昭和30年度原子力平和利用研究の紹介

 昭和30年度原子力平和利用研究委託費により民間に委託した研究のうち、今回はその第5回として日産化学工業株式会社の契施した「燐鉱石よりウランの抽出に関する中間試験」(委託金額15,243千円)と旭化成工業株式会社の実施した「回収電解法による重水の高濃度濃縮の研究」(委託金額11,465千円)との2件を紹介する。

燐鉱石よりウランの抽出に関する中間試験

 昭和30年度原子力平和利用研究委託費により「燐鉱石よりウランの抽出に関する中間試験」が日産化学工業株式会社に委託され、本年9月をもって終了したので、その研究結果の概要を紹介する。

研究の目的

 現在の燐酸肥料工業を利用し、合理的に燐酸液からウランを抽出する方法を検討した。

基礎研究の概要

(イ)燐鉱石および燐酸肥料中のウラン含有量
 わが国に輸入される燐鉱石の量は年間約150万トンであり、その銘柄はフロリダ、コシア、モロッコ、マカチア等である。ウラン含有量は銘柄によりことなるが第1表に示すように0.005ないし0.017%であって、フロリダ68、ヨルダン、モロッコ等に比較的多く含有されている。

第1表  燐鉱石中のウラン含有量

 燐鉱石を硫酸で分解して製造される燐酸液および過燐酸石灰中のウラン含有量は、製造に使用する燐鉱石の銘柄によりことなるが、一例を挙げると第2表のようである。

第2表 燐酸液および過燐酸石灰中のウラン含有量等

(ロ)燐鉱石の硫酸分解によるウラン溶出率
燐鉱石中においてウランはCa++をUO2++が置換して存在すると考えられる。ゆえに、燐鉱石を硫酸で分解するとき、燐酸(P2O5)の溶出率とウラン(U3O8)の溶出率とはほぼ比例するものと思われる。

 第3表はいろいろの量の硫酸で燐鉱石を分解したときのP2O5とU3O8との溶出率を示したものである。

第3表  憐鉱石を硫酸分解したときの P2O5 とU3O8との溶出率

 すなわち、次の反応式により燐鉱石を燐酸生成に当量な硫酸で分解するとき、ウランはほとんど燐酸液中に溶解してくることが明らかである。

 3〔Ca3(PO42・1/3CaF2〕+10H2SO4+20H2O=6H3PO4+10〔CaSO4・2H2O〕+2HF

(ハ)燐酸液から沈澱法によるウランの抽出
 燐酸中のウランは6価として存在するが、その分離方法としては溶剤抽出法、イオン交換法、沈澱分離法が考えられる。

 本研究においては燐酸の組成、濃度の変更をきたさないことを目標とし一応沈澱分離法の検討を行った。

 P2O520〜30%を含有する燐酸液からのウランの沈澱剤としていろいろのものを比較したが、その結果4価ウランに対するクフェロン(Ammonium salt of N-nitroso-N-phenyl-hydroxylamine)が適当であることを知った。

 燐酸液中には不純物として鉄、チタン、ヴァナジウム等を含有しており、クフェロンはこれらのイオンとも反応して沈澱を生ずるので、あらかじめこれらの妨害イオン特に鉄イオンをできるだけ除去しておくことが必要である。燐酸液中のウランをクフェロンにより沈澱分離するには次の工程にしたがって実施する。すなわち、まず結晶芒硝を加えて弗素を珪弗化ソーダとして分離し、次に黄血ソーダ溶液を加えて鉄を黄血鉄として除去する。しかる後、アルミニウム粉を添加し、6価ウランを4価ウランに還元し、ついで、10℃以下に冷却して10%クフェロン溶液を添加してウランを沈澱せしめる。

反応条件について検討した結果、各工程の最適条件は第4表のようである。

第4表    各工程の最適条件

なお黄血ソーダおよびクフェロンはそれぞれ沈澱から回収して使用することができる。次にフロリダ68から製造したP2O527.5%の燐酸液を原料として上記最適条件にもとづいて実施した操業の一例を第5表に表わす。

焼成酸化物は鉄、チタン、珪素、ウラン等の酸化物から成り、ウラン含有量はU3O811.26%である。

第5表   最適条件における操業の一例


中間工業化試験

基礎研究の結果決定した第5表の方法にもとづき、燐鉱石を硫酸処理して得られた燐酸液1,000kgを処理単位として第6表に示すフローシートにより中間工業化試験を実施した。

 その概要は次のごとくである。

(イ)原料燐酸液
 原料燐酸液の組成ならびにウラン含有量は第7表のごとくである。

第6表    中間工業化試験フローシート


第7表      原料燐酸液の組成ならびにウラン含有量

(ロ)脱弗工程

 脱弗槽に23%燐酸液1,000kgを仕込み、攪拌しながら理論量の結晶芒硝30kgを投入し反応温度15〜25℃に維持して2.5時間後反応生成物を真空ろ過機によりろ別して粗珪弗化ソーダ結晶25kg、脱弗燐酸液(P2O522%)985kgを得る。

 燐酸液は硬鉛ポンプにより脱鉄槽に輸送する。試験結果は次のとおりである。

 条  件

  反応温度

  15〜25℃
  反応時間   2.0〜2.5hr
  ろ過時間   1.0hr
  芒硝所要量   理論量

 結  果

  脱 弗 率

  90%
  燐酸損失   0.5%
  燐酸液濃度   P2O526.0%
  脱弗燐酸液
25.5%

 粗ウランマッドの純度を高める上に、また各装置の腐蝕を防止する見地から、弗素を除くことは必要である。上表の結果から燐鉱石の銘柄別による燐酸液中の弗素含有量には多少の差はあるが、脱弗率は平均90%以上で、差異は認められない。

 燐酸液の濃度差(P2O520〜27%)および珪弗化ソーダの純度についてもその差異はなかった。

 すなわち、芒硝の理論量を使用すれば脱弗反応は定量的に行われる。

(ハ)脱鉄工程

 脱鉄槽の燐酸液に黄血ソーダ90kg(理論量の2%過剰)、セライト10kg(燐酸液量の1%)を投入攪拌し反応温度45℃に維持し、2時間後反応生成物をプランヂャーポンプによりフィルタープレスに圧送し、黄血鉄ケーキ140kg、脱鉄燐酸液(P2O520%)920kgを得る。

 ろ別後、フィルタープレスに洗浄水を送りケーキ中の燐酸分を洗い除く。得られた洗浄液(P2O510%)は140kgである。ろ液はすべて地下ピットに落され硬鉛ポンプにより、脱鉄液貯槽に輸送される。試験結果は次のとおりである。

 条  件
  反応温度   45℃

  反応時間

  2.0hr
  ろ過時間   4.0hr
  黄血ソーダ所要量   理論量×1.02

 結  果

  脱 鉄 率

  93%
  燐酸損失   8.0%
  脱弗液濃度   25.5%
  脱鉄液濃度   24.1%

 燐酸液中の鉄含有量に対し、黄血ソーダを理論量の2%過剰に使用すれば、脱鉄率は平均95%であり、この値は回収黄血ソーダを使用した場合にも同様であった。また脱鉄率についても脱弗率の場合と同様に、燐鉱石の銘柄別による差異はなかった。

 ろ過助剤としてのセライト軒使用量はケーキへの燐酸の附着損失を防止する上に少量の方が良い。また、セライトを使用しなくてもろ過操作は順調に行われ、かつケーキへの燐酸損失もすくなく、機械的損失も相当防止し得た。

(ニ)還元工程

 脱鉄液貯槽からスーピロンポンプで還元槽に送られた脱鉄燐酸液920kgを攪拌し、アルミニウム粉末4.5kg(理論量の50倍)を徐々に加え反応温度を30℃に抑え、3時間後遠心分離機でろ別してアルミニウム残渣8kg、還元燐酸液(P2O519%)920kgを得、燐酸液は硬鉛ポンプによりただちに沈澱槽に輸送される。アルミニウム残渣は廃棄する。

 試験結果は次に示すとおりである。

 条  件
  反 応 温 度   35℃以下
  反 応 時 間   2.5hr
  ろ 過 時 間   2.0hr
  金属アルミ粉末所要量   理論量×50

 結  果

  還 元 率

  85%
  燐酸損失   0%
  脱鉄液濃度   24.1%
  還元液濃度   23.8%

 還元反応の良否はウラン抽出率に影響をおよぼすが、この原因として脱鉄燐酸液の処理量、反応槽の型式、攪拌速度、反応温度、燐鉱石の銘柄別による鉄、チタン、クロム、ヴァナジウム、モリブデン等および有機物等の被還元性物質の含有量の多寡、脱鉄効果等が考えられる。

 上表から明らかなように、処理量1,000kgではアルミニウム粉末の所要量は理論量の50倍を使用すれば十分で、2〜3時間で反応は完結する。

 反応温度に関しては、ウラナス塩が熱溶液中では不安定で徐々に酸化されるので35℃以下で反応を行うことが必要である。

 燐酸液の損失の大部分はハンドリングロスであり、この工程における損失は直接ウランの抽出率に関係するので、十分操作に注意すればほとんど防止できよう。また、燐酸液の濃度の減少も見られなかった。

(ホ)沈澱工程

 沈澱槽内の還元燐酸液を攪拌し10%クフェロン50kg(理論量の2倍)を加え、ブラインにより反応温度を5〜10℃に維持し、1時間後沈澱生成物をただちにブライン冷却真空ろ過機でろ別して回収燐酸液(P2O518.5%)910kg、クフェロンウラン塩マッド15kgを得る。

 マッドは冷稀硫酸5%液で洗浄し燐酸分を除く。

 試験結果は次のとおりである。

 条  件
  反 応 温 度   5〜10℃
  反 応 時 間   1.0hr
  ろ 過 時 間   2.5hr
  沈澱剤所要量   理論量×2

 結  果

  沈 澱 率

  85%
  燐酸損失   1.0%
  還元液濃度   23.8%
  回収液濃度   22.5%

 沈澱反応は脱鉄および還元反応の結果によって変化するが、処理量1,000kgでは温度10℃以下で1時間で反応は完結した。

 クフェロンの使用量について、同一銘柄の燐鉱石から得られた燐酸液を原料とした場合は使用量の大なるほどウラン抽出率は増大した。すなわち、理論量の2倍では最高50%、3.5倍では70%、5倍では90%以上である。

 このことはウランを含めて共存する被還元性物質(たとえば、チタン、ヴァナジウム、クロム等)はクフェロンにより、同一割合に沈澱することを示しており、同一の量ではウラン抽出率は現在の燐鉱石の銘柄すなわちフロリダ77、フロリダ68、モロッコ、マカテア、コシア等中のチタン、ヴァナジウム、クロム等の差異によりことなる。

 同一銘柄における燐酸液の濃度差(P2O520〜27%)に対しては大差ないが、濃度の高いはどウランの含量も大で得畳も多かった。

(ヘ)クフェロン回収工程

 クフェロンウラン塩にアンモニアを加え粗ウラン水酸化物マッドと回収クフェロンを得る工程である。

 すなわち、クフェロンウラン塩マッドを加安槽に投入し、稀釈水25kgを加え攪拌しながらアンモニアガス3.Okg(液安として)を吹き込みブラインにより、冷却しながら分解温度10℃以下にして、2時間後磁製ヌッツェでろ別し、粗ウラン水酸化物マッド8.6kg、回収クフェロン溶液38kgを得る。

 試験結果は次のとおりである。

 条  件
  反応温度   5〜10℃
  反応時間   1.5hr
  ろ過時間   2.Ohr
  液安所要量   理論量×5

 結  果
  沈澱剤回収率   60%
  沈澱剤溶液濃度   3.0%

 加安反応はクフェロンウラン塩に附著している燐酸含有量およびクフェロン使用量と密接な関係を有し、その量的変化に応じ液安使用量および反応時間等も変化するが、上表から明らかなように液安は理論真の5倍使用すれば十分であり、反応時間も3時間以内である。

 クフェロンの回収率は平均30%であったが、これは保存状況を改善することにより、60%まで向上した。しかしながらクフェロンの高価なことから、少なくとも90%以上の回収率まで向上しなければとうてい採算という問題に達しないものと思われる。またクフェロンの回収液の濃度は溶解水の使用量に比例して変化するため、少量なほど良いが、上表からクフェロン量の5〜7倍で十分と考える。

(ト)黄血ソーダ回収工程

 (ハ)の工程により得られた黄血鉄ケーキから黄血ソーダを回収する工程である。

 すなわち、黄血鉄ケーキ140kgを黄血鉄塩処理槽に投入し水50kg、ソーダ灰20kgを加え攪拌しながら加熱して、反応温度70℃1時間後遠心分離機を用いてろ別し、黄血ソーダ溶液(Na4Fe(CN)67.5%)147kg、セライトケーキ35kgを得る。溶液はスーピロンポンプにより黄血ソーダ液貯槽に送りケーキは次の工程にはこばれる。試験結果は次のとおりである。

 条  件
  反 応 温 度   80℃
  反 応 時 間   1.0hr
  ろ 過 時 間   8.0hr
  ソーダ灰所要量   理論量×1.8


 結  果
  黄血ソーダ回収率   70%
  黄血ソーダ回収液濃度   10%(10水塩)

 本工程における操作の難易は粗黄血鉄ケーキ中の燐酸分含有量によって左右される。

 すなわち洗浄効果いかんによるものである。回収率の平均値は70%であった。

(チ)ウランおよび燐酸の収率

 本中間試験の結果から各工程におけるウランおよび燐酸のバランスを求めると次のとおりであり、ウラン抽出率は最高51%で、また、燐酸回収率は最高85%であった。

試験結果に対する考察


試験結果に対する考察

 燐酸肥料の原料である燐鉱石に含有せられるウランは1万分の1ていどに過ぎないが、わが国における輸入量は年間150万トン以上に達しウラン資源として軽視できない。

 現在わが国においてはこれを硫酸で分解して過燐酸石灰または燐酸液を製造しているが、肥料工業の現状を変更しないでウランを抽出するには一応燐酸液を対象とすることが好ましいと考え、燐酸液から沈澱法によりウランを分離する方法を検討したものである。

 本研究においてはまず基礎研究により燐酸液中にある弗素および鉄を除去した後6価ウランを4価に還元しクフェロンで沈澱せしめ分離する方法を確立し、ついでこれを中間工業化試験に移して工業化の可能性を検討した。

 その結果、ウランは燐酸液から分離後、U3O81〜5%の焼成酸化物として収率50%以上をもって収得せられることを確めたが、一方燐酸の損失は全工程を通して15%に達し、現在の燐酸工業の収率と比較して十分でなく今後更に検討の余地があるものと考えられる。

 つぎに、本方法に使用する沈澱剤クフェロンはその価格が高価なため、ウランの製造価格を低減せしめるにはその使用量を極力節減すべきであり、クフェロンと結合するウラン以外のイオンたとえば鉄、チタン等の含有量の少ない燐酸液を使用することが有利なことは言をまたない。しかして、燐鉱石中のこれら元素の含有量は銘柄によりことなり、たとえば、フロリダ68はウラン含有量多くチタン等妨害元素が少ないのに反し、フロリダ77は比較的にチタン等の含有量が多くウラン抽出にはきわめて不利である。将来、ウラン抽出の経済的見地からウラン含有量が多く処理の容易な燐鉱石の輸入を要望する次第である。

 最近欧米においては燐鉱石からイオン交換法あるいは溶剤抽出法によりウラン抽出の工業化に成功しているが、わが国においても国情に即応した燐酸肥料の製造を考慮しつつ有利なウラン抽出法の研究を推進すべきである。

回収電解法による重水の高濃度濃縮の研究

 昭和30年度の委託費により旭化成工業株式会社において行われた標記の研究について現在までの研究状況について、その概要を紹介する。

 研究の目的

 電解濃縮法、交換反応法を組み合わせた電解濃縮法、水蒸溜法、水素液化精溜法、二重温度交換法等によってあらかじめ低濃度あるいは中濃度に濃縮された重水を回収電解法により99.7%以上の重水を得る際の電解分離系数の最大となる電解条件の探究と、この場合発生する爆鳴気を爆発させることなく安全にかつ連続的に燃焼させる装置の製作および運転を目的とする。

 研究の内容

 研究項目およびその内容の概要については、第1表に示すとおりである。

第1表    研 究 項 目 お よ び 内 容




 研究の結果

 昭和30年度、回収電解法による重水の高濃度濃縮の研究において得られた成果をしるせば、次のとおりである。

1.電解分離系数の最大となる電解条件の探究

 電解分離系数については電解質(炭酸カリ)、電極材料(陰極:鉄、陽極:ニッケル)を一定にした場合の電解温度(10〜40℃)、電流密度(6〜15amp/dm2)の分離系数におよぼす影響について探求し、相当満足すべき結果を得ることができた。第2表はその一部で変温式浮秤法により測定したデータも併記した。

第  2  表

 なお炭酸カリを電解質として使用した場合、スタートする際の炭酸カリ濃度が電極材質特に陽極(ニッケル)の腐蝕に影響あるもののごとく、研究の結果、炭酸カリ濃度6%以上でスタートすれば安全であることが判明した。さらに炭酸カリを使用して減容電解を行う際の各要因(炭酸カリ濃度、電解温度、電流密度、極間距離、浴電圧)の関連についても検討を行い、浴電圧の低下をはかるためには極間距離7.5mm炭酸カリ濃度6%以上が最適であることがわかった。

2.爆鳴気を安全に燃焼せしめる装置の試作および運転

(イ)触媒による燃焼器の試作および運転

 酸化銅触媒を使用して空気を稀釈した爆鳴気を緩慢に燃焼せしめて重水素を工業的に回収するに適応する燃焼器を試作し、爆鳴気の濃度、接触温度、触媒の寿命等の諸条件を探究しながら燃焼率を把握するとともに安全運転法について検討した。第1図は試作した燃焼器の略図である。使用した酸化銅触媒は和光純薬製の大きさ1mmφ×10mmていどのもので、これを内径28mmφステンレスパイプ1本につき約600mm間に8kg充填した。(ステンレスパイプは全部で100本)充填率は約40%である。触媒層の温度は熱風温度、熱風量、爆鳴気の量、爆鳴気の空気稀釈度を調節して保持し緩慢に爆鳴気を燃焼せしめんとした。そして触媒層を出た混合ガス中のH2濃度を4〜5%ていどにまで燃焼せしめた後第2段燃焼部(ステンレス金網約700℃)にて完全燃焼せしめるように計画した。

 触媒層の温度測定には最も反応が進行する部分と思われる下部から200mmの位置に熱電対を挿入した。

(挿入箇所は最外部、中心部および最外部と中心部との中間)

 試験結果は第2図および第3図の燃焼率グラフに示すとおりである。

第1図  燃焼器略図

第2図  燃焼率グラフNo.1

第3図  燃焼率グラフNo.2

 この試験にあたっては爆鳴気発生用として円筒形隔膜式の減容電解槽(容量50リットル)5基を直列に連結して電解電流を800〜1,200Ampに変化して行った。

 燃焼器の運転に当っては、触媒層の温度測定箇所が少ないため、その温度分布を正確に把握することができず、燃焼率から推定して操作したが、安全にしてかつ燃焼率約70%(燃焼生成ガス中のH2濃度4〜5%)という条件を見出すことができなかった。

 数回の爆発について爆発直前の燃焼状態を見ると常に燃焼率が急激に上昇している。しかしこの場合触媒層の指示する温度は急激に上昇しない点から考えて、指示箇所以外のところで局部的燃焼を起し600℃あるいはそれ以上の触媒過熱部分ができるのでないかと推定される。今後の方針としては触媒層の長さを600mmから900mmに延長して反応層を増大するとともに触媒の温度測定箇所を3ヵ所から9ヵ所に増加し、燃焼状況を把握することにしている。

 むすび

 以上のごとく昭和30年度の研究結果は、電解分離系数の最大となる電解分離系数のデータ数は多くなかったが、データの一部からみて、予期以上の成果をあげる自信を得、今後さらに研究をつづけ工業的無隔膜減容電解槽の設計ならびに運転条件を確立する予定である。一方触媒による燃焼器の試作および運転については今のところ満足すべき結果は得られていないが今後燃焼器の一部改造とこれに適応した運転条件を把握すべく研究を進める予定である。