射室の整備をはかる。これらの研究活動にともない廃棄物の処理および放射線防護に必要な諸施設を更に完備し、その管理に万全を図る。このほか、舶用原子炉、ウランの濃縮、核融合等の諸問題についても基礎的調査を行う。

(ハ)技術者の養成
 海外の技術を習得するため悔外に留学生を派遣するとともに、原子炉学校の準備、アイソトープ研修所における技術者の養成、ウォーターボイラー型原子炉、CP−5型原子炉コバルト60照射室、ヴァンデグラフ加速装置等による実験研究の国内一般への開放、外来研究員受入等によって外部との連けいを強化する。

(ニ)建屋および付帯設備建屋および付帯設備については、32年度からの継続工事を完成するとともに、国1炉建屋、研究第4棟、再処理試験場、材料試験室、汚染除去工場、図書館等の建設工事に着手し、取水、給排水、送配変電、ガス暖房等の付帯設備の整備に努め、また職員の生活環境を整えるため独身寮および個人住宅を増設する。
 以上の事業を遂行するため民間出資3億円、収入4千万円を含め総事業費約80億円(うち債務負担31.6億円)が認められ、33年度政府出資として45億円(外に債務負担31.6億円)が計上され、定員は新たに300名を増加し、年度末750名に増強される。

2.原子燃料公社

 原子燃料公社の予算として総額12億5千万円が計上された。

(イ)探鉱
 探鉱については32年度に引き続き、人形峠鉱山に重点をおき、倉吉および三吉鉱山のほか、新たに気仙沼地区、岡山南部地区、山口県防府北方地区等において坑道探鉱を実施するとともに、更に通商産業省地質調査所において発見した有望地区について随時地表精査、試錐探鉱等を行う予定である。これと並行して有望地区に対しては、鉱区出願、鉱区買収、共同鉱業権加入および租鉱権設定等を行い、将来の開発に備えることとしている。

(ロ)製  錬
 製錬については、茨城県那珂郡東海村に原子燃料試験所および金属ウラン日産30kgの中間試験工場ならびに関連付帯施設を設置することとし、32年度にその一部を建設中であるが、33年度中にこれを完成し、操業を行い、製錬技術の確立を図るとともに金属ウラン1.2トンを生産することを予定している。
 以上の事業を実施するため、人員の充足については本年度末人員220名に対して、70名以上の増員を行うこととなった。

3.国立試験研究機関

 科学技術庁、工業技術院その他各省所属の国立試験研究機関においては、29年度以来原子炉構造材料、ウラン探査、ウラン製錬、放射線標準の確立、アイソトープを使用する各種試験研究等を行っているが、33年度も6.7億円をもって核融合、ウラン用窯業材料、炭素材料、ペグマタイト鉱物、原子力船の基礎実験、金属材料の腐食および熔接、ウラン探査等の研究を行うほか、アイソトープ利用として、各種土壌の改良、各種病源の究明、各種物質の物理的化学的変化の解明、食品、木材をの他の有機物等の保存および品質の改善を行う等のテーマについて研究を実施する。

4.補助金および委託費

 補助金および委託費は、国産炉建設等のための民間技術の育成を目的として29年度の原子力予算以来続けられており、その成果も着実にあがっているが、33年度も更に燃料、炉材、付属装置等のうち国産化のあいろとなっている部面を中心に研究を行うこととし、補助金3.7億円(うち債務負担1億円)、委託費2億円のほか、探鉱奨励金0.3億円を加えた合計6億円が計上された。

5.放射線医学総合研究所

 32年度に新たに設立された放射線医学総合研究所については、千葉県稲毛地区において、総額6.9億円(うち債務負担1.2億円)の予算により本格的な建設工事を行うこととし、定員も新たに30名追加して70名とした。

6.原子力委員会その他

 原子力委員会については非常勤委員1名を常勤委員に切り替え、専門委員の増員を行って強化を図り、原子力局については10名の定員増加を行うことにより、ますます繁忙となる原子力行政に備えることとなった。留学生派遣費については32年度なみの派遣を確保し、ウラン等の借料および購入費は、年度中にウォーターボイラー型原子炉、CP−5型原子炉に要する濃縮ウランを現在の協定による貸与より購入に切り替え、新たに増殖炉実験用濃縮ウランおよび研究用特殊分裂性物質を購入するための所要額を計上した。
 放射能調査費は、核爆発実験および原子力開発にともなう将来の原子力時代に備え、大気、海洋、地表、動植物等の人工放射能および自然放射能の分布状況を組織的に測定調査するための経費であって、32年度に引き続き33年度は36百万円で特にその核種分析および大気、成層圏の調査に重点を置くほか、公立衛生研究所等に対する委託調査網を拡大する。

7.各省原子力関係行政費

 以上のほか外務省における国際会議費、国際原子力機関分担金等国際協力関係費、その他関係各省における原子力関係調査費、図書費等関係各省における行政費9千万円があるが、これは関係各省に直接計上される。


昭和33年度原子力予算総表


    1.日本原子力研究所に必要な経費


    2.原子燃料公社に必要な経費


    3.原子力技術者の海外派遣に必要な経費


    4.核燃料物質等の購入等に必要な経費


    5.試験研究の助成に必要な経費


    6.原子力平和利用研究委託に必要な経費


    7.核原料物質の探鉱助成に必要な経費


    8.放射能測定調査研究に必要な経費


    9.試験研究機関の試験研究に必要な経費



    10.放射線医学総合研究所に必要な経費


    11.原子力委員会に必要な経費


    12.原子力局の一般行政事務処理に必要な経費


    13.関係各省行政費