昭和60年版

原 子 力 白 書
     
昭和60年12月

原子力委員会
 

昭和60年原子力年報の公表に当たって

 ここに,昭和60年原子力年報を公表いたします。
 今年は,原子力委員会が昭和31年1月1日に発足してから,満30年という節目の年にあたります。我が国の原子力開発利用については,我が国が戦後の混乱を克服し,平和国家の建設と経済の発展を目指して歩み始めた時期に開始され,厳に平和利用に限ることを基本理念として,今日まで鋭意努力が続けられてまいりました。現在では,原子力発電が総発電電力量の約4分の1を賄い,また放射線を利用する事業所数も約4,500ヵ所を数えるに至るなど原子力は国民生活及び経済活動に不可欠なものとなっております。
 昨今,国際的な石油情勢は一応の安定をみておりますが,長期的には,石油の需給が逼迫する方向に向かっていることは十分に認識する必要があります。我が国が二十一世紀に向けて着実な発展を遂げるためには,国家の自立の基盤とも言うべきエネルギーの安定的な確保が極めて重要であることは言をまたないところであります。このため,国産エネルギーに準じた安定供給性が期待できる原子力に対して社会の要請は益々高まるものと考えられます。こうした社会の要請に対応し,安全の確保を旨としつつ,原子力発電の信頼性及び経済性の一層の向上,核燃料サイクルの確立,高速増殖炉の開発,核融合の研究等の課題に対して,計画的に取り組んでまいる所存であります。
 今年の年報におきましては,我が国の原子力開発利用の現状を記述するほか,30年の歩みを振り返り,それを踏まえた昭和60年代の展望と課題についてとりまとめました。本年報が広く国民各位の原子力開発利用に対する理解を高めるために役立つことができれば幸いです。

昭和60年12月3日

国 務 大 臣
原子力委員会委員長 竹 内 黎 一
 

本書の構成と内容

 本書は,この一年における原子力開発利用の動向についてとりまとめたものであるが,今年が原子力委員会発足以来満30年にあたり,ひとつの区切りの時期を迎えることから,これまでの歩みを振り返り,また,昭和60年代を展望するとの観点も含めて編集されている。
 第I部「総論」においては,第1章で我が国原子力開発利用の30年の歩みの中から,今後の原子力開発利用を推進する上で特に重要と考えられる事項をとりまとめ,これを踏まえて昭和60年代を展望し原子力発電を中心とした基本課題を記述した。第2章では,我が国の原子力開発利用及び我が国をめぐる国際動向について最近の主要な動きを紹介した。
 第II部「原子力開発利用の歩み」においては,原子力発電の進展,放射線利用の拡大,原子力産業の発展,核燃料サイクル,新型動力炉,その他研究開発の進展等を中心に我が国の原子力開発利用の30年の歩みを,全般的にとりまとめた。なお,我が国の原子力開発利用は,平和利用を基本理念とし,平和利用と核不拡散の両立を基本的立場として国際社会に臨んできたことに鑑み,第II部冒頭に1章を設け,平和利用をめぐる国際動向と我が国の対応につき,記述している。
 第III部は「各論」として,「原子力開発利用の動向」をとりまとめ,原子力発電,核燃料サイクル,安全の確保,安全の実証及び環境保全,新型動力炉の開発及びプルトニウム利用,核融合,原子力船及び多目的高温ガス炉の研究開発,放射線利用,基礎研究等,国際協力活動,核不拡散及び原子力産業について各々1章を設け最近の動向を中心に具体的に説明している。
 第IV部「資料」は,原子力委員会の決定,原子力関係予算,年表等をとりまとめている。
 なお,原子力開発利用においては,安全の確保が大前提であり,原子力安全委員会,安全規制当局,研究開発機関,電気事業者,メーカー等において,国民の期待に応えてそれぞれの立場で安全の確保についての努力が続けられているところであるが,それについては別に「原子力安全年報」においてとりあつかわれるので本年報においては,重複を避けるべく,その詳細に立ち入ることは避け,原子力委員会に関係する基本的事項にとどめることとした。

 

 
目   次

 
第I部 「総論」
 
はじめに
第1章新しい時代を迎える原子力開発利用
   1.原子力開発利用の歩み
   2.昭和60年代の展望と課題
第2章我が国の原子力開発利用の現状33
   1.原子力発電の動向
   2.核燃料サイクルの動向
   3.新型動力炉及びプルトニウム利用の動向
   4.その他の主な研究関発
   5.国際関係
 
第II部 「原子力開発利用の歩み」
 
第1章 平和利用と国際関係
 
(1)平和利用体制の整備
(2)国際原子力機関への協力
(3)二国間原子力協定の締結
(4)核不拡散条約の批准
(5)インドの核実験と核不拡散強化
(6)ロンドンガイドライン
(7)日米再処理交渉と国際核燃料サイクル評価
(8)INFCE終了後の動向
(9)日中原子力協議
 
第2章 我が国経済社会に根づく原子力
 
(1)原子力発電
   イ)原子力開発利用の曙
   ロ)軽水炉の導入
   ハ)原子力発電試練の時代
   二)原子力発電の試練への対応
   ホ)原子力発電の定着
(2)放射線利用
   イ)放射線利用体制の整備
   ロ)放射線利用の拡大
(3)原子力産業の発展
   イ)原子力産業の成立
   ロ)第I期(昭和31年〜昭和40年:原子力市場の形成期)
   ハ)第II期(昭和41年〜昭和45年原子力市場の成長期)
   ニ)第III期(昭和46年以降:原子力市場の発展及び多様化)
   ホ)原子力産業の成長
 
第3章 進む研究開発
 
(1)核燃料サイクル
   イ)ウラン濃縮等
   ロ)再処理
   ハ)放射性廃棄物処理処分
(2)新型動力炉開発
   イ)国産動力炉開発のスタート
   ロ)動力炉自主開発方針の定着
   ハ)動力炉・核燃料開発事業団の発足
   ニ)新型転換炉の研究開発
   ホ)高速増殖炉研究開発
(3)その他研究開発
   イ)多目的高温ガス炉
   ロ)原子力船
   ハ)核融合
 
第III部 「原子力開発利用の動向」
 
第1章 原子力発電
 
1.原子力発電開発の状況
2.原子力発電所の運転状況
   (1)設備利用率
   (2)事故・故障等
3.原子力発電所の立地関連状況
   (1)原子力発電に関する国民の意識
   (2)原子力発電所の立地をとりまく状況
   (3)原子力発電所等の立地促進
   (4)公開ヒアリング
4.軽水炉技術の向上
   (1)軽水炉の改良標準化
   (2)軽水炉の技術高度化
5.原子炉の廃止措置
   (参考)諸外国の動向
 
第2章 核燃料サイクル
 
1.ウラン資源
   (1)天然ウランの需給バランス
   (2)ウラン資源の調査探鉱
   (3)製錬・転換技術の開発
2.ウラン濃縮
   (1)ウラン濃縮需給バランス
   (2)ウラン濃縮の技術開発
   (3)原型プラントの建設
   (4)商業プラントの建設
3.核燃料再転換・成型加工
   (1)軽水炉用核燃料再転換・成型加工
   (2)研究炉用核燃料成型加工
4.使用済燃料の再処理
   (1)東海再処理工場
   (2)民間再処理工場
   (3)海外再処理委託
   (4)技術開発
5.核燃料物質の輸送
6.放射性廃棄物の処理処分対策
   (1)放射性廃棄物処理処分の現状
   (2)放射性廃棄物処理処分の研究開発
7.核燃料サイクル関連施設の立地
   (参考)諸外国の動向
 
第3章 安全の確保,安全の実証及び環境保全
 
1.原子炉施設等の安全確保
   (1)原子炉施設の安全確保
   (2)核燃料施設等の安全確保
   (3)放射性同位元素等の取扱いに係る安全確保
2.原子力の安全研究
   (1)原子力施設等の安全研究
   (2)環境放射能の安全研究
   (3)放射性廃棄物処分の安全研究
3.原子力施設等の安全性実証試験
   (1)配管信頼性実証試験
   (2)大型再冠水効果実証試験
   (3)使用済核燃料輸送容器信頼性実証試験
   (4)再処理施設耐食安全性実証試験
   (5)再処理施設排気フィルタ安全性実証試験
   (6)放射性廃棄物安全性実証試験
   (7)燃料集合体信頼性実証試験
   (8)溶接部等熱影響部信頼性実証試験
   (9)ポンプ信頼性実証試験
   (10)原子力発電施設耐震信頼性実証試験
   (11)電気計装機器信頼性実証試験
4.環境放射能調査
   (1)自然放射線の調査
   (2)原子力施設周辺の放射能調査
   (3)核爆発実験に伴う放射性降下物の放射能調査
   (4)米国原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査
   (5)放射能測定マニュアル等の整備
5.温排水に関する調査研究
 
第4章 新型動力炉の開発及びプルトニウム利用
 
1.高速増殖炉
   (1)実験炉の運転
   (2)原型炉の建設
   (3)実証炉の開発
   (4)研究開発の現状
2.新型転換炉
   (1)原型炉の運転状況
   (2)実証炉の開発
   (3)研究開発の現状
3.プルトニウム燃料の加工と高速炉燃料の再処理
   (1)プルトニウム燃料加工
   (2)硝酸プルトニウムの混合転換
   (3)高速炉燃料再処理技術開発
(参考)諸外国の動向
   (1)高速増殖炉
   (2)高速炉燃料再処理
 
第5章 核融合,原子力船及び多目的高温ガス炉の研究開発
 
1.核融合
   (1)研究開発
   (2)国際協力
2.原子力船
   (1)原子力船「むつ」による研究開発
   (2)その他の研究開発
3.多目的高温ガス炉
   (1)究開発
   (2)国際協力
(参考)諸外国の動向
   (1)核融合
   (2)原子力船
   (3)多目的高温ガス炉
 
第6章 放射線利用
 
1.放射線利用の動向
2.農林水産業への利用
   (1)食品照射
   (2)害虫防除
   (3)品種改良
3.工業への利用
4.医療への利用
5.放射線利用に係る研究開発
 
第7章 基礎研究等
 
1.基礎研究の動向
2.日本原子力研究所における基礎研究
3.放射線医学総合研究所における基礎研究
4.理化学研究所における基礎研究
5.国立試験研究機関における原子力試験研究
 
第8章 国際協力活動
 
1.先進国との国際協力
   (1)二国間協力
   (2)多国間協力
   (3)国際機関との協力
2.開発途上国との国際協力
   (1)AEA/RCA
   (2)開発途上国協力の展開
3.国際交流
   (1)原子力委員会招へい
   (2)開発途上国原子力関係者招へい
   (3)海外原子力関係者の来訪
 
第9章 核不拡散
 
1.核不拡散に関する我が国をめぐる二国間の動向
   (1)日米再処理問題
   (2)日中間の原子力協力
2.核不拡散に関する国際的協議
   (1)国際核燃料サイクル評価(lNFCE)後の諸問題
   (2)ルクセンブルグ会合
   (3)第3回NPT再検討会議と原子力平和利用国連会議
3.保障措置
   (1)我が国における保障措置体制
   (2)保障措置の実施状況
   (3)保障措置技術に関する研究開発と国際協力
4.核物質防護
   (1)核物質防護をめぐる国際的動向
   (2)我が国における核物質防護
 
第10章 原子力産業
 
1.原子力発電関連機器産業
2.核燃料サイクル関連事業
   (1)核燃料再転換・成型加工事業
   (2)その他の核燃料サイクル関連事業
3.RI・放射線機器産業
 
第VI部 「資 料」
 
1.原子力委員会,原子力安全委員会及び原子力関係行政組織
   (1)原子力委員会
   (2)原子力安全委員会
   (3)原子力関係行政組織
2.原子力委員会の決定等
   (1)原子力委員会決定一覧(原子炉等規制法に係る諮問・答申を除く)
   (2)昭和60年度原子力開発利用基本計画
   (3)日本原子力研究所の原子力船の開発のために必要な研究に関する基本計画
   (4)原子力分野における開発途上国協力の推進について
   (5)日中原子力協力協定の署名について
   (6)原子炉等規制法に係る諮問・答申について
   (7)専門部会等報告「高速増殖炉開発懇談会」中間取りまとめ
   放射性廃棄物処理処分方策について
3.原子力関係予算
   (1)昭和60年度原子力関係予算総表
   (2)昭和60年度原子力関係予算(一般会計)(科学技術庁)
   (3)昭和60年度各省庁原子力関係行政費(科学技術庁を除く)
   (4)昭和60年度電源開発促進対策特別会計予算
   (5)原子力関係予算重要事項別総表
4.その他
   (1)原子力モニターの声(昭和60年度)(アンケート調査結果)
   (2)国際原子力機関主催シンポジウム一覧
   (3)我が国の原子力発電所の現状
   (4)我が国の原子力発電所の時間稼動率及び設備利用率(過去10年間)
   (5)各国のエネルギー計画
   (6)各国の原子力発電所の設備利用率(過去10年間)
   (7)我が国における核燃料物質保有量一覧表
   (8)原子力研究開発利用年表