第2章 我が国の原子力開発利用の動向
3.主体的・能動的な国際対応の推進-国際社会への貢献

(1)核不拡散対応

 我が国は,原子力の研究,開発及び利用を平和目的に限って推進している立場から,国際的核不拡散の枠組みの維持・強化については,これまでも積極的に国際協力を進めてきた。現在,原子力平和利用と核不拡散に係る国際秩序を確立するため,二国間及び多国間の協議の場において種々の検討が進められており,これにも積極的に参加している。
 本年度上半期においては,以下に詳しく述べるように,「原子力の平和利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(以下,新日米原子力協力協定と略する。)の発効及び「核物質の防護に関する条約」(以下,核物質防護条約と略する。)加入のための関連法令の改正という二つの大きな課題が達成された。

① 二国間協議
(i) 新日米原子力協力協定
 昭和57年8月以降,日米両国間の原子力協力の新たな枠組みの作成につき累次にわたる交渉が重ねられてきた。その結果,昭和62年1月,新協定案に関し両国代表団間で実質合意がなされ,昭和62年11月,個別事例毎ではなく,長期的及び予見可能な方法で同意を与える包括同意方式を導入した新日米原子力協力協定が署名された。
 その後,米国は昭和63年4月に,我が国は昭和63年5月に,それぞれ所要の国内手続きを終え,同協定は昭和63年7月に発効した。
 旧協定の下では,再処理の共同決定,管轄外移転の事前同意は個別審査方式であるため,その時々の米国の原子力政策上の主観的判断の関与により,我が国の原子力計画の円滑な運用が左右されるおそれがあった。今回,協定を改定し,包括同意方式とすることにより,我が国の核燃料サイクル計画は長期的な見通しの下での安定的運用が可能となった。
 さらに,新協定においては,回収プルトニウムの日本への国際輸送について,一定のガイドラインに従う航空輸送に対し包括同意が得られている。

 また,海上輸送による回収プルトニウムの国際輸送についても,米国の包括同意を得てこれを安定的に行う可能性について検討していくことが有意義であるとの日米間の意見の一致を見,日米間で交渉を進めた結果,昭和63年10月,一定のガイドラインに従う海上輸送についても,米国の包括同意が得られることとなった。

(ii) その他の原子力協定
 我が国は,英国,フランス,カナダ,オーストラリア及び中国とも原子力協定を締結しており,この協定に基づき,協定対象核物質の管理,原子力協力の実施等を行っている。

② 核物質防護
 核物質防護については,核物質の不法な移転によりもたらされる危険を防止することが核不拡散上も重要な課題の一つであると国際的に認識されてきており,このような中で,昭和55年3月,IAEAの場でまとめられた核物質防護条約が署名のため開放された。
 同条約は,平和目的に使用する核物質の国際輸送中に適切な防護措置を講じること,当該措置が講じられる保証が得られない場合輸出入の許可を行わないことを規定しているほか,核物質に関する犯罪を処罰すること等について規定しており,昭和62年2月に発効した。
 我が国においては,原子力利用の進展に伴い核物質取扱量及び核物質の輸送機会の増大が予想されることから,核物質防護の必要性は強く認識されてきている。原子力委員会は,我が国の原子力活動に対する国際的信頼を一層高めるとともに,原子力先進国としての責務を果たすためにも,国内の核物質防護体制の強化を図る必要があると考え,昭和62年12月に「核物質防護体制の整備について」を取りまとめ,早急に,核物質防護条約へ加入すること,同条約加入のために必要な法令整備を実施すること等が必要であるとした。このような動きも踏まえ,政府では,核物質防護条約への早期加入のための国内体制整備及び我が国の核物質防護体制強化のため,関連法令の改正等諸般の準備を進めてきたが,昭和63年5月,同条約への加入が国会で承認された。
 これと同時に,同条約に加入するために必要となる同条約が定める核物質を用いた犯罪の処罰規定等を盛り込んだ,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の一部改正が行われた。
 その後,政府は昭和63年10月に加入のための手続きを終え,11月に同条約は我が国について効力を生じ,同条約を実施するために必要な関連法令も施行された。

③ 保障措置
 我が国は,IAEAとの保障措置協定に基づいて,国内保障措置体制の維持を前提として,全原子力活動に対して,IAEAの保障措置を受入れている。また,IAEAの保障措置に関連する技術開発を支援するため,「対IAEA保障措置技術開発支援計画」(JASPAS)を積極的に推進する等,保障措置の効果的・効率的適用のための各種研究開発を行っている。


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