アイソトープ需要想定試案

 昭和25年米国からアイソトープが初輸入されて以来、その有用性に対する認識は次第に高まり急速にその需要は伸びている。たとえばP32についてみると昭和25年249mcであった輸入量は昭和30年には15,575mcと実に約60倍の増加率を示している。また当初は使用件数139件、延使用者106名にすぎなかったのが、昭和30年には1,409件、2,217名と短期間に急激な増加を示している。さらに利用面からみると当初は各部門とも基礎研究が主体となっていたが、年とともに応用部門の利用が増し、最近では特に工業部門の利用が著しくふえてきている。これら急速な伸びを示している需要に対しいかに対処していくかという事は、わが国におけるアイソトープの利用の促進を図る上に重要な課題であると考えられるので、今後のアイソトープの需給計画に資するため、諸般の情勢を考慮し将来の需要の中心と考えられるCo60の需要の想定に主体を置き、代表的なものについて一応昭和36年末までの需要の概査を試みた。(第1表、参考資料1)

参考資料1 Co60 大 量 線 源 需 要 想 定

第1表 おもなアイソトープの需要想定(単位はmc,Co60はc)

 アイソトープの利用は原子力の開発とともに進展するものと考えられる。したがってその将来の需要を現段階に立って想定するにはあまりにも未知の要素が多すぎる。しかしこの分野において一日の長を有する米英等においても、なおその使用量は上昇の一途をたどっている現況からすると、わが国における過去6年間の使用実績を唯一の根拠とし、今後の需要の見通しを立てることは困難かつ危懼を感ずることではあるが、わが国の利用の現状からしては止むを得ぬ事であろう。しかし、本資料は一試案であって今後資料の充実とともにさらに詳細に検討を重ね修正を行う予定である。

大量線源用Co60について

 昭和27年始めて米国から170c輸入されたが、当初はラジオグラフ、γ線探傷器、厚み計、液面計等の試作、研究あるいは悪性腫瘍、癌等の治療法の研究等従来のX線、ラジウム等の代用としてのCo60線源利用の研究の段階にすぎず、したがってその線源も小さなものであった。しかし年とともにその実用化は進み、使用件数も増加して来ている。特に医療関係では遠隔大量照射装置の普及とともに線源も大量化し、1ヵ所で100〜700cとなって来ているので、将来この面の利用の普及は大きくなるものと考えられる。(参考資料2)さらに最近では利用面についても物質変性、反応促進あるいは食品殺菌、品種改良等新たな利用分野の開拓がなされ、現在100〜300cていどの照射施設が関係研究機関に設けられ研究が進められつつあるが、今後この面の基礎研究はますます進められるとともに工業化の試験研究も行われる傾向が認められ、その1箇所当りの線源も大量化するものと考えられる。(参考資料3、4)海外におけるこの面の研究あるいは実用化は相当進められている情勢にあるので、今後工業部門におけるCo60の利用普及は急速に進むものと考えられる。

参考資料2 医療関係Co60大量線源需要想定

参考資料3
工業関係(理学関係を含む)Co60大量線源需要想定

参考資料4
農業関係Co60大量線源需要想定

その他のアイソトープについて

 昭和25年始めて輸入されたのはP32、S35、Fe59等9核種合計462mcにすぎなかったが、昭和30年末では約40核種、合計43,125mcと急激な伸びを見せている。これらはおもにトレーサーとして反応および機構の解明、動植物の生理機構の解明、人体生理の解明、医薬品の改良あるいは悪性腫瘍の診療等に利用されている。その絶対量はCo60にくらべ僅少ではあるがその利用は各核種にわたり、また利用面の開拓も今後ますます進み、その使用量も当分は増加の一途をたどるものと考えられる。過去の需要量の伸びは第2表のごとく急激ではあるが、昭和29年、30年で年間増加率はやや落ちているように思われる。しかし全体から見るとなお上昇線をたどるものと考えられるので、一応米、英の伸びの状況をも勘案し増加率をP32、I131、C14およびS35は50%、Ca45は35%として算出を試みた。(前述第1表

第2表   アイソトープ輸入実績

供給の確保について

 以上のごとく基礎科学の研究をはじめ、医、農、工の各分野にわたりトレーサーあるいは線源としてその需要はここ当分増加の一途をたどるものと推察される。この急増する需要に応ずるためには当分は従来どおり米、英、加等からの輸入に仰がねばならぬが、輸入に要する少なからざる経費、さらに各国の需要量の急増にともなう供給量の払底も考えられるので、可及的すみやかに国内の自給態勢を確立し、需要に応じて各種のアイソトープを適宜かつ低廉に供給する必要がある。このためには日本原子力研究所において建設が予定されているウォーター・ボイラー型、CP−5型および国産1号炉等の原子炉の活用、さらにアイソトープ生産炉による供給の確保を図る必要がある。

 国内原子炉の活用により特に大量線源用Co60の供給確保による放射線化学工業ならびに従来研究のあまり進まなかった半減期の短いアイソトープの利用は急激に進むものと考えられる。

第3表   おもなアイソトープの需要量金額換算表