第I部 総論
第2章 エネルギー情勢等と内外の原子力開発利用の状況

世界のエネルギー需要は,1983年以降増加の一途をたどっており,特に開発途上国のエネルギー需要増大が顕著である。この傾向は将来にわたっても継続すると考えられているが,石油の供給には制約がある。また,電力に関しても,世界全体としては消費量が増加してきており,特にアジア地域等の開発途上国における伸びが著しい。世界の電力需要は,今後も平均年率2.8%の伸びで推移するものと見込まれている。国内のエネルギー需要も着実な伸びが予想されるが,他の先進諸国に比べて脆弱なエネルギー供給構造であり,エネルギーの安定供給確保を図ることが極めて重要である。このような中で原子力のエネルギー供給に果たす役割はますます重要になってきている。
 地球環境問題への対応といった観点からも,発電の過程で温室効果ガスや硫黄酸化物,窒素酸化物といった酸性雨の原因物質を排出しない原子力は重要である。
 原子力をめぐる世界の動向としては,1993年6月末現在,世界で416基,3億4,390万キロワットの原子力発電所が稼働しているが,我が国やフランス等が引き続き原子力の導入に積極的に取り組んでいるのに対し,米国では1993年1月にクリントン政権が誕生し,長期的には原子力のオプションを支持するものの,原子力への依存度は現状以上とすることについては反対としており,将来についての選択肢として原子力を残すべきとしている。
 国内においては,1993年に4基の原子力発電所が運転開始したことにより,46基,3,736万1千キロワットの原子力発電所が運転中となっている。1992年度の我が国における総発電電力量(電気事業用)に占める原子力発電の割合は28.2%であった。また,核燃料サイクル事業については,青森県六ケ所村の核燃料サイクル計画が再処理工場の建設という大きな進展を見るとともにウラン濃縮,低レベル廃棄物処分の各事業は,操業を始めている。
 放射線利用の面では,近年,加速器施設等の先端的研究施設が整備されつつあり,また,生活者の立場を重視した科学技術の活用が要請されているため,この観点からの放射線利用の貢献も大いに期待されている。
 また,我が国は国際的にも原子力開発利用の推進において中心的な位置を占めつつあり,核不拡散と平和利用の両立を図りつつ,国際対応・協力を進めていくことが求められている。研究開発分野における先進国との協力においては,我が国の研究開発の成果を広く世界に還元していくことが重要になっており,開発途上国に対しては,我が国の技術と経験を活かした積極的な国際協力を推進することが必要である。
 また,原子力の先導的プロジェクトとして,国際熱核融合実験炉(ITER)の工学設計活動の進展及び臨界プラズマ試験装置(JT-60)による実験などの核融合研究開発,大型放射光施設(SPring-8),重粒子線がん治療装置(HIMAC)などの加速器技術,高温工学試験研究,原子力船等の研究開発を推進しているところであり,基礎研究・基盤技術開発にも取り組んでいる。
 本章においては,これらの内外の原子力開発利用動向を概観するとともに,資金,人材等の研究開発基盤の強化,原子力関連施設の立地推進,原子力に対する国民の理解の増進についてもその状況を記述する。


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