I 原子力発電の意義と目標

(1)長期エネルギー需給見通し
 わが国の電力需要は、将来ますます増大する傾向にあり、新長期経済計画の見通しによれば、需要端需要電力量は昭和31年度における約611億kWhから37年度には1,019億kWhとなり、さらに50年度においては1,850億kWhに達する。
 これにたいし、一応原子力発電を考慮の外において想定された電源開発の規模(新長期経済計画に関する経済審議会答申に添付されたエネルギー部会報告書による)によれば、電気事業でほ33年度から50年度までに、水火力合計約2,930万kWを開発するが、このうち火力は約1,550万kWを占め、火力発電量にみあう燃料所要量は昭和50年度では石炭換算で4,530万トンに達し、31年度実績の約4.5倍となることが指摘されている。この核燃料所要量の相当部分は当然石油等の輸入エネルギー源に依存せざるを得ず、またこの傾向は今後増大するものと考えられる。〔参考資料1−(2)〕
 以上の傾向は電力を含めた総エネルギー需給の見通しにおいてもみられるところである。すなわち、新長期経済計画によれば、昭和31年度の総エネルギー需要は石炭換算約1億800万トンで、そのうち23%を石油等の輸入エネルギーで供給している。今後のエネルギー需要の増大に対しては、石炭、原油、天然ガス等の国内エネルギーの増産が期待されるが、国内エネルギーの増産によっても充足できない需要は、輸入エネルギーに依存せざるを得ないところであり、昭和50年度においては石炭換算約2億7,100万トンの総エネルギー需要に対し、48%を輸入エネルギーによってまかなわねばならない見通しとなっている。〔参考資料1−(1)〕
 上記のごとく、火力発電用燃料をも含めた総エネルギー供給が今後ますます多く輸入エネルギー源に依存せざるをえないという傾向は、当然そのための外貨支払を膨大ならしめるので、わが国の外貨収支の見地からなんらか輸入エネルギーに対する所要外貨を削減するための方策を必要とするであろう。

(2)原子力発電の意義
 原子力発電を実施することの直接的な意義としては、まず、発電原価の低下と所要外貨の節約とがあげられる。
 在来エネルギー源による発電原価の大幅な低下は今後望み薄であるのに対して、原子力発電は現在ほぼ経済べ−スに近づいており、今後は技術的進歩とともに発電原価も低下していくものと期待される。すなわち初期段階におけるコールダーホール改良型原子力発電所の発電原価を、新鋭火力発電所と比較して試算すると原子力発電所はkWh当り4円40銭ないし4円75銭程度であるのに対し、石炭だき発電所では3円85銭ないし4円35銭程度、重油専焼発電所では3円50銭ないし4円程度であって、初期の段階においても原価的に原子力は石炭だきの火力とコンパラブルになりうるものとみられる。〔参考資料2−(1)−(イ)〕
 なお原子力発電の場合は一般的に発展の余地が大きく、将来、発電原価が相当大幅に低下することは当然予想されるところであって、コールダーホール改良型についてのだいたいの傾向は、第1図のとおりである。〔参考資料2−(1)−(ロ)〕一方、火力発電の場合は、将来技術的改良による建設費の大幅な値下りはほとんど期待できず、またその燃料費についても将来大幅に低下することは期待しがたい。
 したがって原子力発電は、原価的に初期においてすでに在来の火力と匹敵し、さらに数年後においては、最新鋭の重油専焼火力とも十分コンパラブルになり、それ以後は原子力発電のほうが有利になると見ることができる。
 なお、濃縮ウラン型あるいは将来実用化が期待される増殖型発電炉は、その発電原価が第1図の発電原価の幅に入るか、さらにこれより低下するにいたってはじめて実用化されるのであって、その時期については現在明確に決定しがたいが、いずれにせよ原子力発電は将来発電原価の点より見ても有利になる傾向にある。
 さらに、火力用燃料のうち多くの部分は今後輪入エネルギー源に依存せざるをえなくなり、これに要する外貨所要量も膨大な金額に達することはいうをまたない。しかるに原子力発電の場合、核燃料についてはやはり海外に依存せざるをえないが、精鉱の形で輸入するとすれば、重油専焼火力発電の場合に比して、かなりの外貨を節約しうることとなる。いま同規模の原子力発電と重油専焼火力発電を行うに要する所要外貨を試算すると第2図のとおりである。〔参考資料2−(2)〕
 図にみられるとおり、原子力発電の場合建設費が大きく、また初期装荷燃料を必要とするため、当初の所要外貨は重油専焼火力発電に比してかなり大きいが、原子力発電を行うに要する所要外貨の累計は、消耗燃料費が少ないため運転開始後数年にして早くも重油専焼火力発電に要する所要外貨累計を下回るにいたる。
 したがって、低コストのエネルギー源の確保を計り、輸入エネルギーへの外貨支出を削減し、わが国のエネルギー需給を安定させ、産業の発展に資するためには、原子力発電を比較的早期に実用化することが、必要かつ適切であると考える。



第1図  コールダーホール原子力発電所および新鋭火力発電所発電原価
(円/kWh:送電端)

第2図 原子力発電と重油専焼火力発電所要外貨比較
(出力150MW、建設費、燃料および金利の支払外貨累計)

(3)開発の目標

 上述のようにわが国においてはできるだけすみやかに原子力発電の開発を推進するのが適当と考えられるが、原子力発電所の建設には約4年間を要し、33年度に着手しても、37年度以降ようやく送電を開始するはこびとなる。またわが国の産業界も原子力発電に関する経験がないので、実用原子力発電所を国産化するにはある程度の期間を要する。さらに現在水火力からなるわが国の電力系統のうち、石炭、重油だきの火力発電所の建設を原子力発電に置き換え、しかも高い設備利用率で運転できるようにするには、おのずからその開発の規模およびテンポには限度がある。

 原子力発電については新長期経済計画では具体的計画を策定していないが、火力発電の一部として原子力発電がおこなわれることを期待し、原子力発電の開発規模について、付表の電力需給表に昭和50年度までに約700万kWを開発するA案と約400万kWを開発するB案との2案を掲げている。

 この計画においては開発の目標として一応A案の数値を想定したが、その目標に達するための開発テンポについては41年度以降に新設される火力発電設備の大半を逐次原子力発電に置きかえるものと考えた。

 またその開発を大部分国内技術によって行うためには建設技術を開発し、運転要員の養成等を促進する必要があるので、40年度までにおいても第1表に示すように60万kW程度の開発を行うものとした。

第1表 昭和40年度までの原子力発電開発規模(単位:MW送電端出力)