ユネスコ主催放射性同位元素国際会議提出論文について

 1955年ジュネーヴにおいて開催された第1回国際原子力平和利用会議の席上、放射性同位元素に関する多数の論文が発表され、放射性同位元素の利用に関する分野に多大の貢献をなしたことはまだ関係者の記憶に新しいところであるが、その後上記国際原子力会議のうちから放射性同位元素部門を分離して別途に開催する気運が一部に生じ、1956年秋のニュー・デリーにおける第9回ユネスコ総会でこの問題が論議された結果、ユネスコ主催のもとに1957年に放射性同位元素国際会議を開催することとなった。
 このため、本年1月第1回の準備委員会がパリにおいて開催され、ユネスコ加盟国のうち、アメリカ、フランス、ブラジル、日本、チェコスロヴァキア、インド、ソヴィエトおよびイギリスの8ヵ国からそれぞれの代表が、またWHO、FAO、WMO、CERNおよびISOからオブザーバ−が、それぞれ出席して会議の開催要領等について討議し、次のごとき開催計画を決定した。

   放射性同位元素国際会議開催計画概要

1. 主  催 ユネスコ  

2. 開催期日 昭和32年9月9日〜20日

3. 開催場所 パリ

4. 出 席 者

(1)加盟国政府代表 
(2)個人(政府の同意を要する)
(3)国連および専門機関代表
(4)科学関係国際機関代表

5.提出論文

(1)表題ならびにアブストラクト(英または仏語250語)の提出(5月1日まで)
(2)アブストラクトの第1次審査(5月中)
(3)採用アブストラクト(英、仏、露、西に翻訳)各国に配布
(4)採用アブストラクトの全文(英または仏語5,000語)の提出(7月1日まで)
(5)論文最終審査、事務局構成(7月中)
(6)採用論文(英、仏語に翻訳)最終プログラムとともに各国へ配布

6.会議の構成ならびに議題案

(1)総 会

1)測定技術における新開発
2)RI(放射性同位元素)生産における重要開発

(2)第1部会(物理部門)

1)固体物理への応用
2)物理研究への応用
3)物理化学研究への応用
4)分析化学研究への応用
5)有機化学研究への応用
6)考古学、地質学、地球物理学(年代決定、気象学、海洋学等を含む)への応用
7)冶金学研究への応用
8)工業研究方法への応用

(3)第2部会(生物部門)

1) 生化学研究(植物生化学、光合成を含む)への応用
2) 動物、人体生理学研究への応用
3) 動物、人体栄養研究への応用
4) 基礎医学、薬学研究への応用
5) 植物生理研究への応用
6) 農業研究(植物栄養、地力、殺虫剤、殺菌剤等を含む)への応用
7) 動物学、生態学研究(昆虫学、海水および淡水生物学を含む)への応用

 なお、この委員会にはわが国から科学研究所所員浜国達二氏が出席し、その討議に参加した。
 その後外務省を通じ、ユネスコ事務局から正式連絡があったので、外務省、文部省、日本学術会議、ユネスコ国内委員会等関係各機関と協議した結果、提出論文に関しては、藤岡原子力委員会委員を中心として、次の諸氏がその選考にあたることとなった。

 宗宮 尚行  名古屋大学教授
 木村健二郎  日大原子力研究所理事
 田宮  博   東京大学教授
 山崎 文男  科学研究所主任研究員
 吉川 春寿  東京大学教授
 三井 進午  東京大学教授
 三宅 泰雄  気象研究所
 橋本清之助  日本原子力産業会議(常任理事、事務局長)
 瀬藤 象二  同上(理事、東芝専務)
 正井 省三  同上(住友化学専務)
 浜田 秀則  同上(日立製作所中研研究部長)

 よって、これら諸氏により前後2回にわたり論文内容の検討が行われ、さらに4月18日開催の第15回定例原子力委員会において委員会の了承を得て、下記18篇の提出論文の決定をみた。
 なおこれら論文は外務省を通じてユネスコ事務局へ提出済であるが、その審査の結果は6月中に連絡がある予定である。

提 出 論 文 課 題

放射性物質による金属内拡散

広根徳太郎(東北大・金研)

金属亜鉛と亜鉛イオン溶液との間の同位元素交換反応 

松浦 二郎(東大・教養)

銀およびニオブの中性子放射化分析 

木村健二郎他(原  研)

C14トレーサーによるマイクロ反応の機構の研究 

島村 修他(東 大・理)

β線後方散乱による古文化財の調査 

朝比奈 貞一他(科学博物館)

日本の湖沼における底水層および湖底土壌間隙水中の沃素の集積と特に関連ある含水金属酸化物による沃素イオンの共沈

菅原 健他(名 大・理)

C14を用いる海用生産力および海洋中におけるCaCoの溶解積の研究

三宅 泰雄 (気 象 研)

鋼塊中の非金属介在物の成因に関する研究

斎藤 恒三(東北大・工)

ラジオアイソトープによる溶解炉および作業炉中のガラスの流れの研究

安部 俊夫他(東 芝マツダ研)


ラジオアイソトープを用いた化学工場の製造工程解析に関する研究

斎藤 辰雄他(昭和電工)

放射性同位元素標識法によるアルカロイド生合成機構の研究

柴田 承二他(東 大・医)

 

光合成の機作に対する二三毒物の影響について(C14をトレーサーとする”前照射法”による研究)

田宮 博他(東 大・農 徳川生研)

P32を利用する網膜の感光機構の研究

本城市次郎他(阪 大・理)


放射性鉄による鉄代謝の研究

中尾 喜久他(東 大・医)

P32標識菌による結核の経気道感染に関する実験的研究

山村 雄一他(刀根山病院)

肥料評価に対するラジオアイソトープの利用に関する最近の研究―C14標識尿素の経根的吸収と利用ならびに諸種化成肥料中のP32の行動について

三井 進午(東 大・農)

鶏におけるカルシウムの代謝

野崎 博(農技研)

P32によるイネの突然変異

真島 勇雄(農技研)