第3章 進む研究開発
(1)核燃料サイクル

ハ)放射性廃棄物処理処分

(i) 基礎研究期
 昭和30年代,放射性廃棄物は放射性同位元素使用事業所において発生するものが多く,(社)日本放射性同位元素協会(現,(社)日本アイソトープ協会)が各事業所で発生した廃棄物について全国的規模で一元的な回収貯蔵,保管を進め,日本原子力研究所では独自に貯蔵保管が行われていた。
 この間,原子力委員会は昭和36年の長期計画等において,再処理の事業化に備えた高レベル放射性廃棄物の処理方法に関する研究及びアイソトープ利用や原子力発電の実用化に伴う廃棄物の増加に備えた低レベル放射性廃棄物処理処分の研究を推進すべきことを決定し,日本原子力研究所,国立試験研究機関等において不活性ガスの処理方法,低レベル廃液処理の除染率の向上,有機廃液の処理方法の研究並びに洋上での放射性廃棄物の拡散,移動,混合等の研究,海洋投棄用容器の研究等が行われた。
(ii) 発生する廃棄物への対応
 昭和40年代の半ばから我が国の原子力発電所は次々に運転を開始した。当初より今日まで,原子力発電所において発生した廃棄物のうち気体と液体の一部については処理後安全を確認したうえで大気中または海洋へ放出され,残りの液体廃棄物は濃縮後固化し,その他の固体廃棄物とともに敷地内に安全な状態で貯蔵されている。
 原子力委員会は昭和47年6月に決定した長期計画において低いレベルの放射性廃棄物は海洋処分もしくは陸地処分すること,中程度のレベルの放射性廃棄物は昭和50年代に処分方法を決定すること,高レベル放射性廃棄物は当面の間保管するとの方針を明らかにした。
(iii) 体制の整備と処分への準備
 原子力委員会は昭和51年10月に以下に示される放射性廃棄物対策に関する基本方針を決定した。すなわち,低中レベル放射性廃棄物は固化後固化処理形態に応じて海洋処分または陸地処分すること,高レベル放射性廃棄物は安定な形態に固化し,一時貯蔵した後,処分することとなった。この決定により我が国の放射性廃棄物対策の基本的枠組が示され,以後,これに沿って政策が進められてきている。
 低レベル放射性廃棄物については,まずその発生量を減少させること,さらに発生した廃棄物の減容に向けて官民をあげての技術開発が行われ,現在,可燃性雑固体向けの焼却炉の導入,減容性に長じたアスファルト固化,プラスチック固化処理法等が実用化され,廃棄物固化体の発生量の増加が抑制される等著しい成果が上がっている。
 また,低レベル放射性廃棄物の海洋処分については,昭和54年11月,原子力安全委員会が試験的海洋処分の安全評価に関する報告書をとりまとめ,環境の安全は十分確保できる旨確認した。また,その実施に当たっては,国際的な理解及び協調が必要であることから処分予定海域に近接した太平洋諸国に対し,数次にわたって処分計画の概要及び安全評価の内容の説明を行ってきた。本件に関しては,我が国は関係国の懸念を無視して強行はしないとの方針を明らかにしている。また,昭和55年11月には「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)に加盟し,昭和56年7月には経済協力開発機構原子力機関(OECD-NEA)の多数国間協議監視制度に参加した。さらに昭和58年2月に開催されたロンドン条約締約国会議の決議に従い,我が国を含む各国の専門家の参加の下に科学的検討が行われた。
 一方,陸地処分については,所要の研究が進められてきたが,昭和59年8月,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会から低レベル放射性廃棄物の放射能レベルに応じた合理的な管理のあり方について報告書が提出され,処分の実現に向けて大きな前進が見られた。現在,低レベル放射性廃棄物最終貯蔵計画を青森県六ヶ所村において具体化するための準備が進められている。
 高レベル放射性廃棄物については,昭和55年12月及び昭和59年8月に同専門部会から報告書が提出され高レベル放射性廃液は安定な形態に固化し,処分に適する状態になるまで冷却のための貯蔵を行い,その後地層に処分すること,固化処理法としてはホウケイ酸ガラス固化に重点を置いて研究開発を進めること,地層処分については地下数百メートルより深い地層中に処分し,天然バリアと人工バリアを組み合わせた多重バリアによることが示された。
 ガラス固化処理技術,固化体貯蔵技術,地層処分技術については,現在,動力炉・核燃料開発事業団を中心に,また,これらの安全性評価については,日本原子力研究所を中心に研究開発が行われている。


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