原子力平和利用研究の紹介

 原子力平和利用研究のうち、日本セメント株式会社の実施した「遮蔽用特殊セメント並びに遮蔽用特殊コンクリートに関する研究」の概要を以下に紹介する。なおこの研究は、昭和30年度研究委託費(委託金額6,718千円)ならびに昭和31年度研究補助金(補助金額7,160干円)により行われたものである。

遮蔽用特殊セメント並びに遮蔽用特殊コンクリートに関する研究

1. 研究の目的

 原子炉の生物遮蔽体の設計および建設に関し、有効かつ経済的な遮蔽材料兼構造材料とみなされている特殊セメントならびに特殊コンクリートについて、その製法、物理的および化学的性質、特に熱特性、ガンマ線と中性子の遮蔽性能、コスト等に関する基礎資料を得る目的をもって行った実験研究である。

2. 研究の内容

(A)ポルトランドセメントによる遮蔽用特殊コンクリ−トの研究

 重量骨材として重晶石、磁鉄鉱、褐鉄鉱、赤鉄鉱、燐設、鉄片等を用い、熱中性子吸収用混和材としてコルマナイト、ボロカルサイト、ページャイト等を用いた各種の高密度および高硼素型のコンクリートについて

(1)骨材の経済的な破砕方法、適正な粒組成および篩別調整、骨材試験

(2)熱中性子吸収用混和材とそのセメントに及ぼす影響および安定性

(3)配合設計および混合方法、まだかたまらないコンクリートの性状、密度、成分、強度、弾性係数

(4)代素的な特株コンクリートの現場規模実験

(5)コンクリートの熱特性すなわち熱膨脹係数、比熱、温度伝導率、したがってまた熱伝導率、高温における保水性と機械的性質

(6)グラウトを注入するコンクリートの性質


(B)特殊セメントに関する研究

 高含水型のMOセメントおよびコンクリートについて

(1)原料、材料の試験

(2)焼成条件、添加剤、セメントの特性

(3)コンクリートの材料としてのMOセメントの品質試験方法

(4)MOコンクリートに関する(A)の各項に準じた研究


(C)複放射線遮蔽性能の研究

(A),(B)の各種コンクリートについて、中性子源としてRa(α)−Be(Ra 45mg)、ガンマ線源としてCo60(3mcおよび500mc)を用い

(1)中性子遮蔽性能

(2)ガンマ線遮蔽性能、ガンマ線によるコンクリートの無破壊試験および後方散乱の実験


(D)遮蔽用コンクリートのコストの研究

3. 研究の結果

(A)ポルトランドセメントによる遮蔽用特殊コンクリートの研究

(1)第1表は研究したおもな重量骨材の種類と成分および特徴である。

 重量骨材は一般に非常に高価で、普通コンクリートの場合は材料費の大半をセメントが占めるのに反して、高密度コンクリートの場合はほとんど骨材によって占められる。 したがって材料の所布地は運賃と関係して重要な要素である。適正粒組成は普通コンクリート同様たとえば日本上木学会標準示方書に示された範囲がよく、磁鉄鉱あるいは類似鉱石は衝撃式破砕機などのある低速運転条件が比較的よい。たとえば第1図はわれわれが山宝および金平磁鉄拡について行った破砕試験結果の例である。しかし、銘柄によっても明瞭に適正運転条件は違ってくる。 磁鉄鉱物にくらべて重晶石はもろくて摩滅しやすく、能率的な破砕機では微粉が多くなり損失をすくなくして適正粒組成を得ることは難しい。したがってまず、大量取り扱う山元において適正粒組成に近いものを得るようにつとめるこしと、輸送、荷役などに微分が増えることにも注意を要する。

(2) 熱中性子吸収用混和剤として実験および調査したおもなものは第2表のとおりである。

第1表 主要重量骨材

第1図 反撥式破砕機による山宝・金平磁鉄鉱粒度曲線    周速(m/s)17.5,15


第1図の説明


第2表  熱中性子吸収用混和材の成分


コルマナイトはわずかに水溶性をもっているが、その微粉分がポルトランドセメントの凝結に及ぼす影響について試験した結果の一例は第3表のとおりである。実際の原子炉では0.6〜2.5mmのものを使用する。次に同じく英本国からコルマナイトとわずかに分子式のことなるポロカルサイトを入手し、0.3〜0.7mmの等しい粒組成のものについて、そのセメント凝結に及ぼす影響をコルマナイトおよび相馬砂と比較試験した結果は第4表、さらに両者の同じ試料について水にたいする B2O3 の溶出速度比較試験結果は第5表のとおりである。すなわちボロカルサイトはコルマナイトと同じ価格で、米国よりもはるかに安く、しかもほとんど粉砕の必要なくしたがって損失なく、またセメント凝結に及ぼす影響もすくないので、一層好適な混和材とみなし得るようである。東海村1号炉でも最終的にボロカルサイトが使用された。目下それらの長期にわたる影響について研究中である。第3表コルマナイト粉末(0.6mm以下)の  ポルトランドセメントの凝結に及ぼす影響

 第3表 コルマナイト粉末(0.6mm以下)のポルトランドセメントの凝結に及ぼす影響


 第4表 ボロカルサイトとコルマナイトのポルトランドセメント
凝結に及ぼす影響の比較試験(0.3〜1.7mm)


 第5表 ボロカルサイトとコルマナイトのB2O3 の溶出速度比較試験


(3)各種の重量骨材単味および組合せコンクリートの密度3〜6g/cm3に及ぶものについて、その配合設計、混合方法、まだかたまらないコンクリートの性状、密度、強度、動弾性係数と静弾性係数の比較、その他コンクリートの一般的性状について研究を行い、広範な基礎資料を得た。粗骨材最大寸法40mmおよび25mm、スランプ7〜10cmの一定値、水セメント比58、50、42、35%の4種、骨材はインペラーブレーカーとジョークラッシャーによるものの比較、ミキサーは6、25、100および200l の4種を使用した。コンクリートの密度にしたがってミキサーの投入量を減じる必要がある。遮蔽コンクリート用骨材としで性質のことなる多くの骨材を用いて配合設計および試験を進めるにあたって、単位粗骨材容積(dry rodded bulk volume ofCoarse aggregate、コンクリート1m3 当りに用いる粗骨材重量をその粗骨材の1m3 の重量すなわち単位容積重量で割った値)が適正骨材量を決定する有力な手がかりになることがわかった。絶対細骨材率(コンクリート中の骨材の全絶対容積にたいする細骨材の絶対容積の百分率)や粗細骨材の重量比は、骨材の種々の性質、コンクリートの水セメント比、混和材、空気量などによって変る数値であるが、単位粗骨材容積は、普通コンクリートにおける従来の研究および米国コンクリート協会(A.C.I.)の配合設計方法指針と同様に粗骨材の最大寸法と細骨材の粒度によってきまり、他の条件が変っても大きな変化はないという傾向のあることがわかった。また水セメント比の逆数すなわちセメント水重量比と強度の間に、セメントの種類および各材令に応じて、ほぼ直線に近い関係があることは普通コンクリートと同様であるが、重品石のようなもろい骨材ではその強度によってコンクリート強度の上限が制約され、特に28日あるいはそれ以降の強度はセメント水比が変っても著しい変化を示さない。普通コンクリートに従来用いてきた装置方法による縦振動による動弾性係数は必ずしもコンクリートの弾性的性質や圧縮強度を判定する手がかりとはならない。また鉄粗骨材、磁鉄鉱細骨材の組合せコンクリートの混合に際してそれらの骨材を同時にミキサーに投入するときは、磁性のために磁鉄鉱の微粉が鉄の表面に附着してセメントペーストの結合力を弱めるので、鉄粗骨材、セメントおよび水の混合とわずかにずらして磁鉄鉱細骨材を投入混合するように注意を要する。

(4)高密度コンクリートは普通コンクリートよりも配合のわずかの変動による性状の変動が大きく、綿密な配合設計と厳重な施工管理を必要とするが、その点を十分にすれば現場規模の試験結果と実験室の試験結果とはよく一致するものであることは、われわれの磁鉄鉱・コルマナイトコンクリートのフィールドテストでも明らかである。

(5)遮蔽用コンクリートの熱特性。コンクリートが炉心から漏出する中性子やガンマ線あるいはコンクリート中に発生する二次ガンマ線などを遮蔽し、吸収すれば、それら放射線のエネルギーの大部分は熱に変るため、遮蔽体のある部分の温度は相当上昇する。これは原子炉の種類その他でことなるが、たとえば英国コールダーホールの発電炉では、遮蔽体中の内壁面からある程度入ったところに最高温度勾配がありその値はおおむね23℃/ftであるといわれ、また米国ETR(Engineering Test Reactor)では炉心部から1ftのところでおおむね58℃になるものと推定されている。厚さが1〜3mにも及ぶ遮蔽体においては、この温度上昇による熱応力は無視することはできず、それが許容限界を越えるときは亀裂発生の原因となる。したがってコンクリートの熱特生としては、熱膨張係教が小さく温度勾配が小さいことが望ましい。しかして温度勾配が小さいためには、定常状態の場合は熱伝導率、非定常状態の場合は温度伝導率がそれぞれ大きいことが必要である。熱膨脹係数、熱伝導率(Heat Conductivity)、温度伝導率(Thermal Diffusivity)などはいずれも骨材とコンクリートの種類、配合および養生条件などによって支配される。また原子炉の運転停止その他によって、コンクリートが熱サイクルを受けるときは、ものによってはある程度熱成長することがあり、米国でもETRの建設にあたっては、これに関してある程度実験研究を行っているようであるが、われわれも本研究の途上において、各種のコンクリートについて興味ある結果を得つつある。これができるだけ小さいことが望ましいことはもちろんである。他方、中性子に対して有効な水素は、ほとんど水の形でコンクリートに含まれているため、高温に曝される場合は、保水性と機械的強度の低下の程度が問題になる。第6表はポルトランドセメント系およびMOセメント系の代表的なコンクリートについて測定した数値の一例である。

 表中の熱膨張係数は各供試体とも、1週、2週は50℃、4週、3ヵ月は70℃で測定した結果のうち、最大と最小で示した。一般に熱膨脹係数は材令とともにわずかに小さくなって、ある程度の値で落ち付くものであるが、いまその最大値をとって各種コンクリートを比較してみると、金平磁鉄鉱系のコンクリートは普通の川砂利−砂コンクリートとほぼ同じで、勝山重晶石、鉄−群馬褐鉄鉱、燐鉄MOなどのコンクリートに比べて小さいことがわかる。また磁鉄鉱コンクリートは熱伝導率、温度伝導率も比較的大きい値が得られている。

 第6表 各種コンクリートの熱特性値

(6)グラウトを注入するコンクリート特にプレパクト工法は、原子炉の遮蔽体の建設においても配管その他の復雑な構造部分などに比較的安全に均質なコンクリートを打ち込むことができ易いので、原子炉にも相当用いられている。したがって国産の重量骨材のうち第1表の山宝磁鉄鉱と勝山重晶石を用い、西松建設株式会社と協同して、相当広範な項目にわたって高密度プレパクトコンクリートの基礎実験を行った。

 第7表は30種のグラウトのなかから磁鉄鉱について4種、重晶石について3種を選んで、粗骨材も重量骨材を用いたプレパクトコンクリートについて行った実験項目の一部を要約したものである。

 第7表 組細骨材とも磁鉄鉱あるいは重晶石のプレパクトコンクリート

イ)磁鉄鉱、重晶石を粗細骨材とする高密度プレパクトコンクリートは、普通のミキサーによるものとほぼ同程度のものが得られる。また計算値と実測値はよく一致する。

ロ)これら高密度グラウトの密度は、2.6〜2.7g/cm3である。

ハ)フライアッシュは一般にモルタルグラウトの流動性をよくし、長期強度に寄与し、さらに経済的なため、普通のプレパクトコンクリートには広く用いられているが、高密度プレパクトコンクリートの場合は、フライアッシュは混入しない方がよいと考えられる。

(B)特殊セメントに関する研究

 高含水型コンクリートの材料の一つとしてMOセメント(マグネシウムオキシクロライドセメント)について、前述2、(B)a〜dの各項に関し実験研究を行った。

a.原料、材料の試験

 MOセメントの原料としては第一段階においで海水マグとインド産マグネサイトについて実

験比較した結果マグネサイトを用いることにした。

b.焼成条件、添加剤、セメントの特性

 マグネシアセメントはその焼成条件によって安定性、強度、凝結時間が大きく影響されることは予備実験で十分経験したが、たとえば米国で原子炉用として研究されたMOでは相当Dead burn に近いものも含まれているので、焼成時間、温度、原料粒条件など各要素の組合せについて本実験を行った。

c.MOコンクリートに関する研究

 MOコンクリートに関しては、3成分の配合比について磁鉄鉱粗細骨材を用いて基礎実験を行った。その試験結果の一例は第8表〜第10表のとおりである。

第8表  MOコンクリート配合基礎試験


第9表 初 期 収 縮 試 験 配 合 表

第10表 コルマナイト微粉末添加による凝結試験


(1)MOコンクリートでは1m3あたりの含水量を300l 以上にできる。

(2)MOコンクリートの密度は、鉄粗骨材と磁鉄鉱細骨材の組合せ(G/S=3)では5以上、鉄骨材のみでは5.5以上にできる。

(3)MOコンクリートは一般にplasticに過ぎるコンクリートであるが、特殊添剤をMOコンクリートの1%(重量)添加することによりWorkabilityはきわめて改善される。またコルマナイト微粉の添加も Workabilityの改善に役立つ。MOセメントペーストの骨材に対する被覆力は非常に大きく、鉄のような重い骨材でも分離を起しにくい。

(4) 熱中性子吸収用混和材として硼酸質物質を添加しても、ポルトランドセメントにみられるような凝結に対する著しい影響はみられない。

(5)一般にMOコンクリートのスランプの適正値は3成分の配合比のみならず、磁鉄鉱、重晶石、燐鉄などの特殊重量骨材の種類、およびコルマナイトのこまかさと混和量などによっても相当ことなっているようである。

(6)各種MOセメントの品質試験ならびに焼成試験の結果によれば、原子炉遮蔽コンクリート用MOセメントはその原料、製法、品質試験方法などに一層適切な管理を要する。またさらに研究改良すべき余地がすくなくない。

(C)核放射線遮蔽性能の研究

a 中性子遮蔽性能

(1)水および硼酸水における中性子減衰。コンクリートの場合と比較するために行った実験は第2図のとおりである。水における熱中性子の拡散距離は、AllisonらがIn箔を用いて2.88cm、White らがAg箔により2.7cmを得ているが、われわれは2.71cmであった。熱中性子にたいする硼素の影響については、計算による値とある程度の一致がみられる。これらの結果からみると、硼素の有効かつ経済的な量はおおむね2〜4g/l でB2O3 にして6〜13kg/m3、これを遮蔽コンクリートにおける熱中性子吸収用混和材、たとえば第2表のボロカルサイトやコルマナイト(B2O3 含有量約40%)でみると約17〜33kg/m3コンクリ一トに当る。硼素は速い中性子にたいしてもかなり大きい吸収断面積をもっているが、その量にもよるがその効果は第2図の程度である。

(2)セメント・モルタルおよびコンクリートの含水量と硼素量の影響。豊浦標準砂を用い、砂の量を一定にして水とセメント量を変えることによって含水量のことなる数種の供試体を作成した。その結果は第3図(高速中性子にたいしてはA線)のとおりで水は著しく有効であることがわかる。次にコルマナイトを用い、セメントと水を一定にして、豊浦砂の一部をコルマナイトで置き換えて硼素量のことなる数種の供試体を作成して実験した結果は第4図のとおりである。高速中性子の減衰にたいしては第2図からも知れるとおり、水にくらべれば硼素はあまり大きな効果を有しないが、第4図の結果はコルマナイトが有している結晶水によるものと考えられる。すなわち、その結晶水を考慮に入れてモルタルの含水量を算出し、第3図中にプロットすると破線のB線が得られ、A線とB線の差が硼素その他によるものであろうと考えられる。しかしコルマナイトなど含硼素物質の混和は、熱中性子の遮蔽を場合によっては相当改善するものであることは実験結果のとおりである。原子炉などの設計詳細および用いられる場所などによって差はあろうが、たとえば本実験に用いたコルマナイトやボロカルサイトなどのような混和材はコンクリート1m3当り50〜150kg程度がその目的によっては比較的適当な量のように思われる。しかしてさらにこれ以上混和することはコンクリートの密度を減じ、またすでに述べたようにわずかに含まれている水溶性硼酸によるポルトランドセメントの凝結遅延あるいは強度低下などの問題もあって現段階ではあまり有利でないと考えられる。第5図は普通のポルトランドセメントコンクリートについて行った高速中性子減衰の実験結果と、1956年英国ハーウェル研究所のMiss J.A.DysonおよびJ.R.Harrison によるポルトランドセメントコンクリート中の水素量と高速中性子の減衰に関する計算結果を用いて求めた値とを比較したものである。われわれの実験は装置類の制約上φ15×30cmの供試体と小さな中性子源とlong counter system による不十分なジェオメトリーによるものであるが、しかしこれまでの種々の結果と同様、大規模の実験と比較考察するにはある程度以上役立ち得るものと考える。

第2図 硼素と中性子減衰



第3図 水量と中性子減衰




第4図 コルマナイト量と中性子減衰


第5図 含水量と中性子減衰(Harrison 等の計算結果との比較)


     第6図 各種骨材と熱中性子拡散距離



第7図 各種骨材と高速中性子減衰係数



(3)各種モルタルおよびコンクリートの中性子遮蔽性能。

第6図〜第7図 はそれぞれセメント・モルタル中の骨材の種類と熱中性子拡散距離および高速中性子減衰係数の関係を求めた結果である。配合は水とセメント量を一定にして残りを骨材として、骨材の占める容積が一定になるようにした。しかして骨材の遮蔽に関する性質を知るために、各供試体を100℃で乾燥し、含水量のことなる3点で遮蔽実験を行った。第11表〜第12表はそれぞれ各種コンクリートの熱中性子拡散距離および高速中性子の緩和距離に関する実験結果である。普通コンクリートの熱中性子拡散距離4.8cmはWhiteらの得た値5.6cmより小さい。一方Iliffeの文献には4.85cmという値もみられる。そのほか種々の値があるが、これらは配合特に実現の含水量によってことなることに注意すべきである。第12表をみると普通コンクリートにみられるように高速中性子の緩和距離にたいしてその含水量は相当効果があることがわかる。DysonとHarrisonの計算値とこの実験値を比較して第5図に示したことは前述のとおりである。

第11表 各種コンクリート熱中性子拡散距離

第12表 高速中性子は対する緩和距離

b ガンマ線遮蔽性能、ガンマ線によるコンクリ−トの無破壊試験および後方散乱の実験

(1)密度0.85程度のサーモコン(セメントと水のみからなる一種の気孔コンクリート、密度0.75〜0.9)初め、石灰石コンクリート、重晶石モルタル、磁鉄鉱コルマナイトコンクリート、磁鉄鉱単味コンクリート、燐鉄MOコンクリート、鉄および鉛などの各種材料について、RCL社製ガンマ線シンチレーションカウンターを用い、Co60から放射されるガン線の吸収係数μを求めた。用いたジェオメトリーはカウンターにたいする最大散乱角が供試体の厚さによって変らないようになっており、またその散乱角は1018′という理想的なNarrow Beamで、散乱の影響はほとんど無視できる程度である。ρ<7.8について実験値から最小二乗法によって求めたμとρの関係は次式のとおりである。 μ=0.0511ρ十0.0069 ただしρ>7.8ρ=11.3の鉛までについて傾斜がいくぶん急になるのは原子番号Zが大になるにつれて対創生効果が効いてきているためである。

(2)東海村1号原子炉遮蔽用コンクリートの示方書(第1次)と類似の磁鉄鉱・コルマナイトコンクリートのフィールドテストを兼ねて、放射線貯蔵庫にρ=3.52と3.49のA、B2種の配合のコンクリ−トを打設した。第8図はその壁面170cmについて、5cm間隔でCo60(3mc)とGM管および大型対称パスを用いた壁厚と密度とカウント数の関係の測定結果である。A配合とB配合の密度の差は0.03g/cm3で平均密度の約1%に過ぎず、また型枠のハラミによる壁厚の変化は6mmで平均壁厘30cmの約2%に過ぎないが、図のように明瞭にその差が見られ、しかも上式による計算値と平均カウント数にもおおむね一致していることもわかる。

 

 

(3)コンクリートの型話方法と密度。次にφ15×30cmとφ20×40cmの型枠に、普通のコンクリート試験方法に準じて型話した各種密度のコンクリート供試体とプレパクト工法による供試体について、各断面の密度の標準偏差つまりバラツキあるいは均一度を Co60 ガンマ線の透過による無破壊試験法によって求めた。 その結果をみると普通の型話方法によるものは普通のコンクリートの概念では分離していないと思われる良好なコンクリートでも詰めた層間に粗密がはっきりとみられ、しかもその標準偏差は平均密度の約乗に比例する程度と判断される。これは実際の施工法とも関連して相当重要な問題で後述のごとく1m3あたりの材料費が普通コンクリートの数千円であるのに対し、1m3あたりの材料費が数万円あるいはそれ以上もする高密度コンクリートの場合は特にバラツキが大きくなりがちで大いに研究を要するものと思われる。その点プレパクト工法の場合供試体に関する実験範囲ではそのバラツキはカウント数のプロバプルエラーの幅に入るくらいで非常に均一であることがわかった。なおこの測定ではGM管とコリメーターには地mmφの孔のある鉛を用いている。また第9図は前述と関連しているが、型枠に縦打と横打の2種を用い磁鉄鉱砂のみのモルタルで25×50の遮蔽ブロックを試作し、作った遮蔽用ブロックについて透過試験を行った結果である。すなわち左の縦打型枠によるブロックはガンマ線の方向と型詰方向が垂直であって砂のみの全く均一に見えるブロックでも前の場合と同様粗密が明瞭にあらわれている。右の横打型枠によるものはガンマ線の方向と型詰方向は平行で型詰の層間の粗密は全く影響していない。したがってブロックの場合は詰める方向と放射線の方向を平行にすることができれば非常に密度の均一なブロックとして使用できることがわかる。これも実際上は経費とも関連してプレパクト法以外に考えておいてもよい問題と思われる。

第8図 放射線源貯蔵庫壁のガンマ線透過試験




第9図 遮蔽用ブロックの型話方向とガンマ線透過試験


 (4)ブロックの積重ね面と透過試験。第10図は前述の横打型枠によるブロックを3層に積み重ね積重ね面とガンマ線点源の位置と透過度の関係を Broad BeamとNarrow Beamについて求めたものである。ブロックの寸法精度は約1/200でそのクリアランスは約1mm程度。Co60のφ2×10mmの点源を壁面上(A)およびそれから15cm離した場合(B)についてGM管と点源を同時に上下してガンマ線の相対強度を測定した結果である。これによると積重ね面はAの場合は約10%の遮蔽能力の低下、Bではほとんど低下していない。

(D)遮蔽用コンクリートのコストの研究

 第11図の左の対数グラフにプロットした◎点はわれわれのこれまでの調査および実験研究にもとづいて求めたコンクリートの密度(ρ)と1m3当りの材料費(昭30.11月現在)の関係である。ただしここで材料費とはセメント、骨材などの運賃を含む原料費、粉砕費、粉砕損失、篩別調製費の合計をいう。×点はG.

第10図 コンクリートブロックの積重ねとガンマ線透過試験ブロック寸去 25×25×50cm



第11図 遮蔽用コンクリートの密度と材料費(X)型枠費(Y)健設費(Z)



E. Coの H.S.Dainis(Hanford原子力工場関係)が1955年に発表したものを1$=370円として計算したもので、現在のところほとんど日本も米国も同じ程度である。近似的には右図のX対ρの直線になり、ρ4に比例している。またこの種セメントの打設は使用する型枠の経費(Y円)をORNLのLaneの報告にもとづいて解析すると、おおむねY対ρのような関係が得られ、ρ1.2に比例している。さらに労務費、各種部品類その他を合む直接の建設費Z(円)とρの関係はZ対ρの直線のとおりで、おおむねρ2に比例しているようである。ただしこれらの関係は怖向を示しているに過ぎず、建設条件が著しくことなる個々の原子炉に簡単にあてはめることは無理であろう。