第I部 総論
第1章 核燃料リサイクルに関する内外の情勢と原子力開発利用長期計画の改定に向けた取組

 天然ウランのうち,核燃料として使用できる核分裂性のウラン235は重量比にして0.7%であり,残りの99.3%は核分裂しにくいウラン238である。原子炉の中では,ウラン235などの核分裂によって生じた中性子の一部がウラン238に吸収され,そのウラン238が核分裂性のプルトニウム239に変換するという反応が起きている。このように,原子炉を運転すれば,その燃料の中にはプルトニウムが必ず生成されており,軽水炉による原子力発電においても,発生する電力の約3分の1はプルトニウムの核分裂によってもたらされている。また原子力発電所から取り出される使用済燃料にはウランやプルトニウム等再び燃料として利用できる物質が多く残されている。このため我が国は,原子力開発利用に着手して以来一貫して,使用済燃料を再処理しプルトニウム等の核燃料物質を回収し再利用する「核燃料リサイクル*1
 を基本方針としてきた。
 我が国においては,この努力が実を結びつつあり,1993年4月には,我が国の核燃料リサイクルにおいて中心的役割を果たすこととなる青森県六ケ所村の再処理工場が建設着工に至るとともに,高速増殖原型炉「もんじゅ」が運転開始に向けて最終段階に入るなど核燃料リサイクルは着実に進展している。
 一方,国際的には冷戦構造の崩壊に伴い,米国,旧ソ連を中心に大


*1使用済燃料を再処理し,生成したプルトニウムや残存ウラン等を回収して再利用すること。

 規模な核軍縮が具体化しつつあるが,これに伴って,解体された核兵器から回収されるプルトニウム等の処理や関連技術の管理等が重要な国際課題として認識されるようになってきている。これらの核兵器削減の動きの反面,北朝鮮,イラクなど非核兵器国である地域的紛争の当事国の中に核兵器開発の疑惑が生じるといった状況も見られており,核不拡散体制の強化が国際的課題となっている。このような状況下で,核兵器の不拡散を図る上での普遍的な国際枠組みである核兵器の不拡散に関する条約(NPT)の延長会議が1995年4月に開催されることとなっており,この問題についての内外の議論が高まっている。
 我が国は,安全の確保に万全を期しつつ平和利用に徹して原子力開発利用を進め,核燃料リサイクルの推進を図ろうとしている。しかしながら,我が国の核燃料リサイクルで利用されるプルトニウムは,兵器用プルトニウムに比べプルトニウム239の濃度が低いものであるにもかかわらず,軍事的に機微な物質であるとみなされているため,上記のような国際情勢は我が国と国際社会との調和や我が国の一層慎重な取組を要求するものになってきている。
 また,これまで高速増殖炉開発など,核燃料サイクル関連の研究開発で先行していた欧米諸国において,国によっては活動が停滞する傾向もある。
 さらに,1992年11月から1993年1月にかけて行われたプルトニウム輸送船「あかつき丸」によるフランスからのプルトニウム輸送は,上記の国際情勢等とあいまって,核燃料リサイクルを中心とした我が国の原子力政策に広く内外の関心を集める契機となった。
 以上の状況を十分に認識した上で,我が国の核燃料リサイクルを中心とした原子力の平和利用が,核軍縮が促進される中で核不拡散と安全の確保を図りつつ,国民にもまた国際的にも理解を得て推進されるよう政策上の方向付けが求められている。原子力委員会においては,このような昨今の情勢変化を踏まえ,1992年9月より,原子力開発利用の長期的な基本指針である「原子力開発利用長期計画」の改定作業に各界の意見に耳を傾けつつ取り組んでいるところである。
 本章ではこのような核燃料リサイクルをめぐる内外情勢とそれらに対する原子力委員会の立場や取組を示した。


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