国連科学委員会提出資料等の打合せ会

(前号のつづき)

 原子放射線の影響に関する国連科学委員会第2回会議は1956年10月22日から約2週間の予定でニューヨークにおいて開催されることになっているので、この会議の論題となる資料を8月1日までに国連委員会書務局に送付することは前号でおしらせしたとおりである。

 この提出資料の作成の分担、作成論文の内容に関する検討、ならびに国連事務局職員の派遣人選等の議題について6月2日、6月25日の2回にわたりこれに関係する学識経験者および関係各省担当官の打合会を開催したので、その審議結果およびその後の概要をおしらせする。

 まずニューヨークに設けられている原子放射線の影響に関する国連科学委員会事務局の職員としてフランス、カナダ等から派遣されるが、日本からも派遣方の依顛があったので、この打合会議で人選の結果、立教大学教授田島英三氏が選ばれ、本人も承諾され、7月9日東京を出発した。

 次に国連に提出する資料であるが、これは今まで関係各試験研究機関が研究した結果を基礎として各担当者が作成して持ち寄り、これについて内容の検討が行われた結果、次の題目、内容のものが採択され、外務省国際協力局から国連事務局に7月23日に送付された。

原子放射線の影響に関する国連科学委員会第2回会議に提出された資料

1. 日本における大気放射能の系統的観測について    (気象庁)

(内容)日本における放射能の大部分は雨滴によって落下されると考えられるので、雨水の放射能を測定するため、各測候所がG.M.カウンターでβ放射能を測定した。この観測方法、観測成績等について、1955年4月から1956年3月までの1年間の結果を取りまとめて、これについて考察、論説を行ったものである。

2. 日本における空気中の放射能について      田島英三、道家忠義(立教大学)

(内容)日本における気象放射能の測定法、コーヒーポットの性能、天然放射能の経日変化と強さ等を述べ、人工放射能については、1955年3月から現在までの測定結果よりみて2分される。すなわち前者はネバダの実験によるもの(1955.3〜1955.6)、後者は主としてソ連によるもの(1955.10〜現在)であると推定を下した論文である。また放射能と移動性高気圧との関係、電気集塵法の性能および放射能ダストに関する研究についても報告を行っている。

3.日本列島における天然放射性核種の分布について      木村健二郎(東京大学)

(内容)日本の各地における天然放射能の測定を要約し、これに説明を加えたもので、測定した元素はラジウム224,226,228,ラドン220,222,ポロニウム210,218,ビスマス210,212,214,鉛210,212,214等について述べてある。

4.日本にぉける放射性落下物の放射化学分析      木村健二郎(東京大学)

(内容)日本において観測した放射性落下物の放射化学分析に関する総合報告であって、「ビキニ灰」、「長崎の土壊」、「1954年5月、1955年3月、11月の雨水」について放射性物質の化学分析を行った結果とその方法が記載されている。

5. 日本の畜産、養蚕に与えた1954年のビキニ水爆実験の影響      野崎 博(農業技術研究所)

(内容)ビキニ灰を乳牛、山羊、鶏を用い、飼料にまぜて与え、牛乳、山羊乳、鶏卵に検出される放射能を測定した成績である。なお放射能雨にさらされた桑を蚕に与え、蚕の発育、蚕の放射能検出について試験した結果も報告されてある。

6.日本における農作物の放射能汚染について      三井進午(東京大学)

(内容)日本における土壊の汚染と農作物(雑殻、野菜、果樹、桑、茶等)の各作物について汚染の部位とその程度の調査結果とその考えられる汚染の経路(単なる表面汚染、葉面吸収、根からの吸収)について考察を加えた報告である。

7.水域中および水中生物中の核分裂生成物について      檜山義夫(東京大学)

(内容)核兵器実験地域および海流で運ばれた放射能が水中の生物、魚類にどのように摂取され、汚染しているか、これらに対する考察から今後われわれの食生活に重要な関係があることを述べた論文である。

8.最近における少線量放射線の生物学的作用の評価法に関する勧告予報      都築正男(日赤中央病院)

(内容)少線量放射線の人体におよぼす影響について、その一部の例を挙げて注意を喚起した論説である。

 なお、国連事務局から放射能測定に関する米国の技術援助にてっいて通報があった。その通報の内容は次のような事項であって、この米国の技術援助を受けるかどうかについて目下この国内の打合せ委員会でも検討中である。

合衆国が国連に提案した放射線測定の技術援助の内容

1.合衆国政府あるいは専門部局に対し申出があればフォールアウト標本の採取施設の設立を援助するため6ヵ月間のペーパーとスタンドの供給

2.国連科学委員会に報告するための採取されたフォールアウト標本の処理、データーの分析

3.現在分析に必要な施設を持たない加盟国の申出に対するSr90,Cs137,その他の核種の化学分析の引受

4.分析技術を比較するための標準サンプルの交換