平成4年版

原 子 力 白 書
     
平成4年10月

原子力委員会
 

平成4年版 原子力白書の公表に当たって

 エネルギー資源の8割以上を海外からの輸入に依存し,今後とも着実なエネルギー需要の伸びが予想される我が国においては,エネルギーの安定供給を確保することが重要な課題です。このため,我が国は,供給安定性や経済性に優れる原子力を主要なエネルギー源の一つと位置付け,積極的にその開発利用を推進してきました。また,近年,地球温暖化,酸性雨などの地球環境問題に対しても,発電過程において二酸化炭素,硫黄酸化物等を排出しないなど環境影響面における原子力の優位性が改めて指摘されています。
 最近の国際情勢を概観してみますと,ソ連の崩壊により,現在,新たな国際秩序の確立が模索されています。このような中,戦略兵器削減条約が調印され,本年6月の米露両大統領の会談においては2003年(早ければ2000年)までに双方の戦略核弾頭数を現保有量の約3分の1に削減することが約束されるなど核軍縮が着実に進展しています。
 このような核軍縮の進展は歓迎すべき事態であり,今後とも着実な進展が期待されるところですが,核軍縮の進展は,プルトニウム・高濃縮ウランなどの核物質の拡散や核兵器関連技術・人材の流出などといった懸念をもたらすことになりました。また,ソ連の崩壊などの動きは,旧ソ連・中東欧地域において運転中のソ連型原子炉に関する情報量を多くし,結果として西側諸国はその安全性に関する懸念を強めることとなりました。
 このような状況の下で,原子力の開発利用を平和利用に限ることとし,国際的にも核兵器の不拡散に関する条約や核物質の防護に関する条約を締結し,保障措置にも積極的に貢献している我が国に対しては,信頼性のある核不拡散体制の維持・強化に向けた一層の貢献を求められています。また,我が国は原子力発電所の運転管理等で優れた実績を有しており,旧ソ連・中東欧地域を含めた世界の原子力発電の安全性向上に向け重要な役割を果たすことが期待されています。
 我が国としては,このような国際的要請に積極的に応えるとともに,国内においても引き続き原子力を主要なエネルギー源の一つとして,その開発利用を着実に推進していくこととしております。また,その際,安全の確保に引き続き万全を期すことはもちろんのこと,内外の理解と協力を得ていくことが重要であると考えております。
 このため,本書においては,原子力をめぐる国際情勢の変貌を概観した上で,我が国に求められる国際的役割及び我が国における原子力開発利用の位置付けについて整理しました。さらに,国民の理解と協力の増進などの今後の課題について取りまとめるとともに,この一年間における我が国の原子力開発利用の進捗状況について記述しました。
 本書が広く国民各位の原子力開発利用に関する理解を深めるために役立てば幸いです。

平成4年10月23日

国務大臣  
科学技術庁長官 谷川 寛三
原子力委員会委員長  
 

本書の構成と内容 

 本書は,この一年の原子力開発利用の動向を取りまとめたものである。
 第I部「総論」においては,ソ連の崩壊等を含めた,最近の国際情勢の変貌に伴う原子力をめぐる状況を概観した上で,我が国に求められる国際的役割及び我が国における原子力開発利用の位置付けについて記述している。また,最近のエネルギー情勢,世界主要国における原子力発電の状況,我が国における原子力発電,放射線利用等の原子力開発利用の進展状況等について取りまとめた。
 第II部は「各論」として,「原子力発電」,「核燃料サイクル」,「安全の確保及び環境保全」,「新型動力炉の開発」,「核融合,原子力船及び高温工学試験研究」,「放射線利用」,「基礎・基盤研究等」,「国際協力活動」,「核不拡散」及び「原子力産業」について,各々の最近の動向を中心に具体的に説明している。
 第III部は「資料」として,原子力委員会の決定,原子力関係予算,年表等を取りまとめた。
 なお,原子力開発利用においては,安全の確保が大前提であり,原子力安全委員会,安全規制当局,研究開発機関,電気事業者,メーカー等は国民の期待に応えてそれぞれの立場で安全の確保に努めている。
 それについては,別に「原子力安全年報」において取り扱われているので,本書においてはその詳細に立ち入ることは避け,原子力委員会に関係する基本的事項に留めることにした。

 

 
目   次

第I部 総  論
 
 はじめに
 
第1章変貌する国際情勢と我が国の立場
   1.核兵器の不拡散等をめぐる国際情勢と原子力
   2.強まる各国間の相互関係
   3.原子力の平和利用と我が国の立場と役割
第2章内外のエネルギー情勢等と我が国の原子力発電,核燃料サイクル等の開発利用の状況
   1.原子力の社会的役割の増大
   2.世界の原子力発電等の開発利用の状況
   3.我が国の原子力発電,核燃料サイクル,プルトニウム利用等の開発利用の状況
第3章我が国の先導的プロジェクト等の開発利用の状況と今後の原子力開発利用の進展に向けて
   1.先導的プロジェクト等の推進
   2.基礎研究・基盤技術開発
   3.推進基盤の強化
   4.立地の促進等
   5.国民の理解の増進と協力の促進
   6.原子力開発利用長期計画改定に向けた取組
 
第II部 各  論
 
第1章 原子力発電
 
1.原子力発電開発の状況
2.原子力発電所の運転状況
3.原子力発電所の立地関連状況
4.軽水炉技術の向上
5.原子炉の廃止措置
   (参考)諸外国(地域)の動向
 
第2章 核燃料サイクル
 
1.ウラン資源
2.ウラン濃縮
3.核燃料再転換・成型加工
4.使用済燃料の再処理
5.プルトニウム利用
6.核燃料物質等の輸送
7.放射性廃棄物の処理処分対策
8.核燃料サイクル関連施設の立地
   (参考)諸外国の動向
 
第3章 安全の確保及び環境保全
 
1.原子炉施設等の安全確保
2.原子力の安全研究
3.原子力施設等の安全性実証試験等
4.環境放射能調査
5.温排水に関する調査研究
 
第4章 新型動力炉の開発
 
1.高速増殖炉
2.新型転換炉
   (参考)諸外国の動向
 
第5章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究
 
1.核融合
2.原子力船
3.高温工学試験研究
   (参考)諸外国の動向
 
第6章 放射線利用
 
1.放射線利用の動向
2.農林水産業への利用
3.工業への利用
4.医療への利用
5.放射線利用に係る研究開発
 
第7章 基礎・基盤研究等
 
1.基礎研究の動向
2.基盤技術開発
3.国立試験研究機関における原子力試験研究
 
第8章 国際協力活動
 
1.先進国との国際協力
2.開発途上国等との国際協力
   (参考)第3回アジア地域原子力協力国際会議の結果について
3.国際交流
 
第9章 核不拡散
 
1.核不拡散に関する我が国をめぐる二国間の動向
   (参考)原子力の平和利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定等の骨子
2.核不拡散に関する国際的協議
3.保障措置
4.核物質防護
 
第10章 原子力産業
 
1.原子力発電関連機器産業
2.核燃料サイクル関連事業
3.RI・放射線機器産業
 
第III部 資  料
 
1.原子力委員会,原子力安全委員会及び原子力関係行政組織
   (1)原子力委員会
   (2)原子力安全委員会
2.原子力委員会の決定等
   (1)原子力委員会決定一覧
   (2)平成4年度原子力開発利用基本計画
   (3)原子炉等規制法に係る諮問・答申について
   (4)専門部会等報告書
3.原子力関係予算
   (1)1992年度原子力関係予算総表
   (2)1992年度原子力関係予算(一般会計)(科学技術庁)
   (3)1992年度各省庁(科学技術庁を除く)一般会計原子力関係予算総表
   (4)1992年度電源開発促進対策特別会計
   (5)1992年度原子力関係予算重要事項別総表
4.その他
   (1)国際機関
   (2)国際原子力機関主催の主要な国際会議,シンポジウム一覧
   (3)我が国の原子力発電所の現状
   (4)我が国の原子力発電所の時間稼動率及び設備利用率(過去10年間)
   (5)各国のエネルギー計画
   (6)各国の原子力発電所の設備利用率(過去10年間)
   (7)我が国における核燃料物資保有量一覧表
   (8)原子力研究開発利用年表