原子力委員会

国際原子力機関規約会議

 原子力平和利用のための国際原子力機関の設立については、前号53ページに記載したように1953年12月国際連合第8回総会におけるアイゼンハウアー米国大統領の提唱にはじまり、1954年12月および1955年12月の国連総会の決議等を経て、本年2月27日からワシントンにおいて、アメリカ、イギリス、フランス、ソビエト、カナダ、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、チェコ、インド、ポルトガルおよび南アフリカの12カ国により規約の審議が行われ、4月18日この起草会議において得られた規約案が採択された。

 この規約案は全文23条と附則とからなり、これを審議し採択するための会議が9月20日からニューヨークにおいて開かれた。この会議には全国連加盟国76カ国のほかに、日本、西ドイツなど未加盟国を含めた合計87カ国に対して招請状が発せられており、この点からも空前の重大な意義を有するものと考えられる。

 わが国からは前号記載のように、加瀬俊一国連大使、石川一郎原子力委員会委員、河崎一郎外務省国際協力局長の3名が政府代表としてこの会議に参加した。

 会議は結局82カ国が参加して、9月20日開会式を行い、9月24日から10月2日まで各国代表の総括的な演説が行われ、わが加瀬代表はその演説で規約案に対する日本政府の見解として次の諸点を述べた。

加瀬代表の演説要旨

1.特殊核物質が軍事目的に使用されないようにするための保障の適用について、加盟各国の主権をおかさぬよう注意することを望む。

2.先進国が提供する資料は提供国の判断にまかされているためクラシファイド・データはかならずしも提供しなくてよいこととなっているが、かかる事態は徐々に改善されることを望む。

3.国によって原子炉が一定の型にかたよることにより使用する燃料も特殊なタイプのものとなる。したがってひとたび機関から燃料の提供を受けるとひきつづいて提供を仰がざるを得なくなる。したがってこの提供に対して不安のないよう望む。

4.国際連合における他の専門機関(WHOなど)との関係を明らかにし、将来科学委員会を包含するように望む。

5.事務局職員は地理的に広い範囲から採用するよう努力することを望む。

 最終的には機関は大国の協力がなければ決して順調な発展を望むことができない。先進国の積極的な協力を望むものである。

ついで10月3日から委員会討議に移って規約草案の審議にはいり、10月23日総会を開いて規約案を全会一致で採択した。ついで準備委員会の選出投票を行い、アルゼンチン、日本、エジプト、ペルー、インドネシア、パキスタンの6カ国を選出し、これに起草12カ国を加えた18カ国をもって準備委員会を形成することとなった。

 政府は10月26日の閣議において

(1)別記要綱の趣旨の国際原子力機関に署名することとする。

(2)この憲章への署名には、在ニューヨーク国際連合日本政府代表部長加瀬俊一をして当らせることとする。

ことを決定し、ただちにニューヨークに連絡した。これにもとづき同日国連本部において行われた調印式に加瀬国連大使は日本政府を代表して参加、調印を行った。

 またこの日からわが国は準備委員会の構成国として総会および理事会が成立するまでの間、総会の準備、理事会の任命等の任務にあたることとなった。なおこの発効は5大国のうち3国を含む18カ国がアメリカに批准書を寄託した時となっており、だいたい来年の5月ごろになるものと見られ、第1回の総会は来年夏ごろになるものと考えられている。

 次にこの国際原子力機関にわが国が加盟した意義を考えてみると、わが国は国際連合のエカッフェなどの専門機関には加入しているが、連合自体の機関には加入していない。原子力機関のような主要な国際機関にわが国が加盟し、しかも準備委員国として主要な位置を占め、また理事国となることも期待されているということは外交上重大な意義を有するものといえよう。

 またこの機関は、持てる国の物資を利用して低開発地域の原子力開発を促進せんとするものであって、わが国としてはこの趣旨には全面的に賛成であり、また原子炉燃料の提供をこの機関から求めることも考えられるし、この意味からもこの国際機関の活動には重大な関心を持っている。さらに原子力の平和的利用を最も強く希求するわが国としては、この機関を通じて原子力を平和的目的へ利用することを促進する一方、軍事的目的に利用されないよう保障措置を講ずることの意義は高く評価されなければならず、この点も日本としては全面的に賛成の意を表するところであって、国際連合の精神とも一致するものと考えられる。

 このようにしてわが国はこの機関設立の趣旨に全面的に賛成し、前記3氏を代表として参加させたものである。幸にして多数の国々の声援を得て準備委員国に選出され、また機関設立の暁には、その中枢機関である理事会のメンバーとしても選出されるよう期待しかつ努力している。

参考

 本機関における理事国の選出は次のような方法によることとされている。

1.原子力に関する技術の最も進歩した5加盟国(アメリカ、イギリス、ソビエト、フランス、カナダ)−指名

2.次の地域のうち上の5加盟国によって代表されていない地域のそれぞれにおいて原子力に関する技術(原料物質の生産を含む)の最も進歩した各1加盟国(計5カ国)−指名

  (1)北アメリカ
  (2)ラテン・アメリカ
  (3)西ヨーロッパ
  (4)東ヨーロッパ
  (5)アフリカおよび中東
  (6)南アジア
  (7)東南アジアおよび太平洋
  (8)極東

3.原料物質の他の生産国であるベルギー、チェコスロヴァキア、ポーランドおよびポルトガルのうちから2加盟国−指名

4.技術援助の提供国として上記以外の他の1加盟国−指名

5.北アメリカを除く各地域について代表1人を常に含むように10加盟国−総会による選挙

 以上 合計 23カ国

 上の表で指名とあるのは前理事会(第1回理事会の場合は準備委員会)の指名を意味する。

 任期は上記1.〜4.については1年、5.については2年(ただし、最初の選挙の時にかぎり半数の5カ国については1年)とする。

 1.2.については再指名が認められているが、その他については認められていない。

国際原子力機関憲章の要綱

1.目的および任務

 国際原子力機関は、原子力の平和的利用の促進を目的として憲章加盟国により設立される国際機関であって(第1条および第2条)、この目的を実現するため、国際連合の目的と原則にのっとり、かつ、これと緊密な連絡を保ちながら、直接にまたは仲介者として加盟国に対する特殊核分裂性物質、設備、施設および役務による援助を促進し、かつ、これらの援助が軍事的目的に利用されないための保障措置および安全上の基準を設定実施し、また必要な情報の交換および科学者の交換を促進する任務を有する(第3条)。

2.加盟国

 国際連合またはその専門機関の加盟国は、この機関の原加盟国になることができ、原加盟国とならなかった国は、機関の理事会および総会の審査を経て加盟国となることができる(第4条)。

3.機構

(1)総会

 全加盟国の代表をもって構成され、憲章の範囲内の問題につき論議し、特定事項につき決定を行い、また、理事会に対し勧告する権限を有し、理事国の選出、加盟承認、憲章改正の承認、各種報告の承認その他の任務を有する(第5条)。

(2)理事会

 機関の任務の執行をつかさどる最も重要な役割を果すべき機関であって、原子力技術の最先進国たる5箇国(米、加、英、仏、ソ)、世界の8地域における原子力技術の先進国(この最先進5国により代表されない5地域から5箇国、極東地域においては、わが国が予定されている。)、原料物質生産国2箇国および技術援助提供国1箇国ならびに各地域代表国10箇国計23箇国をもって構成される(第6条)。

(3)事務局

 事務局長の下に、機関の行政事務を担当する(第7条)。

4.機関の事業

(1)情報の交換第8条

(2)物質の供給

 加盟国は、特殊核分裂性物質、原料物質その他の物質を、その保管方法および使途についてみずから指定することなしに、機関に対して提供することができ、機関は、これを保管する責任を有する(第9条)。

(3)役務、設備および施設の提供

 加盟国は、これらのものも機関に対して提供することができる(第10条)。

(4)機関の計画

 加盟国は、計画を設定して機関に対し物質、施設、設備および役務ならびに資金についての援助を要請することができ、機関は、この計画を審査の上承認したときは、加盟国と援助実施に関する協定を締結する(第11条)。

なお、この協定には、物質の割当および移転、その条件(料金を含む。)、保障措置の適用、特許権等の保護その他の規定が含まれ、援助は、機関から直接にまたは機関を介して援助提供国から与えられる。

(5)保障措定

 特殊核分裂性物質その他の物質の軍事的目的への転用または流用の阻止を目的とする機関の保障措置は、前記の機関の計画に対してのみならず2国間協定等にもとづいて当事国が要請する場合にも適用される。保障措置には、設備の承認、安全上の措置の実施、記録の保持および報告の提出、物質の処分方法の指定等のほか、以上の措置に対する違反を検証するための検査官の派遣および違反の際の援助停止等の措置が含まれる(第12条)。なお、機関は、必要な場合には、検査部門を設けて、機関が行う活動の検査および前記の違反の有無の決定を行わせることができる。

(6)加盟国に対する償還

 物質その他を提供した国に対しては機関から償還が行われる(第13条)。

5.その他

(1)会計

 機関には、その経常費用を支出するための行政費および援助実施にともなう費用の2会計が設けられ、原則として、前者は、総会が定める基準により加盟国が支払う分担金によりまかなわれ、後者は、被援助国が支払う料金によりまかなわれる(第14条)。

(2)特権および免除

 機関、加盟国の代表、理事、事務局長、職員等に対しては、機関の任務遂行上必要な特権および免除が与えられ、その詳細は、機関と加盟国との間の別個の協定により規定される(第15条)。

(3)他の機関との関係

 機関は、国際連合その他との関係を定める協定を締結することとなっている(第16条)。

(4)紛争の解決

 憲章の解釈または適用に関する問題または紛争は、他の解決方法が合意されない限り、国際司法裁判所に付託される(第17条)。

(5)憲章の改正および脱退

 憲章の改正は、総会の承認を経た後3分の2の加盟国により受諾されたときすべての加盟国に対して効力を生ずる(第18条)。なお、加盟国は憲章発効の5年後または憲章改正の受諾を望まないときは、機関から脱退することができる。

(6)特権の停止

 特定額以上の分担金延滞国は、特別の事情によるものでない限り、投票権を失い、また、憲章または憲章にもとづく協定の違反国は、特権および権利の行使を停止されることがある(第19条)。

(7)定義

 第20条には、「特殊核分裂性物質」「同位元素235または233を濃縮したウラン」および「原料物質」の定義が掲げられる。

(8)署名、受諾および効力発生

 憲章は、本年10月26日から90日間署名のため開放され、加、仏、英、ソ連、米のうち少なくとも3国を含む18箇国が批准書を寄託したときに効力を生ずる(第21条)。

(9)国際連合への登録

 寄託国政府たる米国政府が憲章を国際連合に登録する(第22条)。

(10)正文

 憲章の正文は、中国語、英語、フランス語、ロシア語およびスペイン語で作成される(第23条)。

6.準備委員会

 憲章の附属書として、準備委員会に関する規定が設けられている。同委員会は、本年4月に憲章原案作成に参加した12箇国のほか今回の国際会議で選出される6箇国(わが国も選出された。)計18箇国で構成され、憲章の署名開放の日から憲章発効後第1回理事会の選出までの間、機関発足の準備を行うこととなっている。