III 原子力発電開発の影響

(1)所要資金
 原子力発電所のkW当り建設費は、火力発電所に比較してかなり多額にのぼるという事情があり、また、将来大規模に原子力発電が実用化されるに至った時期においては、いくつかの新しい産業分野が原子力関連産業として成立し、これら産業部門の設備投資もかなりの額に達することとなる。したがって本計画の妥当性を判断する場合には、所要設備資金の調達規模が国民経済上に及ぼす影響についても一考する必要がある。
 最近の数年間における実績によれば全産業の設備投資額は国民総生産に対しておおむね18%の額に相当し、電力総工事資金は国民総生産に対し約1.5%、全産業設備投資に対して約8%前後に当っており、国民総生産、全産業設備投資および電力総工事資金の間にほぼ安定した比率がみられる。〔参考資料5−(4)−(ロ)〕
 今後の国民総生産の延びは昭和37年度までは年率6.5%の増加をつづけ、37年度には13兆440億円に達することが新長期経済計画でみこまれている。その後の増加率を40年度まで年率6.5%、45年度まで5.0%、、50年度まで4.0%と仮定すれば、各年度の国民総生産は40年度に約15兆8千億円、45年度に約20兆1千億円、50年度に約24兆5千億円程度の水準に達することとなる。
 他方火力発電に代って原子力発電を開発することによって所要設備資金の増加する額は発電炉の型式を天然ウラン黒鉛型と仮定すれば、発電所建設費、関連設備投資を含めて昭和40年度で約400億円、45、50の各年度でそれぞれ約740億円、580億円と推定される。これらの金額は前記のごとき国民経済の成長を前提とすれば、各年度の国民総生産の0.2〜0.3%程度、全産業設備投資の1.3〜2.0%程度にとどまるものと予想される。これらの比率は最近までの総工事資金の国民総生産および全産業設備投資の比率の実績に比較すればかなり低い数値となっている。〔参考資料5−(4)−(ロ)〕
 原子力開発に必要な資金としてはさらに研究開発に要する設備資金ならびに経費を考慮に入れるべきであるが、その金額は原子力発電によって増加する所要設備資金の額に比較すればかなり少額であるので、以上の比率にはさして影響を及ぼさぬものと考えられる。
 原子力発電による所要設備資金の増加が国民経済におよぼす影響を考えるには、資金の量的な問題のほか、将来の資本蓄積のテンポあるいは資金投下から発電設備として稼働するに至るまでの期間が長いこと等考慮すべき点があるが、その発電コストの低下傾向および技術の将来性等にかんがみこの計画を極力促進すべきであろう。

(2)外貨収支
 発電炉の型式をコールダーホール改良型と仮定して所要外貨を算定し、同一規模の火力発電を開発する場合と比較すれば第3図のとおり、当初約10年間は原子力発電の所要外貨は火力よりも多額であるが、昭和44年度ごろからは逆に火力の方が所要外貨が増加し、昭和50年度では火力の場合約1.7億ドル、原子力の場合約1億ドルとなる。
 毎年度の所要外貨を累計すれば、原子力発電の実施によって昭和43年度までは約1.6億ドル を余計に必要とするが、さらに50年度までみれば逆に約1億ドル節約しうることになる。
 昭和50年度と45年度との所要外貨を比較すれば火力発電による場合はこの間に約2.4倍となるが、原子力の場合には所要外貨は約1.5倍になるにすぎない。さらに将来は原子力発電がますます多く外貨の節約に貢献することとなろう。
 以上の試算の結果長い目でみれば原子力発電を行うことによって巨額の外貨の節約を期待することができる。〔参考資料6〕

(3)効果と問題点
 以上の試算に示すとおりこの計画を達成するためには、エネルギー不足を単純に重油等の輸入エネルギーによってまかなうのに比較すれば当初は相当多額の資金を必要とするが、原子力発電の開発に必要な資金は単にエネルギー供給のみに使用されるものでなく原子力技術の確立という大きな目的のためにも役だつものであることに留意すべきである。さらにまた原子力技術の開発を通じて、在来の科学技術が飛躍的に向上するであろう効果をも忘れてはなるまい。
 また、外貨収支については火力発電に比べて漸次好転していくことを示したが、さらに長期的にみれば、原子力発電の開発によって節約される外貨は相当巨額なものになるであろうことは第3図により容易に推定されるところである。なお原子力発電開発に費される外貨はこれまた一部はわが国の技術水準を向上させるために役だつものである。

第3図 原子力発電および火力発電所要外貨

 このように原子力発電の開発はわが国の技術水準を向上し、外貨収支を改善し、エネルギー需給を安定するという効果を持つものであるが、他面この計画を実施するにあたって解決すべき多くの問題があることも事実である。
 開発の進展にともない、放射線による障害の防止に力をつくさなければならぬことは前に述べたが、この分野においては世界的にも未知の事実が多く、今後の研究の進展に期待するところが大である。
 核燃料の確保についても問題が多い。わが国に最も適した燃料サイクルの確立を図り、増殖炉の技術の開発と相まって、核燃料を最も効率的に使用する必要があることはいうまでもないが、一方国内資源の開発を促進することは急務である。さらに、増大する核燃料の需要量をまかなうためには海外から多量の精鉱を輸入する必要があるが、この輸入の確保を図るためには今後多大の努力を要するであろう。
 技術の研究、開発を促進し、原子炉、燃料要素および付属機器等を国産化するためには、すぐれた科学者、技術者を多数必要とするが、わが国の現状ではいちじるしく不十分であるので人材の養成について努力を尽さねばならず、また国産化を能率的に行うための国内の生産体制にも留意しなくてはならない。
 以上問題点の二、三について述べたが、いずれにしても原子力利用の国際的な性格にもかんがみ、立ちおくれたわが国としては、これらの問題の解決を図るためには海外諸国との間の知識、技術の交流が不可欠であって、国際原子力機関を初めとして諸外国との間の協力関係を確立する必要がある。