海外における原子力関係情報

 在外公館長から外務大臣あてによせられた報告のうち、国際協力局を通じて原子力局に通報された海外原子力関係情報から次の四つをえらんで紹介する。

カナダの原子力発電計画に関する件

(32.7.10 在カナダ萩原大使)

 7月3日本使、小坂、菅野、赤沢各議員来加の機会にカナダ原子力会社チョークリヴァ工場を視察したが、その際、同会社副社長ルイス博士、副社長キース博士および副社長グレイ氏の3名はカナダの原子力発電計画に関し詳細に説明を行い、カナダ方式による原子力発電が最も安全かつ経済的であると確信している旨を力説した。要旨下記のとおり何等御参考までに報告する。


1.現在建設中の実験規模の原子力発電用リアクターNPD(Nuclear Power Demonstration)は1960年までに完成、稼働の予定であ って、本格的な発電用リアクターは大体上記と同様方式のものを1964年までに完成、稼働せしめる予定である。

2.カナダではたとえばオンタリオ州の一部等水力の不足なる場所では米国炭による火力発電を実施しているが、それでも英国等とことなり発電コストはそれ程高くない。原子力発電は上記火力と同等ないしはそれ以下のコストで実施し得ることを目標としている。
 上記の見地から見る場合英国型リアクターはモデレーターとして効率の低いグラファイトを使用する関係上炉体の容積が大となりさらにこの炉体全部を高圧にたえるように被覆しなければならないので、労働力が高価で熟練工の少ないカナダでは建設コストが著しく高くなり、カナダ国内でこの方式によるリアクターを建設すると仮定すれば1989年にならないと火力発電と競争しうるコストによる発電はできない。これに対してカナダの方式はモデレーターとして重水を使用するため炉体はきわめて小型ですみ、またクーラント循環回路に圧力がかかるだけで炉体全部を高圧にたえるよう被覆する必要がないので建設費が著しく低くなる。AECの計算に従えば、カナダ方式によれば1kWh6ミルで発電が可能であって、1964年には十分火力と競争できる。

3.非常事態の生起した場合の安全ということはカナダとしても最大の関心を有するところであるが、非常の場合最も重要なことはモデレーターと燃料を迅速に分離することであって、この点重水を使用すれば一瞬の間に分離可能であるが、コールダーホール型ではグラファイトの中から燃料を取り出し得ない事態が考えられ、甚だしく危険である。数年前チョークリヴァで爆発事故があったために重水は危険であると誤解している人もあるようであるが、あの事故にもかかわらず1人の死傷者も出なかったのはむしろ重水式の安全性を示すものである。地震の懸念があるような場合にはコールダーホール型は特に危険と考える。

4.以上のような次第で保安と経済、特に保安上の考慮からモデレーターとしては重水を使用すべきであると考えているが、そうするとクーラントとしても能率の見地から当然重水を使用することになる次第である。この場合燃料は物理的のみならず化学的にも安定な物質を使用しなければならない。
 AECではNRX内に発電用リアクター内と同様の状態をつくり出す装置を設け燃料の実験を行っているが、金属ウランは放射能により変質変形するのみならず化学的にも非常に不安定で、高温下においては水(重水も同様)に対してきわめて弱く容易に化学的変化を起して変質変形することが明らかとなっている。この一連の実験の結果、われわれは保安の点から燃料としての金属ウランはきわめて危険であって使用に堪えないと考えている。これに対してAECで燃料として使用を計画中の酸化ウラン(UO2を圧縮加熱したるもの)は物理的にも化学的にもきわめて安定していることが実験上明らかである。理論上酸化ウランは金属ウランより20%程度能率が悪い理屈になるが、リアクターの場合燃料の能率はそれ程問題でなくむしろ燃料の配置の方が重要である。燃料としてのコストはもちろん酸化ウランの方が低廉であり効率の上からも大差ない上に保安の点から考えて金属ウランは前述のどとく使用にたえないのであるから酸化ウランを使用するのは当然の結論である。

5.結論としてわれわれとしてはカナダの方式が少なくとも1970年頃までに完成の見込みのある発電用アクターとしては最も進歩したものであると考えている。
 なお、英国型にしても米国型にしても現在の規模ならば一応差支えないとしても、将来発電コスト切下のために高能率のものを建造するためには、金属資材等で今後の研究にまたねばならぬ面が残っているが、カナダの発電用リアクター計画は何等特別の資材を必要とせずいわば不確定の要素を一切ふくんでいないものも特徴の一つである。

発電用炭見通しと原子力発電計画に関する報道の件

(32.7.30 在連合王国西大使)

 7月17日付当地マンチェスター・ガーディアン科学記者は、石炭庁の最近の見通しによれば発電用に振り向けられる粉炭生産が従来の予想を上回ると見られることから、現在の原子力発電計画が若干ずれることもあり得るとの報道を掲げているので、御参考までに下記のとおり報告する。
 なお原子力公社プラウデン総裁は第三年次報告発表の際、記者団に対し上記のごとき一部報道を正式に否定しているので念のため。


 石炭庁は目下中央電力公社に対し、1965年度発電用炭として引き当てうる量は、火力発電所燃料需要の大部分をまかなうに足るであろうとの通報を行おうとしている。現在の発電用炭所要量は年間約4,000万トンにのぼっており、これまでの見通しによると1965年に発電用として供給し得る量は、ようやく5,300万トン程度と考えられてきた。しかるに最近の推定では上記の予想が、6,250万トンとふえてきたので、結局およそ石炭800万トン相当量を他のエネルギー源(石油および原子力)をもって補えばよいことになる。(注、1965年における発電用炭不足量を約1,800万トンと推定していたところ、粉炭をもって約1,000万トンカバーし得るとすれば差引不足量800万トンとなるの意)
 石炭庁の今回の新推定は、今後10年間に新しい採鉱法を利用することにより生産可能な粉炭(smallcoal)を発電用に割り当てるものとしてえられた数字であって、発電所がこの品種の石炭をこれまでの計画量以上に消費するか、あるいはしかるべき輸出先を見出さないかぎり、1965年にはこの種粉炭の余剰を生ずるに至ろうと考えられているものである。
 しかし同時に石炭庁は、上記のごとき多量の石炭を発電用に振り向けうるためには、1965年における他の銘柄に対する電力以外の産業の需要が減少するものと見ないかぎり約束できないとしている。なぜなら石炭庁が年間24,000万トンという現在の全出炭目標を越え得るとみている証拠は何もないからである。
 上述のごとき傾向の現われは最近の石炭消費統計からもうかがえる。今年上半期の産業用炭消費は前年同期に比し100万トン以上も減少した。かかる減少の一部は暖冬にも原因するが、大部分は工場におけるエネルギー消費形態が、石炭から石油ないし電力へ変化したことによっている。こうした傾向が今後変るとは思えないし、他方鉄道および炭鉱の近代化にともない1965年までに年間1,000万トン以上の節約が可能と期待されている。
 電力産業へ従来見通された多くの石炭を供給するとの石炭庁のオファーは発電所建設投資形態を決定する上に重要なファクターとなり得よう。これまで中央電力公社は1965年の発電用炭供給が所要量の70%にしか達しないとの前提に立って計画を樹てねばならぬ状況におかれていたので、そのため年間石炭800万トン相当の石油を燃やすとともに、1966年度において石炭1,800万トン分に相当する原子力発電600万kWの建設を計画していたわけである。
 上記のごとき石炭庁のオファーが積極的に取り上げられ、受け入れられたならば、上述の計画中のある部分は再検討を必要とすることになろう。事実中央電力公社は石油会社との契約の限度内においてではあるが、重油燃焼発電所の建設をスロー・ダウンさせつつあるといわれている。かくて発電所用石油消費量が石炭換算年間700万トンの線に達することはあるまいとみられるに至っている。
 一方原子力発電計画については、石炭庁のオファーがちょうどこの時期に提出されることを大蔵省が歓迎していることに間違いはない。実際に石炭庁のオファーは原子力発電計画がほとんど大部分なくても間に合うほどのものを供給するということなのであり、しかも原子力発電所の建設コストが、在来火力発電所のそれに比し約2倍も高くなるであろうことは周知の事実だからである。したがって大蔵省としては、中央電力公社にオファーされている粉炭を購入させ、原子力発電計画をずらすよう説得することにより、今後10年間にわたる資本需要を減らすことができると考えているに相違ない。
 こうした動きがすでに始まっている徴候は次に建設さるべき原子力発電所用敷地について、中央電力公社がいまだになんの発表も行っていないという事実にも見られる。本年当初期待されていたところでは、次の原子力発電所の建設は1958年早々に開始されるものとみられていたからそのためには動力省の同意を求める手続を今日すでにとっていなければならないわけだ。中央電力公社としては新電力法案が近く成立すると若干ごたごたするかもしれないが、それにしてもいまや原子力発電計画が、従来考えられていたほど緊急を要するものと考えられなくなっていることは明白である。

英原子力公社第三年次報告に関する報道振り報告の件

(32.8.1在連合王国西大使)

 7月25日公表された標記年報に対し当地各紙の報道するところ、要旨下記のとおり報告する。

1. ロンドンタイムズ(7月26日付)

 原子力公社の第三年次報告は、1955年白書において設定した原子力発電目標1千万〜1千500万kWの線を1975年までに上回るであろうと予想している。計画の達成いかんは、公社ならびに民間産業が発電単位当り資本費をどれだけ引き下げうるかにかかっていると公社は指摘しているが、この点は非常に重要である。なぜなら初期の原子力発電所の資本費は高いので、高い負荷率で使用した場合のみ経済的となりうるだろうからである。したがって、低い負荷率で使用する場合には、在来火力発電所のkW当り資本費に近いレベルまで引き下げられねば不利となる。
 コールダーホール原子炉計画について年次報告は、一般的に満足すべきものであったと述べ、3月31日までにコールダー「A」発電所は、ほとんど第1号炉だけから107,825千kWhを送電したと報じている。
 次に商船推進用原子炉に関しては、問題は重油を燃料とする在来型と比較しうるところまでそのコストを低くすることだとし、現在の燃料費は軸馬力時当り0.5ペンスであるが、大出力の黒鉛減速ガス冷却炉においては、このコストより十分低くなる見込みであるものの、しかし船舶に利用しうるよう規模を縮小した場合果して経済的に競争可能か否かはまだ明らかでないとしている。
 過去1年間における放射性アイソトープの販売高は、約541,000ポンドにのぼり、前年度に比し12%増であるが、海外向としては全体の56%が52カ国へ輸出された。また、アイソトープ以外の原子力材料および技術資料の海外販売による収入は、年間545,954ポンドにのぼったむね報じている。
 最後に年次報告発表の際の記者会見で、ハーウェル研究所長ジョン・コッククロフト卿は、英国内の放射性降下物影響に関するモニタリング試験結果を問われたのに対し、ある地域では他より降下物の多いところがあり、これは降雨量に関係していると答え、注目をひいた。また放射性降下物の蓄積速度は、医学研究会議(MRC)報告で予想したより少ないと述べた。

2. マンチェスター・ガーディアン(7月26日付社説)

 原子力公社年次報告が明らかにしていることは、原子力開発速度をゆるめるような徴候が、いまのところ、全く見当らないことである。ある型の原子力発電所の建設が開始されるや否やたちまち、よりすばらしい将来性をもった新型が舞台に現われる。かくて最も新しく出現したのは燃料にウランではなくトリウムを使用する型の構想だ。この型式の炉は、決して新しく思いつかれたものではないが、公社が、このように早くもこの形式に属する小型プロトタイプ炉の建設時期が到来したと決定したことは注目に値する。なぜなら、これまで一般にトリウムを実際に燃料として使うのは、遠い将来と考えられていたからだ。
 いまやトリウム炉が1960年代のしかるべき時期には、かなりの規模で利用されるようになるかもしれないことが予想されている。この型の炉のもたらす利点は重要である。第一にトリウムはウランより量的に豊富であるから、大量生産を行えば、おそらくウランより数等安くなるだろう。第二により重要な問題として、トリウムは、副産物として消費したより以上の原子燃料がえられるような方法で使うことができる。原子力発電所でウランがプルトニウムに転換されると同じように、トリウムも人工原子燃料たるウランの同位元素に変えることができる。しかし、ウランの場合は、ドンレー炉のごとき複雑な装置によって初めて十分高い増殖をもたらしうるのに対し、トリウムの方は、コールダーホールのごとき比較的簡単な炉によって、容易に転換可能なのだ。
 ここで両者の重大な相違は、コールダーホール炉の建設が容易であり、運転が簡単だという点にある。したがってトリウムを燃料として使用することが可能となれば、技術者達は、非常に高級な原子力発電所設計の際に直面する複雑な問題をさけることができよう。かくて原子力は、さらに一段と大きな成果を、今日より容易にかつまた、より低廉なコストでかちうることが可能となろう。理論上のアイディアを実際の設備に具体化しようとする今回の決定は、技術者達がすでに実施に進むべく準備を整えているという有望な徴候である。

3. ファイナンシャルタイムズ(7月26日付)

 英国は来週から熱核反応試験炉の運転を開始することとなろう。この試験設備はZETA−1(Zero EnergyThermonuclear Apparatus)とよばれ、水素核の融合反応が行われるだけの高い温度を生ずるものと確信されている。
 本設備の建設に当った主契約者はアソシエーテッド・エレクトリカル・インダストリーズ傘下のメトロポリタン・ヴィカース・エレクトリカル社であった。この新試験設備の内容は第三次年報ではじめて明らかにされたものである。もとより最初の試験炉において完全な成功をおさめることは無理かもしれないが、いずれにせよ英国が今後6ヵ月の間に熱核動力の試験的生産を達成するだろうことは確かである。
 ウランおよびトリウムを燃料とする原子力発電分野において、英国はトリウムおよびウラン233を燃料とする熱中性子増殖炉の開発に高い優先度を与えている。この型の原子炉は被覆材を使用しないセラミック燃料要素を用い、摂氏800度のレベルで運転可能となるだろう。目下この形式のゼロ・エネルギー試験用プロトタイプ炉が建設中であり、1960年には実規模の試験炉が運転されるものと期待されている。
 年報によれば、本方式に属する炉が大規模および中規模の陸上発電所に使われるばかりでなく船舶推進用にも利用される見込みである。
 以上の研究開発と同時に通常のコールダーホール型発電所の運転温度を摂氏400度から600度へ高めるための研究開発が進められている。このような改善により2基1セットの原子力発電所出力は現在の30万kWから80万kWまで増大することとなろう。
 船舶推進用炉に関しては本年中に公社はいずれの型を優先するか決定することとなろうが、この問題について二つの異なる分野に分けて検討される見通しが強い。その一つは稼働時間の大部分を海上ですごすタンカーのごとき大型船であり、他は海上運転時間がより短い比較的小型の船舶に対してである。前者については天然ウランを使用するコールダーホール型が最も大きな競争力を有し、軸馬力時当り0.5ペンスのレベルを下回ることも可能とみられている。他方2万トン級の船舶については有機液体減速型炉がより有利とみられているが、重水減速ガス冷却炉の研究も行われており、重水製造については新しい方法を開発中である。
 最後にサー・エドウィン・プラウデン総裁は現在の原子力発電計画を削減する計画があるとの報道を否定し、中央電力公社の発電計画を制約するいかなる提案も自分は知らぬと答えた。

4. デイリー・テレグラフ(7月27日付社説)

 地方バスおよびコベント・ガーデン(蔬菜市場)のストライキやインフレーション問題などというトラブルの波に埋れて原子力公社の第三次年報の発表は一般の注意をひくチャンスがなかったようだ。しかしこの報告書のなかにわれわれを勇気づけるに足る英国経済の他の一面を見出すことができる。なぜなら過去1年間の記録である公社の報告書は、工業的強国としての英国の将来性を決定的たらしめるに十分な分野において達成したわれわれの力に自信を与えるものだからである。
 コールダーホールにおいてこの国の原子力発電は単なる試験的なものから工業規模としての実際的な応用への段階を乗り越えた。単純化した高出力発電炉にその努力を集中したことが英国にこの分野における貴重なリードを与えたのである。公社の研究開発速度についても、未熟なあるいは不安定なものは何もないと考えてよい。そしてあらゆる新しい評価はすべてコールダーホール方式の健全性を確認しており、このことを年報は、「当初考えられていたより以上の大きな潜在的能力を明らかにしつつある」と述べている。
 したがって公社の当面する問題は、現在原子力発電計画にもとづいて建設中のもののごとき大型低負荷用発電所以外へもコールダーホール型の商業的利用分野を拡大することだ。ここで一つの問題は現在の高い資本費を引き下げることであるが、この点公社はかなり楽観しているようである。いま一つの問題は大型タンカー推進用として目下研究されつつあるごとく陸上用よりも小型の炉を建造することだろう。
 コールダーホール以外の面で公社がどのような分野の開発速度を早めたかは、年報からは明らかでない。しかし熱核動力試験炉の開発が発表されたほか、原子燃料としてより大きな経済的意義を有するトリウム利用の可能性も示されている。これらのものならびにその他潜在的価値を有する他の多くのものの開発は将来のことに属する。われわれはこれらすべてを同時に追求するわけにはいかない。なぜなら米国の豊富な資源と対抗して英国がこれまで成功した秘訣は、われわれ自身の選んだ分野にその努力を集中したことにあるからである。

新設中央発電庁総裁にヒントン卿任命の件

(32.8.6在連合王国日向臨時代理大使)

 7月17日公布された1957年電力法(Electricity Act,1957)にもとづき、ミルズ動力相は8月1日議会において明年1月1日から現在の中央電力公社(Central Electricity Authority)に代り新設される中央発電庁(Central Electricity Generating Board)総裁に、原子力公社工業化本部クリストファ・ヒントン卿を任命すると発表した。
 これによりヒントン卿はイングランドおよびウェールズ全体をまかなう電力生産、維持ならびに地方電力庁への送配電に関する最高責任者となるわけであるが、1946年以来原子力の工業的開発に従事し、遂にコールダーホール発電所の建設および運転を完成し、事実上英国の野心的拡大原子力発電計画の基盤をきずいた技術者ヒントン卿を全般的電力生産の責任者に任命したことは、その背景として次の事情があるものとみられる。

(1)英国の発電施設は今後ますます原子力への依存を強めるものと認識されたこと。

(2)これにともない、原子力発電計画を円滑に遂行実現せしめるには、原子力公社専門家による外部からの協力だけでは不十分であり、電力生産担当機関に原子力専門家中の実力者を当てる必要が感じられたこと。

(3)ヒントン卿はその専門的知識の点だけでなく、かねて新規計画をすみやかに軌道に乗せ、強力に推進し成功をもたらす点でその能力を高く評価されており拡大原子力発電計画の実質的推進責任者として最適であるとみられこたこと。

(4)元来現在の中央電力公社が改組され新たに中央発電庁の発足をみることとなったのは、中央電力公社があまりにも広範な機能をゆだねられていたため、在来の火力発電分野においてすら、新しいアイディアを取り入れるのに積極的でなかったことが大きな理由とされている。この点から原子力発電のごとき最も新しい分野を開拓する上にシトリン現総裁に代えヒントン卿のごとき実力者を必要としたこと。

 今回の任命によりヒントン卿は中央発電庁発足に先き立ち9月1日から新任務につくものとみられているが、1日夜卿は新聞記者に対し、「いま原子力公社工業化本部長の椅子を去ることは『身を切られるようにつらい』(it would be a“tremendous wrench”for me)」と語った由であり、一方、プラウデン原子力公社総裁は「ヒントン卿の新しい仕事はコールダーホール型の上にきずきあげらるべき原子力発電所の工業的可能性を開発する責任をとることとなろう」と述べている。
 なお、中央電力公社の解体にともない、中央発電庁とともに、新たに電力審議会(Electricity Council)が発足するが、前者は総裁(Chairman)1名、副総裁(Deputy)1ないし2名、理事7ないし9名をもって構成され、後者は総裁1名、副総裁2名、専任理事3名のほか、前記中央発電庁総裁および理事2名、地方電力庁(Area Electricity Board)長官各1名(12ヵ所あるので計12名)が理事として加わるものとされている。
 ミルズ動力相の発表によれば、今回任命されたヒントン卿以外の幹部は下記のとおり。

 中央発電庁

 副総裁C.R.キング(現中央電力公社非常勤理事)

 理事F.H.S.ブラウン(現中央電力公社技師長)

  〃 E.E.ロング(現中央電力公社事務局長)

 電力審議会

 総裁ヘンリー・セルフ卿(現中央電力公社副総裁)

 副総裁J.エクルズ卿(現中央電力公社副総裁)

  〃 R.S.エドワード教授

           (ロンドン大学経済学教授)

 なお、現中央電力公社総裁シトリン卿は電力審議会の非常勤理事としてとどまるはず。