天然の放射線量の測定

 人類は宇宙線や大地あるいは大気中に天然に含有されている放射性物質から放出される放射線をたえず受けている。

 これらの放射線も遺伝子突然変更を誘発する可能性はあるが、一応このために受ける放射線量はやむを得ないものと考えられている。

 しかし、原水爆実験の結果によるフォールアウトや放射性廃棄物による生活環境の汚染および一部の人々が職業的に受ける放射線の影響について考慮する場合、この天然の放射線量はかならず考慮の中に入れておかなければならぬ。

 放射線測定装置の示度には、かならずこの天然の放射線量が含まれているので、これを除外しなければ問題となる人為的の放射線を知ることはできない。

 天然の放射線量は、時間的、空間的に一定のものではないが、放射線測定の基礎としてその観測は不可欠の仕事である。

 天然の放射線量の測定はこれまでも散発的には行われてきているが、国家的な規模で統一された方法で行われたことはなかった。

 すでに原水爆実験によるフォールアウトによって国土や大気は汚染されつづけているので、天然の放射線量の測定を行うにはいささか時期を失した観があるが、この際、フォールアウトの観測とあいまって系統的な天然の放射線量の観測が開始されるべきである。

 本年10月ニューヨークで行われる国連科学委員会のために提出する諸資料の1項目として天然の放射線量の測定値が国連科学委員会事務局から要求されていたが、系統的なものは送付できなかった。

 天然の放射線量の観測は何年かにわたってかなりの大規模に実施する必要があると考えられるが、第1年度は観測点を数ヵ所にしぼり、測定法の検討のような基礎的な問題に重点がおかれる予定である。

 観測地点としては、まず次の諸点が選ばれる予定である。

 1.東 京
 2.原子炉建設予定地
 3.放射性鉱石産出地のようないわゆるhigh background area
 4.特定の海域

 測定は地上一定の高さ(成人の生殖器の高さ)における天然の放射線の総線量のほか、その線量を構成する宇宙線、大気と大地中の放射性物質におよび、さらに海水(特定の海域)、飲料水(特定の水源)におよぶ予定である。

 観測には数ヵ所の国立研究機関が参加する予定であるが、これまでに行われた研究や調査の資料の収集整理も行い、フォールアウトの観測機関からのデータも集めて検討される予定であり、人体各臓器の放射性物質量や食品中の放射性物質量の調査資料も収集整理される予定である。

 測定装置としては高感度の計器が用いられるが、一般に用いられている人体傷害防止用探索用諸計器の天然の放射線に対する感度の検討も行われる予定である。

 この調査は関係各省の試験研究機関等に調査を依託し、科学技術庁原子力局において総合調整を図る予定である。

 なお、明年度発足する予定の国立放射線医学総合研究所もこの調査の研究の実施と推進にあたり、重要な役割を果すものと期待されている。