原子力委員会

原子力開発利用長期基本計画策定上の問題点

(前号のつづき)

 目下原子力委員会を中心として策定中の原子力開発利用長期基本計画の検討資料として、策定上の問題点を前号に掲げたが、その後、原子力委員会、同参与会、学術会議のほかにも広く各方面の意見をきくため、これまでに考慮されている考え方の主要なものを列記し、広く長期計画の基本ラインについて検討していただくこととした。

原子力開発利用長期基本計画策定上の問題点に対する考え方

1.総括的事項

a 原子力開発利用の目標は発電用、船舶用のいずれを重視するか、または平行的に考えるべきか。

(1)原子力開発利用の目標はここ当分の間、発電用に重点をおく。

理由: 発電用の原子炉は、天然ウラン、濃縮ウラン、プルトニウムのいずれを使用することも可能であるが、船舶用は濃縮ウランを用いる方がよく、プルトニウムについてはなお研究をかさねる要がある。

(2)船舶用についても発電用と平行して研究する。

理由: わが国の地理的条件にかんがみ、船舶推進用の原子炉は必要不可欠であるので発電用と平行して船舶用も研究を進める要がある。

b アイソトープの生産は、特にこれを重視しアイソトープ生産用原子炉設置の可否および時期は如何。

(1)アイソトープ生産用原子炉の設置は必要で天然ウラン重水炉(国産第1号炉)をこれに充当する。

(2)アイソトープの生産および利用の専用炉を輸入して設置する。

c 核融合の研究は、原子力研究所において行うか、他の機関において行うのが妥当か。

(1)核融合の研究は、まだ基礎研究の段階であるので原則として原子力研究所においては行わず、他の機関たとえば原子核研究所または学校等において研究を実施することとする。

(2)原子力研究所において核融合の研究を平行的に行う。

理由: 原子力研究所の性格が基礎的研究はもちろん、原子力の発電、船舶用等の動力源の研究、アイソトープの研究生産も行うこととなっている現状にかんがみ、原子力研究所において核融合の研究を行うことは妥当と考える。

d 原子炉を中心とする研究は、原子力研究所中心で集中化することとなっているが、大学民間等にも平行して研究用原子炉設置を考えてよいか。

(1)原子炉を中心とする研究は、大学、民間等においても平行して実施するものとし、研究用原子炉の設置については、原子力委員会において原子力研究所の設置状況とにらみ合せて決定するものとする。

(2)原子炉を中心とする研究は原子力研究所中心で行うが、大学、民間等にもできるだけすみやかに研究用原子炉を設置するものとする。

e エネルギー需給見通しと原子力開発利用(発電)計画との関連において、基礎研究、応用研究、実用化研究、商業化の段階を踏んで行くべきか、基礎研究、応用研究のグループと実用化研究、商業化のグループとを切り離し平行して研究を行うべきか。

(1)原子力開発利用(発電)計画については基礎研究、応用研究のグループと実用化研究、商業化のグループ等を切り離し、平行して研究を行うものとする。

 ただし、最初の動力実験炉の設置については、多分に経済的、技術的その他のリスクをもっているので、原子力研究所に設置するのが妥当である。

理由: 十数年の立遅れを見ているわが国の原子力開発状況にかんがみ、すみやかに技術の修得を図るための措置として平行的に研究を実施するものとするが、基礎研究についても、将来の国産化にそなえて積極的に実施する。

(2)原子力の開発利用(発電)については、基礎研究、応用研究、実用化研究、商業化の順序を踏んで実施すべきである。

理由: あらゆる科学技術の根幹をなすものは基礎研究であり、この基礎的な研究を十分に行うことなく商業化への段階を踏むことは、立ち遅れているわが国の原子力開発に更に遅れを生ぜしめる原因となる恐れがある。しかも、わが国の電力需給の状況から見てここ10年前後は既往の水火力の発電方式によって需給バランスをとりうるものと考えるので、この間に原子力の研究開発は相当の進歩を見ることができると考える。

f 原子力開発利用計画策定上エネルギー需給見通しの占める限度如何。

(1)原子力開発利用計画策定上エネルギー需給見通しの占める限度については、英国等の例から見ても、必ずしも需給状況にとらわれる必要はなく、新しい発電方式として水力、火力発電所と平行的に考えるべきである。

(2)わが国の国情からして大きな資本の投下を要する事業についてはいきおい国において計画的に投資する方向にあり、特に原子力のごとく全く新しい技術についてはなおさらであるので、一種の計画経済的な面を打ち出さざるを得ない、と考える。

 したがってこの意味においてエネルギー需給の見通しのいかんによって、原子力発電の時期と容量を策定し、この線にそって研究を進めて行くべきである。

(3)エネルギー需給の見通しによれば、いずれにせよ既往の国内エネルギー資源の不足は避けられないので、将来エネルギー需給の逼迫にともない輸入原料に依存せざるを得ないが、この場合に問題となるのは、輸入エネルギー源として石油と原子燃料とが考えられ、いずれを輸入した方がよいかが問題で、この際コスト上の面と外貨の面とから考える必要がある。

 原子燃料が国内で十分産出できれば問題はコストだけとなろう。

2.原 子 炉

a 実験用原子炉設置計画に関連して、大学の研究の用に供すべき原子炉はスイミングプール型が適当なりや、この場合、関西方面の大学と立教大学が差当り問題となる。

(1)大学の研究の用に供すべき原子炉は、最初のものとしてはスイミングプール型が適当である。

理由: 原子力研究所に設置される原子炉はウォーターボイラー型およびCP−5型であるので、原子力研究所と重複しない原子炉としてはスイミングプール型が推奨できる。

(2)大学の研究の用に供すべき原子炉は大学側の自由に表明された意思にもとづいて決定すべきである。

理由: 本来大学ば統制的な面にしばられることなく自由に研究すべきものであるので、この点から見て大学の自由意思にもとづいて決定されるのが妥当と考えられる。(ただし濃縮ウランの利用の面では制約を受ける。)

b 原子力研究所に施設する第2号炉はCP−5型であるが、中性子線束密度は1014ていどの高度のものに固執するか否か。

(1)原子力研究所に施設される第2号炉は、熱中性子線束密度を1014ていどとする。

理由: 第2号炉の目的のおもなものは、原子炉用の炉材料のテストである。

 この際、CP−5型あるいはORR型というような特定の型に限定する必要はない。

(2)原子力研究所に施設する第2号炉はCP−5型に固執し、1014ていどには固執しない。

理由: 原子力研究所に施設される第2号炉の目的のおもなものは原子炉についての技術者の訓練であるので、炉材料のテストを犠牲にしてもCP−5型を採用すべきである。

c 国産炉設置の目的としては国内設計技術の確立、関連産業の技術の育成、アイソトープの生産を主とすることの可否。

 国産炉建設の時期、容量(1,000kW、10,000kW、100,000kWオーダーの3種類が考えられる)、型(天然ウラン重水型、天然ウラン黒鉛型が考えられる)は如何。

(1)国産炉設置の目的は国内設計技術の確立関連産業の技術育成およびアイソトープの生産を主とする。国産炉建設の時期は、昭和34年度末とし、熱中性子線束密度1012〜1013、型は天然ウラン重水型とする。

理由: 設計については、昭和29年度以来同上の仕様にもとづいて設計技術の修練が実施されている一方、補助金委託費による国産材料の製造技術の確立も同上の仕様にもとづいて進められていることによる。

 ただし、動力実験炉がコールダーホール型となれば、天然ウラン黒鉛型の研究もこの際考えるべきであろうか、この場合黒鉛の原料は輸入(石油、コークス)にまたなければならないという欠点がある。

(2)輸入による動力実験炉によって関連産業の育成、設計技術の確立、実用的な技術の助長を図ることとし、その後において国産の動力実験炉を建設する。

d 国産炉設置後において動力実験炉を施設することの可否。

 設置場所は原子力研究所か、民間か、あるいは平行して設置するか、平行の場合は何基とするが可なりや、またその時期および容量は如何。

 動力実験炉は輸入か国産か。

 輸入の場合はその後において動力実験炉の国産化を考えるべきか。

(1)国産炉設置の後において動力実験炉を施設することとし、設置場所は原子力研究所とする。民間の動力炉設置は、その後となるよう配慮することとするが、この炉については関西を優先し、関東については初期の段階は原子研究所に依存することとする。原子力研究所に設置する動力実験炉は輸入によることとするが、国産で間に合う材料等は極力国産のものを使用することとする。

 その時期は発註から納入までの期間をおおむね4ヵ年とみて、昭和32年度末までに発註し、36年度未完成をはかるものとする。容量は経済ベ−スにのりうる最低限度の容量とする(コールダーホール型ならば電気出力100,000kW、濃縮ウラン型ならば50,000kWていど)。以後において設置される動力実験炉については原子力研究所に設置される動力実験炉の成果をみて極力国産の材料、技術に依存するよう努力するものとする。

(2)国産炉設置後において動力実験炉を輸入によって施設することとし、設置場所は原子力研究所とする。民間の動力炉設置は原子力研究所の動力実験炉の成果を見た上で発註することとする。

(3)国産炉設置後において動力実験炉を国産によって施設することとし、設置場所は原子力研究所とする。民間の動力炉設置は、原子力研究所の動力実験炉の成果を見た上で発註するものとする。

3.原子燃料

a 国産原子炉は天然ウランと考えてよいか。

(1)国産原子炉(実験用)の燃料は天然ウランとする。

b 動力実験炉は天然ウラン(この場合プルトニウムの生産が問題となる)によるべきか、濃縮ウランによるべきか。

(1)動力実験炉は、国産原子炉の設計技術を活用する意味において、天然ウラン型とする。

(2)動力実験炉は天然ウランの需給状況および濃縮ウランの海外放出計画(20ton)ならびに国際連合機関のその後の動き等を勘案して濃縮ウラン型とする。

c トリウムの貯蔵を考慮する必要性の有無およびトリウム動力炉の設置を考えてよいか、設置するとすればその時期、容量は如何。

(1)トリウムの貯蔵については将来トリウム動力炉の設置が必要となると考えるので、燃料公社をして買上げの措置を講ずることとしたならば如何と考える。

 トリウム動力炉の設置については、その前段階としてトリウム型原子炉(実験用)1基を建設する必要があると考えるので、国産原子炉(実験用)設置後において研究用のトリウム型原子炉を原子力研究所に建設することとする。

 これに必要な高濃縮ウランは海外に依存せざるを得ないが、その時までにプルトニウムの貯蔵ができればそれを用いることを考える。

(2)トリウム原子炉は当分研究段階とする。

理由: トリウム動力炉設置の最終目的は増殖型であるが、海外情報によれば10年前後の間は増殖型の発電原子炉は技術的に不可能と考えられることによる。

(3)トリウム型原子炉の研究はこれを積極的に実施し、将来のわが国の動力用原子炉の主体をなすよう配慮する。

理由: アジア地域に産出されるトリウム原鉱は、将来実用に供されることとなろうが、トリウムを使用する原子炉の研究を重点的に実施している国は現状においては見当らない。

 立遅れているわが国において特異性のある原子炉の研究としてトリウム原子炉を進めることとする。

4.炉 材 料

a 減速材として重水を考えるべきか、黒鉛を考えるべきか、

(1)減速材としては重水を適当と考える。

理由: 黒鉛については、現在の技術をもっては原料を海外から輸入する必要があるが、重水は国内における水素源を有効に利用できるのでこの点有利である。

 天然ウラン黒鉛型は、ウラン量においても黒鉛の量においても、天然ウラン重水型に比較して相当多量になるという欠点がある。

(2)減速材としては黒鉛を適当と考える。

理由: 黒鉛は重水に比較して安価で、製造方法が容易であり、電極用等の材料(石油、コークス)は現在でも輸入している。

b 重水の製造方法は当分の間交換反応法と回収電解法によることとしてよいか、その他の方法は調査研究の段階と考えてよいか。

(1)重水の製造方法は交換反応法と回収電解法によることとし、その他の方法については同上の方式に附加して有利となる面の研究を重視することとし、その他の研究は調査研究の段階とする。

(2)重水の製造方法は水素液化蒸溜法を最重点的に採用する。

理由: 将来、減速材として重水型発電炉一点張りで進むこととするならば、コスト上最も安い同上の方法がよい考える。この場合回収電解法は高濃縮の段階において必要である。

c 重水、黒鉛、遮蔽材料等の炉材料の生産設備中には、新設するものが多い上に相当の資金を投資する必要があるので、設備の規模が問題となる。炉の建設計画と関連した規模で考えるか、炉材科そのものの経済ベースで考えるべきか、なお買上政策を考慮することの可否。

(1)重水、黒鉛、遮蔽材料等の炉材料の生産設備については、将来生産用の工場を建設する際に必要な最低限度の技術の開発は政府において極力育成方策を図るものとする。製造設備以降の問題については、買上助成等の保護政策を採り、企業の育成を図る。

5.アイソトープの利用

 すみやかにアイソトープセンターを原子力研究所に施設することとするが、その取扱範囲如何。

(1)アイソトープの利用についてはすみやかにアイソトープセンターを原子力研究所に施設するものとし、その取扱範囲は主として炉の直前において行う研究、きわめて放射性の強いアイソトープを使用する研究および放射性同位元素の利用に関し共通的、基礎的な研究ならびに放射性同位元素の生産、輸入、頒布、技術者の養成訓練等の範囲とする。

6.廃棄物の分離利用および処理

a ケミカルプロセスィングの研究は原子力研究所、実施は原子燃料公社と考えてよいか。

(1)燃料の再処理の研究は差当りは原子力研究所、実施は原子燃料公社とし、将来は研究、実施ともに原子燃料公社とする。

b 廃棄物については、積極的に分離利用を図ることとするが、処理についてどう考えるべきか。

(1)廃棄物については、積極的に分離利用を図る。

7.放射線障害防止

 国立放射線医学総合研究所に医療用原子炉を設置することについては、放射線医学総合研究所の事業内容等とにらみ合せて、その必要性および時期を決定することとする。

8.機械装置については極力国産化を図る。

9.燃料の加工については極力国産化を図るが、間に合わない場合は、輸入によるか、燃料の加工を海外に依存する。

備考 障害防止、廃棄物の処理についての影響は、国として十全の策を購ずるとともに、放射線障害防止法を制定して万全を期する。

  ○印は問題として計上されていないもの。