第3章 我が国の先導的プロジェクト等の開発利用の状況と今後の原子力開発利用の進展に向けて

3.推進基盤の強化

 我が国の原子力開発利用の一層の進展のためには,研究開発資金・人材の確保,研究開発体制の整備等の研究開発推進基盤の強化が重要である。
 1992年度の政府の原子力関係予算は,科学技術庁分が前年度比約102.9%の約3,152億円,通商産業省分が前年度比約107.7%の約1,057億円,その他が前年度比約98.4%の約50億円であり,一方,産業界における原子力関係支出高(1990年度実績)は,電気事業で約1兆7,355億円(うち研究開発費は約470億円),鉱工業で約1兆8,540億円(うち研究開発費は約960億円)などとなっており,また,研究開発関連資金の確保に当たっては多様な手段を用いるとともに,研究開発計画の遂行に当たっては,研究開発の効率化,資金の効率的な活用に努めることとしている。
 人材の確保に関しては,今後の原子力開発利用の拡大に伴い必要となる人材の充実を図るとともに,原子力研究開発の国際化に対応するため,各種国際協力への我が国関係者の積極的な参加,国際機関への幅広い人材の派遣等を行っている。また,人的資源の面でも産学官の連携が重要であることから,政府関係研究開発機関においては,民間及び大学との積極的な人材交流を行っている。現在,原子力産業における技術系従業員数は約3万3,000人,政府関係研究開発機関における研究者,技術者の数は約5,400人となっている。
 しかし,我が国の労働力人口については,近年の出生率の低下を背景に,生産年齢人口(15〜64歳の人口)は1995年から,実際に労働に従事し得る人口は21世紀初頭から減少すると予想されており,さらに,欧米先進国なみを目指した労働時間の短縮も手伝って,今後,労働力市場全般において深刻な人材不足に陥ることが懸念されている。このような労働力供給構造の中で,着実に拡大する原子力開発利用に対応し得る人材を確保することは極めて重要な課題となりつつある。
 今後,原子力開発の一層の進展に資する人材の量的あるいは質的確保に当たっては,教育現場へのアプローチ,原子力に対する不信感の払拭,魅力ある研究分野としての地位の確立などが望まれており,このため,原子力関連研究開発機関と大学等の教育機関との連携の強化,国民の理解の一層の増進,原子力開発利用分野の発展性及び技術的先進性の明確化,原子力利用技術の分野拡張などについて検討されることが望まれている。
 研究開発体制については,現在,主な原子力関連研究開発機関として,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,理化学研究所の3つの特殊法人,放射線医学総合研究所,金属材料技術研究所等の国立試験研究機関,(財)電力中央研究所,(財)核物質管理センター,(財)原子力環境整備センター,(財)原子力発電技術機構等の公益法人があり,これらを始めとした研究開発機関がそれぞれの役割と技術を活がし,効率的な官民協調体制を形成している。また,原子力の創造的・革新的領域の研究開発を中心に,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,国立試験研究機関及び大学が人的交流,共同研究の実施等を通じ,有機的連携を図ることによって,研究開発推進基盤を強化している。
 一方,1992年6月には,総務庁が科学技術関係各省庁に対し研究助成制度の普及などについて勧告したり,また「研究開発投資の拡充」等の内容を盛り込んだ科学技術政策大綱が閣議決定されるなど,科学技術に対する社会的期待はますます大きくなってきている。人類が今世紀に生んだ科学技術であり,広範な科学技術の水準向上の牽引力たる原子力分野においても,今後とも一層の基盤強化が期待されている。


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