第I部 総論
第1章 核燃料リサイクルに関する内外の情勢と原子力開発利用長期計画の改定に向けた取組

2,核燃料リサイクルへの我が国の取組と核燃料リサイクルの必要性

1.に述べたように,核不拡散の観点からのプルトニウム利用をめぐる国際情勢は変化が大きく,かつ厳しいものであり,また国際的なウラン需給の緩みや財政的事情などから,国によっては核燃料リサイクルに係る活動が停滞する傾向も生じている。
 しかしながら長期的観点に立てば,核燃料リサイクルはウラン資源の寿命を大きく延ばすことなどから,原子力利用を進める上で,人類にとって必要不可欠なものであり,このような視点に立って,核燃料リサイクルの確立に向けて技術開発を進めることは,将来を展望した国際貢献として,エネルギーの無資源国・多消費国であり原子力分野の技術先進国たる我が国の国際責務と認識することができる。
 我が国においては,核燃料リサイクルは,商業再処理工場が着工するとともに,高速増殖原型炉「もんじゅ」が間もなく臨界を迎えるなど着実な進展を見るに至っており,今後の更なる進展を図っていくに当たっては,1に述べた我が国を取り巻く国際的諸情勢を踏まえ,これに適切に対処していくとともに,国民の理解を得つつ,かつ国際的にも理解を得られるものとして核燃料リサイクルを推進していくことが肝要である。

(1)我が国における核燃料リサイクル関連計画等の進捗状況

①使用済燃料の再処理
 電気事業者が中心となって設立された日本原燃(株)(1992年7月に日本原燃サービス(株)と日本原燃産業(株)が合併して発足)は,フランス等からの技術導入とともに,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場の運転により培われてきた技術蓄積を活かし,青森県六ケ所村において年間800トンの処理能力を持つ再処理工場の計画を進めてきている。1989年3月に内閣総理大臣に提出された同工場に係る再処理事業指定申請については,1991年8月には科学技術庁における行政庁審査が終了,引き続き原子力委員会及び原子力安全委員会に対し内閣総理大臣から諮問が行われたところである。1992年12月には両委員会の答申を得て,同月24日,日本原燃(株)に対し内閣総理大臣から事業指定がなされ,1993年4月に工場の建設が着工された。本工場は2000年に操業開始予定であり,我が国のプルトニウム平和利用において,プルトニウムの供給面で中心的役割を果たすことが期待されている。

 一方,この再処理工場が運転するまでの間,我が国で使用するプルトニウムは,動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場における再処理から得られるもの及び電気事業者がフランス,英国の再処理事業者へ委託している再処理により得られるものを用いることとなる。なお,海外再処理委託については,フランス及び英国と併せて5,600トンの軽水炉燃料及び1,500トンのガス炉燃料の再処理を契約している。

②プルトニウム輸送
1992年11月から1993年1月にかけて,プルトニウム輸送船「あかつき丸」によりフランスから我が国へのプルトニウムの海上輸送が行われた。この輸送は1988年に新しい日米原子力協力協定が締結されて以降最初のものであったが,同協定に基づく実施取極で合意されている回収プルトニウムの国際輸送のための指針に示された措置が的確に実施されて輸送は無事に終了し,この協定の新しい基本的枠組みである「包括同意方式」が円滑に機能することが示された。ここで輸送されたプルトニウム(核分裂性のプルトニウムにして約1.1トン,非核分裂性のプルトニウムを含む酸化物全体として約1.7トン,高速増殖原型炉「もんじゅ」の取替用燃料として使用)は我が国の原子力発電所で発生した使用済燃料を前述のフランスへの再処理委託によって再処理することにより得られたものである。

③高速増殖炉の開発
 高速増殖炉の開発については,動力炉・核燃料開発事業団の高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の建設が着実に進められており,1994年4月の臨界を予定している。なお,「もんじゅ」は1993年10月の臨界を目指して性能試験が順調に進められていたが,1993年6月に発生した同事業団東海事業所の燃料製造設備の作動不良により初装荷分の燃料の製造が遅れることとなったため,臨界も延期された。「もんじゅ」は我が国で最初の高速増殖炉の発電炉(28万キロワット)であり,運転が開始されれば長期的な高速増殖炉開発のための種々の研究開発を行う施設となるため,国際的にもその役割が期待されている。

 原型炉「もんじゅ」の次の高速増殖炉の実証炉計画の進め方については,原子力委員会の高速増殖炉開発計画専門部会において検討が進められている。現行(1987年策定)の原子力開発利用長期計画においては,実証炉の設計・建設・運転は電気事業者が動力炉・核燃料開発事業団との密接な連携の下に,主体的役割を果たすこととし,関連する研究開発については,電気事業者,動力炉・核燃料開発事業団等がそれぞれの役割に即し,整合性をもって進めることとされている。実証炉の設計・建設・運転は,日本原子力発電(株)が行うこととなっており,現在,動力炉・核燃料開発事業団の協力を得ながら,原子炉容器の上部から1次冷却材を流出入させる方式(いわゆるトップエントリ方式ループ型炉)についての概念設計研究の結果を踏まえ,基本仕様の検討を行っている。なお,今後の実証炉計画等高速増殖炉の実用化に向けての進め方については,高速増殖炉開発計画専門部会等の場において検討しているが,前述の原子力開発利用長期計画の改定作業においても重要な課題の一つとして審議している。

④高レベル放射性廃棄物対策の推進
 核燃料リサイクルに当たり,再処理工場において使用済燃料からプルトニウム等を分離する際に生じる高レベル放射性廃棄物については,ステンレス製の容器に安定なガラス状態にガラス固化し,30~50年間程度冷却のための貯蔵を行った後,地下数百メートルより深い地層中に処分することを基本的な方針としている。現在,研究開発については,動力炉・核燃料開発事業団を中心に取り組んでいるところであり,処分については,1993年5月に高レベル事業推進準備会(SHP:Steering Committee on High-Level-Radioactive-Waste Project)が発足した。同準備会は,高レベル放射性廃棄物に関する調査・研究及びその成果の普及・活用等を通じて,国民の理解と協力を得つつ,高レベル放射性廃棄物処分事業の準備の円滑な推進を図ることを目的としている。
 以上のように我が国においては核燃料リサイクルに関連する各計画は着実に進展しつつある。
 核燃料リサイクルは再処理の推進,高速増殖炉の開発など長期にわたる継続的な資金投資と開発努力を要するものであり,今後とも,これらの計画の円滑な進展を図っていくためには,核燃料リサイクルの必要性とその推進のための所要の条件を十分認識して取り組んでいく必要があるが,改めて具体的に示せば次の(2)のとおりである。

(2)核燃料リサイクルの必要性と核燃料リサイクルの推進条件

①核燃料リサイクルの必要性
 核燃料リサイクルは使用済燃料を再処理し,ウラン,プルトニウム等を回収して,核燃料として再利用することであり,リサイクルしなければそのすべてが廃棄物となってしまうものの中から有用なものをエネルギー資源として再利用していくという点に資源論的観点からの意義があるものである。高速増殖炉によって核燃料リサイクルを行うことにより,リサイクルしない場合に比べ数十倍有効にウラン資源を利用できるとされていることから,現在ウランの可採年数は約70年と計算されている*6が,リサイクルによりウランの寿命が千年オーダーに延びることとなる。すなわち,これによって原子力のエネルギー源としての長期的供給安定性が飛躍的に高まることとなる。また,ウラン資源の保護やウランの採掘による環境影響の低減という観点からも良い効果がもたらされることとなる。
 また,核燃料リサイクルによって,有用な資源と放射性廃棄物を分別,回収し,しかも放射性廃棄物の中で放射能レベルの高いものは量が少なく,安定な形態に固化しやすくなり,放射性廃棄物の管理をより適切なものとできる。このような放射性廃棄物の管理の在り方は,我が国のみならず,核燃料リサイクルを選択する諸外国においても環境保護の観点から適切なものとして認識されている。
 核燃料リサイクルの推進に当たっては,再処理,高速増殖炉等の高度な技術が必要であるが,そもそも原子力は高度な技術により少量の資源から大量のエネルギーを生み出すものであり,核燃料リサイクルはこの原子力の特長を最大限に活かすものと言える。このことは,核燃料リサイクルによるエネルギーの供給安定性と経済性は,主に技術の成熟度によって決定されることを示しており,その意味では,原子力,特に核燃料リサイクルは科学技術の活用による技術エネルギーとも言うべきものである。全世界の数%のエネルギーを消費するエネルギー多消費国であり,かつ,科学技術先進国でもある我が国が核燃料リサイクルを推進することは,国際的な責務と認識することができ,また,それにより石油資源等が開発途上国や次世代のために温存されることを考えれば,開発途上国や次世代への貢献でもあると考えられる。


*6 第2章1.(1)①(エネルギー情勢)参照。

②核燃料リサイクルの推進条件
(安全性の確保)
 核燃料リサイクルに限らず,原子力平和利用の推進に当たっては,安全性の確保が大前提であるが,核燃料リサイクルにおいて中心となる物質であるプルトニウムは,α線を放射する放射能の高い放射性元素であり,この点を踏まえた安全性の確保が図られる必要がある。α線は透過力が弱いため,体外での被ばくは問題とならない。一方,燃料に用いられる酸化プルトニウムは消化器系の吸収率は極めて低いものの,吸入により摂取した場合は骨,肝臓及び肺等に長くとどまりα線による影響を及ぼすことが懸念されている。このためプルトニウム燃料製造工場等のプルトニウムを取り扱う施設においては,グローブボックス*7など密閉された容器内で人体と隔離した状態でプルトニウムを扱い,吸入や作業環境の汚染により体内に取り込まないように厳重な対策が採られている。また,核燃料リサイクルの施設である再処理工場,高速増殖炉等については,それぞれの施設の特徴を踏まえ,設計,建設,運転の各段階において厳格な安全規制がなされでいるほか,核燃料物質等の輸送についても厳格な安全規制の下に実施されているところであり,これらの施設の安全性の実績の積み重ねが核燃料リサイクルの円滑な推進の上で不可欠である。


*7 手袋のついた密閉箱。体内摂取のおそれのある放射性物質を中に入れて手袋を通して取り扱うもの。

(核不拡散と透明性の確保)
 軽水炉の使用済燃料から再処理によって取り出されるプルトニウムは,プルトニウム239の濃度が低く,また,高速増殖炉のブランケット燃料等から取り出されるプルトニウムについては,核分裂性プルトニウムの純度を低くして用いられるが,いずれのプルトニウムについても軍事的に機微な物質とみなされている。したがって,核不拡散に対する国際的な関心の高まりの中で,原子力発電に用いる核物質の供給をほとんど海外に依存している我が国において,円滑に核燃料リサイクルを進めていくためには,関係各国からプルトニウム利用に対する十分な理解を受けることが必須であり,我が国が核燃料リサイクルを推進していく上で,計画の透明性に配慮し,核不拡散について厳格に対応していくことが極めて重要である。
 我が国は従来から核兵器の不拡散に関する条約(NPT)を締結し,また,米国等の核物質供給国との間で二国間原子力協力協定を締結し,原子力の平和利用を国際的に約束しており,これらの条約・協定により,我が国のすべての核物質には平和利用を担保するための措置である「保障措置」が義務付けられている(フルスコープ保障措置)。我が国としては引き続き,国際的にも信頼される国内保障措置体制を構築し,厳格な保障措置を国内外へ積極的にアピールすることにより,我が国の原子力活動の透明性確保に対する埋解を深めていくことが不可欠である。さらに,核物質防護条約も締結し,核物質の盗取等による不法な移転等が生じないよう,厳格な核物質防護措置も採られるなど核不拡散のための厳重な核物質の管理がなされている。
 また,IAEA保障措置の強化等の国際的検討及びその実施に対し積極的に貢献しており,我が国が核燃料リサイクルを進めるに当たっては今後とも引き続きこれらへの努力を傾注し,世界の核不拡散体制の強化に貢献していくことが重要である。
 さらに我が国は,核燃料リサイクルの推進に当たって必要な量以上のプルトニウムを持たないようにするとの原則を立てており,この原則に則って整合性のある合理的な核燃料リサイクル計画を示すよう努めているところである。
 全世界に存在するプルトニウムは,ストックホルム国際平和研究所等の試算によれば,1990年末時点で軍事用が約257トンHM,民生用が約654トンHMである。民生用のうち,使用済燃料中のプルトニウムが約532トンHM,分離貯蔵されているプルトニウムが約72トンH M(IAEAが取りまとめたところでは,核分裂性プルトニウムの量は1992年末時点で約86トン),これら以外は核燃料サイクルの工程中に存在しているものである。分離貯蔵されているプルトニウムのほとんどは,英国及びロシア等に存在している。我が国においては1993年6月末時点で,約1.6トンの原料プルトニウム(核分裂性)を保有している。また,この中には1993年1月にフランスより輸送されたプルトニウム(核分裂性)約1.1トンも含まれている。これらの原料プルトニウムは高速増殖原型炉「もんじゅ」の取替燃料等に加工される予定である。我が国におけるこれらの核物質は,前述のように厳格な保障措置が適用されている。
 さらに,米国,旧ソ連における核軍縮の進展に伴い,解体された核兵器から生じるプルトニウム等の核物質の蓄積・貯蔵・利用・処分問題が深刻化することが予想される。また,核燃料リサイクルで利用するプルトニウムは,核兵器級のプルトニウムとは異なり,これにより核兵器を製造することは極めて困難と考えられているものの,将来の蓄積傾向に関して国際的関心が高まっており,IAEAにおいては,プルトニウムの蓄積量予測や適切な国際管理の在り方に関する非公式の検討が進められている。我が国としては核燃料リサイクル計画の透明性を一層確保する等の観点から,このようなプルトニウム国際管理の在り方についての具体的な構想を検討しており,関係国間及びIA EAとも綿密な検討を重ねていくこととしている。

(情報公開及び内外の理解と協力)
 核燃料リサイクルの推進に当たっては,これがプルトニウムの利用を中心としていることから,特段に,国内のみならず国際的な理解と協力が不可欠である。
 国民の理解と協力を得ていくためには,まず,前述のように安全確保に万全を期し,その実績を積み重ねつつ信頼感の醸成を図っていくことが極めて重要である。その上に立って広報活動において事業者,地方自治体及び国等が,それぞれの役割に応じ,また核燃料リサイクルの具体的進展に応じた重点的な取組を行うとともに,積極的に情報公開に努めつつ,正確かつ分かりやすい対応に努めていくことが必要である。
 また,最近の国際情勢ともあいまって,「あかつき丸」によるプルトニウム輸送について,想定された輸送ルートの沿岸諸国から懸念が表明され,この際には沿岸諸国の政府に対して,輸送の必要性・安全性等の説明を行った結果,各国からの公式の抗議はなかった。このように,核燃料リサイクルの推進は核不拡散問題はもとよりプルトニウムの国際輸送など大きな対外的側面を有している。このため,我が国の計画や安全確保策,核不拡散への取組等に関し国際的な理解と協力を得ていくことが一層必要であり,前述の核不拡散への積極的対応や透明性の確保とともに,我が国の政策や計画についての国際的な情報提供が極めて重要である。


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