海外における原子力関係情報

 在外公館長から外務大臣あてによせられた報告のうち、国際協力局を通じて原子力局に通報された海外における原子力関係情報のうちから下記のものをえらんで紹介する。

ウインドスケールのプルトニウム生産炉の事故について

(32.10.19在英西大使)

1. 10月10日午後4時半ウインドスケールのプルトニウム生産炉2基のうち1基(1号炉)に事故発生し、冷却空気放出用煙突から相当量の放射性物質が逸出したため、近接200平方マイルにわたる地域の牛乳が汚染(主として放射性沃素による)され、その使用が禁止されるに至った。

2.AEAは事故発生にともないウインドスケール2号炉をも一時停止し、熟練専門家を事故処理に専心せしめるとともに、保健、物理関係者を動員してモニタリングおよび障害防止に当らしめ、他方事故原因については特に4人委員会を設立し、17日から正式に原因調査を開始したが、この結果は早ければ来週末ごろ発表される由。

3.なお新聞、科学記者その他の推測によれば、事故原因として、炉停止後の冷却用空気循環管理の失敗あるいは特殊な複雑な実験を行ったためではないか等を挙げているが、現在のところ納得されるごとき説明はなんら与えられていない。しかし本調査委員会に原子炉熱伝達問題の最高エキスパート2名も含まれている点からみれば、熱除去の面での故障の可能性が大きいように思われる。

4.牛乳中の多量の放射性沃素が発見されたのは、沃素はその蒸発温度が低く(約100度)事故発生時の熱により気化し、煙突上部に設けられた巨大な濾過装置によって阻止し得なかったためである。しかし、その半減期は8日であるから、この面での影響はすでに峠に達したものと思われる。他方もっとも恐るべきストロンチウム90については、現在のところ許容量の10分の1程度のものが牛乳中に検出されているという。

5.ウインドスケール炉は1951年運転を開始せる天然ウラン黒鉛減速空気冷却型で、燃料棒被覆にはアルミニウムを使用し、プルトニウム生産が目的なるため運転温度は通常低いが、冷却用空気を大気中に放出する点に問題がある。そのウラン装荷量粋がほぼコールダーホール炉に匹敵するが、コールダーホールの場合は、(イ)冷却材に不活性の炭酸ガスを使用するためかりにウランと接触しても酸化を生じない。(ロ)炭酸ガスは炉と熱交換器の間を循環し大気中に放出されることはない。(ハ)ガス中の放射能検出のための装置等の安全面で格段の改良が施されている等の理由で、今回の事故にもかかわらず英国関係者のガス冷却型動力炉に対する信頼感が薄れた模様はまったく見られない。

 なお、本件に関しさらに10月27日付でその後の状況について以下のような通報があった旨連絡があった。

1. 周辺200平方マイルの地域に対するミルク使用禁止は依然解除されざるも、直接被害発生の事実なき模様。地域内家畜売買は若干値下りあるも、平常通り行われている。

2. 22日および24日、付近農民に対する説明会

が開かれ、公社および農水産省係官からの家畜、野菜および飲料水への放射能影響なき旨確言があった。

3. 公社の原因調査委員会は17日から現地調査を開始、来週早々報告書を完成、これにもとづき29日議会においてマ首相から野党質問に対し答弁が行われる見込。

4.事故原因はその際明らかにされると見られるが、消息筋ではWingner Releaseのための炉内温度上昇と特殊実験(三重水素製造のためといわれる)との組合せが原因ではないかと推測している。

南伊原子力発電計画について

       (32.10.10在伊太田大使)

 館員が先般当地来訪の斎藤、前田両議員とともに、当国原子力発電会社、SENN(Societa Elettro−nuclear Nazionale)の会長マッティーニ教授(Prof.C,Matteini)を訪問せる際、同会長から同社の南伊原子力発電計画に関し下記のとおりの説明があった趣であるから御参考までに報告する。


 イタリアにおける原子力発電計画としては、SENNによる南伊原子力発電計画(略称Progetto ENSI)以外に2計画(同会長の説明によれば、その第一は、モンテカティーニおよびフィアットによる発電計画で、これは、原子力発電にともなう諸研究を目的とする。第二は伊国炭化水素公団エニイENIによる発電計画である。しかし上記の2計画については、不明の点少なくなく現在具体的に進んでいるのは、ENSI計画のみではないかと推定される。)があるが、伊国政府としては、SENNの計画を優先的に取り扱うよう考慮している。SENNは伊国諸電力会社と伊国産業復興公団(I.R.I.)の共同出資による会社であるが、その南伊原子力発電所建設費は、世界銀行に仰ぐこととなっている。

 南伊原子力発電所建設計画(出力15万キロワット)のため前ページの図に示すごとき機構が作られたが、これは世界銀行から融資を仰ぐ必要上設けられることとなったもので、世界銀行としても最初のテスト・ケースだけに慎重を期したわけである。すなわち計画の大綱は世界銀行(略称B.L.R.S.)代表と伊国原子力委員会(略称CNRN)代表からなる運営委員会(グループA)によって立てられ、その実施は、SENN(グループB)にまかされている。

 SENNは伊国原子力委員会の技術者陣の協力のもとに候補地につき、地質、耐震度、気候、人口密度、運輸の便、水はけの便ならびに全国送電線との結合等の諸角度から検討を加えた結果、ローマ、ナポリ間の2地点を適地として選定した。建設に当っては付帯施設は伊側で行い、発電施設は、海外に発注することとなるが、これには、大体英米等の15社(米系7社、英系5社、カナダ、フランス、ベルギー各1社−運営委員会が指名)から見積りを提出せしめ、これをSENNにおいて検討、最良のものを選定し−SENN所属の2技術顧問団の意見を徴した後−運営委員会を通じこれを世界銀行の専門国際パネルに提出し許可を得て初めて融資を受け建設の運びとなるわけである。

 SENNは近々中に15社に対し見積りの提出を指示するはずであるが、その際の条件は付帯設備は伊側で行うこと、発電施設中伊国内で製作し得るものは国内でまかなうこと、6ヵ月以内に見積りを提出すること等であり、2ヵ所の候補地の選定は各社の自由にまかせることとなっている。また上記建設見積りの検討に当っては、SENNは施設費、付帯設備費(天然ウラン、濃縮ウラン等の方式により付帯施設費は異なり、天然ウランを使用する際は、上記経費が増す。)ならびに将来の維持費等を考慮して選定決定することとなる。現在の見込では発電施設中約80%程度のものは輸入せず国内において製作し得ると考えられる。契約は今後1年内に結ぶよう、また発電所の建設完了は大体1961年末ないし62年初めを予定しており、この15万キロワット発電施設の利用率は80%と見積っている。燃料の供給は、いずれの方式を採用するも、米伊間および近く締結されるべき英伊間の2原子力協定によって保証されることとなる。

 最初の原子力発電は経済的には従来の燃料(火力、水力)による発電に比し30%高となることが予想されるが、なにぶんにもこれはいわば実験的なものであり、今後は建設費も減少するであろうし、また将来一般燃料はコスト高となることが予想されるので、将来は原子力による発電も十分採算がとれることと考えている。イタリアは石炭も産出せず石油もほとんど輸入しており、また水力資源も利用し尽しているので、電力不足の解決は原子力発電にまつところ大であって、今後の発電計画の50%は原子力発電によることとなるであろう。したがってわれわれとしては世界銀行の融資を得られぬ最悪の事態に当面する場合は、独自の資金によっても建設する覚悟をしており、最初の原子力発電施設ができ次第、ただちに第二の15万キロワット発電施設の建設に取りかかる予定であって、そのためSENNは現在15万キロワット原子力発電施設に必要な技術者の2倍の人員を持っている。

 なお上記説明に先だち米国技術顧問Marvin Fox(Internuclearテクニカル・コンサルタント)に面会せる際同氏から「伊国が世界銀行に融資を仰ぐ最大の理由は、外貨の問題もあるが、当国の銀行利子が非常に高率であることにある。世界銀行としても南伊原子力発電施設が最初のテスト・ケースであるから、その見通しがつくまでは当分他の同種の融資要請には応じぬであろう。」との内話があった。

ENSI SCHEME