放射線医学総合研究所の設立経過

 放射性同位元素は昭和25年に初めて輸入され、当時は主として大学、研究所等の学者等によって使用されたが、同時に放射線障害の問題もとり上げられた。
 昭和29年ビキニの原水爆実験と第五福竜丸の被災等が社会問題となるに及び、昭和30年1月11日、日本学術会議長から内閣総理大臣あて「国立放射線基礎医学研究所の設置について」の申入れがあり、政府においては科学技術行政協議会に国立放射線基礎医学研究所の設立に関する専門部会を設置して検討した結果、文部省所管のもとに国立放射線基礎医学研究所を早急に設置することが必要なことおよび厚生省に国立線放射線衛生研究所を設置する必要があるという結論に達した。
 したがってその後文部省、厚生省でそれぞれ国立放射線基礎医学研究所および国立放射線衛生研究所の設立準備が進められたが、昭和31年2月3日、閣議でこれをとり上げ、この種の研究所の設置については、両者を合わせて国立放射線医学総合研究所として科学技術庁に設置することが決定された。
 このため、科学技術庁ではこの設立計画に当り日本学術会議の意見を聞くため、昭和31年2月27日付で原子力委員長から内閣官房長官あてに同研究所の設立について諮問を行い、この答申にもとづいて昭和31年度中に計画を樹立し、その予算的措置を行った。
 その設立の全体計画および初年度(昭和32年度)計画の概要は次のとおりである。

  設立の全体計画

1.昭和32年度からおおむね3ヵ年計画をもって施設を整備し、設立場所は茨城県那珂郡東海村を予定する。

2.東海村を予定した場合の敷地は61,000坪とし、完成時の建坪は7,722坪、施設設備に要する総経費は約17億円とする。

3.研究所の完成時の組織は、15部(6課24研究室)および附属病院からなり、総人員は約400名とする。

4.附属病院は最終年次とする。

  初年度計画

1.人員は初年度定員40名として昭和32年7月1日に発足する。

2.本年度の予算は次のとおりである。

       歳 出  債務負担行為    計

        千円     千円     千円 

人 件 費   12,579       0    12,579

庁   費   48,795   39,050    87,845

施 設 費   82,197  408,517   490,714

  計     143,571   447,567   591,138

3.初年度の組織は、管理部(庶務課、企画課、管理課)および物理、化学、生物、障害基礎、環境衛生の各研究部計6部を設ける予定である。

4.研究所の施設であるが本年度は、研究所の施設3,350坪、宿舎818坪(役60人)およびその他の附帯施設に着工する。そのうち管理棟(600坪)、研究棟の半分(700坪)、アイソトープ実験室の一部(100坪)、その他若干のものを初年度内にその大半を完成する。

5.初年度の運営方針は、施設の整備と放射線管理に関する研究および放射能による環境汚染の調査研究に重点をおくものとする。

 なお、研究者については、施設が整備されるまで国立研究機関に配属し、その研究を行うようにする考えである。
 以上の諸準備にともない、放射線医学総合研究所の設立のため、科学技術庁設置法の一部を改正する法律の一部改正を必要とするので、この改正案を作成して2月21日次官会議に諮り、翌22日に閣議に提出して了承を求め、3月4日国会に提案された。国会に提案された提案理由を参考のため別記掲載する。
 なお、科学技術庁設置法の一部を改正する法律(案)の内容は、原子力局の事務として「放射線医学総合研究所に関すること」を規定したこと、放射線医学総合研究所に科学研究官をおくこと、放射線医学総合研究所を科学技術庁の附属機関とすること、放射線医学総合研究所の業務を規定したこと、以上のほか放射線医学研究所の必要な事項は、政令で定めることができるように規定した点である。

   科学技術庁設置法の一部を改正する法律案の提案理由説明

 ただ今議題となりました科学技術庁設置法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
 原子力の平和利用は、ここ2、3年の間に急速な進展を見つつあり、近く日本原子力研究所においてわが国最大の原子炉が運転を開始し、来年は引きつづき第2号炉が設置されんとしておる状況にあります。他方アイソトープについてもその研究と利用とは、急速な発展を遂げ官民の多数の試験研究機関、事業所等において広範に使用され、わが国の産業面、医療面、その他において多大の成果が期待されておる次第であります。
 しかしながら、これら原子力の利用には、一面ややもすれば放射線の障害というマイナス面をともなうので今後原子力の開発の進むにしたがい、厳重な放射線管理と放射線の障害防止措置を講ずるとともに、放射線による障害の診断、治療等医学的調査研究の急速なる確立を図ることの必要性が痛感される次第であります。したがって政府としては、別途原子炉等の規制に関する法律案(仮称)および放射性同位元素等の放射線による障害の防止に関する法律案(仮称)を今国会に提出することとし、目下これが準備を急いでおりますが、これとともに、放射線医学に関する総合的調査研究等を行うため、科学技術庁の附属機関として、放射線医学総合研究所を設置することとしたのであります。もともとこのような研究所の設立については、従来、日本学術会議等の要望もありましたので、本案の決定までには、科学技術庁および原子力委員会において日本学術会議をはじめ学界、業界における学識経験者の意見を微し、慎重にその計画について検討を行ったものであります。
 放射線医学総合研究所はその所掌業務として放射線による人体の障害ならびにその予防、診断および治療に関する調査研究を行うことはもちろんでありますが、あわせて放射線医学的利用ならびに放射線による障害防止、および医学的利用に関係する技術者の養成訓練を行うこととしております。
 なお本研究所は3ヵ年計画をもって茨城県東海村の国有地に新設いたしたい考えでありますが、用地取得の手続等の関係上最終的結論にいたっておりませんので、とりあえず設置場所は政令をもって定めることにいたし、結論を得ますれば、改めて国会の承認を仰ぐことにいたしたい考えであります。
 以上が科学技術庁設置法の一部を改正する法律案の趣旨でございます。
 何とぞ慎重御審議の上御賛成あらんことをお願いいたします。