日本原子力研究所法について

1 設立目的

 わが国における原子力の開発は欧米諸国に比し著しく立ち遅れているため、これを早急に取りもどすために、さきに原子力基本法が制定され、原子力に関する研究および実験その他原子力の開発促進に必要な事項を行わしめるため原子力研究所を置き、また核原料物質および核燃料物質の採鉱、精錬、管理等を行わしめるため原子燃料公社を置くこととなった。

 日本原子力研究所は、この原子力基本法の精神に従って設立されるものであり、原子力の開発に関する研究等を総合的かつ効率的に行い、原子力の研究開発および利用の促進に寄与するために多額の資金を投入して設立されるものである。しかし原子力開発の研究には多額の経費を要するものであり、原子力の開発に関する研究のすべてを研究所において行うことは資金的にも困難であるので、既存の各研究機関と互にその研究の分野を分け合って資金の効率的な利用を図る一方、相互に研究の協力を行うことによってより急速に研究を推進することが必要であり、またそのためにはこの研究所が原子力研究のセンターとなって研究を総合的に推進して行かなければならないものとしている。

2 研究所の性格

 研究所はこの法律にもとづいて設立される法人であって、商法上の会社でも、民法法人でもなく、後で述べるように半官半民の特殊法人となっている。

 研究所の性格については、法律審議の途中公社案、国立研究所案などがあり、種々の経緯を経て現在の形態に落ちついたものであり、法律上の監督方法等については公団の場合と類似しているが、出資者を国または地方公共団体に限っている公団に対して、研究所は民間出資を受け入れている点が異なっており、そのため利益処分として分配をすることも可能となっており、この面からは日本銀行と類似した形態となっている。

 研究所がこのような特殊法人となった理由のおもなものは、研究に未知の分野が多いため運営に弾力性を持たせる必要があること、数すくない原子力の研究者、技術者を集めるためには相当の待遇をする必要があること、民間の研究機関と協力しやすい形態である必要があることなどであり、公社ないし国立研究所ではこれらの必要を満たすことは困難であると考えられたからである。

3 資本および出資者の権利

 研究所の資本は政府および政府以外の者からの出資を仰ぐこととなっているが、政府以外の出資者はほとんどが民間企業であり、地方公共団体からの出資は予定されていない。

 民間からの出資は全く自由であり、外国人、外国法人または外国人に支配されている国内法人等からの出資についてもなんらの制限規定は設けられていない。ただ、民間からの出資額の総額は、政府からの出資額を起えることがききないことになっている。

 研究所の設立に際しての資本金額は4億9,800万円であって、このうち2億5,000万円が法律にもとづく政府の出資分であり、民間出資2億4,800万円のうち1億5,000万円が電気事業者からの出資となっている。研究所の資本金額はその業務の性格が常に資産を増加する必要がありながら、自己収入によってこれを建設することが困難である点から見て、年々累増して行くことが必要であると思われ、この増加資本の調達については、資金需要が多く、収益性が少ないことからその相当部分を政府出資に仰ぐことが必要となろう。

 研究所は出資に対して出資証券を発行する午ととなっている。出資証券は、その譲渡については特に研究所の承認を要せず、名儀書換のみでよいこととなっており、この面でも出資者に対する制約は行われていない訳である。

 出資者の権利として法律上与えられているものは、予算、事業計画、資金計画および財務諸表の送付を受ける権利と、経営上利益が生じた場合に、内閣総理大臣の認可を受けた範囲内で利益の分配を受けることができる権利との二つのみであり、しかも後者については民間出資は政府出資に優先して分配を受けうることとはなっているが、研究所の性格から見て多くを期待することは難しいものと思われる。研究所には、出資者総会等の出資者の意見を反映させる機関もなく、役員の人選、定款の変更、資本金の増加等についても、いずれも政府が公益の代表者としての立場から認可するものとしており、このような研究所の運営に対する出資者の発言権は全く認められていない。

4 業  務

 研究所は原子力の開発に関する研究等を行うため設立されるものであり、そのために原子炉の築造の研究を中心として次のような業務を行うこととなっている。

(1) 原子力に関する基礎的研究を行うこと。
 研究所が行う基礎的な研究は、あくまでも原子力の開発のために必要とされる範囲内のものであって、個々の研究がこの目的のためになされるものであり、目的を限定しない真理探求のための今の研究は大学等にまかせるものとしている。

(2) 原子力に関する応用の研究を行うこと。
 原子力を平和的に利用する方法を研究し、これを実用化するための手段を一般に提供することが研究所の主要業務であり、この意味から原子炉築造の研究はもちろん、放射性同位元素利用の研究、放射線障害防止の研究も含めて、広く応用の研究を行うこととなっている。

(3) 原子炉の設計、建設及び繰作を行うこと。
 研究所が行う原子炉の建設および操作の範囲については、法律上はなんら制限されていないが、一応動力用実験炉の建設および操作までを予定しており、営業用発電炉については、その建設のための研究および設計までは行うとしても、その建設および操作は今のところ予定しておらず、将来解決されるべき問題として残されている。

(4) 原子力に関する研究者及び技術者の養成訓練を行うこと。
 原子力の開発を今後急速に推進するための担い手を作りだすため、研究所の諸設備を活用して研究者および技術者の養成訓練を行うものである。

(5) 放射性同位元素の輸入、生産及び頒布を行うこと。
 研究所は、原子炉により放射性同位元素の生産を行い、自らの研究に使用するほか、一般に頒布してその利用に供することとなっており、そのため強力な放射性同位元素の取扱装置を備えるので、これを活用して、国外からの輸入の取扱も行えることとなっている。

(6) 原子力に関する資料の収集を行うこと。
 原子力に関する内外の資料を収集整理して所内で使用するほか、広く一般に開放してその利用に供することを予定している。

(7) 第一号から第三号までに掲げる業務に係る成果を普及すること。
 研究所が各種の研究機関と協力して原子力の開発に関する研究を効率的に推進するためには、互にその研究を交換する必要があり、特に研究はその中心となるものであるから進んで研究等の成果を公開することとしている。

(8) 前各号に掲げるもののほか、研究所の目的を達成するため必要な業務を行うこと。
 研究所が原子力の開発を目指してその業務を行って行く上において、今後予想されない事態が生じることも考えられるので、その必要が生じたときは、認可を受けて新業務を開始することができることとしている。
 研究所はまたその業務に関して研究の委託または受託を行うことができることになって
いる。

 研究所は今後以上の業務を遂行して行くわけであるが、研究所の業務の運営は、原子力委員会の議決を経て内閣総理大臣が定める原子力の開発および利用に関する基本計画にもとづいて行われなければならないこととなっている。

5 役員、顧問および職員

 研究所の役員は、理事長1名、副理事長1名、理事5名以内および監事2名以内よりなり、役員はすべて出資者によって任命されるのではなく、内閣総理大臣により任命されることとなっている。なお、副理事長、理事の任命についても、研究所の業務の重要性から理事長に任せられていない。

 また、原子力の問題については、みだりに政党政治に動かされないことが望ましく、このためあるていど超党派的性格を持った原子力委員会の同意を得またはをの意見をきいて任命することとなっている。

 役員は研究所の業務に専念できることが必要で、そのため他の営利事業からの隔離が要求され、研究所と取引上の利害関係を有する地位にある者、研究所に政治上の影響を及ぼすおそれのある地位にある者はもちろん役員になれず、また役員がその地位についたときは当然解任されることとなっており、また役員は営利を目的とする団体の役員となったり、自ら営利事業に従事してはならないこととなっている。

 監事を除く役員はいすれも法律上代表権を与えられることとなっており、これらの役員についての一身同体性を守って研究所の業務運営の一体性を確保するため監事を除く役員の任期を同じくし、補欠の役員の任期を前任者の残任期間として一斉に改選を行えるようにしたほか、理事長、副理事長、理事のうち1人でも研究所と利益が反する場合には、これらの者はいずれも代表権を持たず、監事が研究所を代表することとなっている。

 研究所に、前述の役員のほか、その業務の運営に参画させるため、内閣総理大臣によって任命される顧問を置くことができるものとし、顧問は理事長の諮問に応ずるほか、進んで理事長に自己の意見を述べることもできることとなっている。

 研究所の職員は理事長によって任命される。公務員から研究所の職員になった者が再び公務員となる時にも恩給の引継は行われないこととなっており、労働関係では労働三法の全面的な適用を受けることとなっている。

 また、研究所の役員、顧問および職員は、研究所の業務の公共性からみて、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなされることとなっている。

6 財務および会計

 研究所が特殊法人として発足することとなった経緯については、前述のとおり研究所の業務の弾力的な運営を行うことがその主要な論点の一つであったが、弾力的な運営を特に必要とするのは財務および会計に関する事項であり、予算、給与、資金繰り等の問題にその議論が集中された。

 研究所の予算決算の規定はほぼ公団の例にならい、予算、事業計画および資金計画の認可並びに財務諸表の予算の内容、会計処理の原則等についてはすべて総理府令以下の段階にまかせられている。研究所の財務および会計については、財政法、会計法、予決算等の適用がないので、総理府令以下の規定によってその会計の弾力的、効率的な連営を確保できる訳である。

 研究所の予算、決算は、しかしながら政府の認可を受ける予算等がどうしても現金会計的にならざるをえないという点において内部の発生主義の会計と矛盾を生ずるおそれがあり、どのような方法をとってその調整を図るとしてもあるていどの事務の重複を避けることができず、この点他の公団、公庫等と合せて今後解決されなければならない問題点であろう。

 研究所の資金源については、出資金、業務上の受入、政府からの補助のほか、年度内に償還される短期資金の借入、またはその年度をこえた借換が認められているが、長期資金の借入は禁止されている。これは研究所が業務上の収入により償還することが困難で、結局予算の先食いになってしまうからである。

 研究所に対する補助は特定の業務に限って行われるものでなく、人件費、一般管理費等についても補助できることとなっている。

 研究所の経営上の利益及び損失の勉理については、繰越損失を埋めまたは積立金を減額して整理し、その残余は積み立てまたは繰り越して整理するものとし、設立後5年を経過した後利益を生じたときは、損失を埋めた後一定の率で積み立て、その残金を分配することができることとなっている。分配の方法は年率7.5%の分配ができるまでは、民間出資に対−して優先的に分配するものとし、特に民間出資に対して年率5%の分配ができるまでは政府に対しては分配する必要がなく、その後政府に対しても分配を行って、年率7.5%以上の分配を行うときに初めて民間出資と同率の分配を受けられることとなっている。

7 その他

 研究所の定款については、その内容は法律と類似する点が多く、従たる事務所の所在地、役員の代表権の範囲、資本金及び出資に関する事項等が法律の規定以外に実質的な必要的記載事項であり、これらの変更は定款の変更として認可を要することとなっている。

 研究所の解散については別に法律で定めることとしているので、出資者に対する残余財産の分配等の問題についての規定はないが、解散に関する法律制定の際改めて考慮される問題であろう。

 なお、日本原子力研究所法(昭和31年5月4日公布法律第92号)は本誌前月号47ページに記載してあるから参照されたい。