第2章 内外のエネルギー情勢等と我が国の原子力発電,核燃料サイクル等の開発利用の状況

1.原子力の社会的役割の増大

(1)内外のエネルギー・電力の情勢と原子力
①世界のエネルギー・電力の情勢と原子力
(エネルギー情勢)
 世界の一次エネルギー需要は,1991年には経済が減速局面にあるため前年に比べ約1%と低い伸び率になっているものの,1983年以降エネルギー需要は増加の一途をたどってきている。国際エネルギー機関(IEA)によると,この傾向は将来にわたっても継続し,エネルギー需要は,1989年から平均年率2.4%で増加し,2005年には,89年に比べ約46%の増加が見込まれている。
 地域別には,開発途上国のエネルギー需要増大が顕著である。開発途上国におけるエネルギー需要は,1989年から平均年率4.2%で増加し,2005年には,89年に比べ約93%もの増加が見込まれており,世界のエネルギー需要の3分の1を占めるまでになると見通されている。
 また,開発途上国においては,石油需要も量的には増加するものの,エネルギー需要全体が増加すること,天然ガス及び石炭への移行が進むことにより,石油依存度は相対的に低下すると見通されている。しかし,開発途上国における化石燃料への依存は変わらず,全世界における化石燃料需要の2005年までの増加分のうち,5割強は開発途上国によるものと見通されている。

 一方,先進国におけるエネルギー需要は,経済成長の鈍化,省エネルギー対策の推進等により,1991年には1.4%の伸びにとどまっている。将来の見通しとしては,1989年から平均年率1.3%で増加し,2005年には,89年に比べ約23%の増加が見込まれている。この増加分の内訳を見ると,天然ガスが35%,石炭が30%を占め,原子力発電も着実に増加する等,さらに脱石油化が促進されると見込まれている。
 今後,地球環境問題に対応するためにも,非化石エネルギー依存度をさらに向上させることが重要と考えられる。
 また,旧ソ連・中東欧諸国においては,社会体制の変革に伴い,コメコン経済圏に基づいた各国の相互依存関係を主とした経済システムが機能を失い,混乱が生じている。特に,旧ソ連は1991年12月に連邦が崩壊し,11か国からなる独立国家共同体(CIS)が創設されたが,社会的・経済的混乱が続いている。このため,国際的な支援体制の枠組みについての議論がなされており,その一つとして,1991年12月は旧ソ連・中東欧諸国の市場経済への移行を促すため,エネルギー分野における貿易と投資の枠組み作りを主旨として,欧州エネルギー憲章が欧州,日本,米国等45か国により調印された。1992年9月現在,基本協定及び個別議定書について交渉が行われているところである。
 旧ソ連・中東欧諸国におけるエネルギー需要は,1989,90,91年とマイナスの伸びであっなが,IEAによると,市場経済への移行が迅速かつ混乱なく行bれると仮定した上で,1989年から平均年率2.3%で増加し,2005年には,89年に比べ約44%の増加が見込まれている。
 なお,1992年7月ロシア政府が作成した経済改革計画によると,1992年の工業生産は前年比15%減少し,1993年も前年比5%減少するが,1994年には生産低下に歯止めがかかり,若干の上昇も見込まれるとしている。
 このように世界のエネルギー需要の伸びが見込まれる中で,供給には制約が考えられる。例えば,石油については北海,北米,旧ソ連等で供給能力の減少が見込まれ,中東産油国への依存度が高まると予想される。また,旧ソ連における政情不安や湾岸危機のような地域紛争に見られるような不確定要因による影響も世界的に懸念されている。
 以上,エネルギー需給を中心にエネルギー情勢を概観してきたが,ここで,エネルギー資源の地域分布状況を比較すると,原油は中東地域に全確認可採埋蔵量の約67%が存在し,極端に中東地域に偏在している。天然ガスも同様に,旧ソ連に約40%,中東に約30%が存在し,一部の地域に偏在している。他方,石炭は石油,天然ガスと比べ比較的広範に存在し,中国,北米,旧ソ連,中東欧地域,豪州に多くの埋蔵量が確認されている。一方,ウランはアフリカ地域に約33%,北米地域に約27%,オーストラリアに約23%と,政治的・経済的に安定した地域に比較的分散して産出する。
 1991年6月に開催されたIEA閣僚理事会のコミュニケにおいても,湾岸危機時に緊急時対応メカニズムの価値が証明されたことを確認し,90年代のエネルギー安全保障には供給の多様化が必要と強調している。中でも,原子力がエネルギー供給に相当貢献することを認識するとともに,温室効果ガス排出の安定化にも貢献できることに注目し,さらに,原子力は一次エネルギー供給の多様化に必須の要素として,特に,原子力施設の安全運転,放射性廃棄物の処理処分及び新型炉の開発において持続的かつ強化された国際協力を奨励している。また,エネルギー安全保障,環境,安全性及び自国の決定が他国に与える影響を考慮して,自国の状況に最も合致した形で発電用燃料ミックスを決定すべきとしている。
 また,1992年7月に開催されたミュンヘン・サミットにおいても,世界のエネルギー供給において,原子力発電が果たす重要な役割を認識するとの記述が経済宣言に盛り込まれている。
(電力需給状況)
 世界の電力消費量の増加は,二度の石油危機直後に,先進国において若干停滞したことがあるものの,他の地域において急増していることもあり,世界全体としては増加してきている。中でも,開発途上国,特に,アジア地域においては生活水準の向上,工業化の進展等により,電力消費量の伸びが著しい。世界の発電電力量は,電力化率の増大等により近年年率約4%という高い伸びで増加しており,一次エネルギー供給の増加率及び経済成長率を上回っている。一方,電源構成の内訳を見ると,1970年代と比較すると先進国においては原子力発電が着実に増加しており,脱石油のエネルギー政策により,火力発電,特に石油火力発電の割合が激減している。旧ソ連・中東欧諸国においても,火力発電の割合は減ってきてはいるが,依然として火力発電が大半の割合を占めている。開発途上国は比較的水力発電の割合が大きいが,増大する電力需要に対応して,火力発電が増大している。
 このように増大する電力需要に対応して,先進国においては脱石油,原子力の推進が図られ,成果をあげているが,他の地域においては依然火力発電に大きく依存していることがわかる。
②我が国のエネルギー・電力の情勢と原子力
(エネルギー情勢)
 1991年度の我が国のエネルギー需要(最終エネルギー消費)は,調整過程に入った景気を背景に伸びが鈍化し,原油換算で3.58億キロリットル,対前年度比2.7%の伸び率となった。これは,1987,1988両年度における5%程度の高い伸び,また,1989,1990両年度における3~4%程度の伸びに比べると低い伸びである。エネルギー利用部門別に見ると,民生,運輸の両部門が依然産業部門を上回る伸びを示している。
 これに対し,供給面では,1991年度の一次エネルギー供給は,原油在庫の大幅な変動等により,原油換算5.31億キロリットルとなり,前年度比1.0%の低い伸びにとどまった。一次エネルギー供給に占める石油の割合は,56.7%となり,依然として石油依存度は高く推移している。
 このように着実な伸びで推移するエネルギー需要に対し,我が国のエネルギー供給構造を見ると,一次エネルギー総供給の8割以上を海外に依存しており,さらに,ほぼ全量を輸入に依存している石油に6割近くを依存している。また,湾岸危機において改めて認識されたように,輸入原油の約7割を中東地域に依存しており,他の先進諸国に比べて極めて脆弱な供給構造であり,エネルギーの安定供給確保を図ることが重要である。
 また,エネルギーの安定供給確保に加え地球環境問題に関して,持続的な経済発展を確保しつつ,人間活動と環境保全の両立を図るため,エネルギー政策においても最大限の対応が必要である。このような基本的考え方に基づき,政府は1990年10月「石油代替エネルギーの供給目標」を決定し,エネルギー需要の増大を最大限抑制し,石油依存度の低減及び新・再生可能エネルギーの導入を最大限図る等の総合的エネルギー政策を推進している。
(電力需給状況)
 1991年度の総需要電力量は7,894億キロワット時,伸び率3.1%となった。1987年度夏季以降,景気拡大を背景に総需要電力量は4年連続で5%以上の高い伸び率を宗してきたが,1991年度は景気の減速感が広まり,伸び率は低調となった。部門別の需要電力量を見ると,民生用需要は,エアコンの普及増や家電機器の大型化,多機能化等による個人消費増に支えられて,5.1%の堅調な伸びとなったが,産業用需要は設備投資の伸びが鈍化するなど,景気の減速感が広まり,1.7%と低い伸びとなった。また,最大電力の伸び率は,1990年度夏季の記録的な猛暑による冷房需要の反動による減少はあるものの,2.9%の伸びとなっている。
 今後の電力需要については,内需を中心とした安定的な経済成長,経済社会の高度化,情報化等を反映して,中長期的には着実に増加していくものと予想され,1992年度電力施設計画によると,総需要電力量は1990年度から平均年率2.4%で増加し,2001年度には9,886億キロワット時に達すると見通されている。
 一方,発電電力量(電気事業用)の実績は,1991年度には7,831億キロワット時,伸び率3.4%となった。この中で,原子力発電は着実に増加しており,1991年度末には,商業用発電設備容量が3,324万キロワットと増加し,加えて,設備利用率が73.8%と順調な稼動であったこともあり,発電電力量が2,123億キロワット時に達し,原子力発電の総発電電力量に占める割合は27.1%と7年間連続で25%以上を占めた。

(2)地球環境問題と原子力
(地球環境問題)
 近年,地球温暖化,酸性雨等の地球環境問題が大きくクローズアップされている。これらは人類の生存基盤に深刻な影響を及ぼすおそれがあることから,その解決が国際的にも強く望まれており,地球環境問題に対する具体的な取組が行われる段階に入っている。
 特に,地球温暖化については,今後予測されている温暖化が過去1万年の間に例を見ないもので,その影響の大きさ等に鑑み,国際的協調の下に取り組む重要課題として様々な国際会議の場において本格的な議論が行われている。
 1988年11月に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)の共催で設置された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が,1990年8月にまとめた第一次評価報告書によれば,現在の温室効果ガスの濃度は,産業革命以前よりも約50%増大しており,地上平均気温は,100年前から比べて0.3~0.6°C上昇し,平均海面も10~20cm上昇している。
 そして,化石エネルギーの消費などエネルギー利用形態が現状のままで増大し続ければ,不確実性はあるものの,来世紀末までに平均気温が現在より約3°C上昇することが予想され,「本格的な対策が講じられない限り重大かつ潜在的には破壊的ともいえる変化が生じるだろう」とされている。
 このような中で,原子力は,エネルギー収支が高く(通商産業省の試算によれば1の投入エネルギーにより約20のエネルギーが得られる),二酸化炭素,窒素酸化物等を発電の過程において排出せず,また,燃料生産過程等を含めても,原子力の二酸化炭素排出量を他の発電方式と比較してみると,石炭火力を100とした場合,原子力は4(石油火力78,LNG火力67)との(財)日本エネルギー経済研究所の試算もあり,地球温暖化を始めとする地球環境問題の解決に当たって重要な役割を果たすことが期待されている。
 一方,化石燃料等の燃焼によって生じる硫黄酸化物や窒素酸化物が大気中で硫酸や硝酸になり,酸性の強い雨に変化した酸性雨も,北米やヨーロッパでは,湖沼や森林等の生態系あるいは,遺跡等の建設物などに大きな影響を及ぼし,国境を越えた国際的な問題となっている。
 このような酸性雨について,原子力は発電の過程でその主な要因である硫黄酸化物や窒素酸化物を排出しないため,大気汚染物質による負荷の少ない発電方式である。
(国際的な取組)
 このように地球環境問題の解決にも資する原子力の重要性が国際的にも認識されつつあり,近年のサミットにおいては環境問題が様々な角度から議論されてきており,地球環境問題を重要な課題として位置付けるとともに,「原子力発電は,エネルギー源の多様化及び温室効果ガスの排出削減に貢献する経済的なエネルギー源」として位置付けている。
(我が国の取組)
 地球温暖化問題の解決に当たっては,エネルギー利用効率の向上を含めた省エネルギー,原子力を始めとした非化石エネルギーへの依存度向上等エネルギー政策の面からの積極的対応が不可欠である。我が国としては,地球温暖化防止の国際的枠組み作りに貢献していく上での我が国の基本的姿勢を明らかにするため,二酸化炭素排出量を2000年以降概ね1990年レベルで安定化させることを目標とする地球温暖化防止行動計画を1990年10月に策定した。この中で,エネルギー政策においては,安全の確保を前提に原子力を始めとした二酸化炭素の排出の少ない又は排出のないエネルギー源の導入等を推進することとしているとともに,省エネルギー・省資源の推進,クリーンエネルギーの導入,次世代エネルギー技術等の革新的環境技術の開発等に取り組む総合的かつ長期的ビジョン(地球再生計画)の具体化の促進に努めることとしている。
 また,政府は,地球温暖化問題の顕在化等最近のエネルギーをめぐる状況変化を踏まえて,エネルギー研究開発基本計画を抜本的に改定し,1991年7月31日,新たな基本計画を内閣総理大臣決定した。この中においても,原子力は,中核的な石油代替エネルギーであり,地球環境問題への対応のためにも重要な役割を果たすものとして,その開発利用の重要性が強調されている。
 さらに,地球環境問題に関連する技術開発の一環として,酸性雨の要因となる硫黄酸化物や窒素酸化物等を石炭燃焼等の排ガスから除去する電子線を用いた脱硫・脱硝技術の開発が行われている。


目次へ          第1部 第2章(2)へ