第I部 総論
第2章 エネルギー情勢等と内外の原子力開発利用の状況

7,原子力分野における基礎研究・基盤技術開発の推進

 原子力は今後の科学技術の発展を図る上で1つの核となり得る分野であり,基礎研究の充実等を推進してきたところであるが,原子力分野におけるニーズの多様化・高度化に対応し,かつ創造型研究開発を指向し,積極的な国際貢献を果たしていくためには,来るべき21世紀に必要とされる原子力技術体系を構築していく必要があり,原子力開発利用の基盤を形成する技術及び飛躍的発展をもたらす先導的な研究開発を産学官の密接な連携・協力の下に推進している。
 原子力の基礎研究については,研究者の自由な発想を重視し,今後ともより一層の充実を図っていく必要があるが,現在,我が国は,12基の研究及び教育のための原子炉を有し,日本原子力研究所,大学及び国立試験研究機関等が,炉物理,核物理及び放射線化学に関する研究,放射線に関する生理学的・生物学的研究,燃料・材料の照射試験等,幅広く,創造的成果に向けた研究を行っており,1992年おおむね1年間に国内の学会誌,図書及び特許等に掲載された原子力関連論文数は4,200件余に達している。特に,日本原子力研究所は,1993年,原子力分野における基礎研究の推進を図るとともに原子力分野に限らず他分野の発展を先導する研究を展開することを目的とした基礎研究センターを設立し,当面,放射場科学,重元素科学及び基礎原子科学の3領域を中心とする研究を実施することとしている。
 原子力基盤技術に関しては,21世紀に向けて原子力技術体系の飛躍的発展を目指し,1988年度から,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,理化学研究所及び国立試験研究機関を中心に,原子力用材料技術,原子力用人工知能技術,原子力用レーザー技術及び放射線のリスク評価・低減化技術の4領域の技術開発が行われてきた。1992年度現在,17研究機関において56課題の研究開発を実施しており,それぞれの領域において優れた成果を挙げている。
 また,これら基盤技術開発のうち,多岐にわたる技術要素から構成されており,複数の研究機関のポテンシャルの結集が必要な研究については,「原子力基盤技術総合的研究」(原子力基盤クロスオーバー研究)というシステムにより,関係研究機関の連携・協力による効率的・効果的な研究開発が行われている。
 さらに,1993年4月,原子力委員会基盤技術推進専門部会は,これまでの原子力基盤技術開発活動の推進状況や科学技術の新たな進展等を踏まえ,基盤技術開発の新たな推進方策を取りまとめた。この中では,当面,前述の4領域についてなお一層の研究の深化を図るとともに,放射線ビーム利用先端計測・分析技術,原子力用計算科学技術及び原子力分野における人間の知的活動支援技術という3つの新しい技術領域を取り上げ,その積極的な推進を図ることとしている。


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