国内核原料資源調査の概要

 わが国のウラン、トリウムの産地は従来30箇所以上も知られているが、これらはいずれも花崗岩にともなうペグマタイ脉、またはこれらに起因する漂砂鉱床中に産するが、過去において資源として採掘されたことはなく、わずかに一部のものが第2次世界大戦中に採掘されようとしたにすぎない。したがって従来ウラン、トリウム鉱床としての資源調査はほとんど行われず、わずかに鉱物学的な調査研究がなされていたに過ぎない。このような状況のもとに昭和29年から急に資源調査予算が決定し、工業技術院地質調査所において全国的な調査が開始され、従来知られていた福島県、岐阜県等のペグマタイト鉱床の詳細な調査のほか、地質鉱床学的見地から未知の型の鉱床の発見につとめた結果、昭和30年度において注目すべき新鉱床の存在が明らかとなった。このようにして地質調査所においてはさらに昭和31年度から3ヵ年計画のもとに、国内資源の基礎的な探査を実施することとなった。

 31年度には新しい調査技術を十分駆使し得るようにつとめ組織的に基礎調査を行う方針のもとに、主要地域には多種多様の調査技術をもって総合的に調査する予定である。

 地質調査所の29、30両年度のウラン資源調査費は次のとおりである。

   (1954)  (1955)  (1956)

   29年度  30年度   31年度

  6,765千円 31,992千円 100,000千円

 主要調査地別の成果

1 福島県水晶山地域

(1)当地域は、第一水晶山、第二水晶山、五十嵐鉱山、大内鉱山、共栄鉱山の五つの地区に分けられる。

 このうち、大内鉱山地区は、比較的石英の多いペグマタイトで、鉄雲母・長石等がすくないからこれに関係あるウラン鉱物等の量は多くない。したがってウラン鉱床の対象になるのは、他の4地区である。

(2)これらのペグマタイト鉱床は、その中心部に石英を有し、周囲に向って長石類、文字花崗岩と変り、母岩の花崗岩に漸移(部分的には比較的明瞭な境界を示すところもある。)する。長石類は、正長石、斜長石、パーサイト等が肉眼的に観察され、ウラン鉱物をともなうのは概してパーサイトの部分に多いようである。また、文字花崗岩中には概してペグマタイトの型と同心円的に鉄雲母が濃縮して産する部分があり、これら鉄雲母にウラン鉱物を含有する。すなわち、ウラン鉱石の対象となるのは、前記パーサイトの一部と鉄雲母との2種である。

(3)当地域鉱石、岩石の品位および鉱物を示すと、次のとおりである。

 第一水晶山坑内鉄雲母では最高0.250%Uを示し、その他0.06%から0.19%までのものがあり、第二水晶山坑内パーサイト、共栄鉱山露頭パーサイトおよび共栄鉱山坑内パーサイトでは最高0.910%Uを示し、その他の例では0.006%から0.33%までのものがあり、五十嵐鉱山坑内鉄雲母では0.05%Uのものが認められた。

(4)主成分鉱物としては石英、長石(正長石、パーサイト、斜長石)鉄雲母副成分鉱物としては石榴石、鉄クネーベル石、黄鉄鉱、輝水鉛鉱、ウラン鉱物その他の稀有元素鉱物としてはトロゴム石、フェルグソン石(この2種のみ肉眼でよく見える)閃ウラン鉱(瀝青ウラン鉱)褐簾石、阿武隈石、変種ジルコン、ゼノダイム、ガドリン石、イットリア石、テンゲル石等である。

2.福島県石川町地域

(1)石川町は福島県石川郡にあり、地質調査所が調査(昭和29,30年)したおもな所は同町猫啼周辺である。

 ウラン、トリウムその他の稀元素鉱物を含むペグマタイト鉱床は閃雲花崗閃緑岩申に胚胎し、3主要鉱体と数個の露頭が認められる。

(2)坑内外の地質鉱床調査ならびに試錐調査の結果、主要鉱体の規模(確認)は次のとおりである。

(3)鉱床の内部構造は一般に不規則であるが、主成分鉱物の組合せ、その結晶粒度等からやや明瞭な帯状構造がみられる。

(4)放射能鉱物は主として鉄雲母および長石の濃集した部分に認められ、ジルコン(Zircon)、褐簾石(Allanite)、フェルグソン石(Fergusonite)、サマルスク石(Samarskite)、ゼノタイム(Xenotime)、モナズ石(Monazite)、燐灰ウラン鉱(Autunite)、燐銅ウラン鉱(Torbenite)がある。これらの鉱物は一般に粗粒で、その80%が20メッシュ以上である。

(5)鉱床内におけるウランの濃集状態はきわめて不規則であるが、3主要鉱体について代表的な試料26個を採取し、その化学分析を行なった結果は次のとおりである。

a 主として長石>石英≧鉄雲母よりなる部分では、最高0.16%U、最低0.001%Uで、0.01%U前後のものが多く、
b 主として長石>石英よりなる部分では、最高0.003%Uから10万分台以下、
c 主として長石<石英からなる部分および細粒文象花崗岩の部分では、いずれも10万分台のUとしては認められなかった。

(6)鉱石自体はいわゆる雑鉱であり、かつウラン鉱石としでは低品位である。しかし、良好な長石および硅石が鉱体の主体をなしておりまたウランのほかにトリウム、ニオビウム、タンタラム、ジルコン等の有用な諸稀元素鉱物を含有している。

(7)本鉱床群の経済的な取扱いに当っては、上記のように多角的な地下資源という立場で考慮されるべきであろう。したがってこの地のペグマタイト鉱床に対しては、さらに試錐等によって鉱床規模を規制するとともに、鉱石の選鉱、製錬の研究が推進されることが望ましい。

3 岐阜県苗木地域(ログガホッタ地区、纐纈山地区、西大洞地区)

(1)本地域を構成している地質は黒雲母花崗岩と、これに不整合に被覆している第三紀層および現世層に属する砂、礫、粘土から成る。

 この現世層は現在の川の作用により推積したもので、これが苗木地方の砂鉱床である。調査した3地区の特徴は

 (イ)纐纈山は第三紀層の比較的広い分布、(ロ)西大洞は第三紀層から供給されたと思われる石英斑岩の岩層類の分布である。

(2)D.C.P. およびフィリップス放射能測定

 器を用いて放射能強度を測定した結果、強度のものから黒雲母花崗岩、第四紀層(鉱床が賦存している)、第三紀層の順序であって、ウランの砂鉱床の場合には本測定器は使用価値に乏しいことがわかった。

(3)ウラン鉱床は黒雲母花崗岩およびこれをつらぬくペグマタイトが風化し、その中に若干含まれている含ウラン鉱石が沈積した砂鉱床で全地区の第四紀層の砂礫特に胚胎している。

(4)今回放射能鉱物として認められたものはモナズ石、恵那石、苗木石、フェルグソン石、ジルコン、ゼノタイム、サマルスキー石で、この他錫石、磁鉄鉱、チタン鉄鉱などを産する。放射能鉱物中量的に多いのはモナズ石で恵那石がこれにつぎ、他のものは微量である。粒度別の重鉱物の含有量の特徴は、

a 40〜60メッシュの粒度が最も多い。
b 苗木石、フェルグソン石がある場合、20メッシュ以上に多量に存在する。
c モナズ石、恵那石ば普通20メッシュ以下に存在する。
d ジルコンは100メッシュ以下に多量に存在する。

(5)各重鉱物の量的組成は、地質により支配される。すなわち第三紀層の分布する部分では磁鉄鉱、チタン鉄鉱が多量となる。錫石と放射能鉱物との比率は地質の差による差はほとんどない。

(6)品位は原鉱で0.000〜0.003%Uを示し、水ヒ精鉱品位は0.08%Uていどである。鉱物組成からウランよりむしろトリウムが多いことが考えられる。なお、埋蔵量については目下検討中である。

4 岡山県倉敷北緑地域

(1)三吉鉱山は岡山県倉敷市内、倉敷駅の北方約2.5km附近にある。

(2)鉱山附近の地質を構成するのは上部古生層とこれをつらぬく黒雲母花崗岩である。

(3)鉱床は黒雲母花崗岩中の錫−タングステン−石英脉でグライゼンをともない、脉幅は5〜20cmでまれに1mに達し、グライゼンの幅は20〜50cmで一部には4mに達する部分もある。鉱脉の方向はNlO°〜25°WでNEへ70°〜90°傾斜する。これ等の鉱脉は東西約400m南北約600mの範囲内に無数に分布しているが、三吉鉱山地区の北方にもなお連続するものである。

(4)ウラン鉱物は、昭和29年8月、岡山大学逸見助教授によって、三吉鉱山鉱区内のタングステン石英脉の廃石申から発見された砒銅ウラン鉱で、その後同鉱区内の他の箇所、および隣接地区においても、産出することが知られた。

 金属鉱床にウラン鉱物がともなわれる例は日本において三吉鉱山が最初のものであり、また三吉鉱山の鉱床と類似の鉱床は中国地方に沢山あるから、地質調査所では、砒銅ウラン鉱の起源を求めるために本地域の調査を行った。

(5)第1次調査は昭和30年6月に行われ、調査期間は約2週間、調査区域は三吉鉱山をほぼ中心とする東西約5km、南北約4.5kmの間であって、庄鉱山、三吉鉱山、藤田鉱山、都窪鉱山、吉備鉱山、真備鉱山等のタングステン石英脉を稼行する鉱山および長石を採掘している山手鉱山を含み、主として放射能強度分布の測定を行った。

 第2次調査は同年8月〜9月の約30日間にわたって行われたもので、三吉鉱山鉱区内の鉱床の精密調査を行って、鉱脉分布状況を明かにし、砒銅ウラン鉱を産する鉱脉を確認した。

 また、第1次調査終了後に、東京大学片山教授および地質調査所所員2名によって、三吉鉱山、藤田鉱山九連寺坑の坑内調査が行われた。

(6)これ等の調査の結果、これまでに明らかにされたことは次に述べるとおりである。

a 花崗岩の放射能強度は、地域的に変化がある。
b 石英脉およびグライゼンは花崗岩にくらべて放射能強度が高く、また、グライゼンは石英脉にくらべて放射能強度の高いことが多い。
c 砒鋼ウラン鉱はまれに石英脉中にも認められるが、ほとんど大部分はグライゼンの中に存在している。
d 4坑脈および11坑脈の露頭において採取した試料100個について行った分析の結果は次に示すとおりである。これらの試料には肉眼的には砒銅ウラン鉱は認められなかった。

(7)なお、今後は、三吉鉱山の鉱脉の下部、および三吉鉱山区の北方区域について調査を行うことが望ましい。

5 鳥取県小鴨鉱山および人形峠地域小鴨鉱山およびその周辺地域を30年8月から3回にわたり調査を実施したが、現在までの.段階では次のことが言える。

(A)小鴨鉱山周辺

(1)小鴨鉱山本ピのほか、4つの平行露頭が新しく発見された。その試料分析結果は次のとおりである。

(2)発見された各露頭部ではいずれも同一方向性すなわちN60°〜70°Eを示し、また赤鉄鉱化作用が明らかに認められる。

(3)小鴨鉱山から西南西の走向方向にも約2,000mの延長まで露頭が散見されている。その一部の露頭では燐銅ウラン鉱と考えられるウランの2次鉱物が存在する。

(4)各露頭は破砕帯、断層等のある地質学的な弱線上に雁行配列している傾向がみとめられ、これは今後の探査の重要な鍵の1つになると考えられる。

(5)小鴨鉱山坑内における観察によれば、ウラン鉱脉は幅0.1〜2.5mの著しい脉幅変化があり、鉱脉の延長は約150m連続している。さらになお連続していることは確かであるが、昔の稼行当時本脉の延長を見誤って、他の支脉を追跡したと見られる。

(6)富鉱部は現在までの調査では坑口向けに下方に落しているように考えられる。

(7)鉱脉全体の平均品位として62試料の総平均として0.037%Uであったが、部分的に採集した品位では、最高0.84%を検出している。

 なお探鉱に当り手選鉱を行えば平均0.1%以上のものを採集することは可能と考えられる。また鉱脉中に薄膜状をなす2次性物質を分析した結果34%U、6%P、0.6%Pb、0.04%Cuが出ている。

(8)初生鉱物と考えられるものはオートラジオグラフ法などにより存在を確めつつあり、微細なためまだ決定されていないが、近々に確定の段階にある。

(9)小鴨鉱山附近の地化学探査は、共生する亜鉛を指示元素として、ウラン鉱床の存在を推定することが可能であることが判明した。

 すなわち、小鴨鉱山のウラン鉱は鉛、亜鉛等の硫化鉱物と共存し母岩および土壤中には亜鉛はほとんど存在しないので、流水土壤中に著量の亜鉛を検出すれば硫化鉱物の存在が推定され、したがってウラン鉱の存在も推定できるわけである。昭和30年度の調査で数ヵ所の異常点を検出したが、それらを剥土の結果新鉱脉を発出することができた。

(B)人 形 峠

(1)鳥取県と岡山県の県境をなす人形峠附近では黒雲母花崗岩体を基盤とする含ウラン水成岩層が発達している。

(2)岩層は下部より砂礫層(2〜3m)、褐鉄鉱層(0.1〜0.2m)、帯赤褐色頁岩層(0.1〜0.2m)、砂岩層(0.2〜0.3m)、灰白色頁岩層(0.4〜0.5m)に大別される。砂岩、頁岩の互層には植物化石を顕著にともないまれに亜炭の小片をまじえる部分がある。

 堆積時代は上部中新統または鮮新統と考えられる。

 最下部の砂礫層は玄武岩、ヒン岩、安山岩、石英粗面岩、花崗岩等の礫を花崗岩質の砂で凝結せるものである。礫の大きさは不規則で径0.01mないし0.8mていどで磨耗度は低い。これらの礫は岩質のいかんにかかわらず石目にそって燐灰ウラン鉱と考えられる淡緑色2次鉱物の薄膜(U43%±)をともなっている。

 褐鉄鉱層は径0.05m内外の磨粍された礫を褐鉄鉱の凝結せるもので、これらの礫も石目にそって若干上記同様の2次鉱物をともなう。

 帯赤褐色頁岩は伸延性に富み、小刀で削りカツオ状に剥げる性質がある。砂岩は淡緑灰色で軟質であるが、層理は明瞭に留めている。

(3)最上部の頁岩層は砂岩の薄層を挟有し、赤褐色頁岩層同様に植物化石をともなう。各層における放射能の強度およびU品位は概して砂岩層および赤褐色頁層は高く0.05〜0.08%U、上部頁岩層は0.02〜0.05%Uで全般的に各層毎に均質な品位分布を示している。

(4)本層の一般走向はN5°〜10°でWNEに5°内外の緩傾斜を示す。県道の断崖にそって走向方向に200m内外追跡されるのみで、傾斜延長層厚は試錐その他の方法を講じるまでは不明である。

(5)2次鉱物については判明しつつあるが、砂岩,頁岩互層中の放射性鉱物については目下試験中である。

昭和31年度調査について

 地質調査所においては100,000千円の調査予算をもってエアボーンおよびカーボーン調査によって、特に重要と目される地域に対し放射能強度分布調査を行う。またこれにともなうべき地表概査を実施しカーボーン調査および地質鉱床概査によって既知放射能強度異常地域の重点的概査を行うとともに、主要な既発見鉱床の経済的判定のため基礎資料の獲得提供を図る予定である。

 一方試料の各種試験に必要な諸整備を重点的に行って、調査の実施と成果の判定に遺憾なきを期している。

 なお、鉱山局においては、民間鉱山の探査を推進するため、30,000千円の予算をもって、探鉱坑道、ボーリング等の作業に補助金を交付することになっている。

 また、原子燃料公社においては、企業化探査を実施するため、150,000千円の予算をもって別項「原子燃料公社設立準備の経過」のごとく、8月10日発足の予定である。