第2章 我が国経済社会に根づく原子力
(1)原子力発電

二)原子力発電の試練への対応

 このような状況の中で,電気事業者及び原子力機器メーカー自身の対応はもちろんのこと,国としても,行政面,技術面から様々な対応策を講じていった。

(i)組織・制度の整備・充実
 原子力委員会は,昭和47年に策定した長期計画において,原子力知識の普及啓発及び自然環境との調和の必要性を指摘するとともに,地元福祉向上及び地域社会の発展に資する積極的な施策が必要であるとした。また,国民との積極的な意思の疎通を図るとの観点から公開ヒアリング等を開催して地元団体等の生の声を聴取する措置を講じた。昭和48年には「原子炉設置に係る公聴会開催要領」を決定し,昭和49年には,いわゆる電源三法が成立し,以後,地元社会の発展に貢献する施策が講じられることとなった。また,昭和52年には総合エネルギー対策推進閣僚会議において電源立地円滑化のための国の方針が了解される等,立地問題への取り組みが一層強化された。
 安全問題については昭和49年の原子力船問題を直接の契機として昭和50年より原子力行政懇談会が開催され,翌昭和51年7月原子力行政体制の改革・強化について内閣総理大臣に対して報告が行われた。この間科学技術庁は昭和51年1月原子力安全局を設置し,安全行政の充実を図った。昭和53年には,原子力行政懇談会の報告を参考とし原子力基本法の一部改正が行われ,新たに,安全規制に関する事項について企画審議し決定する原子力安全委員会が設置されることとなった。こうした改革は,推進と規制の機能を分割し,複数の省庁にまたがる規制を一貫化するとともに,安全委員会による行政庁審査のダブルチェックを行うことにより,安全確保に万全を期すとともに国民の信頼を確保することを目ざしたものである。

(ii)指針類の整備・充実
 原子力委員会は昭和47年環境の保全と安全性の確保の一層の徹底を図るべく,規制及び研究の進め方を検討するため,環境・安全専門部会を設置したのを始めとし,各種の専門部会を設け,それらの審議結果に基づき,昭和50年5月「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」を決定するなど,種々の指針の策定及び整備・充実を行った。
 また,これと並行して,原子力委員会は,より合理的な安全審査指針の策定及び安全性の向上に寄与するため,昭和51年安全研究年次計画を策定し,日本原子力研究所を中心としたROSA計画(昭和45年からスタートし,現在ROSA-IVを実施中)等,工学的安全研究の充実,放射線医学総合研究所を中心とした環境放射能安全研究の充実を図る等の諸施策を講じた。

(iii)技術改良
 技術面からの対応としては,昭和50年度から改良標準化計画が開始された。この計画は我が国の国情により適した軽水炉を確立するため,国,電気事業者,機器メーカーが一体となって自主技術による信頼性,稼働率の向上,被ばく低減等を目指して,軽水炉の改良を進め,更に標準化を行うものである。
 この計画は,第1次が昭和50年度から昭和52年度,第2次が昭和53年度から昭和55年度に行われた。その主目的は格納容器内の作業性向上による被ばくの低減,定期検査の効率化,稼動率の向上等であり,これらの成果は昭和59年2月営業運転開始した福島第二原子力発電所2号機等,その後のプラントに逐次反映されている。
 さらに,第3次改良標準化計画として昭和56年度から昭和60年度まで,第1次及び第2次の成果をベースにして,信頼性,稼働率,運転性の向上,被ばくの低減等を目標とした新型軽水炉(A-LWR)の開発等が進められている。また,軽水炉の高度化に関する検討が総合エネルギー調査会原子力部会軽水炉技術高度化小委員会で行われている。


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