平成5年版
原 子 力 白 書 平成5年11月
原子力委員会
平成5年版 原子力白書の公表に当たって 20年前の石油危機は,私たちに地球の有限性を思い起こさせました。
地球人口が増加を続ける中で,人類の生存基盤であるエネルギーをいかに確保するかという問題に対処するために,私たちは,原子力や新エネルギーの研究開発のみならず省エネルギーなど様々な努力を重ねてまいりました。しかし,今日こおいても,我が国の一次エネルギー供給の8割以上は海外に依存しており,依然としてエネルギーの安定供給確保は重要な政策課題です。
私は,去る8月9日,科学技術庁長官及び原子力委員会委員長に就任いたしました。細川新内閣は,エネルギー政策などの基本重要政策については,原則として従来の国の政策を継承することを方針にしています。
エネルギー供給における原子力の果たすべき役割は,極めて重要です。既に我が国の総発電電力量の3割近くを担っている原子力は,エネルギーの安定供給確保を図る上で不可欠であり,安全の確保を前提として,今後とも着実にその開発利用を進めていく方針です。
また,原子力発電を進めていく以上,原子炉の中で生成するプルトニウムの利用は避けて通れない問題です。我が国はエネルギー資源が乏しく,長期的かつ地球的規模のエネルギー安全保障を考えれば,核燃料サイクルの確立によるプルトニウム平和利用を,着実に進めていく必要があります。このため,青森県六ヶ所村の再処理工場建設や福井県敦賀市で進めている高速増殖炉「もんじゅ」の計画など,平和目的に徹し,安全確保に最大限の努力を払いつつ取り組んでいるところです。
国際社会では,東西冷戦の終結に伴い,大規模な核兵器の削減の動きが進展する一方で,核不拡散のための体制の維持・強化に一層の努力を傾注することが求められており,我が国にとって,国内はもとより,国際的にも理解を得て,核燃料リサイクルに取り組んでいくことがますます重要になっています。
また,原子力発電だけではなく,がん治療などへの放射線利用,核融合などの先導的な分野について進展が見られています。
現在,原子力委員会では,このような内外の情勢変化を踏まえ,原子力開発利用に関する指針の大綱と基本的な施策の推進方策を示す原子力開発利用長期計画の改定に取り組んでおり,各界の意見に耳を傾けつつ,これらの原子力をめぐる内外の諸課題に適切に対応できる計画の策定を進めています。
私は,安全の確保は原子力開発利用の大前提であり,最優先に取り組むべき分野と考え,就任以来,多くの方々と原子力安全をめぐる諸問題について議論してまいりました。原子力開発利用に当たっては,慎重かつ厳重な安全審査ときめ細かな多段階規制を行い,安全第一で臨んでいますが,政府としては,原子力をめぐる各様の論議をしっかりと受け止めつつ,この安全確保についての取組に万全を期し,また情報の公開や対話を通じて国民のみなさまに一層の御理解と御協力を頂くことが重要であると考えています。
以上の認識に立ち,本書においては,核不拡散をめぐる国際的な情勢やそれについての我が国の対応,原子力開発利用長期計画の改定に向けた取組など,原子力についての様々な現状を,できる限り分かりやすく紹介するように努めました。特に,この中で重要である我が国の原子力開発利用における核燃料リサイクルの意義と位置付けについての考え方を整理してみました。さらに,国民のみなさまの一層の御理解の増進など,原子力をめぐる今後の課題について取りまとめるとともに,この1年間における我が国の原子力開発利用の進捗状況について記述しました。
本書が,広く国民のみなさまが原子力開発利用に関する理解を深められる際の一助となれば幸いです。
平成5年11月9日
国務大臣 科学技術庁長官 江田 五月 原子力委員会委員長
本書の構成と内容 本書は,この1年の原子力全般に関する動向を取りまとめたものである。
第I部「総論」においては,核不拡散の動向などの核燃料リサイクルを取り巻く内外情勢について説明した上で,我が国の原子力開発利用における核燃料リサイクの位置付けについて記述している。また,最近のエネルギー情勢,世界主要国のおける原子力発電の状況,我が国における原子力発電,放射線利用等の原子力開発利用の推進状況等について取りまとめた。
第II部は「各論」として,「原子力発電」,「安全の確保及び環境保全」,「核燃料リサイクル」,「新型動力炉の開発」,「原子力バックエンド対策」,「核融合,原子力船及び高温工学試験研究」,「放射線利用」,「基礎・基盤研究等」,「国際協力活動」「核不拡散」,及び「原子力産業」について,それぞれの最近の動向を中心に具体的に説明している。
第III部は,「資料」として,原子力委員会の決定,原子力委員会委員長談話,原子力関係予算及び年表等をまとめた。
なお,原子力開発利用については,安全の確保が大前提であり,原子力安全委員会,安全規制当局,研究開発機関,電気事業者,メーカー等は国民の期待に応えてそれぞれの立場で安全の確保に努めている。
それについては,別に「原子力安全白書」において取り扱われているので,本書においてはその詳細に立ち入ることは避け,原子力委員会に関する基本的事項にとどめることにした。
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