第2章 内外のエネルギー情勢等と我が国の原子力発電,核燃料サイクル等の開発利用の状況

2.世界の原子力発電等の開発利用の状況

(1)概況
 世界における原子力発電所は,今回(1991年7月から1992年6月末まで)フランス1基,日本1基,合計2基が新たに運転に入った。原子力発電国は,ソ連の崩壊による各共和国の独立に伴い,28か国(地域)となった。1992年6月末現在で,418基が運転中で,原子力発電設備容量は3億4,155万キロワットになり,前回(1991年6月末)に比べ,186万キロワットの減少になっている。総発電電力量については,1991年実績では2兆91億キロワット時に達し世界の総発電電力量の約17%を占めた。これは約4億9,000万トンの石油に相当し,中東諸国全体の年間石油生産量(1990年実績約8億4,300万トン)の半分以上に相当する。
 世界の主要国における1992年6月末現在の原子力発電の状況は,米国は,110基,1億501万キロワットの原子力発電所を運転中であり,世界第1位の原子力発電設備を有している。フランスは,54基,5,760万キロワットの原子力発電所を運転中で,総発電電力量の約73%を原子力発電で賄っている。また,1991年には,総発電電力量の約12%に相当する534億キロワット時をスイス,イタリア,英国及びドイツ等の国々へ輸出した。旧ソ連では,48基(ロシア31基,ウクライナ14基,リトアニア2基,カザフスタン1基),3,699万キロワットの発電設備を有している。また,中国では,最初の秦山1号機が1991年12月に初送電に成功し,1992年末に全出力運転に入る予定である。

 1991年は,米国のアルゴンヌ国立研究所(アイダホ)において,高速増殖炉EBR-Iにより世界で初めて原子炉による発電が行われてから40年になる。また1992年は,米国で初めて原子炉による核連鎖反応が起こってから50年になる。それ以来,原子力発電は順調に増え続けてきたが,1986年4月に発生したチェルノブイル原子力発電所事故後,一部の国では原子力政策の見直しや新規原子力発電所の建設中止の決定が行われる等,近年,原子力開発は停滞傾向が続いていた。しかしながら,原子力発電は,エネルギー源の多様化に貢献すると共に,地球温暖化防止のための有効な手段の1つとして,その役害l及び必要性が再認識され,一部の国・地域では,エネルギー政策の見直しや)原子力発電所プロジェクトが再開される等の動きが出てきている。
 一方で,ソ連の崩壊・民主化に伴い,旧ソ連・中東欧諸国の原子力発電所の安全性への懸念が高まり,前述のようにIAEAを中心に,ソ連型加圧水型炉(VVER-440/230)及び黒鉛減速軽水冷却沸騰水型炉(RBMK)の安全評価,安全性改善に関するプロジェクトが進められつつある。ミュンヘン・サミットにおいても,ソ連型原子炉の安全性は重大な懸念材料であるとして,旧ソ連・中東欧諸国の原子力発電所に対する安全性向上のための支援を多国間の行動計画の枠組みの中で提供することを決定した。また,長期的な安全性向上のための基礎を築くため,これらの行動計画を補完するものとして,原子力安全条約の早期締結を目指すこととしている。次回の東京サミットにおいて,この行動計画の進捗状況が審査される予定である。

(2)各国の状況
 米国は,世界第1位の原子力発電設備容量を有し,1992年6月末現在,,110基,1億501万キロワットの原子力発電所を運転している。1991年には,約6,126億キロワット時を原子力発電により発電し,総発電電力量の約22%を供給している。また,1991年の年間設備利用率の平均も過去最高の70.2%であった。
 1991年2月,ブッシュ大統領は2010年を目標年度にエネルギーの自立達成に向けて,「国家エネルギー戦略」を発表した。同戦略においては,原子力発電については,国産エネルギー資源であり,化石燃料の使用抑制や地球環境問題等へ貢献できることから,今後も積極的な活用を期待している。そのため,①原子力発電にかかわる許認可手続きの簡素化,②高レベル放射性廃棄物処分場の立地,許認可の推進,③新型軽水炉の標準化設計の推進等を挙げている。議会においては,同戦略とほぼ同趣旨の国家エネルギー安全保障法案が上院に,包括的エネルギー法案が下院に提出されており,これらの法案はそれぞれ,1992年2月上院本会議で,同年5月下院本会議にて,可決された。両法案の内容には若干の差異があるため,両院による統一法案作成に向けて両院協議会で調整が行われている。原子力規制委員会(NRC)は,1991年11月,原子力発電所の運転延長許可に係る最終規則を承認し,これにより現行40年の運転認可期間が20年を越えない範囲で延長可能となった。しかし,運転期限延長を求める申請の第1号として,関係者より期待されていたヤンキーロー発電所(加圧水型軽水炉(PWR),18万5千キロワット)は,経済的要因等を理由に,1992年2月,閉鎖されることが決定した。
 フランスは,エネルギー資源に乏しく,エネルギー自給率を改善するため原子力発電を積極的に導入し,1992年6月末現在,54基,5,760万キロワットの原子力発電所を運転中である。1991年には約3,149億キロワット時を原子力発電により発電し,総発電電力量の約73%を供給している。現在,6基の原子力発電所が建設中であり,そのうちパンリー2号機は1992年中に運転開始が予定されている。
 フランス政府は,1991年,第10次経済社会発展計画の一環としてまとめたエネルギー計画「エネルギー見通し2010年」を発表した。同計画は,省エネルギー,原子力開発,エネルギー供給源の多様化という従来のエネルギー政策を再確認するものである。
 このような積極的な電源開発を基にフランスは,近隣欧州諸国への電力輸出にも力を入れており,総発電電力量の約12%に当たる534億キロワット時をスイス,イタリア,英国,ドイツ等の国々へ送電している。
 フランスは,高速増殖炉開発においても先進的な地位にあり,既に原型炉フェニックス,実証炉スーパーフェニックスを運転開始している。しかしながら,両炉ともトラブルにより1990年から運転停止状態にあり,運転再開に向けて準備が進められてきた。1992年6月,スーパーフェニックスについてフランス政府は,運転再開のためには安全性確保のための対策の実施と,施設の安全性についての公聴会の開催等が必要として,運転再開の延期の決定を行った。
 なお,ヨーロッパにおける高速増殖炉の開発については,ドイツ,英国,フランスの設計研究,それに関連した研究開発を統合し,経済性,信頼性の向上と,参加各国の許認可取得等を目標に欧州統合高速炉(EFR)計画が進められており,高速増殖炉の実用化に向けての努力が引き続き行われている。
 ドイツは,1990年10月,東ドイツが西ドイツに統合され,新たにドイツ連邦共和国がスタートした。1992年6月末現在,21基,2,363万キロワットの原子力発電所が運転中であるが,そのすべてが旧西ドイツ分である。1991年には約1,400億キロワット時を原子力発電により発電し,総発電電力量の約28%を供給している。旧東ドイツのノルト原子力発電所1-4号機(VVER-440/230)は1990年に既に閉鎖することが決定されていたが,5号機(VVER-440/213)も,1991年9月,安全性調査結果を受け閉鎖が決定された。また,6,7及び8号機も建設工事を進めないこととなった。
 1991年12月,連邦経済省の「統一ドイツのエネルギー政策」が閣議決定された。同政策では,原子力について,安定的な代替エネルギー源がない限り,引き続き電力生産における重要な役割を果たすことを指摘している。
 カナダは,従来から自国の豊富なウラン資源と自主技術によるカナダ型重水炉(CANDU炉)を柱とした独自の原子力政策を一貫して採っている。1992年6月末現在,19基,1,390万キロワットのCANDU炉が運転中である。1991年には約801億キロワット時を原子力発電により発電し,総発電電力量の約16%を供給している。
 オンタリオ州議会は1990年11月,新規電源に関する環境評価が終了するまで,少なくとも3年間原子力の開発を一時停止することを決定したが,建設中のダーリントン発電所は予定どおり運転開始させることとしており,1992年から1993年にかけてダーリントン1,3及び4号機が運転開始する予定である。
 英国では,1992年6月末現在,ガス冷却炉(GCR)及び改良型ガス冷却炉(AGR)を中心に,37基,約1,316万キロワットの原子力発電所が運転中である。1991年には約620億キロワット時を原子力発電により発電し,総発電電力量の約21%を供給している。
 現在,建設中・計画中の原子力発電所は,すべてPWRであり,その初号機サイズウェルBは順調に工事が進められている。サイズウェルBに続く,ヒンクレーポイントCについては,1990年9月,政府は建設計画を承認したが,建設資金の承認については,サイズウェルBの完成後の1994年に予定される,新規原子力発電所計画に関する再検討作業が実施されるまで留保することとした。
 旧ソ運では,1992年6月末現在,48基,3,699万キロワットの原子力発電所が運転中で,1991年には約2,121億キロワット時を原子力発電所により発電し,総発電電力量の約13%を供給している。各共和国で運転中の原子力発電所は,主としてソ連型加圧水型炉(VVER),黒鉛減速軽水冷却沸騰水型炉(RBMK等)である。各国の内訳は,ロシア31基(そのうちVVER12基,RBMK11基,沸騰水型炉(BWR)1基,高速増殖炉(FBR)2基,その他6基),ウクライナ14基(そのうちVVER12基,RBMK2基),リトアニア2基(RBMK),カザフスタン1基(FBR)である。
 旧ソ連では,チェルノブイリ原子力発電所事故後においても原子力発電を同国重要なエネルギー源と位置付け,原子力開発を着実に進めていく方針は変わっていない)。しかしながら,チェルノブイリ原子力発電所事故に加え,最近の急激な政治的変化等により開発が停滞ぎみであり,原子力開発の将来は不透明となっている。その一方,電力不足,環境問題等を背景に,ロシア,カザフスタン等の一部の地域の人民議会において,新規原子力発電所建設賛成の決議がなされるといった動きもある。
 アジアにおいては,韓国では,1992年6月末現在,9基,762万キロワットの原子力発電所が運転中であり,1991年には約535億キロワット時を発電し,同国の総発電電力量の約48%を供給している。韓国動力資源部と韓国電力公社は,1991年10月に,長期電源開発計画を取りまとめた。同計画は,建設中・発注済みの5基を含めて18基を2006年までに開発し,2006年の原子力発電規模を現在の約3倍の2,320万キロワットとすることとしている。また,韓国原子力委員会は,1992年6月,原子力技術の自立を目標として「原子力研究開発中・長期計画(1992年~2001年)」を発表した。
 台湾は,原子力発電所6基,514万キロワットの設備容量を有し,総発電電力量の約38%を賄っている。凍結されていた7,8号機目に当たる第4原子力発電所の建設計画は,1991年10月に台湾原子力委員会が条件付きながら承認し,1992年2月に経済部及び行政院も建設再開を承認し,立法院も現在凍結中の準備予算への支出を承認した。7号機は2000年,8号機は2001年の運転開始が予定されている。
 中国は,現在,3基の原子力発電所を建設しており,このうち同国で最初の原子力発電所秦山1号機については,1991年12月に初送電に成功した。1992年末に100%出力運転に到達する予定である。現在,建設中の3基に続き,今世紀中に更に5基の建設が計画されている。
 インドネシアは,2015年までに700万キロワットの原子力発電所の建設を計画しており,1991年からはジャワ島中部のムリア半島で立地調査が開始された。


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