原子力委員会

発電用原子炉開発のための長期画計

 原子力委員会は、さきにわが国における原子力開発利用の長期にわたる基本的かつ総合的な指針を与えるものとして、昭和31年9月6日「原子力開発利用長期基本計画」を内定したが、その後各般の情勢の変化にともなって、さきの内定計画のうち特に発電用原子炉の研究開発に関する部分の具体的な長期計画を急速に策定することが各方面から要望されるにいたった。よって原子力委員会は種々検討をかさねた結果、昨年10月5日原子力開発利用長期基本計画のその1として、発電用原子炉開発のための長期計画(案)を取りまとめ、これに対して各界から微した意見にもとづいて下記のような「発電用原子炉開発のための長期計画」を昭和32年12月18日決定し発表した。以下にその全文を紹介する。

発電用原子炉開発のための長期計画

(原子力開発利用長期基本計画−その1)

32.12.18

原子力委員会

まえがき

 産業の発展、人口の増加、生活水準の向上にともない世界のエネルギー需要は増大の一途をたどりつつあり、石炭、石油等のいわゆる化石燃料によっては、今世紀の終りごろにはエネルギー需要をまかないきれない事態になることが憂慮されている。
 原子力の平和利用、特に原子力発電の開発はこの問題の大きな解決策であり、それ故に将来の人類の文明をかけた大事業であって、各国のこの問題に対する態度の異剣さも、ここにその大きな理由がある。
 もとより原子力発電は単にエネルギー需給という観点のみでなく、さらに進んで化石燃料の温存ならびに高度利用、産業技術水準の向上、ひいては産業構造の変革をもたらす可能性をも有するものであることはいうをまたない。
 ひるがえってわが国をみれば、産業が高度に発達している反面、化石燃料の埋蔵量が先進諸国に比べて貧弱な結果英国およびユーラトム諸国とならんで、特に初めに述べた傾向が強いと予測されているから、原子力発電への期待は各国に比べて一段と強いものがある。
 当委員会は、わが国における原子力の研究、開発および利用について、長期にわたる基本的かつ総合的な目標、方針等を設定することにより、原子力の平和利用を計画的かつ効率的に推進することを目的として、昭和31年9月原子力開発利用長期基本計画を内定したが、この計画のうち、原子力発電に関連する部分、すなわち原子力発電のための研究、開発計画を明らかにすることを目的として本計画を策定した。
 したがって、本計画は目下検討中の原子力船開発計画、技術者養成計画、アイソトープについての利用計画等とあいまって、原子力開発利用長期基本計画を構成し、わが国の原子力の研究、開発および利用の長期的な指針としたい考えである。
 この計画を遂行するにあたっては、国際原子力機関をはじめとして、諸外国との密接な国際協力が必要であり、国内においても関係諸機関の間の密接な協力にもとづく努力が要望されるとともに、原子力の平和利用の特殊性から見て放射線障害防止に関する諸対策等についても遺漏なきよう考慮しなくてはならない。

 なお、本計画を策定するにあたって試みた各種の試算は現在までに入手しえた各種情報にもとづいて行ったものであって、決定的な性格を持つ数字でないことはいうまでもない。これらの試算の一部は本文中に引用したが、詳細については参考資料を参照されたい。

計画の概要

 この計画ではまず第1部としてわが国における原子力発電開発の意義と目標とについて考察した。
 すなわち、新長期経済計画にもとづき、わが国の将来のエネルギー需要が増大し輸入エネルギーへの依存度が逐年増加する傾向にあることを述べ、これに対し原子力発電は原価的にも外貨収支上の見地からも将来は有利になることを示した。
 以上の認識にもとづいて輸入エネルギーへの外貨支払を削減し、わが国のエネルギー需給を安定させ、さらに低コストのエネルギー源の確保を図り産業の発展に資するために、原子力発電を比較的早期に実用化することが必要であるとの結論を得、その目標として新長期経済計画にもられた原子力発電開発についての2案のうち、昭和50年度までに約700万kWを開発する案をとった。
 つづいて第2部としてこの目標を達成するための研究開発の方針を示すために発電炉の型式について考察し、最終的には増殖型をふくめた各種の系列の発電炉が存在するようになることを予想しつつ、まず初期段階においてわが国に設置すべき実用発電炉について種々の見地から検討した。
 つぎに増殖型の発電炉の開発のための動力試験炉の設置計画を策定し、さらに広く原子力技術の発展を図るために必要な研究炉の設置計画を示した。ついで核燃料の需要量についてのおおよその概念を与えるために、一応天然ウランのみによって核燃料の需給量の試算を試み、最後に以上のような考えにもとづいて計画を遂行するための研究、開発の計画の概要を表示し、あわせて国内各機関の分担についての根本的な考え方をしるした。したがってこの部分は本計画中最も重要な意義を持つものである。
 第3部には、まず原子力発電を第1部に述べた目標にもとづいて開発した場合の影響について、所要資金ならびに外貨収支の二つの面から検討を加えた。すなわちこれらについて従来行われていた定性的な議論に対して一応定量的なデータを示し、以上の目標を火力発電で行った場合に比べて原子力発電で行った場合には、核燃料の製錬設備等の関連設備投資、研究、開発の資金を加えると所要資金は増加するが外貨収支は明らかに有利になることを示した。さらにこれらの資金は単にエネルギー供給という面にのみ使用されるものでなく、わが国の技術水準の向上にも役だつものであることを指摘し、最後にこの計画を遂行する上の二、三の重要な問題点を列記してむすびにかえた。