II 開発の基本的方針

(1)発電炉の型式

 前述の原子力発電の開発の目標を達成するために設置すべき発電炉の型式の選択は、わが国の原子力技術の開発を方向づける重要な因子であるので慎重に検討すべき問題である。
 発電炉の各型式についての優劣を現段階において判定することは困難であるが、燃料サイクルと世界的な投術の進歩の方向から見れば、将来においては増殖型の発電炉が重要な地位を占めるべきであると考える。
 しかし、増殖型の発電炉の開発には相当の時日を要し、一面原子力発電の緊急性が強いので、開発の初期段階においては、海外において開発され、その実用性がある程度立証されている発電炉をまず導入して、その国産化と改良を図るものとし、これと並行して増殖型原子炉の研究開発を促進し、昭和40年代の串ごろには、 この型の発電炉が実用されることを期待する。
 前述の開発規模によれば、炉内で生産されるプルトニウムの量が昭和40年代の中ごろまでには数トンに達するので、天然ウランまたは劣化ウランをプルトニウムによって強化した核燃料を使用する発電炉の開発を促進すべきであろう。したがって最終的には増殖型、天然ウラン型、プルトニウムまたはウラン235による低濃縮型の各発電炉の系列が存在するようになることが予想されるが、これらの各系列の組合せおよび割合等については燃料サイクル等の見地から今後慎重に検討を要する。
 なお初期段階における実用発電炉として、選択の対象となり得るのは、現在のところ英国の天然ウラン黒鉛型と、米国の加圧水型および沸騰水型である。これらの各型式の優劣については多くの議論があるが、天然ウラン黒鉛型の発電炉は、

(1)送電端出力84MWのコールダーホール発電所についての運転実績があること。

(2)燃料の入手ならびに国産化が比較的容易であるなど、わが国の国情に過する点が多いと考えられること。

等の理由から、わが国に建設する実用発電炉の第1号機として、英国系の天然ウラン黒鉛型を採用すべく耐震構造の問題等につき検討するのが妥当であると考える。
 しかも、この系統の炉については天然ウランをプルトニウムによって強化する等の進歩も予想されるので、第1号機として採用する以上その国産化を促進し、プルトニウムリサイクルへの道を開き、使用済燃料の再処理を経済的に行い、さらにまた原子炉および核燃料に要する外貨を節約する等の見地から、開発の初期段階にはまずこの型の発電炉の開発に力を注ぐべきであろう。
 米国系の濃縮ウラン水冷却型発電炉は将来の進歩が大いに期待され、この計画の後半期にはこの型の発電炉の設置が多数にのぼり、出力において全体のほぼ半ばを占めることも予想される。したがって初期段階においても適当な時期に、この型の発電炉の導入を考慮する必要がある。

(2)初期段階における発電炉の国産化計画
 初期段階における原子力発電設備は、当初は海外からの輸入に多くを依存せざるを得ないが、わが国の技術水準より見て、原子炉本体および熱交換器を除いたタービン、発電機以降は、輸入する第1号機から原則的には国産が可能であると見ることができ、コールダーホール改良型発電炉の場合は、原子炉本体については黒鉛、遮蔽用特殊セメント等の材料のなかにも現在すでに国産が可能なものもある。さらに将来輸入比率を削減するためには、日本原子力研究所、国立試験研究機関、民間企業等の各機関において、炉本体、計測制御、機器、材料等の各種研究を強力に促進しなければならず、また、技術導入等の処置を講ずることも必要であろう。このような考えのもとに、コールダーホール改良型発電所の初期における輸入比率をほぼ40%と見、その後における国産化の傾向を第2表のごとく推定したが、この型の発電炉についてある程度の継続的な事業量があることがぜひ必要な条件と考える。〔参考資料3〕
 濃縮ウラン型の発電炉についても、ほぼコールダーホール改良型と同様な方法で国産化を促進する必要があるが、とりあえず後述の濃縮ウラン型動力試験炉等によって、主として一般的、共通的な研究を促進することが適当であろう。

第2表 国産化の傾向


(3)増殖型発電炉開発のための動力試験炉計画

 さきに述べた初期段階における実用発電炉の国産化計画と並行して、わが国の原子力開発の目標の一つとして、燃料サイクルと世界的な技術の進歩の方向から見て増殖型動力炉を建設するための計画を促進する必要があるが、この型の開発には相当長期間を要すると思われるので、ほぼ昭和40年代の中ごろからこの型の発電炉が実用されることを目標とする。
 増殖炉の理論ならびに技術については世界的に見てもまだ研究段階にあるので、わが国においてこの型の実用発電炉を開発することは、日本原子力研究所を中心とする各方面の協力と一致した努力が必要であるが、この型が実用化すれば、燃料サイクルの確立とあいまって、わが国の核燃料の需給状態がしだいに好転することが予想される。この目標を達成するために昭和40年代の中ごろまでに電気出力100MW程度の増殖型動力炉を建設することとし、そのための動力試験炉計画ならびに所要資金の概算を第3表に示すが、電気出力1〜10MW程度の動力試験炉 までは、燃料サイクルの観点および流動燃料あるいは液体金属に関したより高度の技術を習得するため、熱中性子型ならびに高速中性子型を並行的に開発することが必要であると考える。
 なお、実用発電炉と増殖炉に関する技術のうち主として熱伝導、動特性、燃料要素に関する技術の開発を促進し、あわせて原子力船に関する技術の開発に資するために、電力出力10〜15MW程度の濃縮ウラン水冷却型の動力試験炉1基を日本原子力研究所に設置することが有効であろう。
 これらの動力試験炉の設置目的の概略は第4表のとおりである。

第3表 動力試験炉設置計画

第4表 動力試験炉の設置目的

(4)研究炉の設置計画

 初期段階における発電炉を国産化し、増殖炉を開発し、さらに広く原子力技術を開発するための各軽の基礎研究、材料試験、工学試験等を行うための研究炉は原子力の研究開発に不可欠のものであるがその設置計画を第5表に示した。

第5表 研究炉設置計画

 表中、JRR−3までは、さきに当委員会が決定し、すでに完成もしくは目下進行中の計画であるが、材料工学試験炉については、原子炉ならびにこれに使用する機器材料の国産の進展にともない必要となるので、JRR−3の完成に引きつづいて設置するものとする。
 これらの研究炉の使用目的は第6表のとおりである。

第6表 研究炉の設置目的


(5)核燃料
 この計画にもとづく核燃料の需要量を正確に算出することは、特に計画の後半期における発電炉の型式を予想することが困難であるために不可能である。
 しかしながら所要資金、外貨収支等を試算し、核燃料の開発のおよその規模を推定するための必要から、発電炉については一応天然ウランのみでこの計画を達成する場合を仮定してその需給を試算した。
 この試算によれば天然ウランの需要量は、初期装荷燃料および取換量をあわせて、昭和40年度には金属ウランとして約640トン、45年度には約1,910トンに達する。〔参考資料4−(1)〕
 これに対して国内鉱石の産出予想は開発がきわめて初期段階であるため推定が非常に困難であるが、一応現在埋蔵量が比較的正解に判明している地点のみを対象として年間金属ウラン換算150トン程度と考えた。
 国内産出量は開発の進捗とともに大幅に増加することが期待されるが、原子力発電計画の進展にともなって、増大する燃料需要の大部分は結局海外からの輸入に依存せざるを得ないことになる。この場合外貨収支の改善、国内技術水準の向上等の見地から主として精鉱の形で輸入し、国内で製錬加工することが必要であろう。このための設備は精製、加工の部門については昭和42年度ごろには金属ウランとして年約1,500トンの規模に達する。〔参考資料4−(1)および 5−(3)−(イ)〕
 なお研究炉ならびに増殖炉開発のための動力試験炉に必要な核燃料は、不確定の要素もあるが一応天然ウラン約78トン、トリウム約44トン、濃縮ウランはウラン235として約1.9トン、プルトニウム約1.2トンである。〔参考資料4−(2)〕
 濃縮ウランについては、現段階では国内で生産する計画が樹て難いので、その供給は当分の間は全面的に海外に依存せざるを得ないが、特に低濃縮ウランの将来性にかんがみ、ウラン濃縮技術の開発に積極的に努力する一方、プルトニウムリサイクルの技術を確立するため燃料再処理、プルトニウム冶金の技術の開発を促進し、核燃料の海外依存度の低下を図る必要がある。
 またトリウムについては熱中性子増殖炉の将来性についての技術的な見通しを得るまでは、その需給等について確たる方針を樹立することは困難である。しかしながらその資源の将来における重要性にかんがみトリウムの製錬、冶金等の技術の研究を促進すべきである。

(6)技術の研究開発
 以上のような目標と手段により、発電用原子炉に関する技術の開発を促進し、ひいてはわが国における原子力技術の確立とエネルギー供給の安定という目的を達成するためには、非常に広範な分野にわたる大規模な研究開発を必要とする。
 もとより技術の他の分野と同様に学術的な基礎研究が広くかつ深く行われなければならぬことはいうまでもないことであって、原子力技術においてもこの分野の研究は大学等の諸機関において発展されることを期待することが最も適切であろう。ただし、原子力の分野においては、基礎研究といえども研究炉等の比較的高価な実験設備を必要とすることがあるので、このような設備はできうるかぎり集中的に設置し、共同利用の実をあげることが望ましい。
 本計画では以上のように大学等において行われるぺき基礎的な研究は一応除いて、主として日本原子力研究所、原子燃料公社、国立試験研究機関、民関企業等において促進すべき研究開発計画の概要を第7表に示した。
 これらの研究はいずれも必要不可欠なものであるが、とくに諸材料の中性子断面積の測定、ウラン、プルトニウムの冶金学的研究、核燃料の再処理等は従来わが国においては未知であった分野に属するので、急速に知識経験を蓄積する必要がある。また研究炉、動力試験炉の設計建設、機器材料の製造研究等は、既存の技術の基盤の上で、実際に製作の経験を得るという意味で重要な研究である。

第7表 研究開発計画






(7)  研究開発の分担
 初期段階における実用発電炉ならびに増殖型発電炉、さらに核燃料に関する研究開発計画を促進するにあたっては、立ちおくれたわが国の現状から各方面の一致協力した努力が必要であることはいうまでもない。この場合もとより技術の外延的基礎的な部分についてはある程度重複した研究が行われることは研究開発の本質上必要不可欠なことであるが、反面研究を効率的に促進するためには、それぞれの機関の特色に応じた研究開発計画が必要であり、この計画にもとづき日本原子力研究所を中心として各機関が密接な連絡をとりつつ開発を進めてこそはじめて原子力の研究開発という大事業が無駄なく効果的に達成し得ることになる。
 このような考えにもとづいて、日本原子力研究所、原子燃料公社、国立試験研究機関ならびに民間企業に期待するそれぞれの役割を集約すると下記のごとくなる。なお前述のように大学における基礎的研究が必要であることはいうをまたない。

イ 日本原子力研究所

(1)原子力利用に関する基礎的な研究を行うことにより大学等における研究とあいまって、わが国の原子力に関する技術水準を向上せしめること。
(2)原子力に関する工学的な研究のうち主として一般的共通的な問題の研究を促進することにより学界と産業界とのかけ橋的役割を果し、わが国における原子力産業技術を向上せしめること。
(3)各種の研究炉、動力試験炉を駆使してこれらの原子炉を使用しなければ不可能な実験研究を行うこと。
(4)原子力開発の基本計画において要請される型式の原子炉を設計し、建設することによって、わが国独自の原子炉技術を開発すること。
(5)各種の施設を開放し、各界に利用せしめるとともに研究者、接術者の養成を行うこと。
(6)核燃料の再処理および放射性廃棄物処理の実験的研究を行うこと。

ロ 原子燃料公社
(1)核燃料資源の探鉱採鉱を行うこと。
(2)核燃料の製錬加工を行うこと。
(3)核燃料の再処理ならびに廃棄物の処理を行うこと。
(4)以上に関する試験研究を行うこと。

ハ 国立試験研究機関

(1)原子力に関する工学的な研究のうち、主として核燃料ならびに材料に関する研究を行うこと。
(2)核燃料資源の探査を行うこと。
(3)放射線等の標準に関する研究を行うこと。
(4)その他各機関の特色を発揮するごとき分野における関連試験研究を行うこと。

ニ 民 間 企 業

(1)主として実用発電炉ならびに機器、材料に関する研究開発を行うこと。
(2)核燃料に関する研究開発のうち主として探鉱、採鉱、加工に関する開発を行うこと。