放射線医学総合研究所の発足

1. 緒   言
 日本における原子力の研究、開発、利用の進展に従い、放射線を医学的に利用する積極面の研究と放射線障害防止のいわば消極面の研究およびこれらにともなう技術者の養成訓練の必要性が増大し、昭和32年7月1日、科学技術庁の附属機関として放射線医学総合研究所が発足した。

2. 設立経過
 本研究所の設立の動きの具体化は、昭和30年1月の日本学術会議会長から内閣総理大臣あての「国立放射線基礎医学研究所の設置について」の申入れに始まるといえよう。すなわち、放射線医学についての研究所設置を促す上記の申入れによって、政府は、科学技術行政協議会にこれに関する専門部会を設けて検討した結果、文部省に国立放射線基礎医学研究所、厚生省に国立放射線衛生研究所をそれぞれ早急に設置する必要があるとの結論に達し、ただちに関係省庁間で設立準備を進めたが、その後原子力委員会や総理府原子力局、さらに科学技術庁の発足という情勢の発展もあって、昭和31年2月の閣議で、両研究所を合わせて放射線医学総合研究所を科学技術庁に設置することが決定され、昭和32年4月、科学技術庁設置法の一部を改正する法律案が国会を通過し、去る4月23日法律第76号として公布され、前述のように7月1日から施行されることとなったものである。
 爾来、関係各省庁幹部や学識経験者による設立準備委員会が設けられ、また事務当局においても、予算・法令・人事・庶務・建設など着々と準備を進めてきた。

3. 事業目的
 設立の趣旨、経緯は、上記のとおりであるが、新しい科学技術庁設置法により定められた本研究所の事業は次のとおりである。

①放射線による人体の障害並びにその予防、診断および治療に関する調査研究を行うこと。
②放射線の医学的利用に関する調査研究を行うこと。
③放射線による人体の障害の予防、診断および治療並びに放射線の医学的利用に関する技術者の養成訓練を行うこと。

 以上を主要目的として、それに必要な事業を行うわけである。

4. 人   員
 慈恵医大教授樋口助弘医学博士を所長として、今後3ヵ年間に、副所長ほか、管理部、各研究部、附属病院など、合計419名の人員を整備し、施設を建設する計画である。

 すなわち、管理部97名、第一基礎研究部(物理)18名、第二基礎研究部(化学)14名、生物、生理、遺伝各研究部各々16名、障害基礎研究部24名、障害臨床、薬学、環境衛生、診断、治療各研究部各々16名、技術部65名、養成訓練部8名、附属病院63名という予定である。

5. 施   設
 当初、茨城県東海村の日本原子力研究所の南の約6万坪の国有地に延べ約7千坪の建物を建築する予定であったが、土地については、原子燃料公社との関係もあって再検討の余儀なきに至っているが、いずれにしても、昭和32年秋、着工の見込である。
 管理棟、研究棟、病院棟(50床)のほか、将来は医療用原子炉、ヴァン・デ・グラフなどの設置も考えられるが、さしあたっては、ベータトロン室ほか各種放射線照射室、ラジオ・アイソトープ実験室、動物舎、温室、サーヴィス棟、廃棄物処理棟、看護婦宿舎等が計画されている。

6. 経費概算

①建築費        13億円
②事業用機械器具費  4億円
             計17億円

③年間計費 人件費 約1億5千万円
④年間計費 庁費   約2億5千万円  
             計 4億円

7. 年次計画
 初年度においては、施設の整備と放射線の人体に対する障害の予防等に関する研究および放射能汚染の調査研究に重点をおくものとし、管理部20名、第一基礎、第二基礎、障害基礎、環境衛生各研究部20名、計40名で出発し、当分の間、職員は、科学技術庁の庁内に置かれる放射線医学総合研究所の分室において勤務することとなっているが、施設の十分整わない研究部門については、研究員を既存の試験研究機関に配置するものとする。