原子力委員会

放射性同位元素等による放射線障害の
防止に関する法律案について


 わが国における放射性同位元素については、昭和25年初めてわが国に輪入されて以来、その研究と利用は急速な発展を逐げ、現在では官公立の試験研究機関はもちろん民間の事業所等においても広く使用され、原子力平和利用の一環として産業、医療その他の面において多大の成果が期待されている。
 しかしながら、これらの原子力の平和利用は、反面ややもすれば放射線障害というマイナス面をともなうので、今後原子力の開発が進むに従い放射線障害の防止に万全を期することの必要性か痛感される。米英等の諸外国においても、すでに「放射線障害防止関係法令を制定整備して厳重な放射線の管理を行い、放射線障害の防止に多大の力を注いでおり、わが国でも原子力基本法において放射線障害防止のための規制は別に法律で定める旨規定している。
 したがって政府としては放射線障害対策として、まずその予防、診断、治療の調査研究、放射線の医学面おける積極的利用の調査研究、関係技術者の養成訓練を行うため、科学技術庁の附属機関として放射線医学総合研究所を設置することとし、さきに科学技術庁設置法の一部を改正する法律案として、今国会に提案し、目下国会において審議中であり、またこれに必要な予算も計上されているが、これとともに放射線障害防止についての立法措置を講ずるため、数年にわたって鋭意検討を重ねた結果成案を得て法案を今国会に提案する運びとなった。
 なお、原子炉等にもとづく放射線障害の防止立法としては、別途原子炉等に関する規制に関する法律案(仮称)を立案中であり、近日中にこれまた今国会に提案することとなっている。
 以下本法律案の内容の概要について、重点的に説明することとする。

1.目   的
 この法律案は、原子力基本法の精神にのっとり、放射性同位元素の使用、販売その他の取扱ならびに放射性同位元素装備機器または放射線発生装置の使用を規制することにより、これらによる放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを目的とする。

2.規制の方法
(1)放射性同位元素等の使用、販売について許可制の採用。放射性同位元素、放射性同位元素装備機器または放射線発生装置の使用または放射性同位元素の販売の業については、これらの取扱にともなう放射線障害発生の危険性を強く認識するとともに、多くの国々が許可制あるいは免許制を採用している例にもかんがみ、科学技術庁長官の許可を必要とすることとし、使用施設等の構造、設備等が一定の基準に該当する場合にのみ許可を与えることとしている。
(2)放射性同位元素等の使用および放射性同位元素の販売業者に対し、放射線障害の防止上必要な義務を課したこと。すなわち放射性同位元素の使用、詰替、保管、運搬および廃棄は、一定の基準に適合してなされることを要し、また使用施設等についての放射線量の測定、障害予防規定の作成、従業者等に対する放射線障害の発生防止上必要な教育訓練の実施、放射線障害者の発見および放射線障害者に対する措置等保安および保健上必要な措置を講ずること等である。
(3)放射性同位元素の所持ならびに譲渡および譲受の制限。放射性同位元素が使用者等一定の取扱者以外の者に流通することを禁止することによって不測の事故が発生することを未然に防止することが必要であると考え、これらの規定を設けたものである。
(4) 放射線取扱主任者の制度の設置。放射性同位元素等の使用者および放射性同位元素の販売業者は、国が行う放射線取扱主任者試験に合格した者その他これと同等以上の学識経験を有すると認められた者のうちから放射線取扱主任者を選任し、放射線障害の発生の防止について必要な監督を行わせなければならないこととした。

3.国の行政的監督
 地震、火災その他の事故により放射線障害が発生するおそれが生じた場合等に、放射性同位元素等の使用者、放射性同位元素の販売業者等に一定の応急の措置をとらせるとともに、これらの者に対し、国が必要な命令を発することができる旨の規定を設けた。
 また必要に応じ、立入検査、放射性同位元素によって汚染された物の収去等を行わせるため、特に専門的知識を有する放射線検査官の制度を設けることとした。

4.放射線審議会の設置
 科学技術庁長官の諮問に応じて放射線障害の防止に関する重要事項について審議する機関として放射線審議会を設けることとしている。本審議会の委員は関係行政機関の職員および放射線障害の防止に関し学識経験のある者のうちから任命することとなっており、本審議会を通じて、関係方面と緊急な連繋をとるとともに、技術上の問題その他本法の運営に万全を期することとした。