第I部 総論
第2章 エネルギー情勢等と内外の原子力開発利用の状況

8.原子力開発利用の推進基盤の強化

 我が国の原子力開発利用の一層の進展のためには,研究開発資金・人材の確保,研究開発体制の整備等の研究開発推進基盤の強化が重要である。
 1993年度の政府の原子力関係予算は前年度比104.1%の約4,436億円,うち科学技術庁分が前年度比約102.7%の約3,236億円,通商産業省分が前年度比約108.3%の約1,144億円,その他が前年度比約109.7%の約55億円であり,一方,産業界における原子力関係支出高(1991年度実績)は,電気事業で約1兆8,258億円(うち研究開発費は約480億円),鉱工業で約1兆8,713億円(うち研究開発費は約820億円)などとなっており,また,研究開発関連資金の確保に当たっては多様な手段を用いるとともに,研究開発計画の遂行に当たっては,研究開発の効率化,資金の効率的な活用に努めることとしている。
 人材の確保に関しては,今後の原子力開発利用の拡大に伴い必要となる人材の充実を図る,とともに,原子力研究開発の国際化に対応するため,各種国際協力への我が国関係者の積極的な参加,国際機関への幅広い人材の派遣等を行っている。1992年3月末現在,原子力産業における技術系従業員数は約3万3,600人,政府関係研究開発機関における研究者・技術者の数は約5,400人となっている。また,人的資源の面でも産学官の連携が重要であることから,政府関係研究開発機関においては,民間及び大学との積極的な人材交流を行っている。
 原子力関係の研究者・技術者の養成については大学の果たす役割が大きく,原子力発電所等の技術者については,民間において所要の人材を確保し,基本的には民間自身による養成訓練が主体となっている。
 国による人材の育成訓練としては,日本原子力研究所及び放射線医学総合研究所において,技術者・研究者を対象とした研修を行っているほか,放射線取扱主任者資格指定講習など資格取得に関する講習会を実施しており,また,公的研修機関として(社)日本アイソトープ協会,(財)原子力安全技術センター等においても同様の研修が行われている。これらの研修では,原子力研究開発機関はもとより,地方自治体の職員や大学関係者,民間企業等からも幅広い参加を受け入れている。
 しかし,今後,我が国では近年の出生率低下を背景に,生産年齢人口(15〜64歳の人口)は1995年から減少すると予想されており,労働力市場全般における人材不足が懸念されている。特に,1992年12月には内閣総理大臣から科学技術会議に対し科学技術系人材の確保に関する基本指針について諮問がなされるなど,青少年の科学技術全般への関心の低下という現象が指摘されており,中でも原子力への関心の低下が目立つなど,今後着実に拡大する原子力開発利用に対応する人材の確保は極めて重要な課題となってきた。
 このため,原子力委員会は学生及び教員等の原子力分野への就職・進学に関する意識調査を行うなど,原子力分野における人材確保及び育成等について検討を進めている。
 研究開発体制については,現在,主な原子力関連研究開発機関として,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,理化学研究所の3つの特殊法人,放射線医学総合研究所,金属材料技術研究所等の国立試験研究機関,(財)電力中央研究所,(財)核物質管理センター,(財)原子力環境整備センター及び(財)原子力発電技術機構等の公益法人があり,これらを始めとした研究開発機関がそれぞれの役割と技術を活かし,効率的な官民協調体制を形成している。また,原子力の創造的・革新的領域の研究開発を中心に,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,国立試験研究機関及び大学が人的交流,共同研究の実施等を通じ,有機的連携を図ることによって,研究開発推進基盤を強化している。


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