ウラン・トリウム資源とその選鉱製錬について

まえがき

 世界のウランおよびトリウム資源に関してはすでに各方面であるていどの資料が発表されており、またその選鉱製錬方法についても、最近はかなりの情報が入手されるようになった。わが国が本格的に原子力の開発利用を行うためには、その根幹であるウラン・トリウムの確保および製錬加工が必要とされるわけであり、この面の情勢を適確に把握しておくことが大切と思われるので、原子力局で入手した範囲の資料情報から取りあえずまとめてみた。以下にその概要を記す。

ウランおよびトリウム鉱物

1.ウラン鉱物

 ウランを含む鉱物の種類は非常に多くて100種以上が知られているが、その中で重要なものを挙げると第1表のとおりである。しかし世界の重要な鉱床の鉱石鉱物として、量的にまとまって産出する鉱物となると案外少数である。

第1表  おもなウラン・トリウム鉱物



2.トリウム鉱物

 トリウム鉱物はウラン鉱物に比較してその数がすくないが、これは2次鉱物を作らないためである。100種以上の鉱物に僅かのトリウムが含まれているが、主たるものは第1表に示されているていどである。ウランの1次鉱物がすべてトリウムを含有しているのと同様にトリウム鉱物もまた必ずウランを含んでいる。

世界のウラン・トリウム鉱床賦存概況

 ウランの世界的資源として特に優秀な大鉱床を擁する地域は、ウランの集中に都合の良い特別な地質的条件をそなえていると考えられている。この特殊な地質環境では地球上最古の前カンブリア紀の変成岩、花崗岩類から構成されている楯状地Shield、これが第1級の賦存地域、次が山塊Massifと呼ばれている古生変成岩や花崗岩類の古い結晶質岩石類から構成されている山岳地域、これが第2級と見られている。

 ウラン資源として現在世界最大級に入るものはほとんど全部が楯状地域に賦存し、第2級のものは大体が山塊地域に入っているが、将来の探査上の有望性についてもこのような地域が一番高く評価されている。

 さらにこれ以外に若い時代のものを含む花崗岩類や変成岩等の結晶質岩石から構成されている広い山地や高地も、山塊に次いで瀝青ウラン鉱等の初生鉱物に恵まれてもよい地域であると考えられており、日本の本州の一部から朝鮮、南満州にかけての高地地帯も東アフリカ高地、中央アフリカ高地とともにあげられている。

 また世界のトリウム産出量のほとんどすべては風化漂砂鉱床からモナズ石として供給されている。モナズ石はおおむね他の重要な鉱物、チタン鉄鉱、金、ジルコンまたは錫石等とともに産出する。


第1図    世界のウラン、トリウム資源の分布


世界のウラン・トリウム鉱床の開発状況





各国の開発政策

1.アメリカ合衆国

 合衆国では1947年までは政府のみで開発が進められてきたが、48年から民間に開放され、政府は技術指導、褒賞金やウラン鉱買上値段の保証等によって民間の開発事業を奨励、援助している。

 政府のウラン鉱の探査、開発、製錬関係の仕事は、AECの生産関係担当3部(生産部、原料物資部、建設供給部)の中の原料物資部Divisionof Raw Materialsの所管であり、ここが原料物質(0.05%以上のウラン、トリウムまたはその混合物を含有するもの)の探査、取得および生産計画(加工および生産作業を含む)の実施に当る。

合衆国原子力委鼻会(AEC)

 合衆国においては探鉱および土地からの鉱石の採掘については普通の他の鉱物と同様の取扱いを受けるだけでなんら特別の許可等は必要でない。

2.カナダ

 ウランおよびトリウム鉱物を含む鉱区の探査および鉱区の設定、開発、採掘については他の鉱物と全く同様に取扱われている。それ以後の段階において政府の統制がおかれているわけである。

 カナダ政府の組織は下記のとおりである。


 Eldorado Mining and Refining.Ltd.は全額政府出資のCrown Companyであり、ウラン鉱石は現在政府の専売制となっているが、本会社が政府の代行機関となっている。また本会社自体も大鉱山2箇所と製錬所を経営している。

 Eldoradoが受け取る鉱石または精鉱はU3O8の最低含有量10%のものである。このていどの選鉱精鉱を買い上げてPort Hopeにある同社の製錬所で酸化ウランとして米国に売り渡し、米国から精製ウランとしてチョーク・リバーの原子炉用に輸入している。しかしながら3月に政府は下院においてカナダの自主的製錬と輸出をのぞんでいると言明しており、国内業界もこれを支持している。

3.連合王国

 原子力公社(AEA)ロンドン事務所における金属部において、ウラン、トリウム、ベリリウム等主要原料の調達を行っている。ここでは海外原料の買付契約のみでなく、世界中の資源の調査、新規調査区域の評価、技術の提供および、ときには財政的援助の提供についても担当している。

 国内においてはすでに経済的稼行可能区域は採掘を終了しており、今後は海外原料の購入を行うのみであるとしている。そのための機関として戦時中に合衆国、カナダと共同で設立した原料入手機関を改組して、the Combined Development Agency(合同開発機関)を設立した。この機関で入手された原料は合衆国AECと英国AEAの間で協議して区分される。多くの国ではウランの所有権が政府に帰しているためAgencyが供給契約を締結する際は政府間の協定を含むことが多い。

 Agencyにおいては一般に自分で新規探鉱を行ったりすることはせず、主として協定によって市場を相手側に保証し、開発、採鉱に必要な資金を供給し、ときには技術指導等を与えるのである。

4.フランス

 フランスにおける核原料物質開発の行政機関は原子力庁がつかさどっている。

 この国ではすべての放射性鉱物(ウラン鉱、トリウム鉱、ベリリウム鉱およびヘリウム)の試掘および開発の権利は国の保有するところとなっており、これは海外領土についても同様とされている。しかしてこの調査、試掘開発製錬には原子力庁鉱山調査開発局(DREM)および化学部が当っている。

 したがって採鉱段階までを民間にまかしている他の国のような価格政策などは不要である。整備されたDREMの探鉱ミッションが調査を担当しLa Crouzille,La Chaux等の鉱山の開発と現地選鉱までをDREMが行い、その後Le Bouchetの製錬工場で70kg/month(1955年始めの頃。佐藤源郎、欧米諸国のウラン鉱床開発概況による)の金属ウランを生産している。

ウラン・トリウムの今後の開発の見通し

 最近において自由世界のウラン鉱業界においては、ウラン鉱業の先行きの見通しについてあるていど悲観的な意見も出ているようである。AEAの第2回年次報告では割合楽観的な表現がなされ、引き続き需要が増大することを述べているが、一方では今や価格におかまいなしに購入される時期は去ったとして原価に対する顧慮が必要となってきたことを強調している。カナダ政府では精鉱買上価格を改訂して、現在まで認められていたプレミアムを1956年4月以降の契約については考慮しないと発表した。米国政府でも若干意味は異なると思われるが1962年から66年までの買付計画を発表し、これまでの鉱石価格を廃して精鉱としての買付としてポンド8ドルの線を決定し、(これは現在までの価格の1/3切下げとなる)政府統制市場から民間市場への変換をはかるなど、これまでと異なった動きがみられている。

 AECの半年報(56年7月)によればアメリカのウラニウム鉱年間生産額は300万トンに近く、500万~600万トンに達するであろうと考えられている。またAEC原料部長ジョンソンは、コロラド高原の鉱石積出しが本年6月末までに年150万トン4,650万ドルに達し、2年以内に250万トンに上ろうと国会で述べた。これは米国の生産量と価格の発表としては米国で最初のものである。1ポンド13ドルとしてロイターが推定したところによれば、本会計年度中の米国の酸化ウラン生産は2,000トン足らずで1958年でも3,500トンに足りない。ロイターの推定では現在の軍需は酸化ウラン年約2万トンで今後減少していき、非軍事的需要は次の20年間に年1万3千トンに上るとみられる。これに対して1958年末に自由世界の産出量は3万トンに達し得ないのではないかとしている。

鉱石または精鉱の買上価格

1.ウラン鉱石または精鉱の各国政府買上価格

 ウラン鉱石の価格についてはまだ世界市場もなく、国際価格の設定もない。各国それぞれの立場に応じて価格を定め、国家またはその代行機関が買上げを行っている。


2.トリウムについて

 トリウム鉱石はその資源の賦存地域が利用国とかけ離れているので、英、米、カナダ等の諸国においてはウランのように一定した買上価格を設定している例はないようである。

 トリウムの最大の供給源はモナザイトであるが、その価格は稀土類元素の需要によって決定される。たとえばAECにおいては稀土類元素の処理企業から買付けるのである。米国におけるモナザイトの輸入価格は1940年に60$/shorttonであったのが、その後375$までだんだんと値上りを示したが、このためFloridaとIdahoの低品位鉱の開発が経済べ-スに乗り、かつ南阿に重要な鉱床が発見されたため価格は頭打ちとなっている。モナザイトの供給量はすくなく、かつ需要も比較的コンスタントであるから300~400$で支えられるものと思われる。

3.ウラン・トリウムの価格

 現在ウラン・トリウムには市場価格はないといってよい。

 判明している断片的な値を次に掲げるがこれは経済的な価格とは一致しないと思われる。

選鉱製錬法

 アメリカ合衆国

 米国内の各工場の処理方法を表にして示す。いずれもカルノー石を処理している工場であり、カルノー石はヴァナジウムを含んでいるので、これを処理している点に特色がある。







 南阿連邦

 南阿連邦Witwatersrand地方におけるウラン鉱床は、第1章に述べたとおり合金層に共存する閃ウラン鉱である。したがって選鉱過程も特殊なものとなっている。

 以前は、gold plantからの廃滓はダムに放棄されていたが、ウラン鉱業の出現後はこの廃滓からウランを回収している。

 溶解:ウラン工場に供給されたdewateringされた廃滓は第2段酸ろ過工程のろ液である希硫酸でパルプ化され、二酸化マンガン鉱石と濃硫酸の必要量を投入してコンプレストエアーで攪拌する。16時間の攪拌で大部分のウラニウムが溶解する。

 ろ過:耐酸rotary filterでパルプをろ過するがその前に沈降剤を用いて一応settleさせてから行う。

 抽出:ろ液はサンドフィルターにかけて後回収塔を通して少量の鉄を含むウランと硫酸鉄、硫酸マンガンを含むがウランを含まない硫酸溶液とに分離する。シックナーにかけて後フィルターを通してウランを採る。ろ液およびオーバーフローは回収塔にかえす。

 得られた(NH4)2U2O7・3H2Oは煆焼工場に送られてU3O8の形にして海外に送られる。