原子力研究用物品の免税

 原子力研究に使用する物品のうち、昭和30年度において委託費を受けて輸入するものについてはかねて昨年秋以来大蔵省と折衝していたところ暫定的に「他処蔵置」の措置がとられていたのであるが、今回「関税定率法の一部を改正する法律の一部を改正する法律」(昭和31年法律第58号)が4月1日付で施行され、また、この法律に基づく「原子力研究用物品の関税の免除に関する政令」が同日付で施行されて正式に免税物品が定められるにいたった。

 以下原子力研究用物品の免税について簡単な解説を試みる。

 まず原子力研究用物品が免税となった主旨は、わが国の原子力研究が昭和29年度に原子力予算2億3,500万円が国会を通過してようやくその緒についたていどで、まだ基礎研究の段階にあり商業採算に乗るにいたっていないので、この原子力研究の早急な進展に資するため免税措置がとられるにいたったのである。

 従来から重要機械類については別に産業用として輸入税免除の措置が取られているが、ウラン・重水等は機械類には該当せず、また、機械類に該当するものであっても産業用とは認められず、別個の免税規定によらなければ原子力研究用物品を免税とすることはできない状況であった。

 原子力研究と一口にいっても定義づけはなかなか困難であるが、関税免税の政令ではその第1条の一〜五号に示すように規定している。

 それでは原子力研究用物品であれば誰が輸入しても免税されるかというとそうではなく、その対象は今回の政令では委託費または補助金の交付を受けた研究の用に供するために輸入する物品に限定されている。つまり同一の研究をA,B2社でやっていてA社が委託費または補助金を受けて輸入する場合には免税になっても、B社が受けていなければ免税にはならないわけである。これは一見不公平で不合理に見えるが便乗的なものの殺到を防止するためには止むを得ない措置であろう。

 政令には更に免税されるべき物品名を指定してあるので更にその物品に該当することが必要である。

 以下法律、政令および免税手続についての大蔵省主税局長通達を資料として掲げておく。

「関税定率法附則12項および13項」

12 法の別表に掲げる物品のうち、政令で定める原子力の研究の用に供されるもの(新規の発明に係るものまたは本邦において製作することが困難と認められるものに限る。)については、政令で定めるところにより、昭和32年3月31日までに輸入され、その輸入の許可の日から2年以内に当該研究の用以外の用途に供されないものに限り、その関税を免除する。

13 前項の規定により関税の免除を受けた物品をその輸入の許可の日から2年以内に同項に規定する用途以外の用途に供した場合においては、同項の規定により免除を受けた関税を、直ちに徴収する。

 ただし、政令で定めるところにより同種の他の研究の用途に供した場合は、この限りでない。

政令第80号 原子力研究用物品の関税の免除に関する政令

 内閣は、関税定率法の一部を改正する法律(昭和29年法律第42号)附則第10項及び第11項の規定に基きこの政令を制定する。

 (免税すべき物品の指定)

第1条 関税定率法の一部を改正する法律(以下「法」という)附則第10項の規定により関税を免除する物品は、次に掲げる研究でこれについて政府が委託費または補助金を交付したものに使用するため輸入する物品で、別表に掲げるもの(以下「原子力研究用物品」という)に限る。

一 原子炉の設計、築造若しくは運転のための研究又は原子炉用の原材料の製造のための研究
二 核原料物質の開発のための研究又は核燃料物質の生産若しくは再処理のための研究
三 原子炉、核原料物質、核燃料物質又は放射性同位元素(その化合物を含む。)の利用のための研究
四 前3号の研究に伴う放射線障害の防止又は放射性の廃棄物の処理のための研究
五 前各号の研究のため直接使用する装置、機械又は器具の製造のための研究

 (輸入手続)

第2条 原子力研究用物品について関税の免除を受けようとする者は、当該物品の輸入申告に際し、品名、型式、数量、価格、製造者、前条各号に掲げる研究の題目、使用の目的及び使用場所並びに当該物品が新規の発明に係るもの又は本邦において生産することが困難なものである理由を記載した申請書を税関長に提出しなければならない。

 2 前項の申請書には、当該物品が政府から前条各号に掲げる研究について委託費又は補助金の交付を受けて輸入するものである旨の内閣総理大臣の証朗書を添附しなければならない。

 3 原子力研究用物品の輸入申告は、政府から前条各号に掲げる研究について委託費又は補助金の交付を受けた者の名をもってしなければならない。

 (使用状況の報告)

第3条 税関長は、必要があると認めるときは、関税の免除を受けた原子力研究用物品の輸入者に対して、当該物品の使用の状況に関する報告書の提出を求めることができる。

 (用途外使用の申告)

第4条 原子力研究用物品の関税の免除を受けた者が当該物品をその関税の免除を受けた研究の用以外の用に供しようとするときは、その輸入地を所轄する税関長にその旨を申告しなければならない。

 (用途外使用の場合において関税を徴収しない場合)

第5条 原子力研究用物品の関税の免除を受けた者が、その輸入の許可の日から2年以内に、その免除に係る研究を終了したこと等により当該物品をその研究のために必要としなくなった場合において、当該物品を第1条各号に掲げる研究でこれについて政府から委託費若しくは補助金の交付を受けないものの用に自ら供し、又は同条各号に掲げる研究について政府から委託費若しくは補助金の交付を受けている他の者の当該用に供させたときは、法附則第11項ただし書の規定によりその関税を徴収しない。

 2 原子力研究用物品の関税の免除を受けた者が当該物品を前項に規定する用に供し、又は供させようとするときは、当該物品について前条の規定により申告する際に、当該物品が同項の規定に該当するものである旨の内閣総理大臣の証明書を提出しなければならない。

    附 則

 この政令は、昭和31年4月1日から施行する。

別 表

1.放射線計数装置(比例計数管を用いるものに限る。)
2.  レートメーター
3. シンチレーションカウンター
4.シンチレーションサーベーメーター及び電離槽式サーベーメーター
5. コンデンサー式レントゲンメーター及びこれに用いる電離槽
6. 3弗化硼素比例計数管及びガスフロー式比例計数管(附属のアルゴン・メタンガスを含む。)
7.アントン計数管
8.波高選別装置
9.記録スペクトロガンメオメーター
10.シンチレーションディテクター(中性子用のものに限る。)
11.沃化ナトリウムシンチレーター、沃化リチウムシンチレーター及びプラスチックシンチレーター
12.記録電位計(100億分の1アンペア以下の電流を記録することができるものに限る。)
13.オシロスコープ(立上り時間が10億分の15秒以下のものに限る。)
14.パルス発振装置(2重パルス式のものに限る。)
15.光電子増倍管(シンチレーションカウンター用のものに限る。)
16.小型電位計用真空管(グリッド電流が10兆分の1アンペア以下のものに限る。)
17.小型高抵抗(抵抗値が1,000億オーム以上のものに限る。)
18.前各号に掲げる物品の部分品
19.ガラスフィルター(第15号に掲げる物品の試験用のものに限る。)
20.放射性同位元素(コバルト60(Co60)、燐32(P32)、硫黄35(S35)、沃度131(I131)に限る。)及び核分裂生成物
21.ラジウム・ベリリウム中性子源
22.臭化亜鉛(放射線のしゃへい用のものに限る。)

  昭和31年5月1日

           殿

大蔵省主税局長 渡辺喜久造

原子力研究用物品の関税免除に関する政令の取扱について

「原子力研究用物品の関税免税に関する政令」(昭和31年政令第80号)の取扱については下記によられたい。


 (原子力研究用物品の免税の範囲および手続)

1.原子力研究用物品の免税の範囲及び手続については次によるものとする。

(1)原子力研究用物品として関税の免除が受けられる物品は「原子力研究用物品の関税の免除に関する政令」(以下「政令」という。)の別表に掲げるものに限ること。

(2)原子力研究用物品として関税の免除が受けられる研究の範囲は、政令第1条各号に掲げる研究で政府から委託費又は補助金の交付を受けた研究に使用するものに限ること

(3)政令第2条第1項に規定する申請は原子力研究用物品の関税免除申請書(税関様式T第1460号)により2通(輸入地を所轄する税関と使用場所を所轄する税関とが異なるときは3通)提出させること。

(4)関税を免除した場合には、その関税免除申請書のうち1通は会計検査のための証拠書類として税関に保存し、他の1通は輸入の許可後各月分を取りまとめ翌月15日までに到着するよう本省に送付すること。(該当するものがない場合はその旨報告のこと)なお本省送付用の申請書には輸入申告番号、輸入の許可年月日、別表の適用番号、税表番号及び税率、到着価格、免税額を朱書することとし、政令の別表第18号の場合にはそのものが何号の部分品に該当するものかを明示すること。

(5)政令第2条第2項の規定により申請書に添付を要する内閣総理大臣の証明書に証明する権限は、近く科学技術庁組織今の制定に伴い科学技術庁原子力局長に委任される予定であるから同局長の証明したものによること。(別添第1参照)

 なお当分の間は内閲総理大臣の証明書によること。(別添第2参照)

(6)申請書に記載する「研究の題目」には、輸入者が政府から委託費又は補助金の交付を受けた研究題目を記入させること。また同一物品を使用して委託費または補助金の交付を受けた他の研究を併行して行うときは、その研究題目も記入させること。なお「使用の目的」には前記の研究題目より更に具体的に研究題目のうちの如何なる用途に使用するかを記入させること。

(7)政令第2条第3項に規定する免税の申請及び輸入申告は政府から委託費又は補助金の交付を受けた者の名をもってさせること。この場合において交付を受けた者と研究実施者とが異なるとき(たとえば日本学術振興会が委託費又補助金を受け、各大学の教授等において研究を実施する場合)は研究実施者をも注記すること。

(8)政令第3条に規定する使用状況の報告については輸入の許可後2年以内は適宜な方法により使用状況を把握すること。

 (原子力研究用物品の用途外使用)

2.原子力研究用物品について用途外使用の場合の取扱は次によるものとする。

(1)原子力研究用物品をその輸入の許可の日から2年以内に次に掲げる用途に使用するときは法附則第10項に規定する用途外に供したものとはならないから当該物品についての関税は徴収しない。

イ、政府から委託費又は補助金の交付を受けた研究に使用している原子力研究用物品を、当該物品について免税を受けた者が政令第1条各号に規定する他の研究について委託費又は補助金の交付を受けているものに使用するとき

ロ、政府から委託費又は補助金の交付を受けた研究に使用している原子力研究用物品を免税を受けた者以外の者が政令第1条各号に規定する研究でその研究について委託費又は補助金の交付を受けているものに使用するとき

 (2)政府から委託費又は補助金の交付を受けた研究に使用している原子力研究用物品を、当該研究の終了した等の理由により必要としなくなった場合において、法附則第11項及び政令第5条の規定により次の場合は関税を徴収しない。

イ、委託費又は補助金は交付されないが免税を受けた者が引続き当該研究に使用するとき

ロ、免税を受けた者が自ら政令第1条各号に規定する研究で委託費又は補助金の交付を受けていない研究に使用するとき

ハ、免税を受けた者以外の者が政令第1条各号に規定する研究について委託費又は補助金の交付を受けている場合において、当該研究以外の政令第1条各号に規定する研究に使用するとき

(3)上記(2)の場合における用途外使用の申告は原子力研究用物品用途変更申告書(税関様式T第1470号)により2適を提出させ、支障のない場合は、その1通に承認の旨を附記して申告者に返還すること。

(4)政令第5条第2項の規定により用途外使用の申告の際に添付を要する内閣総理大臣の証明書は、前記1の(5)と同様に科学技術庁原子力局に委任される予定であるから同局長の証明したものによること。(別添第3参照)


(別添第1)


(別添第2)


(別添第3)