第1章 変貌する国際情勢と我が国の立場

2.強まる各国間の相互関係

 原子力の安全問題,国民の理解と協力の問題等の原子力の抱える課題を国際的共通課題として,各国が協力して取り組むことが重要となっている。特に,安全問題については,チェルノブイル原子力発電所事故発生以来,旧ソ連・中東欧地域における原子炉の安全性に対する懸念が高まっており,早急な対応が必要となっている。
 また,原子力の研究開発は,資金と人材がますます必要となっており,核融合分野のように先進国が効率的な研究開発のための協力を行うことが重要となっているものもある。
 さらに,先進諸国だけでなく,開発途上国との協力も重要になっている。

(1)旧ソ連・中東欧地域等に対する原子力安全に関する協力
(ソ連型原子炉の安全性に関する協力)
 IAEAは,ソ連型原子炉の安全性に対する懸念が高まる中,旧ソ連・中東欧地域のソ連型加圧水型炉(VVER-440/230)の安全性評価に関する調査プロジェクトを1990年9月から実施し,1992年2月にソ連型加圧水型炉(VVER-440/230)10基の中間的な安全評価結果を発表した。この結果では,格納容器の欠如,緊急炉心冷却系が不十分である等の問題点が指摘されている。また,ドイツは,ドイツ統一に伴い,安全性の懸念が表面化した旧東ドイツのノルト原子力発電所(VVER-440/230及びVVER-440/213)等を閉鎖することを決定した。さらに,1992年4月には,IAEAはソ連型のRBMK*の安全性に関する意見交換,今後の協力プロジェクトの検討を行う技術委員会を開催した。
 ミュンヘン・サミット経済宣言においても,ソ連型の原子力発電所の安全性は重大な懸念材料であり,運転上の安全性改善,安全性評価に基づく短期の技術的改善,規制制度の強化を含む多国間の行動計画の枠組みの中で旧ソ連・中東欧諸国に対する支援を行うことに加え,原子力安全条約の早期締結の必要性が述べられている。
 また,1992年7月に開催された西側先進諸国24が国で構成されるG24原子力安全ワーキンググループ(現G24原子力安全支援調整国際会議)において,ミュンヘン・サミットの経済宣言を受けて既存のG24調整対象国を従来の中東欧諸国のみならず旧ソ連諸国まで拡大し,より一層効率的にする新しい枠組みを作成することが決定された。
 経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)においては,中東欧地域の原子炉の安全性についてNEAが分析を進めることを内容とする1991年6月のOECD閣僚理事会コミュニケを踏まえ,安全性向上に関する協力についての検討が行われている。


* 黒鉛減速軽水冷却沸騰水型炉のうち大型のもの。
チェルノブイル原子力発電所はこの型の原子炉を有している。

 この他,民間による国際協力として,世界原子力発電事業者協会(W ANO)が,旧ソ連・中東欧地域を含めた世界規模での原子力発電の安全向上のため,原子力発電所の交換訪問等の活動を行っている。
(原子力安全条約の検討)
 旧ソ連・中東欧地域の原子力発電所の安全性問題を契機として,各国の原子力施設の安全確保を目的とした原子力安全条約の策定が,1991年9月のIAEA主催の原子力安全国際会議で提案された。1992年2月のIAEA理事会で,条約草案策定のためのワーキンググループの設置が了承され,この決定に基づいてワーキンググループが設置され,検討が進められている。
(欧州エネルギー憲章の採択)
 また,ソ連の崩壊,旧ソ連・中東欧諸国の市場経済への移行の動きの中でこれらの諸国のエネルギー部門を全世界的なエネルギー市場に統合し,エネルギー分野における民間部門の貿易及び投資を促進するための枠組みを創設することを目的として1991年12月,政治宣言である欧州エネルギー憲章が採択された。同憲章を受け,国際約束である欧州エネルギー憲章のための基本協定及び原子力を含む3分野の個別議定書を作成すべく,1991年より関係各国による交渉が行われている。

(2)国際協力による研究開発の推進
 核融合研究開発については,1988年4月よりIAEAの支援の下で,日本,米国,EC,ソ連(ソ連崩壊後はロシア)の4極共同による国際熱核融合実験炉(ITER)に関する協力が行われている。1990年12月に概念設計活動が終了し,次段階である工学設計活動に関する4極間の協定が1992年7月に署名された。工学設計活動は,1992年から約6年間の予定で研究開発等が実施され,茨城県那珂町(日本原子力研究所那珂研究所)にも設計のための共同中央チームのサイトのーつが設置されることになっている。
 また,高レベル放射性廃棄物に含まれる核種をその半減期,利用目的等に応じて分離し,有用核種の利用を図るとともに,長寿命核種の短寿命核種又は非放射性核種への変換を行う技術(核種分離・消滅処理技術)に関しては,情報交換を行う国際協力計画(通称オメガ計画)が我が国の提案によりOECD/NEAにおいて実施されており,第1回の情報交換会議が我が国において開催された。なお,現在,同計画の第2フェーズとして,同技術に関するシステムスタディの実施について検討を進めている。

(3)開発途上国との協力
 我が国の提唱に基づき,近隣アジア諸国との協力が行われており,原子力委員会の主催で第3回アジア地域原子力協力国際会議が1991年に引き続き1992年3月に東京で開催された。本会議では,各国の原子力平和利用政策についての発表が行われたほか,①研究炉の利用,②放射性同位元素(RI)・放射線の医学利用,③Rl・放射線の農業利用,④パブリック・アクセプタンスの4分野に関して近隣アジア諸国における地域協力の今後の具体的な協力テーマ及び協力計画についての意見交換が行われた。
 また,我が国は,IAEAの支援の下,「1987年の原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」の締結国として積極的に広くアジア・太平洋地域諸国との協力を行っており,特に,アイソトープ・放射線を利用した工業利用,医学・生物学利用及び放射線防護強化の3つのプロジェクトを中心に推進している。1992年3月には東京で第14回RCA政府専門家会合が開催された。
 なお,同協定は1972年に発効した「原子力科学技術に関する研究,開発及び訓練のための地域協力協定」(1977,82年にそれぞれ5年間延長)に必要な改正を行い,1987年に発効(我が国は同年締結)したものである。(1992年6月に同協定を5年間延長する協定が発効し,我が国も1992年9月に締結した。)


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