必要な早期開発と国内協力


原子力委員会参与  松根 宗一

 最近ユーラトムに関する報告書A Target for Euratomを読んで、あらためて欧州の原子力発電に対する積極的な意欲を感じた次第である。そこには、原子力発電によって、エネルギー源の安定と経済の発展とを共同の力により達成しようとする積極的な意欲があり、約10年間で1,500万kWの開発を ambitionではあるが、適正な方策であるとする。事情に若干の相異こそあれ、日本にとっても他山の石とすべきではなかろうか。
 九電力会社はさきに、10年後約100万、20年後約1,000万kWの開発構想を発表し、さらに早期開発の具体策として民間共同による会社の設立を提唱した。すなわち、今こそ実用規模動力炉の輸入設置により共同の力で原子力発電の開発促進を図るべきときであるとするものである。
 このような考え方のよって立つ理由の第一は、まず電力需給の動向をあげることができよう。経済の発展にともない電力需要は増大するが、これに対する国内電力資源の水力、石炭は早晩開発の経済的限度に到達する。しかも最近の情勢はこの傾向に拍車をかけつつある。したがってまず石油資源に依存する必要のあることは、いまさら論をまたないところである。
 しかしこれは、単に電力需給面からのみならず国全体のエネルギー問題として考慮されるべきであることはもちろんである。石油燃料の輸入は、今後急速に増大する。しかし石油への長期大量的な依存は、外貨、船舶その他関連設備の増強拡大が必至であり、そのうえその確保には不安定性がある。英国やユーラトムに例を求めるまでもなく、これを解決し緩和するものは原子力の利用によるほかはない。
 これにひきかえ、原子核燃料の利用は、その確保の面においても安定要因があり、大きい経済効果が期待されるのみでなく、その進歩発展は著しいものがある。今後原子力発電コストの低下は確実に予測されるが、現在すでに火力のコスト(今後上昇が予測される)に匹敵しうる境界線上にある。さらにプルトニウム、トリウムの利用、増殖炉の開発等さらに一層の成果が期待できる。
 次に原子力開発上10年の遅れを取り戻す必要がある。その遅れを取り戻すためには、海外の成果を導入し、国内技術の向上と技術者の養成訓練に役立たしめることが急務であろう。わが国の工業は、海外技術を導入消化し、さらに国産化を促進しうる能力を十分備えている。この潜在能力を高揚せしめ、早期に原子力産業の基盤を確立し、原子力利用の促進を図ることこそわが国産業将来の発展を招来する所以であると思料する。
 これを要するに、原子力開発を逼迫する電力資源対策とするのみでなく、そこに広義積極的にエネルギー資源の安定確保と経済的効果を求め、産業将来の発展を期待し、一日も早くその具体的開発に着手しなければならない。
 もとよりこれは、官民各界が相協力することによってこそ効率的にその成果の実現を期しうるものである。特に日本原子力研究所は、わが国原子力の開発に関する研究等を総合的かつ効率的に行う中心的機関であり、民間の応用実施と緊密に連繋し、相共に協力する必要がある。九電力会社が民間相共同し、かつ日本原子力研究所と一体になって原子力発電の開発を行うよう提唱する所以もここにあると信ずる。

(電気事業連合会 専務理事)

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