第1回日本アイソトープ会議の開催

 本年3月正力原子力委員会委員長が提唱した日本アイソトープ会議は原子力委員会でも了承され、関係機関で審議された結果、日本原子力産業会議、日本放射性同位元素協会および毎日新聞社が主催することとなり、原子力委員会、科学技術庁、日本学術会議、日本原子力研究所、文部省、厚生省、農林省、通産省、東京都を後援としてアイソトープに関する研究利用の現状を網羅してわが国で初めて公開する研究発表会と展覧会とからなる第1回日本アイソトープ会議が8月15日から8月26日まで盛大に開催された。

 この会議は前述のとおり、第1部はアイソトープの利用および放射線化学に関する業績、研究の発表、討論および一般講演であって8月24日から3日間産経会館国際ホールで行われ、第1日は一般講演、第2、3日は公募論文の中から優秀な論文の発表が行われた。

 この公募論文は総数160編に達し、このうち発表論文は55編であって、その内訳は工学関係16編、放射線化学関係3編、理学関係4編、医学関係20編、生物学関係5編、農学関係7編となっており、現在までの研究成績が一般に公開され、わが国の産業振興と福祉に寄与しつつある現況を知ることができた。

 第2部は展覧会であって、第1部に先だって8月15日から8月26日まで東京新宿の伊勢丹7階にて展示された。

 この展覧会は、アイソトープの利用とその安全管理に必要な機械、器具、写真、図表、図書を展示し、また実験も行って、アイソトープがどんなにわれわれの日常生活に寄与するかを平易に解説し、その知識の普及と利用の促進を図る目的から開かれた展覧会であったが、非常に平易に、大衆にもよくわかるように細心の注意が払われていたので、展覧会期中の延入場者数は40万人を突破したといわれ、この過半数はアイソトープとはどんなものかも知らずに入った人であったが、会場を一巡して出る時には一応アイソトープ通になることができ、またアイソトープの利用範囲の広いことに驚いていた。

 以上の第1部、第2部からなる第1回日本アイソトープ会議の開会式は8月15日午前10時から伊勢丹7階ホールで正力原子力委員会委員長を初め官界のアイソトープ関係者、学界の権威者、産業界の代表者等が参集して開かれ、主催者の挨拶に続いて正力原子力委員会委員長、通商産業大臣代理、日本原子力研究所長、石川原子力委員会委員、都知事代理、石坂経済団体連合会会長の祝辞があり、ついで正力原子力委員会委員長が展覧会場正面のリボンを却って開会式を終った。次に開会式において正力原子力委員会委員長が述べた祝辞を掲げる。

第1回日本アイソトープ会議の祝辞

 本日、ここに、日本原子力産業会議、毎日新聞社および日本放射性同位元素協会の共同主催により、第1回日本アイソトープ会議を開催せられるにあたり、所感の一端を申し上げる機会を得ましたことは、私の最も喜びとするところであります。

 そもそも原子力の平和利用は、昨年8月ジュネーヴで開催された国際連合主催の原子力平和利用国際会議を契機として全世界にわたって積極的に推進され、わが国においても、本年に入るとともに官民一致の体制で原子力の平和的利用に踏み出し、各産業部門においても、この研究と利用とが最近特に重要な問題としてとり上げられるようになりましたことは、わが国の発展に大きな意義を有するものと確信いたします。

 原子力の平和利用は、御承知のとおり、原子力を動力源として原子力発電等に利用し、わが国の産業経済の発展を図るとともに、原子炉によって生産されるアイソトープを、医療、工業、農業等の各分野において利用し、わが国の科学技術の進歩を図ることにありますが、特にアイソトープが将来、ますます広範囲に応用され、わが国の産業を大きく改善するものと推察される次第であります。

 わが国におけるアイソトープ利用に関する研究は、今次の世界大戦による空白によりはなはだしく立遅れの状況にありましたが、昭和25年以降アイソトープが輸入されるにおよび各方面にわたって急速に進み、着々その研究成果を得て産業の振興と国民生活の改善に寄与しつつあることは喜びにたえません。

 この時期にあたり、アイソトープ利用の知識とその成果の普及を図るため、第1回日本アイソトープ会議が開催されることは最も時宜を得た企であって、今日までの研究成果が発表されるとともに展覧会が開催され、いかにアイソトープがわれわれ国民生活に無限の応用分野を有するかを一般に認識させることは、誠に意義深いことと考えるものであります。

 願わくば、今回のアイソトープ会議を契機といたしまして、わが国におけるこの研究と利用が一層普及促進され、わが国の産業の振興、ひいては国民生活の福祉向上に多大の貢献をすることを期待して祝辞といたす次第であります。

  昭和31年8月15日

    原子力委員会委員長

      科学技術庁長官 正力 松太郎