第1章 原子力開発利用の推進をめぐる諸課題
1章原子力開発利用の推進をめぐる諸課題

2.核燃料リサイクルを中心とした国内動向

(1)核燃料リサイクルを始めとする国内動向
 エネルギー資源に恵まれない我が国で,将来にわたりその経済社会活動を維持・発展させていくためには,将来を展望しながらエネルギーセキュリティの確保を図っていくことが不可欠である。このため,我が国は,エネルギー供給構造の脆弱性の克服に貢献する基軸エネルギーとして,原子力開発利用を推進している。
 ウラン資源の有限性については,かねてから指摘されており,確認可採埋蔵量を年消費量で除すると43年との計算結果(IAEA,経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA*):1993年)もある。しかしながら,現在の軽水炉で利用されているウラン235は天然ウラン中に約0.7%しかないものの,残りのウラン238は原子炉の中で中性子の照射を受けることにより,新たな燃料であるプルトニウム239に変換される。我が国では,このことに着目し,使用済燃料を再処理し,生成したプルトニウムや燃え残りのウランを回収し,再び燃料として使用する核燃料リサイクルを目指しており,このことによりウランの大半を,エネルギー源として有効に利用することが可能となる。
 この核燃料リサイクルの確立に向けた努力は,現在着実に進められている。特に,現在青森県六ケ所村では,商業ベースで核燃料サイクル関連の事業が進められており,ウラン濃縮工場は1992年3月に操業を開始し,現在600トンSWU*/年の規模で操業中である。また,低レベル放射性廃棄物埋設センターは,1992年に受入を開始し,高レベル放射性廃棄物管理施設は,1995年4月に受入を開始した。


*OECD/NEA : Organization for Economic Cooperation&Development/Nuclear Energy Agency
*SWU : 分離作業単位(Separative Work Unit)
SWUは,天然ウランを濃縮する際に必要とする濃縮度の濃縮ウランを得るための仕事量を表す単位である。ウラン濃縮度を高めるほど,また廃棄濃縮度を低くするほど,SWUは大きくなる。例えば,約0.7%の天然ウランから4%の濃縮ウランを1トン生産するためには,廃棄濃縮度が0.25%の場合,約5.8トンSWUの分離作業量が必要である。

 使用済燃料再処理工場は,1993年4月に着工し,1997年に事業開始(使用済燃料の受入れ開始)の予定で建設が行われている。(1995年7月末時点での工事進捗率は約9%)
 高速増殖炉(FBR*)は,発電しながら消費した以上の核燃料を生成することのできる原子炉であり,再処理施設とともに将来の核燃料リサイクルの中核をなすものである。
 1985年以来,動力炉・核燃料開発事業団は,福井県敦賀市で高速増殖原型炉「もんじゅ」の建設を進め,1994年4月初臨界を達成した。その後「もんじゅ」は試験運転を重ねてきたところ,水蒸気バイパス系フラッシュタンクの圧力が下降する等の不具合が発生し,フラッシュタンクを改良するなどの措置を講じた。これらのトラブルは,FBR固有の問題ではなく,火力発電所でも起こりうる水蒸気系のトラブルであることから,関係者の一層の慎重な対応が求められる。


*FBR : Fast Breeder Reactor

 「もんじゅ」は,この後,着実に性能試験を積み重ね,本年8月29日に初送電に成功した。今後1996年度内の本格運転開始を目指し,更に試運転を実施していく。
 原子力発電に関しては,本年7月28日,東北電力(株)女川原子力発電所2号機が運転を開始,国内で稼働している原子力発電所は50基となった。我が国の原子力発電がここまで順調に伸びてきたのは,関係自治体,電気事業者等の立地に対する努力や安全確保の積み重ねに加え,国民の理解と協力に負うところが大きい。

(2)新型転換炉実証炉建設計画の見直しについて
 新型転換炉(ATR*)は,プルトニウム,回収ウラン等様々な燃料を柔軟かつ効率的に利用できる特長を持つ原子炉であり,我が国が自主開発を進めてきたものである。特にその開発当初,ATRはウラン濃縮作業量の低減を図るとともに高速増殖炉に対するプルトニウム供給の役割を担うものとされ,近年はそれに加えウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX*)燃料の利用について国内外の理解と信頼を深める上で重要な役割を果たしてきた。
 ATR原型炉については動力炉・核燃料開発事業団が福井県敦賀市に「ふげん」(出力16.5万キロワット)を1979年に運転開始して以来,約16年間にわたり安定的かつ良好な運転を行っている。「ふげん」は単一炉としては世界最大のMOX燃料の装荷実績(1995年5月末までに累積602体)を達成するとともに,再処理によって得られた核燃料を再利用し,我が国で初めて核燃料リサイクルの輪を完結させるなど,我が国の核燃料リサイクル政策を一部先行的に具現化,実証してきた。


*ATR : Advanced Thermal Reactor
*MOX : Mixed Oxide

 「ふげん」に続く実証炉の建設については,1982年に原子力委員会が電源開発(株)を建設・運転主体に決定して以来,電源開発(株)は,青森県大間町を立地地点として,これまで用地買収,漁業補償交渉等の建設準備を進めてきた。昨年5月,漁業補償問題の解決したことを受け,建設費等の見積もりの見直しが行われたが,その結果建設費が当初見積もりの3,960億円から5,800億円に,また発電原価は軽水炉の約3倍に大幅に増加することが判明した。
 これを受け,1995年7月11日に電気事業連合会は,経済性の観点から青森県大間町におけるATR実証炉建設計画を見直し,替わりに全炉心MOX燃料利用を目指した135万キロワット級改良型沸騰水型軽水炉(ABWR*)を建設することを原子力委員会等に要望した。
 原子力委員会は,この問題を我が国の核燃料リサイクルの確立を目指す上で重要な問題と認識し,電気事業連合会,電源開発(株),動力炉・核燃料開発事業団,関係地方自治体等の意見を聴取しつつ,各原子力委員が中心となって経済性,核燃料リサイクル,研究開発等の観点から慎重かつ精力的に審議を進めた。
 その結果,原子力委員会は8月25日以下のように決定*した。すなわち,
①建設費については当初の見積もりを大幅に上回り,発電原価が軽水炉の3倍に増加することが判明。計画が10年にわたり1年ずつ延伸され,抜本的な合理化設計が十分にできなかったため,結果として経済性が向上している他の電源と比較して大幅に経済性が悪化したものであること
②MOX燃料を利用する炉としてのATRの役割等は,軽水炉によるMOX燃料利用計画等により代替される環境が生じてきつつあり,その状況が当分の間継続する見通しであること
 等から,大間地点におけるATR実証炉の建設計画については,これを中止することが妥当であるとの結論を得た。
 また,ATR実証炉に代わる計画については,
①核燃料リサイクル計画上ATR実証炉の役割を代替でき,将来の発展性を有すること
②早急に立ち上がる技術的見通しがあり,かつ経済性を有すること
③プルトニウムの需給バランスが確保されること
 との3つの観点から,全炉心MOX燃料装荷可能なABWRが代替計画として適切であると判断した。


*ABWR : Advanced Boiling Water Reactor
*「資料編」の「2.原子力委員会の決定等」を参照

 さらに,ATR関連の研究開発の今後の取組については,将来の核燃料の需給動向の変化に備え,プルトニウム,回収ウラン等を柔軟かつ効率的に利用できるATRの特長を活かしていくための調査・研究を,核燃料リサイクルの進展に資する研究開発の一環として進めていくことが適当であるとした。原型炉「ふげん」等の関連施設の活用方策を含め関連の研究開発の具体的進め方については,関係機関間で早急に検討を進める。

 原子力長期計画にも示したとおり,将来のエネルギーセキュリティーを考えるとき,核燃料リサイクルの着実な展開を図ることが必要であり,今般の見直しに際しても,その基本の堅持を再確認した。この核燃料リサイクルの具体化を図るに当たっては,当面の重要課題となる軽水炉によるMOX燃料利用,さらに将来の核燃料リサイクル体系の中核となる高速増殖炉の開発及びそれを支える再処理等の計画を,原子力長期計画の方針に従い,官民総力を挙げて着実に取り組んで行くことが必要不可欠である。
 今回の決定は,研究開発の成果を十分実用化につなぐことができなかったという点において,原子力委員会にとっては残念なものであったが,今回の見直しに至った経緯を率直に反省し,そこから得られた教訓をこれからの原子力開発利用の進展のために的確に活かしていくことが肝要である。
 特に,今後大型技術開発の実用化を進めるに当たっては,
①研究開発主体と建設・運転主体が一体となって開発活動を実施する体制を整備すること
②進捗状況に応じて計画を評価し所要の措置を適時的確に講じていくための体制を構築すること
等が重要である。これらについて,今後とも原子力開発利用に係る関係者の努力を求めるとともに,原子力委員会としても適切に対応していくこととなっている。


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