海外における原子力関係情報

在外公館長から外第大臣あてによせられた報告のうち、国際協力局を通じて原子力局に通報された海外原子力情報から次の三つをえらんで紹介する。


西独の原子力船開発状況について

(32.6.22 在ハンブルグ甲斐総領事 )

 去る6月4日より6日までの3日間にわたって、当地ハンブルグにおいて行われた「造船海運における核エネルギー活用促進のための研究協会」(Studiengesellschaft zur Forderungder Kernenergie−Verwertung in Schiffbauund Schiffahrt e.V.)主催の講演会「原子炉の物理学と工学に関する会議」は、西独国内の関係科学技術者および近接ヨーロッパ諸国からの参集者約500名の出席を得て、西独原子力大臣および交通大臣の挨拶をはじめとし各般の研究報告が行われた。 もともと本会議の目的とするところは、英米に原子力開発分野において相当の遅れをとった西独が、実験炉の建設を中心として最近ようやくその研究体制の確立にめどがつき、これから本格的研究開発にのりだすという時機に行われた一種の啓蒙的意義をもつものと解される。
 講演内容としては、ハノーヴァー工科大学数授イリス博士のガス冷却型原子炉によるガスタービン駆動のタンカーの機関設計の発表、キール大学教授バゲ博士の実験炉に関する報告、その他原子炉一般、燃料、遮へい放射線の応用等につきドイツ国内のみならず招へいを受けた英、仏、スウェーデン、ノールウェーのエキスパートからの報告があった。
 なお、わが国からは原子力船調査会より牧浦隆太郎氏(石川島重工、原子力課長)が出席した。

(1)原子力船開発の関係機関

 1955年8月、西独の原子力開発計画の一環として、連邦政府および船舶に関係深い北部4政府(ハンブルグ、ブレーメン、ニーダーザクセン、シュレスビッヒ・ホルシュタイン)の授助によって、ハンブルグに「造船、海運における核エネルギー括用促進のための研究協会」(以下「研究協会」という。)が設立された。
 その意図するところは、原子炉の建設および原子力船の開発推進のための啓蒙活動ならびに必要資金の獲得であった。会員は船主、造船所、石油会社およびこれら関連産業の法人会員と学者、政府関係者等の個人会員とから成り、会長には運邦交通省海運局長のシューベルト博士が就任している。
 研究協会は、1956年4月、その傘下の実施機構として、「造船、海運における核エネルギー活用のための有限会社」Gesellschaft fur Kern−energie−Verwertung in Schiffbau undSchiffahrt m.b.H.(以下「有限会社」という)を設立し、原子炉の建設、運転および研究の実施はすべてこの会社に担当せしめることとなった。
 有限会社の資本金は50,000マルク(内40,000マルクが研究協会の出資になり、残りは銀行その他民間会社の出資である。)であるが、出資者は各々その資本金の保有額の百倍に相当する金額を有限会社に贈与することになっているので実際には資本金の他に5,000,000マルクの資金が払い込まれている。
 このうち、研究協会の贈与額4,000,000マルクは、連邦政府および北部4政府の補助金によるものとのことである。
 原子炉建設にともなう今後の追加費用も含めて、総費用を3分の1ずつ連邦政府、北部4政府、民間が負担する方針で進む由である。

(2)開発の現況

 有限会社が現在ハンブルグ近郊ゲーシュタットに建設中の原子炉は、アメリカのバブコックウィルコックス社製のスウィミングプール型(出力、5MW)の実験炉で今年末に完成、明春から運転開始の予定である。研究の直接指導者として、キール大学教授バゲ博士を迎え、炉の建設に専心しているが、完成後は原子炉の操作、放射能の遮へい、放射線の利用等にも研究の重点をおく由である。
 なお、原子炉の建設と平行して有限会社はハノーヴァー工科大学教授イリス博士を中心とするグループに原子力船の各種機関の設計を委託している。これらグループの作業になる加圧水型およびガス冷却型についての設計はすでに発表されている。
 要するに、西独原子力船開発の方針は、まず実験炉を建設して、ここで十分原子炉技術について体験を重ね、しかる後にその科学力、工業力を動員して実用に乗り出そうとの趣と思われる。

(3)西独実験用原子炉の開発状況

 以上の方針は原子力船のみならず、西独の原子力開発の一般的傾向としても、まず実験用原子炉を各地に分散建設して広く一般に原子炉の技術科学について体験せしめ、しかる後に工業化を図ろうという考え方がみられる。
 次に目下西独で建設計画中の実験用原子炉を列記すれば次ページの表のとおりである。
 なお、実用動力炉については、ライン地方の電気会社、バイエルン州等において購入計画があるようであるが、詳細は未定である。


フィンランドにおける原子力問題について

     (32.7.10 在フィンランド本多公使 )

(1)原子力研究関係予算措置

 4月26日国会に上程された本年度第一次追加予産総額28,505,961,310マルカのうちには原子力専門家養成費として400万マルカが含まれているが、上記は原子力研究家のための海外派遣費および国内における専門家の養成費に充当されるものといわれる。上記のほか本年2月北欧理事会の決定によってコペンハーゲンに建設されることになった北欧原子物理学研究所維持費のうちフィンランドの分担金14万クローネの芬貨6,251,000マルカも含まれている。

(2)ヘルシンキ高等工業学校に原子物理学講座開設

 5月10日ヘルシンキ高等工業学校のペッカ・ヤウホ助教授最近上記工業学校に開設された原子物理学講座の教授に任命された。

(3)原子力技術講習会終了

 ヘルシンキ高等工業学校および国立技術研究所によって開催された原子力技術講習会は、予定のとおり5月27日に開講され、6月20日終了した。講習を受けた技術者は約50名、講習時間は全部で70時間で、九つの各種講義が行われたが、原子炉または原十炉関係の諸問題が大部分を占め、その他エレクトロン、原子物理学用器具、アイソトープ技術、放射能危険防止などの講義も行われた。
 講師陣は全部フィンランドの学者から成り、ヤウホ教授(原子核物理)、ラウリラ教授(原子炉物理)、レクネル技師(原子炉物理)、フルティン技師(原子力利用)、トウミ技師(器具)、ルオト工業士(エレクトロン)、ミエットウネン博士およびロット技師(アイソトープ技術)、サリミヤキ学士(放射能危険防止)であった。
 上記講義を4週間で行うことは極めて困難であったが、聴講者の示した関心と講義のテキストをプリントして配布したことは講義の成功を保証したといわれている。
 講話と並行して実験が44時間行われた。しかし原寸炉がないため原子炉技術に関連する実験は不十分であったがヤウホ教授もラウリラ教授も講習会が成功であったことを認め、将来もこの種の講習会を開くことが必要であると述べている。

(4)北欧原子物理学研究所

 本年2月開催された北欧理事会の会議においてコペンハーゲンに原子物理学研究所を設置することが決定定されたが、上記決定は実施されることになり、新研究所は本年10月に活動を開始するであろう。
 上記研究所の理事会はデンマークのボーア教授司会のもとに6月25日第1回会議を開いた。

 フィンランド代表としてフィンランド学士院会員ロルフ・ネワンリンナ教授およびヘルシンキ高等工業学校原子物理学教授ペッカ・ヤウホ教授が上記会議に出席した。




英国の原子力タンカー建造計画に関する報道について

(32.7.19在連合王国西大使)

 7月15日付当地各紙は原子力タンカー建造のため新たに Hawker Siddeley John Brown Nucear Construction Co.が設立されたる旨報道しているが、特に第一面トップに本報道を掲げたマンチェスター・ガーディアンの記事要旨および7月18日付ニュー・サイエンティスト誌論説御参考までに報告する。


1. マンチェスター・ガーディアン記事

 原子力商船の建造計画案については過去1年来検討されてきたが、いまや本格的計画および設計の段階に到達した。すなわち計画を具体化するために資本金50万ポンドをもって、ホーカー・シドレー社とジョン・ブラウン杜とが新たに Hawker Siddeley John Brownwn Nuciear Construction Co.を設立するに至ったが、この原子力商船建造計画に対しては英原子力公社および海軍省が後援している。
 ながらく戦闘機メーカーとして知られてきたホーカー・シドレー社は今春国防白書の発表以来、航空機以外の分野へも乗り出しつつあり、他方「クイーン・メリー号」建造で知られる造船会社ジョン・ブラウンは火力発電所用ボイラーを含む重機械のメーカーでもある。
 新会社の社長ロイ・ドブソン卿(ホーカー・シドレー社重役)は14日次のごとく語った。
 「新会社の最初の仕事は原子力商船の建造となろうが、先々はさらに広い分野にわたる原子力計画へも踏み出すものと期待され、そのなかにはおそらく原子力航空機も含まれることとなろう。われわれはこのような面で深い経験を持つ新会社の発展がイギリスの原子力分野におけるリーダー・シップにいよいよ力を加えるものであると信ずる。」
 ドブソン卿は上記計画発表の際、この6万5千トン以上の大型原子力タンカーの建設費および大きさの最大限度についてはふれなかったが、「多分、クイーン・メリー(8万1千トン)級のものとなろう」と述べ、またジョン・ブラウン社重役であり、新会社の役員会メンバーとなるエリク・メンスフォース氏は、「世界最大の商船を建造せる会社としてジョン・ブラウン社は、その経験を新会社の技術能力と組み合わせることにより、英国最初の原子力商船の建造を最も効率的に遂行し得るものと信じている。しかもこのような計計画は、イギリスが指導的海運国の地位を維持していくためにぜひとも推進しなければならぬものである」と述べた。
 さらに同じく新会社の役員となるホーカー・シドレー・グループのアーノルド・ホール卿は「われわれが確実と考えていることは、英国のごとき国へ石油を輸送する場合、原子力タンカーの方が在来型タンカーよりも安くできるという点である。」と語り、原子力を利用するにはどうしても船体を大型化する必要があるが、しかし原子力タンカーが危険であるとの根本的理由は何もないと述べた。

2. ニュー・サイエンティスト誌論説

 今週発表された資本金50万ポンドをもって設立される新会社ホーカー・シドレー=ジョン・ブラウン・ニュークレア・コンストラクション(資本金は両グループから同額出資)の報道は、イギリスの将来にとり大きな重要性をもつものである。ホーカー・シドレー・グループは航空機工業に必要な精密技術について豊富な知識を有し、最近電気機器メーカーであるブラッシ・グループを吸収合併するとともに、原子炉設計に従事する子会社を傘下にもっている。
 ジョン・ブラウンはClydesideの造船会社としてよく知られているが、他面、一般重機械メーカーでもあり、最近は、大規模火力発電所用のボイラー製造にも関心をもってきている。
 上記2社の合同設立による新会社は、したがって、英国にとってもユニークな経験の蓄積を有するものといえる。予想されるように、新会社の意図するところは、原子力商船の設計計画を推進し、若干の支持をえてその建造を行うことにある。原子力機関は当初在来型のものよりも相当高くつくから、第1号原子力商船がタンカーとなるのは、当然といってよかろう。また原子力機関の単位出力当りコストは大型化にともない減少するから、原子力船の大きさは大型化されざるを得ず、事実「クイーン・メリー号」級となるであろう。
 残念ながら現段階においてこのような原子力タンカーの経済性を細部まではじき出すことは不可能である。
 たとえば、もっとも能率的に水上を推進するために、船体の形状について再検討が必要であるが、これは原子力船の運航経費が低いという特色を、最大限利用し、高い建設費の不利を相殺するためには、できるだけ速度の早いものでなければならぬからである。
 この事実が設計段階から実際に原子力船を建造する段階へ進む前に、新会社は当然のことながら、その顧客を見つけなければならない。しかし、ひとたび原子力商船が事実問題として確立されるに至れば、大石油会杜のうちのあるもの、ないしは本計画を早くから奨励している海軍省のいずれかが、第1号原子力タンカーを購入するだろうことは、ほとんど疑う余地もあるまい。
 原子力タンカーは、一旦緩急の際、英国海軍にとり大きな威力となりうるものである。それは原子力タンカーが、最高速の艦船を探し出し、それと行動を共にしつつ、燃料油を供給できるという能力を有するだろうからである。しかし、より重要なことは、原子力タンカーへの投資が、平和時における真のかつまた直接的価値をもつ国防支出とみなされることであろう。
 このような商業的な一面をもつ国防支出政策は、すでに、米国で実施されてきており、軍用船としての原子力貨物船数集の建造計画が以前からすすめられている。もっとも、これら原子力貨物船は経済的ではないとみられるが、予定されるイギリスの原子力タンカーは十分採算がとれるであろう。
 いま一つ、今回の計画については利点がある。それは、大型船用原子炉の開発が、低開発諸国の原子力発電所用として手頃の大きさの動力炉をもたらすとみられる点である。なぜなら、これら諸国にとっては、現在イギリスで建設中の大型原子力発電所は余りにも大きすぎて適当でないからである。