昭和30年度原子力平和利用研究の紹介

 前号にひきつづいて昭和30年度原子力平和利用研究委託費により民間に委託した研究のうち、今回は東京芝浦電気株式会社の実施した「モールド式高抵抗の試作研究」(委託金額1,107千円)と株式会社科学研究所(岩瀬研究室)の実施した「カルシウム還元による金属ウランの製造に関する研究」(委託金額2,019千円)との2件をえらんでここにその概要を紹介する。

モールド式高抵抗の試作研究

 昭和30年度原子力平和的利用研究委託費により、放射線測定器関係の一つとして「モールド式高抵抗の試作研究」が東京芝浦電気(株)に委託され、委託費として、1,107,000円が交付されて、森島聿氏を主任研究者として研究が行われた。

 本研究は、3月末をもって終了したので、その研究結果の概要をここに紹介する。

研究の目的

 微少電圧電流増幅器のグリッド高抵抗として従来S.S.White Dental Mfg.Co.製MoldedResistorおよびVictoreen Instrument Co.製Hi-Meg Resistorを輸入して使用していたが、これらの国産化のため、主としてS.S.WhiteMolded Resistor typeの抵抗体の試作研究を行うもので、抵抗値108~1012ΩにおいてS.S.White Molded Resistorていどの性能を得ることを目標とする。また抵抗体の小型化をはかり、抵抗素体の寸準を3.5mmφ×20mmていどとし、必要に応じ防湿のため合成樹脂で被覆を行うものである。

研究実績概要

1 測定装置の整備

 小型高抵抗は100Vていどで抵抗測定を行うため感度の高い測定器が必要であり、また温度および湿気の影響を除去するため恒温恒湿槽に入れて測定を行う必要があり、さらに湿度係数、電圧係数および耐湿特性等の試験を行うため測定装置の整備をした。1012Ω附近まではWheatstone Bridge法および高感度の絶縁計を使用し、合成樹脂の抵抗測定には電位計を使用した。

2 S.S.White Molded Resistorの分析

 S.S.White Molded Resiotorの小片を空気中で加熱するとイオウ臭がして燃え、この粉末のX繰回折写真を撮るとイオウの回折線が現れる。一定量を磁製ルツボに取り灰化すると、灰分約40%で分光分析の結果主にBaで少量のMg,Si,Al,CaおよびCuを含んでいた。次に陰イオンの分析の結果SO4--の存在を認めた。さらにSO4--とBaのモル比を求めるとSo4--/Ba=1.16で試料の大部分がBaSO4であった。X線回析写真の結果もBaSO4の回折線を示した。

3 合成樹脂の絶縁抵抗の測定

 防湿用に使用する合成樹脂は絶縁抵抗の高いことが望ましい。また湿気中でどのていどの抵抗変化があるかを知る必要がある。この意味でスズメッキ銅端子を埋め込んだ6mmφ×24mmの試料について電位計を用いて抵抗測定を行った。放電後1分から5分まで14分間の電位降下を測定し

なる式から抵抗値を算出した。

 ポリエステルは相対湿度70%において1.0×1017Ωで、抵抗値は湿気の影響を受けR.H.=65~90%の間においてほぼ次の式に従った。

     log R=log Rl-0.0746(H-70)

 ここに  Rl=R.H.70%における抵抗、

      H=任意の湿度(%)

 すなわち相対湿度が10%変化すると抵抗値は約1桁変化する。

4 抵抗体の試作研究

 高抵抗の材料としては絶縁抵抗が高く、耐湿、耐熱性の必要がある。S.S.White MoldedResistorにおいては結合剤としてエボナイト、充填材としてBaSO4、導電材料としてカーボンが使用されている。エボナイトは絶縁抵抗1015Ω以上、吸水率0.02%、使用温度70~90℃、耐圧500~600V/milで総合特性がよく、また他の材料に見られない特徴がある。たとえば加硫前は常温で可塑性があり、必要に応じ粉末にすることができる。その他の合成樹脂としてはフッ素樹脂、ポリビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン、ポリスチロール等があるが、混合、成型、劣化等に一長一短があり有効な結果が得られなかった。結局本研究においてはエボナイトを使用して良好な結果を得た。充填材は機械的強度の増加、耐熱性の増加および樹脂や節約の意味で使用するのであるが、BaSO4,SiO2,Al23が良く、BaO、テフロン等は好ましくなかった。防湿の意味でポリエチレンを添加したがあまり効果は認められず、混合が難かしい。カーボンは国産カーボンブラックでS.S.White Molded Resistorにまさる性能を得ることに成功した。本抵抗体の製造方法は

  1)原料をホットローラで十分混捏しできたシートを一定寸法に切断後加熱成型する。
  2)粉末の状態で混合し、これを常温で加圧、一定の形状にして後抵抗体に加熱成型する。

 以上の2方法について研究したが後者の方法では良い性能のものが得られなかった。

5 抵抗の被覆の研究

 外部的影響を少なくするため、すなわち防湿、劣化、絶縁および補強の意味でポリエステルおよびエポキシ樹脂による表面被覆および硝子管中に封入する研究を行った。これらの樹脂は低温で硬化するため抵抗体を損傷せず被複することができる特徴がある。絶縁抵抗は同程度であるが、エポキシ樹脂は金属に対して接着がよいので端子からの湿気の浸入を防ぎ、ポリエステルよりすぐれている。この被覆は注型であるが、樹脂の粘性のため抵抗体を薄く被覆するには技術が必要である。

6 Deposited film ResistorおよびCoating film Resistorの試作研究

 Molded Resistorと比較のためDeposited film ResistorおよびCoating film Resistorの試作研究を行った。Deposited film Resistorは有機化合物のガスを磁製管の上に通し、熱分解して抵抗被膜を形成するもので、Coating film Resistorはカーボンブラックと合成樹脂とを混合し硝子棒の上に塗附して抵抗被膜を形成するものである。前者はhelical cutせす高抵抗を作る場合は被膜が薄くなるためか次第に半導体のごとき性質を帯び温度係数が悪くなる。後者はカーボンブラックの選択とこれを合成樹脂内に充分分散せしめることとにより性能の向上をはかることが可能であり、だいたいの見通しを得ねので今後研究を進めて行く。

収めた成果

 材料の選択、製造技術の確立、測定装置の整備によりS.S.Molded Resistorにまさり、これより小型化され、耐湿性のよい高抵抗体の国産化を行い、各種測定装置の微少電圧電流増幅部分の抵抗として実用し得るものを得た。抵抗体の寸法および性能は次のとおりである。

 1 最大寸法 単位mm


第1図  最大寸法

 2 平均電圧係数


第2図 平均電圧係数

 3 平均温度係数


第3図  平均温度係数

第4図  抵抗値の相対湿度による変化


 4 最高使用温度70℃(1012Ωに対しては65℃)


 5 耐湿特性相対湿度98%まで使用可能であるが、1011Ω以上は乾燥剤を入れた容器中で使用するのが安全である。

 6 抵抗値許容差10%

 以上からわかるように、寸法はS.S.WhiteMolded Resistorの0.3"外法×1%"に対し相当小型化され、Victoreen Hi-Meg Resistorの長さの1/2である。電圧係数および温度係数も実用し得る値で、S.S.White Molded Resistorの代りに使用することができる。S.S.Whiteは乾燥しないと温度係数が悪くなる。本抵抗体は湿気に対する影響が少ないが、S.S.WhiteMolded Resistorは相対湿度75%から抵抗が急激に低下する。


1012Ω以上の抵抗およびCoatuig Film Resi-Storについて今後の研究に有効な基礎技術の資料を得た。

 最近測定機器が小型化の方向に発達し、従ってその部品である抵抗の小型化も強く要望されており、この要求に応じた高抵抗を得、同時に国産化したことはその効果極めて大きいといわなければならない。価格も合理的な生産を行えば非常に安くなる見込みである。光電流増幅装置およびSurvey Meter等に試用しているが、pH meterその他の微小電圧電流測定装置に今後の活用が期待される。第5図は試作した抵抗の一例で、上から1.モールド式高抵抗体

2.同上 3.塗膜式高高抵抗体 4.マッチ軸(比較のため)を示す。


第 5 図    試作抵抗の一例

カルシウム還元による金属ウランの製造に関する研究

 昭和30年度原子力平和利用研究委託費により、「カルシウム還元による金属ウランの製造に関する研究」が科学研究所(岩瀬研究室)に委託され、本年7月をもって終了したので、その研究結果の概要を紹介する。

ま え が き

 ウランをはじめて単離するのに成功したのはE.M.P’eligot(1841年)である。彼は四塩化ウランに金属カリウムを作用させてウランを粉末として得た。その後も金属ウランをつくるためにいろいろな方法が試みられたが、いずれも主として学術的な興味から少量のウランが処理されたに止まった。第2次世界大戦中にウランの核分裂現象が発見され、アメリカの原爆製造計画が1941年末に樹立されると金属ウラン製造についての既往の文献が再調査され、各方式が追試検討された。1942年F.H.Speddingを主班とするIowa大学の研究者グループは原子燃料としての金属ウランを製造するために四弗化ウランをカルシウムで還元する方式を特に選んでその急速な工業化を強力に推進し、金属ウランの本格的量産が実現されるにいたった。その後A.S.Newton(1948)、フランスのB.Goldschmidtら(1951,1955)、スイスのP.Hurzeler(1953)、ベルギーのJ.van Impe(1954)その他の研究が発表され、現在も原子炉用金属ウランの最も確実な実際的製造法としての不動の地位を保っている。

 四弗化ウランのカルシウム還元反応の特性金属ウランは粉末状では化学的にきわめて活性で、熱時にはもちろん冷時にも空気に触れると発火して酸化ウランとなり、取扱が容易でなく、ことに量産の場合には多大の困難を伴なう。従ってウランを金属の形に製造するためには一操作で表面積の少ない緻密な大塊とすることのできる還元法を選ぶべきである。金属ウランのいろいろな製造法中で四弗化ウランをカルシウムで還元する方式はこの目的に最も適している。カルシウム細片を四弗化ウラン粉末になるべく均等に混合し、一箇所に点火して局部的に加熱すると熱は混合物全体に行きわたり

  UF4+2Ca=U+2CaF2+140kcal

なる発熱反応によってカルシウムは四弗化ウランの弗素を奪って結合しまばゆい白熱光を発して瞬時に1,800℃に近い高温を生じる。反応で得られる金属ウランおよび弗化カルシウムの融点はそれぞれ1,130℃よび1,330℃であるので、反応器の内容物は熔融して底まで沸騰状態になる。金属ウランの比重は19、弗化カルシウムの比重は3あるから、重い金属ウラン熔粒は弗化カルシウム熔融液中を沈降しながら凝集してルツボの穴に流れ入り一つの融塊となる。反応器を弗化カルシウムで内張りしておいてこれに接して前述の還元反応を行えば、反応副生物もルツボもいずれも弗化カルシウムであるから金属ウランの触れるものは化学的に安定な弗化カルシウムのみで、しかもウランは熔融した弗化カルシウムに包まれて生成するので、常圧の空気中で反応を行わせても空気との接触を比較的避けることができる。

反応器の整備

 四弗化ウランをカルシウムで還元する際の反応器は第1図および第2図に示してようにステンレス鋼板でつくった底を閉じた漏斗形(たとえば内径38cm、高さ41cm)で、底部には螢石ルツボ(たとえば高さ12.5cm、外径7cm)をおき斜面の内側鋼上に螢石で内張りを施す。内張りには、螢石粉とこれをさらにボールミルで粉砕した細粉とを7:3の割合に混合し、この混合物の1%に当る可溶性デンプンを膠着剤として添加した後、適量の水で十分に練り合わせて鋼面上に塗付し、長時間600℃に熱して膠着剤を焼き切る。第1図の様式では漏斗形の外側にマゲネシア・クリンカーを詰めて断熱し、第2図の様式ではニクロム線電熱器で囲んで補熱し反応熱の逸散をふせぐ。


第 1 図

第 2 図

反応素材

 還元剤金属カルシウムおよび還元される四弗化ウランは高純度のものを用いなければならない。ことに熱中性子に対する吸収断面積の大きい元素は極力除去する必要がある。金属カルシウムは熔融電解または酸化カルシウムのアルミニウム還元でつくられる。特に

  6CaO+2Al=3Ca+3CaO+Al2O3

なる反応によって得たものを真空蒸溜で精製して切削片としたものが推賞される。

 四弗化ウランの製法はアメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、イタリアなど入手されるウラン鉱の種類およびその品位によって差異があるようであるが、この製造行程中にウランの精製法が適当に繰り入れられている。ウランの精製にはエーテル、ヘキソン、TBP溶液(Tributylphosphateを灯油または四塩化炭素に溶かしたもの)などの有機溶剤による硝酸ウラニルの抽出、過酸化水素による不溶性過酸化ウランUO4・2H2Oの生成、可溶性炭酸ウラニル・ナトリウムNa4〔UO2(CO33]の生成、不溶性四弗化ウランUF4・2.5H2Oの生成などが考慮されるが、必ずしもこれらを全部経由しなくても原子燃料用として適格な純度のウラン製造の素材となるようである。

 四弗化ウランを酸化または加水分解をうけずに無水の形に製造することは、カルシウム還元による金属ウランの製法において重要な問題点の一つである。技術面ならびに装置組立材料の入手の面から取りあえす次の3方式に従って無水四弗化ウランの製造を試み、そのおのおのをカルシウムで還元して成績を比較検討した。

 1)フレオン法

 硝酸ウラニルを過酸化ウラン水和物に変え、蝦焼して三酸化ウランとし、これにフレオンを作用させて無水四弗化ウランを得る。硝酸ウラニル水溶液に過酸化水素水を加えて過酸化ウラン水和物を沈澱させればウランは精製される。その際過酸化ウラン水和沈澱をなるべく炉過しやすい形に生成させる。沈澱条件の一例をしるすと次のようである。硝酸ウラニル六水和物結晶250gを水2Lに溶かし、40℃に温め、アンモニアを加えてpH1.2に調整した後(沈澱あれば炉去)、30%過酸化水素水60mLを加えてUO2+++H2O2⇔UO4+2H+なる反応を行わせ、さらにアンモニア加えて副生したH+を抑えてpHを2.0に調整して1夜放置する。この沈澱を乾煉して得た淡黄色粉末を300℃で煆焼すると赤橙色の三酸化ウランとなる。第3図は過酸化ウラン水和物UO4・2.37H2Oを空気中で煆焼した際の温度-重量曲線を示す。200℃辺で粉末の着色が濃くなりはじめ、250℃では橙色、300℃では赤橙色となり、三酸化ウランにほとんど完全に変化する。400℃近くになるとオリーブ色を帯びて三酸化ウランの分解がはじまり、900℃では八三酸化ウランに該当する色調に変わる。


第 3 図

 三酸化ウランとフレオン12(CCl2F2)とから無水四弗化ウランをつくる反応式は

      UO3+2CCl2F2=UF4+COCl2+CO2+Cl2

のように表わせる。三酸化ウラン30gを石英管中で430~450℃に熱し、これに濃硫酸および5酸化リンによって乾燥したフレオンガスを接触させると、フレオンの流速2~6β/hrで約4時間以内で濃緑色の無水四弗化ウランへの変化が完了する。この際フレオンの圧力は800mmHgに保った。反応副生ガス(フォスゲン、塩素、炭酸ガス)はカセイカリ水溶液(13%および20%)および13%ハイポ水溶液を順次にくぐらせて吸収する。

 八三酸化ウランにフレオン12を作用させても
      U3O8+6CCl2F2=3UF4+4COCl2+2CO2+2Cl2
なる反応で無水四弗化ウランが生成する。ウラン酸化物の形がUO3でもU3O8でもこの弗化反応にはあまり大きな差は認められなかった。

 2)弗化ウラン・アンモン法

 過酸化ウラン水和物を煆焼して得た三酸化ウランを水素還元して褐色の二酸化ウランに変え、酸性弗化アンモンを作用させて弗化ウラン・アンモンとし、これを熱分解して無水四弗化ウランを得る。まず三酸化ウラン70gをニッケルボートに入れ、水素気流中で600~700℃に2時間熱すると二酸化ウランに変わる。二酸化ウラン1量に酸性弗化アンモン0.8量を混合して1夜放置した後、アルミニウム製受皿に入れ3~5mmHgの減圧の下に300~330℃に6時間熱し、さらにニッケルボートに移して水蒸気流中で450℃に約30分間熱すれば無水四弗化ウランへの分解が完結する。

      2UO2+5NH4HF2=2NH4UF5+3NH3+4H2O

      NH4UF5=UF4+NH4F

 第4図の曲線1は弗化ウラン・アンモンを空気中で熱した場合の温度一重量変化曲線である。ここで120℃で2時間乾燥した試料の重量を100としてその重量の変化を与えてある。


第 4 図

 3)湿式法

 水溶液中でウラニルイオンを還元して4価のウランイオンとし、これに弗酸を加えて沈澱させた四弗化ウラン水和物を加熱脱水する。四弗化ウラン水和物の製法例を挙げれば次のようである。ます硝酸ウラニル六水和物結晶1kgを水4Lに溶解し、これに56%弗酸0.6Lを加える。他方濃塩酸2.4Lを水2Lでうすめた後、これに塩化第一スズ二水和物結晶550gを熔解する。これら両溶液を混合して放置する。

      UO2++→U4

      U4++4F+2.5H2O=UF4・2.5H2O

 また精製した過酸化ウラン水和物1.05kg濃塩酸0.85Lと水3.5Lを加えて塩化ウラニルの溶液をつくり、これに塩化第一スズニ水和物結晶800gを塩酸(濃度35%の濃塩酸1.6kg水3Lでうすめたもの)中に溶解して得た溶液を加え、60℃に温めた後、56%弗酸1kgと混合して放置する。いずれの場合にも沈澱は水洗を繰り返えして160℃で乾燥してからアルミニウム製受皿に入れ、3~5mmHgの減圧の下で200~230℃に5時間熱して脱水した。残留水分は0.2~0.3%と測定された。第4図の曲線2は四弗化ラン水和物を空気中で熱した場合の温度と重量変化との関係を示す。ここで120℃に2時間乾燥した試料の重量を100としてその重量変化を示してある。

四弗化ウランのカルシウム還元

 前述の3方式でつくった四弗化ウラン粉末のおのおのについてカルシウム還元を行った。これらを理論量より過剰の金属カルシウム切削片と混合して既にしるしたように整備された反応器内に充填してトーチで点火して還元反応を始動した。写真1~7は点火後の炉況の一例を8~9秒ごとに追跡したものである。火勢が静まったときに反応器に蓋をしてアルゴン気流中で冷却した。実験例を挙げると第1表のようである。

 写真8は金属ウラン融塊の表面を示す。実験例Aでは写真8の①に示すように金属ウラン粒の融着程度が不十分である。これは反応量がすくなすぎて熱量が不足し、常温の螢石ルツボの穴に流れ入ったときに急冷されてウラン溶粒が十分に融着する時間がなかったためであろう。


写 真 1

写 真 2

写 真 3

写 真 4

写 真 5

写 真 6

写 真 7


写 真 8

第 1 表

 四弗化ウランを2倍量用いた実験例Bの場合には写真8の②に見るように凝集融着程度はやや完全となり木槌で打っても崩壊することはない。写真8の③は実験例Dの場合で、弗化ウランアンモン法による四弗化ウラン1,500gを補熱を伴なう様式2の反応器内で還元したものである。

 得られた金属ウラン融塊の表面は緻密で、凝集融着は十分に満足すべき状態であった。

 結局フレオン法または弗化ウラン・アンモン法で製造した無水四弗化ウランを1度に1,200~1,500gより多量に還元すれば、生成する金属ウラン融塊は緻密となる傾向があり1度の還元処理量をさらに多くすれば成績は良好となる見通しを得た。なお湿式法の四弗化ウラン水和物については、その脱水条件を検討して残留水分の少ない、酸化および加水分解を受けていない無水物をつくらなければならない。

 原子炉用金属ウランの最も確実な実際的製造法として諸先進国において実施されている四弗化ウランのカルシウム還元方式について四弗化ウラン1.5kgまでの規模で試験し、その炉況と四弗化ウランの3種の製法(三酸化ウランにフレオンを作用させる方法、二酸化ウランに酸性弗化アンモンを作用させて熱分解する方法および四価のウランイオンを含む溶液から弗酸によって四弗化ウラン水和物を沈澱させて脱水する方法)との関係を明らかにし、1度の還元操作で緻密な金属ウラン融塊を得るための基礎条件を攻究した。

訂  正

 原子力委員会月報第1巻第4号(8月号)32ページの写真は、左右の二つが入れちがっていますから、訂正します。