第I部 総論
第1章 核燃料リサイクルに関する内外の情勢と原子力開発利用長期計画の改定に向けた取組

1.核兵器の不拡散と核燃料リサイクルに関する国際情勢

 核燃料リサイクルの推進は原子力開発利用の国際的動向のみならず核軍縮など核不拡散に関連した国際的動向に強く影響されることが少なくない。近年の国際情勢は冷戦構造の崩壊など大きく変動しており,核兵器による軍備拡張の抑制が核軍縮の中心であった時代から,大幅な核兵器の削減が現実問題として論じられる時代となってきている。一方では,核兵器の開発・保有を指向しているとの疑惑を持たれている国もある。このような中で核不拡散を図る上での普遍的国際枠組みであるNPTの延長問題を討議する会議が1995年4月に開催されることとなり,内外の議論が高まるとともに,我が国の対応が注目を集めている。
 また核燃料リサイクルの推進に関する各国の動向も様々な状況であり,我が国が核燃料リサイクルを円滑に進めていくためにはまずこれらの諸動向を的確に認識しておくことが必要である。

(1)核兵器の不拡散をめぐる国際情勢

①核兵器の削減の動きと核兵器の拡散に対する新たな懸念
(核軍縮の具体化)
 東西冷戦の終了後,米国及び旧ソ連において大規模な核軍縮の動きが進展しつつある。1991年7月には米国とソ連の間で第一次戦略核兵器削減条約(STARTI)が調印され,条約発効後7年間で戦略核弾頭数が大幅に削減されることとなった。さらに1993年1月には,米国とロシアの間でSTARTIの批准,実施を前提に2003年(早ければ2000年)までに双方の戦略核弾頭数を現保有数の約3分の1に削減する第二次戦略核兵器削減条約(STARTII)が調印された。これらが予定通りに実施されれば,現在米国や旧ソ連がそれぞれ10,000発前後保有しているとされる戦略核弾頭は,2000年代初めにはそれぞれ3,000発から3,500発程度に減少することとなる。さらにこのような核軍縮の動きとあいまって,米国,ロシア,英国及びフランスは核実験停止を継続している。また,米国は軍事目的の核物質の生産を中止している。さらに,先般,ジュネーブにおいて,明年早々にも包括的核実験禁止条約(CTBT)に関する交渉が開始される旨の発表が行われたが,核不拡散体制の維持・強化の観点から我が国としても積極的に歓迎するものである。
 歴史上唯一の被爆国であり,究極的な核兵器の廃絶を国民の強い願いとする我が国としては,このような大規模な核軍縮やCTBTに関する交渉の具体化は大いに歓迎すべきものであり,また核兵器が究極的な廃棄へ向かうことは,原子力開発利用が円滑に促進される上でも極めて望ましいことと考えられる。
 核軍縮に伴い,核弾頭の解体によって取り出されたプルトニウム等の核物質の貯蔵,処理が重要な課題となりつつある。これらの核物質は再び核兵器に利用されることのないよう管理がなされることが基本であることは言うまでもないが,軍事目的の対象から外されたこのような核物質の貯蔵・処理・処分あるいは更に進んでエネルギー資源としての活用等に当たっては我が国としてもこれまで原子力の平和利用で培った技術,経験を活かして積極的に協力していくことが核軍縮と核兵器の拡散防止に貢献する上で重要な意義を持つものと考えられる。
 このように核兵器大国の間で核兵器の削減努力が見られる反面,政情が不安定な地域紛争の当事国には核兵器開発の疑念も生じている。
(北朝鮮のNPT脱退宣言問題)
 北朝鮮は1985年のNPT締結後長期にわたり,国際原子力機関(IAEA)との間の保障措置*2協定の締結というNPT上の義務を履行していなかったが,1992年4月に同協定の締結に至った。これに基づき1992年5月からIAEAの特定査察が行われていたが,北朝鮮が提供した情報とIAEAの分析結果との間の重大な不一致を解消するため,追加的な情報の提供と更に二つの施設への査察の実施を求めて,IAEAは同国に特別査察の受入れを求めた。これに対し,1993年3月北朝鮮はIAEAが公平性を欠いている等と主張し7,NPTからの脱退を決定するに至った。これに対し,米国を中心とした外交努力の結果,脱退が発効する直前の1993年6月に北朝鮮は脱退を中断し,7月にはIAEAとの協議開始,軽水炉技術導入の意向,南北対話の開始等の意向を表明したが,現在も米国を中心に脱退の完全な撤回と特別査察受入れのための外交的な努力が続いている。なお,第37回IAEA通常総会においては,北朝鮮によるIAEAとの保障措置協定上の義務の完全履行等を内容とする決議が採択された。
 この問題については,北朝鮮がNPT脱退の速やかな撤回を行うとともに,IAEAとの間の保障措置協定を完全に履行し,南北非核化共同宣言を実施することを通じ,核兵器開発の疑念を払拭することが強く望まれる。


*2第1章2.(2)(核不拡散と透明性の確保)参照。

(イラクの核兵器開発疑惑問題)
 イラクは従前よりNPTを締結し,これに基づいてIAEAの保障措置(査察等)を受け入れてきていたが,湾岸戦争の停戦に係る国連安全保障理事会の決議に基づく査察の結果,秘密裏にプルトニウムの分離及び電磁法によるウラン濃縮に関する研究を行っていたことが判明した。これらの施設は,国際連合の管理下で破壊されたが,イラクはその後の国連査察の受入れに非協力的態度をとり続けている。

(南アフリカ共和国の核兵器保有問題)
 さらに南アフリカ共和国は,1991年に非核兵器国としてNPTを締結しているが,締結前の1989年末までに核爆弾(高濃縮ウラン使用)6個を製造していたことを1993年3月に明らかにした。同国のデクラーク大統領は,1990年までにこれらの核爆弾は解体されており,今後もNPTが課した義務に厳密に従うことを表明している。同国の核兵器製造はNPTを締結する以前の出来事であるが,同国がこの事実の公表に踏み切ったことは評価されるものの,このような事実そのものは遺憾なことであり,今後同国が非核兵器国としての道を誠実に歩んでいくことが期待されるとともに,NPT非締約国の締結促進努力が重要であることを改めて示すものと考えられる。

(ウクライナの戦略核保有問題)
 また,1991年12月のソ連崩壊に伴い,ロシア以外に3つの旧ソ連共和国(ベラルーシ,カザフスタン及びウクライナ)にも戦略核兵器が存在することとなった。この点について,1992年5月にSTARTIの批准に向けた議定書(リスボン議定書)が調印され,これら3国はSTARTIを批准するとともに戦略核兵器をロシアに移転した上で非核兵器国としてNPTを締結することとされたが,ウクライナが自国内の戦略核兵器移転に難色を示し,STARTI及びNPTの批准に至っておらず,カザフスタンもNPTを締結していないなどの問題が残されている。この問題は前述の米露間の大規模な核軍縮の実現に密接に関係するものであり,早期に解決されることが期待される。
 これらの事例は,総じて核兵器の拡散防止と究極的な核兵器の廃絶に対する重大な懸念であるばかりでなく,我が国を始め核拡散の防止に真剣に取り組みつつ原子力の平和利用を進めている国にとっては,平和利用に対し抑制的な影響を与えかねないものであり,原子力委員会としても極めて憂慮に堪えないものと言わざるを得ない。
 また,先般,中国が約1年ぶりに地下核実験を実施したが,これが前述の他の4か国の核実験停止の継続に影響を及ぼすことも懸念されるところである。

②核不拡散に向けた国際的努力と核不拡散体制の維持・強化に向けての課題
 大規模な核軍縮の具体化は核兵器の解体あるいはその後の核物質の管理等種々の実施上の課題を含んでいるが,核兵器の削減に当たっての核弾頭の解体等は第一義的にはその当事国の責任の下に行うべきものである。核兵器の解体によって取り出される核物質の量は公式には発表されていないが,旧ソ連ではプルトニウムは約125トンとの試算(ウラン協会,1992年9月)もある。現在これらの核物質の取扱いについては,核燃料として当事国の国内の原子力発電所で用いる,あるいは適当な方法で廃棄物として処分するといった方策が検討されているが,まだ具体的なことは決められていない。またこのような核軍縮の進展に伴い旧ソ連における核兵器に関連する技術,人材の特に政情の不安定な紛争地域への拡散防止という観点からの対策が重要になってきている。また前述のようなIAEAの保障措置を受け入れながら秘かに核兵器開発が行われていた事例や,核兵器開発の疑惑があっても,査察を実施できない事例にかんがみ,NPTとIAEA保障措置を中心とした核不拡散体制への信頼を損なわせないよう,体制を一層強化・充実することが国際的課題となっている。

(旧ソ連の核兵器廃棄への国際協力)
 旧ソ連の核兵器廃棄については,1993年4月に東京で開かれたG7の対ロシア支援閣僚合同会議の議長声明において,核兵器解体とその結果発生する核物質の処分と管理に対する支援の重要性は全世界の安全保障に関わる問題との認識が示され,国際的に支援していくことの重要性がうたわれている。この認識に基づき,我が国は,核物質の貯蔵,処理等についてこれまで原子力平和利用の推進を通じて培ってきた技術と経験等に基づいて協力するため,約1億ドルの無償支援を行うこととしている。このような協力の実施に当たっても,これまでの,平和の目的に限り原子力の研究開発利用を推進するとの基本原則に則って遂行されなければならないことは言うまでもない。原子力委員会では,こうした趣旨を確認するため,1993年5月14日「核兵器の廃棄等に係る協力に当たって」と題する委員長談話を発表し,その立場を明らかにした。
 また,旧ソ連の核兵器を中心とした大量破壊兵器に関係する科学者・技術者の国外流出を防止し,これらの人材に民生目的の研究開発の機会を提供するため,日本,米国,EC及びロシアにより「国際科学技術センター」を設立する協定が1992年11月に署名され,設立準備が進められている。同センターの早期設立,運営開始が強く期待される。我が国は,本構想に対し2,000万ドルの支援,研究者・技術者が従事する民生用研究プロジェクトの提供,事務局への人材派遣を行うこととしている。さらに,1993年10月には,核兵器解体に伴い生ずる核物質の貯蔵・平和利用研究等の分野における支援に関するロシアとの協定が署名された。

(IAEA保障措置の整備・強化)
 IAEAにおいては,未申告原子力活動の探査能力の向上を目的とした保障措置の整備・強化に関する検討が行われており,IAEAが未申告施設に対しても査察(特別査察)を実施できることが改めて確認されたほか,IAEAへ原子力施設の設計情報を早期に提供すること,核物質と原子力資機材の輸出入に関する情報を各国がIAEAに自発的に提出することがIAEA理事会において合意されている。なお,保障措置の整備・強化に当たっては,経費,人員等の保障措置資源の効果的・効率的な利用の観点から,現行の保障措置そのものの合理化も不可欠であり,IAEAの保障措置実施諮問委員会(SAGSI)において技術的側面から保障措置の合理化に関する検討が行われ,国内保障措置制度の積極的活用,機器(新技術)の利用等を含むSAGSIの検討結果がIAEA理事会に報告された。
 我が国は,1981年から「対IAEA保障措置技術開発支援計画(JASPAS)」を行い,また,IAEAにおいて行われている保障措置の整備・強化策の検討に対して積極的に貢献してきたが,さらに1992年より情報処理・評価システムの構築のための特別拠出を行うなど,積極的にIAEA保障措置の維持・強化に貢献している。

(米国の核不拡散政策の公表)
1993年9月に発表された米国の不拡散政策及び輸出管理政策には,核兵器の解体から生ずる核分裂性物質及び民生用の原子力計画の中の核分裂性物質の増大する蓄積に対して包括的アプローチを採用するとの内容が盛り込まれている。この中で,核爆発目的の又は国際的保障措置の枠外の高濃縮ウラン及びプルトニウムの生産を禁止する多国間条約を提案する,核抑止のためにもはや必要としない米国内の核分裂性物質をIAEAの査察下に置くなどの措置をとるとしており,これらの措置は核不拡散体制の強化,核軍縮の一層の促進の観点から評価すべきものである。

(NPTの延長)
1970年に発効したNPTについては,大量破壊兵器の不拡散体制の支柱とも言うべき条約であり,我が国は1970年に署名,1976年に批准した。同条約は核兵器国を米国,英国,ロシア,フランス及び中国に限定し,これ以上の核兵器国の出現を防止することを目的としており,そのため,非核兵器国に対し核兵器の取得を禁じるとともにIAEA保障措置の受入れを義務付けている。また,核兵器国については,N PT第6条により核軍縮交渉を義務付けている。同条約は,発効以来,新たな核兵器保有国の出現を防止する上で極めて重要な役割を果たし,また近年,未締結の核兵器国であったフランス,中国の締結を始めとして締約国が着実に増加している(1993年7月23日現在158か国)など,核不拡散体制の中心的柱としての意義を増している。また,ウクライナ及びカザフスタンの非核兵器国としてのNPTの締結,北朝鮮のNPT脱退宣言といった問題に対する一層の取組がNPT体制にとって重要な課題となっている。
 NPTはその第10条に「効力発生の25年後に,条約が無期限に効力を有するか追加の一定期間延長されるかを決定するため会議を開催する」旨規定している。このNPTが無期限に延長とするか一定期間の延長とするかを決定するための会議は1995年4月中旬から5月中旬までニューヨークにおいて開催されることとなっており,NPT再検討会議も併せて予定されている。
 また,前述のようにIAEAの保障措置を受け入れながらも密かに核兵器開発が行われていた事例や,核兵器開発の疑惑があっても,査察を実施できない例が生じているものの,NPTとそれに基づくIA EA保障措置が存在していることにより,これらの事態が顕在化し,国際的関心事になった面もあり,その有効性を評価すべきと考える。
 この点について,1992年のミュンヘン・サミット政治宣言においては,「NPTの無期限延長は核兵器等の拡散の抑制における重要な一歩となるものであり,かつ,核兵器の軍縮管理及び削減の過程は継続されなければならない」とされ,さらに1993年の東京サミットの政治宣言においては「NPTへの普遍的参加並びに1995年における同条約の無期限延長及び核兵器の削減という目的を改めて表明する」とされている。原子力委員会としては,原子力平和利用推進の観点からNP Tの延長問題の帰趨について強い関心を有しており,これらの動向を注視してきたところである。
 核兵器不拡散体制を将来的にも安定的なものとし,新たな核兵器国の出現を防止することは,我が国を含む世界の平和と安全にとって極めて重要であることから,NPTに無期限の効力を持たせることが望ましい。このため,我が国政府は,「NPT無期限延長を支持していく」旨,1993年8月の第127回国会における内閣総理大臣の所信表明演説において表明したところである。原子力委員会は,この機会をとらえ,このNPTの無期限延長を支持するとの方針が妥当であり,さらに,1995年のNPTの延長を検討する会議に向けて,
 i)NPTが締約国に対し,原子力平和利用による利益の享受を最大限保障するものであることが再確認されるべきである。
 ii)すべての核兵器国が核軍縮努力の責務をより一層重いものとして受け止め,具体的かつ早期に核兵器削減を実行することを強く望む。
 との点を主張していくことにより,NPTの普遍性をより高めることが重要である旨の委員長談話(資料編参照)を発表し,この問題に対する立場を明らかにした。

 さらに,1993年9月にウィーンで開催された第37回IAEA通常総会における政府代表演説で江田科学技術庁長官(原子力委員会委員長)はこの趣旨に言及し,世界の原子力関係者に我が国の立場を示した。
1995年のNPT延長会議までの期間,この会議の成功に向けて,原子力委員会としても引き続き,この委員長談話に示された立場に立って,積極的に対処していく所存である。

(2)核燃料リサイクル政策をめぐる世界の動向
 原子力平和利用を進める上で核燃料リサイクルを行うこととしている国はフランス,英国,ドイツ,スイス,ベルギー及び日本等である。
 他方,核燃料リサイクルを行っていない国もあり,米国がその最も主要な国である。核燃料リサイクルの選択はそれぞれの国ごとの事情によってなされるものであるが,核不拡散の動向やエネルギー資源の状況によるところが大きく,また,経済性の比較,環境への負荷度も重要な要素であると考えられる。特にエネルギー資源の状況に関してはウラン資源の需給動向が大きな要素であり,今日の国際的なウラン需給の緩んだ状況は,各国の核燃料リサイクルへの取組に影響を与えている。
 米国は,1970年代半ばまでは核燃料リサイクルのため商業用再処理工場の計画や高速増殖炉開発を推進していたが,民主党のカーター政権は,核不拡散政策の強化及び経済上の理由等により,商業用再処理及び高速増殖炉開発計画等のプルトニウム利用計画を凍結した。また,各国との二国間原子力協力協定において米国の規制を強めることを趣旨とした核不拡散法を成立させ,自国のみならず原子力平和利用をめぐり協力関係にある他の国の核燃料リサイクルについても厳しい姿勢を示した。次の共和党政権下においては,各国との関係ではカーター政権時の厳しい姿勢はなくなったが,国内的にこの方向が変わるには及ばなかった。1993年1月,民主党のクリントン大統領が就任し,同年4月に発表されたエネルギー省1994年度予算政府原案においては,財政問題等との関連もあり,新型炉関係研究開発予算がアクチニド・リサイクル計画,施設閉鎖費を除いてすべて削減されるなど,原子力予算は削減された。下院本会議においては,アクチニド・リサイクル計画を廃止する修正案が可決され,その後上院での審議が行われ,高速炉等の新型炉関係研究開発予算が復活し,下院とは逆の決定となった。今後,両院協議会において調整される。
1993年9月に発表された米国の不拡散政策及び輸出管理政策においでは,「米国はプルトニウムの民生利用を奨励しない。したがって,自ら,発電用としても,また,核爆発目的のためにもプルトニウムの分離を行わない。しかしながら,米国は西欧と日本の民生用原子力計画におけるプルトニウム利用に関し,従来からのコミットメントを維持する。」と述べられており,我が国のプルトニウム平和利用に対する理解が示された。
 欧州諸国については,フランス,英国は自国内に再処理工場を操業中及び建設中であり,自国内で発生した使用済燃料のみならず外国からの委託再処理も行つでいる。
 フランスでは,マルクールとラ・アーグにおいて,商業用再処理工場が操業中である。外国からの委託再処理を行うためラ・アーグに建設されたUP3(処理能力:軽水炉燃料800トンU/年)は,1990年8月に全面的に操業を開始した。英国は,セラフィールドにおいて外国からの委託再処理のため,THORP(処理能力:軽水炉燃料1,200トンU/年)の建設を1992年に終了し,ホット試験*3の許可取得のための公開審議が1993年1月に終了したが,同年6月,英国政府は運転開始を判断するための公開審議を再度実施することを決定し,同年8月より第2回公開審議を開始し,10月に終了した。一方,同年9月,THORPにおける天然ウランを用いた試験が開始された。
 なお,ドイツのように核燃料リサイクルを採りつつも自国内では再処理を行わず,かつ直接処分*4の技術開発も並行して実施している国もある。


*3 実際に放射性物質を用いて行う試験。
*4 使用済燃料を再処理せずに廃棄物として処分すること。

 高速増殖炉開発については,欧州諸国は,1970年代前半にフランス,英国がそれぞれ原型炉フェニックス,PFRの運転を開始した。しかしながら,1992年11月,英国政府は現在運転中のPFRを経済的理由等により1994年に運転終了することを発表した。フランスでは,フェニックスはトラブルのため1990年より運転停止状態にあったが,1993年2月に反応度異常の原因究明のため試験運転を実施している。また,ドイツでは原型炉SNR-300の計画が1991年に運転開始目前で政治的理由から中止に至った。
 フランスの高速増殖実証炉スーパーフェニックスは,1986年に全出力運転を開始したが,トラブルにより1990年から運転停止状態にある。
 同炉については停止から2年を迎えた1992年7月,安全当局の報告書等を踏まえて,運転再開には安全性確保のための対策の実施と,施設の安全性についての公聴会の開催が必要として,運転再開延期が決定された。公聴会については,1993年3月から6月にかけて実施され,その結果1993年9月原子力施設安全局(DSIN)による施設の安全性に関する検討,特にナトリウム火災の危険を防止するための新たな対応を考慮した上で,運転再開を支持する判断を出すことを条件に,運転再開を支持する報告がなされたところである。現在,運転再開に向け,安全性確保のための対策が実施されつつある。
 また,旧ソ連においては実験炉(BOR-60),原型炉(BN-350),大型原型炉(BN-600)が運転中のほか,これに続く実証炉(BN-800)の建設計画がある。
 このように欧州諸国において,英国,ドイツなど高速増殖炉開発を中止又は縮減する例も見受けられるが,これらの国々においては,既に高速増殖炉技術の開発成果を蓄積しており,短期的なエネルギー事情,特にウラン需給の緩和,財政事情等から高速増殖炉への更なる開発投資を控えているものである。
 他方,米国においては,前述のとおり核不拡散政策について民生用のプルトニウム利用をしないとの方針を打ち出しており,予算に示された措置等を見ても高速増殖炉に対して消極的である。
 プルトニウムの軽水炉による利用については,欧米で実績が積み重ねられている。ドイツでは,1960年代よりウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を試験的に使用し,1980年代から本格的に展開して,現在は8基の軽水炉でMOX燃料の使用を行っている。フランスは,1983年に軽水炉でプルトニウムをリサイクルすること (MOX燃料の使用)を決定し,現在は5基の90万キロワット級軽水炉でプルトニウムのリサイクルを行っている。現在フランスでは,1995年の操業開始を目指して120トンHM*5/年規模のMOX燃料加工施設(MELOX)を建設中であり,今世紀中に20基の90万キロワット級軽水炉でプルトニウムのリサイクル(全炉心の30%にMOX燃料を装荷)が可能となる予定である。また,米国,スイス及びベルギー等の各国においてもMOX燃料の使用実績がある。
 また,国際機関においても核燃料リサイクルに係る諸活動は関心を持たれており,特に核燃料リサイクルの経済性については,経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)が評価を行っている。
1985年に公表したデータによると,再処理を行った場合がウラン燃料を1回で使い捨てる場合(ワンス・スルー)に比べて核燃料サイクルコストは約10%高く,発電コストでは約2%高いとの結果になっている。また,現在,最新のデータに基づき評価が行われており,現段階の検討状況では,コストは1985年のデータとほぼ同様の結果となっている。


*5 HM:重金属(ヘビーメタル)量(ここでは,燃料加工規模を,燃料に含まれる重金属の量で表現している。)

 IAEAにおいては,我が国の提案により,長期的な資源供給安定性及び影響評価の観点からの核燃料リサイクルの安全性に関する調査が実施されている。


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