米原子力調査団の質問事項に対する回答

1.アジア原子核センターがはたすべき特定の目的について

 答 原子力平和利用の将来性とアジア地域の一般的科学技術水準の現状にかんがみ、センターの果すべき基本目的は、地域内諸国の原子力開発に必要な人的要素を訓練養成することにおかれねばならない。そのためには、当面最も必要な基礎科学の教育が相当規模で行われるように配慮されて然るべきであると考える。しかし他方、地域内諸国において医学、農業面の改善が至急に要請されていることからみて、基礎科学の教育と平行的に、医学、農業分野とくに農業部門に対するアイソトープの利用のための訓練を重点的に実施することが肝要と考える。

2.センターとコロンボ計画諸国の政府および機関との関係について

 答 センターは地域内諸国の特定の一国の全面的管理を受けることとせず、あくまで地域機関として、各国政府および原子力機関と対等の立場で結ばれるような形となることが望ましいと考える。したがって、センターの運営にはコロンボ計画諸国代表によって構成される特別の管理機関を設置すべきであろう。

3.センターにおける研究および訓練にとって最も有益となるべき物理的な設備について

 答 1.で述べたセンターの持つべき特定目的よりして、当面、基礎科学部門の研究および訓練に有用な、核物理実験設備の充実に意を注ぐとともに、アイソトープの農業、医療分野(とくに農業)への応用のための物理的設備を備えることが緊要と考える。

4.センター用技術器材およびこれを据えつける順序について

 答 技術器材(Technical equipment)の意味が十分明らかでないが、据つけ順序としては、アイソトープ利用研究設備を素粒子加速装置、実験用原子炉および附属研究設備と平行的に施設するのが妥当と考える。

5.センターの職員募集と運営について

 答 センターの職員は、事務職員たると専門職員たるとを問わず、できるだけ地域内諸国でまかなうべきであり、とくに事務職員については然りであるが、専門職員についてはさしあたり地域内で不足する分は米国その他地域外コロンボ計画諸国からの助力を必要とすると思われる。職員の募集については広く地域内各国より行うものとするが、わが国としても職員応募についてはできるだけ援助する考えで、特に基礎物理、農業部門についての専門家の派遣が可能と考えている。なお事務職員はかなり長期間の勤務を行うものとするが、専門職員は期限をあるていど限り、交替制をとるものとする。センターの運営については、2.において述べたごとく、一国の全面的管理下におかず、コロンボ計画の地域機関として各国から派遣される代表による管理委員会の下におき、その指示によって運営されることが望ましい。

6.センターの研究生選抜と訓練について

 答 研究生の選抜は前記管理委員会の定める方針に従って、地域内各国政府から推薦された候補者に対し、センター内におかれる選考会譲がこれを行うものとする。ただし研究生の割当は研究生留学を希望する地域内諸国がすべてできるだけ平等の恩恵を受けられるよう配慮することが望ましい。

 訓練方法については、いわゆる原子炉学校とアイソトープ学校をセンター内に設け二つのコースを平行的に行うのが効果的と考えられる。

7.センターを地域内諸国の最大の恩恵たらしめ、かつその援助を確保するのに必要な処置について

 答 地域内諸国の原子力分野における一般的水準からみて、センターは地域内諸国科学技術者への基礎的訓練の役割を果すことにより、更に将来先進国において進んだ訓練を受けるための基盤をつくるとしたならばいかがかと思われる。その意味においてセンターは地域内諸国の最大公約数的役割を果すことが、各国の積極的協力を確保するための重要な措置と思われるが、新しい性能の高い研究設備を完備し、センター内において十分な研究が自由に行われるようにしなければならない。

 また、センターの運営に必要な経費については、一応参加受益国からの応分の寄付によることが考えられるが、その点、必ずしも大きな期待はもてない。したがって、地域内諸国からの積極的援助を確保するためには、各国の財政負担をできるだけ小さく、各国の可能な面による援助(たとえば土地、建物、設備、機器、人員等)を期待し、運営資金の大部分は引き続き米国の供与を受けることが望ましい。ただし、その場合、米国の資金はコロンボ計画諸国をもって構成される管理委員会を通じて供与さるべきであろう。

 なお、センターの建設および運営が将来円滑に進められるためには、今秋ニュージーランドで開催予定のコロンボ計画諮問委員会より以前に、あるいはその開催時期に上記管理委員会準備会を召集し問題の検討を行うのが良策ではないかと考えられる。

 次いで上記回答に対し調査団と日本側との間に以下のごとき質疑応答が行われた。

(1)回答資料には foundamental Scienseを教育するとあるが、これは数学等の純粋な基礎科学をふくむものか。

 答、それほど広範囲なものを指すつもりはないが、センターの教育がアジア全地域を対象とする比較的低い水準のものとすれば、核物理だけでなくもうすこし広い範囲の関連分野まで教える要があろう。

(2)各国の科学技術レベルが違っているが、それぞれの国の有資格者だけを選ぶか、それとも同じ位の水準のものをとるか。

 答、教育の標準をlowrl evelw

(3)この回答には発電用原子炉についてふれていないが、その点はどうか。

 答、決して動力が不必要とは考えないが、それよりも農業や医学分野におけるアイソトープ利用の方が、この地域ではより緊急に必要と考えたからであるが、動力源がない国もあるから、比較的早い時期に動力試験炉をおくことは結構と思う。

(4)アイソトープの利用について、農業と医学関係が強調されて工業利用にふれてないのはなぜか。

 答、不必要というわけではなく、域内の現状では当初農業、医学分野に重点をおく方が実際的だと考えたからである。

(5)燃料材料の製錬加工とか、重水の研究とか工業分野に属するものもセンターに入れてはどうかという意見が京大であったが、政府としてはどう考えるか。

 答、high classの技術は特定の国しかやっても利用価値がないと思う。かかる問題は徐々にとり入れて行くべきで、センターは本来は学校的なものである方が、地域内諸国に最も多く利用されると思う。

(6)調査団の訪れたコロンボ・プラン諸国の多くは原子力の技術開発に非常に強い希望を抱いている。そのような技術開発も経済開発との関連において必要なので、経済開発が進んでから技術開発へ踏み出そうというのでは時間的におくれることになる。

 答、燃料の分野とか廃棄物の処理とかはあるていどふくめることも考えられるが、重水製造などという問題は別個に考えるべきであろう。しかし核原料の探査のための訓練等は急いで行ってよいと思う。

(7)回答によればセンターの技術スタッフは短期間の契約で募集し、一方事務職員は長期契約でよいとなっているが、われわれは高級技術スタッフは長期契約でセンターに勤めてもらい、その下のスタッフを短期間で切りかえるのがよいと考えている。このような方法はアジアでは困難であるか。

 答、少なくとも日本の実情からいえば困難と考える。

 以上のごとき質疑応答があったのち、フォックス団長から日本側の熱意と協力を謝するむねの挨拶があり、なおこれまでに調査団がまとめてきたセンター建設案のoutlineを描いた書面を近く送付する考えであるので、それについても意見を聞かせてもらいたいとの要望があった。これによってブルックヘヴン原子力調査団と原子力委員会その他政府機関との公式会談を最終的に完了して、一行は6月11日午後6時15分ホノルル経由帰米の途についた。