アイソトープ・センターの構想 昭和25年にアイソトープがわが国に輸入せられて以来、医学、農業、工業等各分野へのアイソトープの利用は年々盛んとなってきたが、欧米の先進国に比しまだ相当のおくれがある。このおくれをとりかえしアイソトープの利用のすみやかな促進を図るため、医学、農業、工業等のそれぞれの分野の研究を推進するほか、アイソトープの各分野における利用の促進に必要な次のごとき共通の業務を行う要がある。 1.アイソトープの生産、輸入、頒布 これらの業務は、日本原子力研究所にアイソトープ・センターを設けて一元的に行うのが適当であると考えられる。 なお高エネルギー放射線による合成繊維、合成樹脂、ゴムの製造法の改良ならびに品質の改善、石油化学への応用、食品の殺菌保存等の研究が欧米において既に数年前から行われているが、これらの研究は施設の整備に多額の費用を要すること、ならびに当該研究施設の多目的利用および将来原子炉から生ずる廃棄物の積極的利用を図ること等の理由によりアイソトープーセンタ一において行うこととし、なおこれらの施設を民間、大学、国立の研究機関等に開放することが必要ではないかと思われる。 以上のような点を考慮してアイソトープ・センターの計画の概要を作成し、原子力委員会のもとに設けられているアイソトープ利用小委員会において現在既に3回にわたって審議が加えられ、次いでアイソトープの利用の促進とアイソトープ・センターとの関係について審議される予定である。 なお6月20日日本原子力産業会議の主催のもとに産業界と原子力委員会委員との間に高エネルギー放射線の利用に関する研究の促進の問題について懇談が行われた。 6月22日の参与会に同計画の概要を提出し、来る7月13日の参与会において意見をきくことになっている。 アイソトープ・センターの計画の概要(案) 31.6.22 1.アイソトープ・センターの構想 1.目 的 アイソトープ・センターにおいては、放射線、特に高エネルギー放射線の利用に関する研究および放射性同位元素の生産、輸入、頒布等の事業を行い、もってわが国における放射線の利用のすみやかな普及と促進を図ることを目的とする。 2.設 置 日本原子力研究所にアイソトープ・センターを置く。 3.業 務 アイソトープ・センターは、1.の目的を達成するため次の業務を行う。 (1)放射線の利用に関する研究 4.組織および所要人員 アイソトープ・センターの組織および所要人員は第2表に示すとおりである。 第2表 アイソトープ・センターの組織および所要人員 5.建設資金
6.その他 (1)設置場所 2.アイソトープ・センターの業務 アイソトープ・センターの業務は次のとおりである。 1.放射線の利用に関する研究 (1)放射性同位元素の性質に関する基礎的研究 2.放射性同位元素の利用に関する事業 (1)放射性同位元素の生産 3.アイソトープ・センターの施設等の概要 1.土地建物
2.持殊装置
参考資料1 高エネルギー放射線による物質変性等の研究について 放射線は、物質の化学反応特に高分子化合物の重合、架橋等の反応を促進し、また殺菌を行うなど著しい作用を有している。 欧米においては既に数年前より高エネルギー放射線による合成繊維、合成樹脂、ゴムの製造過程の改良並びに物理的化学的性質の向上、石油化学への影響、食品の殺菌保存、その他高エネルギー放射線による各種の物質変性等の研究が行われており、米英においては放射線によるポリエチレンの実用化に成功し、また数種の食品の殺菌保存にも成功した。 しかし、外国においても特許の審査に相当の時日を要するので、特許申請中のため研究の状況を知ることができないものが相当あるのではないかと思われるのみならず、既にわが国に対してもこれらに関する特許の申請が行われている点に注意を払う必要があろう。 高エネルギー放射線は、中性子線、ベータ線、ガンマ線等多種類にわたりコバルト60照射装置、粒子加速装置、原子炉が使用せられ、米国においては放射性廃棄物から高エネルギー放射線源を製造する試験工場を建設中であって、医療用、産業用への利用を企てている。 放射線の物質に及ばす作用は化学反応における高温、高圧および触媒の反応促進に相当するものであって、これが化学工業において果す役割を考慮すると、高エネルギー放射線による物質変性等の研究はわが国の工業に将来大きな影響を及ばすものとなろう。 参考資料2 高エネルギー放射線による物質変性関係の外国特許の一例 参考資料3 放射線の利用に関する研究分野についての図表 |