資   料

諸外国における放射線障害防
止関係法令等の概要について


 (調 査 資 料)

1.放射線障害防止関係法令等の制定状況

 現在、世界各国(約88ヵ国)のうちで、なんらかの形で放射線障害の防止について立法措置を講じている国は、米国、英国、フランス、西独、カナダ等主要国約20ヵ国で、スイスおよびポルトガルにおいては、目下法令を立案中である。その他の約66力国のうち、法令を有しないことが明らかな国は、ボリビア、ビルマ、ドミニカ、エル・サルヴァドル、エチオピア、グァテマラ、ハイチ、インド、イラク、ヨルダン、朝鮮、ルクセンブルク、モナコ、ネパール、パキスタン、スペイン、タイ、ベネズェラおよびイェーメンの19ヵ国で、その他の約47ヵ国についてもおおむね、関係法令を有しないものと推察される。

2.関係行政機関および規制の態様

 このように世界の先進主要国の大部分が放射線障害の防止について法的対案策を講じているか、これら諸国の関係行政機関、関係法令の規制対象、規制方法等は放射線発生装置、放射性物質等の一部のみを規制対象としているもの、医療関係従事者のみの保護を取り扱っているものまたはこれらのすべてについて包括的規制を行っているもの等、国により必ずしも同一でない。しかしながら、これらの概況を要約すれば、おおよそ次のとおりである。

1. 行政機関

(1)原子力委員会等がおもな担当機関である国
  米国(他に州政府)、カナダ、南阿連邦

(2)原子力省等がおもな担当機関である国
   西独(他に労働省)、スエーデン(原子力局)

(3)枢機省がおもな担当機関である国
   英国(他に保健省、国務省等)

(4)労働省が担当機関である国
   キューバ、モロッコ(労働社会省)、ベルギー

(5)保健省が担当機関である国
   東独、フランス(公衆保健省)、ニュージーランド、ブラジル、ウルグァイ

(6)社会省、労働省、保健省等が担当機関である国
   デンマーク (内務、保健、労働の各省)、ポーランド(社会省、保健省)

(7)その他
   オーストラリア(主として州政府)

2.規制の態様

(1)原子炉、核燃料物質、核原料物質、放射性物質、副産物質、放射線照射装置または放射線発生装置の使用、所持、運搬、保管、輸入、輸出等について許可制、免許制または認可制とする。

(2)放射性物質等を取り扱う場合の安全基準を規則等で定め、遵守義務を課する。

(3)放射性物質等の取扱に際して、放射線障害の防止に必要な保安および保健上の監督を行わせるため、事業所等に資格のある専門の放射線管理者を設置させる。

(4)従業者等について、健康診断その他適切な健康管理を行わせる。

3.各国別放射線障害防止 関係法令等の概況

1.米  国

(1)関係行政機関および法令

 連邦政府では原子力委員会、州政府では保健省または労働省が主務官庁である。
 法令としては、原子力法(1954年改正)が基本法規であって、同法にもとづき、原子力委員会の定めた「アイソトープ配給に関する規則(1951年)」、「放射線防御基準に関する規則(1951年)」、「職員の安全処置の妥当性を決定する基準(1949年)」の諸規則および「放射性廃棄物の処理に関する勧告」がある。放射性物質の運搬については、州間通商省、沿岸警備隊、民間航空庁および郵政省が共管し、「州間通商省の運搬に関する規則」その他各省庁の規則がある。また、州政府のうち、ニューヨーク州、カリフォルニア州、ニュージョージア州等13州が放射線防御に関する規則を制定している。なお、市においても、ニューヨーク市、デトロイト市ほか3市が、同様な規則を有している。

(2)規制の態様

 規制の態様としては、副産物質の製造、生産、運搬、取得、所有、所持、輸入または輸出は、原子力委員会の一般免許または特殊免許を受けた者のみが行い得ることとし、これらの被免許人は、原子力委員会規則に定めるに安全基準、指令等に該当するような設備を有し、かつ、それらの基準等に従って、使用等を行う義務を課されている。一般免許証と特殊免許証の相違は、その取り扱う放射性物質の量、使用方法等によってなされ、人体に使用する場合等放射線障害の発生する危険性の高い場合には、特殊免許証が必要とされる。また、副産物質の輸出は、免許のほか、さらに原子力委員会の許可を受けなければならない。米国における法令の規制は、単に健康を保護し、または生命および財産の危険を最小限にするためのものではなく、国家の防衛上安全保障を増進することをも目的としており、上の輸出についての二重規制も立法におけるその一表現と解される。州政府の保健省規則または労働省規則は、原子力法を受け、先述の規制と同様な内容の規定を設けている。

2.英  国

(1)関係行政機関および法令

 放射線障害防止関係行政は、当初は供給相の担当とされていたが、原子力平和利用の一般的趨勢に対応するため、1954年1月軍需を担当する供給相から科学技術全般の促進奨励を担当する枢機相に移管された。枢機省には事務局として原子力局があるが、局長以下18名で実質的には原子力公社の議会における代弁者としての役割を果しているに過ぎない。
 枢機省、原子力公社以外の関係行政機関としては、労働省、保健省、国務省、北アイルランド地方政府等があり、たとえば労働省は工場労働者、保健省は医療用放射性物質等、住宅地方行政省および農漁業省は廃棄物処理について、それぞれ行政権限を保有している。
 関係法令としては、放射性物質法(1948年)、原子力公社法(1954年)および発光材料関係工場の特別規則(1947年)があるが、全般的にみて放射線障害の防止に関し画然とした法的規制体系はない。これは主として原子力の開発、利用が政府中心に進んできたことによるものであって、現行法にも不備な点が少なくない。この点については、実際の運用面で補われてはいるが、目下「放射性物質法」を補足するための政令も検討されており、漸次、細目にわたる法的規制が行われようとしている趨勢にある。

(2)規制の態様

 「放射性物質法」により、枢機相は、すべての放射性物質を製造、生産、購入、取得、加工、貯蔵、運搬、処分し、または輸出入を統制する権限を有する。人に注射し、服用し、もしくは適用する目的を有する放射性物質の販売または供給は開業医、歯科医、薬剤師などこの法律により免許を受けた一定の者以外の者にたいし行ってはならず、また、医療用放射線発生装置は、これらの者でなければ使用を禁止される。放射性物質等を取り扱う者は、従業者等の放射線障害の防止、放射性廃棄物の安全処理の確保、放射性物質の輸送に関し、命令で定める担当大臣の制定する規則を遵守しなければならないものとされる。なお、輸送に関する運輸省令は未制定で、従来からの「火薬等危険物輸送に関する規則」を拡張適用している。
 「原子力公社法」においては、特に放射性廃棄物の処理に関し厳重な規制を行い、原子力公社は、「公衆衛生法(1936年)」、「河川汚染予防法(1951年)」、「鮭および淡水漁業法(1923年)」、「海洋漁業取締法(1888年)」等の規定により、重大な結果を生じるような放射能を放射性廃棄物に持たせてはならず、またその放出には、担当大臣が河川局、地方漁業委員会等と協議し、かつ、住宅地方行政相および農漁業相の承認を得なければならないものとされている。

3. 西  独

(1)関係行政機関および法令

 1955年パリー条約にもとづいて、原子力の平和利用に関する研究、開発の禁止が解除されるとともに、同年10月、経済省から分離して新たに原子力省が設置された。組織、構成等は未定で、現在のところ、数十名の職員が配置されているだけであるが、新開発体制を確立する胎動期にあるといえよう。西独の行政は連邦政府と州政府とによって行われているが、原子燃料の生産、加工、利用、輸入、輸出およびアイソトープの利用に関しての全面的規制等は、連邦専管立法事項として、これに関する行政事務も、大部分原子力省が行い、各州政府の権限は、連邦政府の委任を受けた行政事務または州内の研究施設、その他研究の促進等について若干の行政事務を行うのに限られるものとみられる。
 従来からの行政機関としては、エックス線または放射性物質の利用または生産に関し、工業関係省および労働省が担当官庁となっているようである。関係法令としては、「原子力法(案)」、「工「工業法」「西独医療用レントゲン障害防止規則」、「非医療機関におけるエックス線および放射性物質の有害な影響からの保護に関する命令(1941年)」がある。
 「原子力法案」は、「核エネルギーの生産と利用およびその危険に対する保護に関する法律案」とも呼ばれ、「自由な核エネルギーの研究と平和的利用の発展を可能とし、かつ、これを促進する」こと等と同時に「生命、健康および物財を核エネルギーの危険から保護するとともに、連邦共和国の内外の安全が核エネルギーの使用によって、害われることを防止する」ことをその目的とするものであって、プラス面の原子力の平和利用とマイナス面の障害防止との両面にわたり包括的な規制を行っている単行法である。この法案は、本年(1957年)2月22日、政府提出法案として国会に上程され、目下原子力問題委員会において審議中である。

(2)規制の態様

 「原子力法案」においては、放射線障害の防止のため必要な規定を命令に委任し、命令に規定すべき事項として、放射性物質の取得、生産、輸入、引渡、運送、使用、廃棄その他の取扱は、認可または届出とすること、認可は専門的知識を有する一定の人員が取扱を監督し、指揮し、従業員が取扱上必要な知識を有し、および必要な装備を有するときにのみ与えること。認可の条件、取扱に際しての生命、健康、物財についての保護措置、立入検査等の国の監督、放射性物質の無認可使用または危険な取扱を行っているときの放射性物質の国家移管、放射性廃棄物の取扱者の費用負担による指定場所への引渡し等を定めている。
 また、責任保険の締結に関する規定を設け、放射性物質の取扱者およびその従業員は、放射性物質の取扱にともなう損害賠償義務の履行を担保するため、責任保険を締結する義務を課せられている。
 事故による補償規定も設けられ、放射性物質の放射能により人を死傷させ、または物を毀損した場合は、賠償責任を負わなければならない。
 放射性物質の濫用については、厳重な罰則の通用がある。すなわち、他人の健康をそこなう意図をもって、放射性物質により、その身体または生命に危険を生ぜしめるにとを企てた者は、10年未満の重懲役に、また不特定多数の人の危険を生ぜしめることを企てた者は、5年以上の重懲役にそれぞれ処せられ、その犯罪に用いた放射性物質は没収される。以上の準備行為もまた処罰される。このような刑法的規定が原子力法の体系に設けられていることは、他国の関係法令に見受けられず、本法案の一つの特色といえよう。
 「工業法」は、1952年にその一部改正が行われ、エックス線または放射性物質の生産または利用についての認可、立入検査等の規定が追加された。
 「非医療機関におけるエックス線および放射性物質の影響の防護に関する命令」は、エックス線または放射性物質が原料または製品の検査、試験等に使用されるすべての作業に適用され、工業監督官に対する照射装置の使用前申告、照射装置の据付および操作に関する規則等への適合義務、容器の検定、未検査放射線装置の使用禁止、国立労働保護局による教育訓練未了者の従業禁止、労働時間の制限、一定年令以下の者の採用の禁止、年次休暇、雇用前の国の指定医による健康診断合格者以外の雇用制限、従業者の健康診断、従業者の健康管理等のための登録簿の作成義務等について詳細に規定している。
 これら工業法等の現行法令と原子力法案との関係については、現在のところ不明であるが、必要な調整が行われるものと推定される。

4.東  独

(1)関係行政機関および法令

 関係行政機関としては、中央に保健省およびその諮問機関として中央放射線防護委員会が、地方には地方会議およびその諮問機関として地方放射線防護委員会が、それぞれ置かれている。
 法令には、「エックス線および放射性物質による治療に際してとらるべき措置に関する命令(1954年)」および「医療用、歯科用および獣医用エックス線の利用に関する労働規則(1954年)」があるのみで、エックス線および放射性物質の医療面での利用に関し、規制が行われているにとどまる。

(2)規制の態様

 前記の命令においては、大学、治療所等一定の場所以外での放射性物質の使用の禁止、専 門家による施設の常時測定、エックス線、ラジウムおよび放射性物質を診療に使用する場合の医師の責任、診療記録の一定期間(30年)保存、放射線障害者を診断したときの医師の地方会議への届出義務等を規定している。
 労働規則については説明を略する。

5. フ ラ ン ス

(1)関係行政機関および法令

 公衆保健および人口省が、各省連絡委員会の意見を徴して放射性物質の管理行政を担当している。

 法令としては、「公衆保健法」、「同施行令(1954年)」、「エックス線および天然または人工の放射性物質による障害に関する法律(1946年)」および「同施行令(1950年)」がある。

(2)規制の態様

 「公衆保健法施行令」においては、放射性物質の加工、輸出および生物学的もしくは治療用の放射性物質の供給について公衆保健および人口大臣の認可を要することとし、検査等の規定を設けている。

 その他の法令、特に「エックス線および天然または人工の放射性物質による障害に関する法律」は重要な法律とみられるが、現在のところ、資料がないので、今回は説明を省略する。

6. カ ナ ダ

(1)関係行政機関および法令

 「原子力管理法」にもとづき設置された原子力管理委員会が原子力の開発利用等とともに障害防止関係の行政を担当している。
 法令としては、「原子力管理法(1946年)」、「カナダ原子力規則(1949年)」、「放射性物質の輸送に関する命令(1948年)」、「輸出許可を要する放射性物質を定める規則(1949年)」および「国際配給のための放射性物質の取得手続を定める規則(1949年)」がある。

(2)規制の態様

 「原子力管理法」は、カナダの原子力基本法で、その具体的細目についての規制を原子力管理委員会の定める「カナダ原子力規則」に委ねている。
 同規則は、ウラン、トリウム、プルトニウム、デュテリウム、原子番号が92以上の元素、放射性同位元素およびこれらの元素もしくは放射性同位元素を含有する物質を「指定物質」とし、また原子力の生産、利用、応用に使用される指定物質以外の動産および不動産を「指定設備」とし、これらの指定物質または指定設備の生産、占有、輸入、輸出、購入、販売、賃貸、賃借、交換、取得、貯蔵、供給、操作、輸送、製造、消費および使用については委員会の認可を、また、特定の指定物質および指定設備の輸入および輸出については当分の間許可を必要とし、これらの取扱者に対しては人および物に対する障害予防措置、記録保存、提供等の義務を課している。
 国の行政監督は厳重に行われる。すなわち、指定物質等の取扱施設の査察、人および財産の保護または原子力に関する情報の漏洩の防止のため特に警戒が必要と認めた地域の保護地域としての指定および保護地域への立入制限等が規定されている。
 放射性物質の輸送に関する規制は、爆発物、高圧ガス等の危険物と同一規制により行われており、その運搬に関する技術上の基準が定められている。

7. オーストラリア

(1)関係行政機関および法令

  原子力法にもとづき、供給相の下に原子力委員会が置かれ、ウラン、トリウム等の法定 物質の研究、生産、販売、処分の一切はその権限に属しているが、障害防止関係行政は州政府において行われているようである。オーストラリアは4州に区分され、そのうちタスマニア州ほか2州が法令を有している。
 法令としては、タスマニア州の「放射性物質等の使用の規制に関する法律(1954年)」、西オーストラリア州の「放射性物質等から生ずる危険に関する法律(1955年)」およびヴィクトリア州の「放射性塗料工場における貯蔵」、混合等に関する規則(1944年)」がある。

(2)規制の態様

 タスマニア州法は、医師および歯科医師が診療用に照射装置を使用する場合を除き、放射性物質および照射装置の所有の免許制、免許の取消および訴願について規定し、放射性物質の販売、購入もしくは供給の許可、放射性物質の安全貯蔵、使用、運搬もしくは処理に際しての遵守事項、従業員の健康診断および障害防護措置および放射性廃棄物の安全処理については、州総督の制定する規則に委任している。
 西オ−スーラリア州法は、おおむねタスマニア州法と同じである。ヴィクトリア州法は、英国の「発光材料関係工場の特別規則」と同様な規制である。

8.南阿連邦

(1)関係行政機関および法令

 原子力委員会の権限委任を受けて、科学工業研究会議が医療用放射性物質の規制にあたっている。
 法令としては、「原子力法(1948年)」、「医療用放射性物質に関する規則 (1956年)」等がある。

(2)規制の態様

 「原子力法」においては、「原子力委員会により認められた医師以外の放射性物質の使用の禁止およびこの面に関する原子力委員会の権限の科学研究会議への委任を規定している。
 「医療用放射性物質に関する規則」は、規制対象としての放射性物質を50マイクロキュリー以上のものまたは半減期が30日を超えるものとそれ以下のものとに区分し、同じく認可制をとってはいるが、それぞれ規制に段階を設けている。すなわち、前者については、有資格専門家によって構成される放射性物質管理委員会の設置、放射性物質取扱施設の基準適合義務、従業員への線量計の供給、一定事項の定期的報告義務を規定しているが、後者については、前記管理委員会の設置を認可の要件から除外している。

9. ニュージーランド

(1)関係行政機関および法令

 保健省が、放射性物質等の免許の権限を有しており、同省の諮問機関として、放射線科学諮問会議が設置されている。
 法令はかなり整備されており、「放射性物質法(1949年)」、「放射線防御規則(1949年)」、「放射性物質の運搬に関する規則(1951年)」および「放射性物質の訴願に関する規則(1954年)」がある。

(2)規制の態様

 「放射性物質法」は、放射性物質および照射装置を規制対象とし、放射性物質については、その生産、製造、購入、取得、貯蔵、輸送、使用および処理に関する権限の保健大臣への付与、製造、生産、販売、輸入および輸出の事前承認、使用の免許、医師もしくはその指示の下に作業する者以外の者による人体使用の禁止、照射装置については、被免許者以外の者への販売の制限、販売者の国に対する報告義務、被免許者以外の者による使用の制限について規定している。その他免許、訴願、立入検査、総督に対する権限委任についても規定されている。なお、免許には、放射線診断医または放射線治療医に対して交付される一般免許、一定の特殊知識を有すると保健大臣が認めた医師その他一定の者に対して交付される診断用免許、治療用免許および歯科診断用免許、ならびに産業用、実験用等免許の種類がある。
 「放射線防護規則」は、放射性物質法の委任規定にもとづいて総督が制定した規則で、従業者の就業前の健康診断、保健長官の健康診断実施命令、異常者の就業禁止、健康診断等の結果の記録、保存等の健康管理、施設の構造、設備の一定基準適合義務、認可された呼吸保護具の使用および被免許者の点検義務、最大許容線量を超える放射線被曝の禁止、従業者の定期的放射線量の測定、防護材料および安全操作について詳細な規定を設けている。
 「放射性物質の運搬に関する規則」は、鉄道、船舶、航空機等による輸送時の一定基準に合致した梱包、密封および表示の義務ならびに放射性物質の郵送の禁止を規定している。

10.スエーデン

(1)関係行政機関および法令

 中央においては王立医務庁、地方においては州が担当官であり、王立医務庁による実質的な行政監督は、同庁の監督と指導の下に放射線物理学研究所によってなされている。また同研究所は許可の申請その他に関し王立医務庁に対し勧告権を有している。法令としては、「放射線等関係業務の監督に関する法律(1941年)」、「健康診断証明書の発行に関する命令」等がある。

(2)規制の態様

 5,000ボルト以上のエックス線の取扱、または王立医務庁の定める量以上の放射性物質の使用を含む取扱および所持の許可、王立医務庁の定める障害防止と規則に対する被許可者の遵守義務、取扱場所の変更等一定の場合における届出義務、立入検査、作業の停止、許可の取消等の行政監督、障害者が発生した場合の被許可者の報告義務、関係行政機関(商務省)との協議、放射線障害になるおそれのある者の就業禁止、従業者に対する定期的健康診断の実施義務等を規定している。

11.オ ラ ン ダ

(1)関係行政機関および法令

 主務官庁は不明である。法令は、「エックス線装置および放射性物質の取扱の規制に関する法律(1931年)」および「同法施行令(1933年)」がある。

(2)規制の態様

 「エックス線装置および放射性物質の取扱の規制に関する法律」においては、エックス線装置の使用および放射性物質の所有の免許、放射線を医療用、獣医用または科学技術用以外の用途に使用することの禁止、免許の資格要件、訴願、立入検査、細目の命令委任等を規定している。なお、この法律は、労働安全法が適用される工業的企業については、同法に規定がある場合はその限りにおいて適用されない。
 「同法施行令」により、6,000ボルト以下のボルトで操作され、または500ワット以下の強さの放射線を発するエックス線装置および0.1ミリグラム以下の量の放射性物質については、その取扱に免許を必要としないものとされている。 同令には、その他作業場での安全措置、放射線防護等に関する細目規定がある。

12.デンマーク

(1)関係行政機関および法令

 内政住宅省、 保健省および労働社会省が放射線に関する監督行政を共管している。
 法令としては、「放射線等の利用に関する法律(1930年)」、「エックス線工場の施設および作業に関する規則(1938年)」および「放射性物質の使用等に関する法律(1953年)」および「放射性物質法の適用除外に関する命令(1953年)」がある。

(2)規制の態様

 「放射線等の利用に関する法律」は、保健省等関係行政機関の権限を定め」、細目を規制に委任しており、同規則は「放射線施設の保健大臣による認可、放射線施設管理責任者の設置義務、放射線施設の技術基準、放射線防護措置、作業管理等を規定している。
 また、「放射性物質の使用等に関する法律」は、放射性物質の製造、輸入または所有の保健大臣の免許、放射性物質の輸入、生産、使用、貯蔵、運搬、処理等にともなう障害予防措置に関する内政住宅相の規則制定権および同規則の実施に関する保健省および労働省(工場監査関係のみ)の監督行政権および内政住宅用の放射性物質の医学的利用に関する細目規定制定権を定めている。
 以上のように、デンマークにおいては、法律によって放射線障害防止関係行政機関の権限を規定し、実体規定は命令、規則等に委ねている。
 「放射性物質法の適用除外に関する命令」においては、免許を必要としない放射性物質、大学附属研究機関、高等教育機関その他一定の科学研究機関に対する放射性物質の輸入、所有または生産についての恒久許可、放射性薬品の病院による無免許所有、放射性物質を含む時計およびポケットコンパスの所有および輸入の無免許等が規定されている。

13.その他諸国

(1)ブラジル
 「エックス線または放射性物質による障害防止に関する法律」および「同法施行規則(1951年)」がある。

(2)キューバ
 「放射線等による治療における防護に関する政令(1949年)」がある。

(3)モロッコ
 「放射性元素に固有な危険およびそれに対する予防措置に関し発される告示の条件を定めうる労働社会相の命令(1951年)」がある。

(4)ヴェトナム
 「放射線治療室、ラジウム治療室等の勤務職員の非就業期間を定める政令(1955年)」がある。

(5)オーストリア
 「医療施設におけるエックス線の使用にともなう事故の防止に関する規則(1940年)」、「危険業務従事者の健康保護に関する政令(1952年)」および「非医療施設におけるエックス線および放射性物質による障害の保護に関する政令」がある。

(6)ポーランド
 「工業用放射線研究所における労働衛生および安全に関する社会労働省および保健省の共同省令(1952年)」および「ラジウムを使用する病院等における労働衛生および安全に関する社会労働省および保健省の共同省令(1953年)」がある。

(7)ベルギー
 「労働保護規則 (1946年)」があり、産業または医療面における放射線の利用にともなう従業者に対する放射線障害の防止に関し、健康診断等を規定している。