昭和63年版
原 子 力 白 書 昭和63年12月
原子力委員会
昭和63年 原子力年報の公表に当たって 本年は,我が国において原子力発電が始まって25年目に当たります。原子力発電は,既に我が国の総発電電力量の約29%を賄い,安定した稼働実績と相まって,主力電源としての役割を果たしています。また,これまでの間に,公衆の健康に影響を与えるような事故を起こしたことは一度もなく,優れた安全確保の実績を積み上げてきています。
しかしながら,昨今,放射性物質で汚染されたヨーロッパからの輸入食品の問題などを巡り,原子力に対する国民の関心が高まってきており,原子力発電の必要性や安全性,放射線の人体への影響などについて,様々な議論がなされています。
原子力委員会としては,①原子力発電が我が国のエネルギー供給のぜい弱性の克服に貢献する基軸エネルギーであること,②原子力技術は広範な科学技術の水準向上のための索引力となること,及び③我が国が原子力開発先進国として積極的に国際社会に貢献し得ることなどから,原子力の開発利用を積極的に進めていくこととしていますが,これには,国民の理解と協力が不可欠です。
このため,本年の年報は,エネルギー需給,環境影響,科学技術,国際協力という幅広い観点から原子力開発利用の意義と必要性について,改めて把えるとともに,この一年間における我が国の原子力開発利用の現状を記述しております。
本年報が広く国民各位の原子力開発利用に関する理解を深めるために役立てば幸いです。
昭和63年12月2日
国 務 大 臣 科学技術庁長官 伊藤 宗一郎 原子力委員会委員長
本書の構成と内容 本書は,この一年の原子力開発利用の動向を取りまとめたものである。
第I部「総論」においては,原子力発電のエネルギー供給上の位置付けについて,地球規模の環境問題からの視点も含め記述するとともに,エネルギー資源の確保,科学技術の発展,国際社会への貢献という観点から,我が国の原子力政策を概括し,併せて原子力開発利用の進展状況について取りまとめた。
第II部は「各論」として,「原子力発電」,「核燃料サイクル」,「安全の確保及び環境保全」,「新型動力炉の開発」,「核融合,原子力船及び高温工学試験研究」,「放射線利用」,「基礎・基盤研究等」,「国際協力活動」,「核不拡散」及び「原子力産業」について,各々最近の動向を中心に具体的に説明している。
第III部は「資料」として,原子力委員会の決定,原子力関係予算,年表等を取りまとめた。
なお,原子力開発利用においては,安全の確保が大前提であり,原子力安全委員会,安全規制当局,研究開発機関,電気事業者,メーカー等は国民の期待に応えてそれぞれの立場で安全の確保に努めている。それについては,別に「原子力安全年報」において取り扱われているので,本書においてはその詳細に立ち入ることは避け,原子力委員会に関係する基本的事項に留めることにした。
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