第I部 「総論」
第2章我が国の原子力開発利用の現状33

4.その他の主な研究関発

(1)多目的高温ガス炉
 軽水炉の熱効率が火力発電での熱効率より低いのは,操業温度が低いためである。従って,原子炉の高温化は,原子力の効率的利用のための重要問題であり,そのひとつとして多目的高温ガス炉の開発が,昭和44年以来日本原子力研究所において進められており,現在システム合理化を行うための設計研究を行っている。また,高温,高圧ヘリウム雰囲気の条件下で高温ガス炉用機器の実証を行うことを目的とした大型構造機器実証ループ(HEN-DEL)を使用した試験が行われており,その成果が期待されている。さらに高温ガス炉建設に必要な原子炉物理の研究や核計算手法の確立を目指した高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)の初臨界が昭和60年5月に達成され,また燃料,材料等の研究分野においてもその成果を着実に積み重ねている。

(2)放射線利用
 放射線利用は,原子力発電等のエネルギー利用と並び原子力平和利用の重要な柱であり,医療,工業,農林水産業等の幅広い分野で活用されている。
 医療分野においては,放射線は診断,治療の手段として既に不可欠のものとなっているが, さらに, 新たな利用技術の研究開発も積極的に進められている。診断の面では,エックス線コンビュータ断層撮影装置(X線CT)が既に広く利用されているが,陽電子(ポジトロン)放出核種を用いることにより従来のX線CTによる診断では不可欠な脳,心臓等における代謝及び機能診断を可能とするポジトロンCTも,現在,放射線医学総合研究所において工業技術院等の協力のものに実用化に向けて開発が進められている。
 また,治療面でも,がんの治療においては電子線,エックス線及びガンマ線による治療が広く利用されている。これらの成果をもとに,昭和59年から放射線医学総合研究所において,治療効果が高く集中照射が可能な重粒子線による治療の早期実現を目指して,重粒子がん治療装置の研究が開始された。

 工業分野においては,各種工程管理に放射線を利用した液面計,厚み計等が用いられているほか,放射線を利用した高分子材料の開発等が日本原子力研究所を中心にして行われている。
 農林水産業分野においては,品種改良,害虫防除等に放射線が利用されている。また,食品照射については,原子力委員会が策定した計画に基づき,国立試験研究機関等において馬鈴薯,玉ねぎ,米,小麦等7品目を対象に研究が進められ,現在,馬鈴薯について実用化されている。
 なお,国際的には,昭和55年のFAO/IAEA/WHO合同専門家委員会の報告等を契機として,近年食品照射の利用拡大の動きが高まってきており,米国においては生鮮野菜等を対象とした食品照射を許可すべく現在手続きを進めている。

(3)原子力船
 これまで,日本原子力船研究開発事業団において原子力船「むつ」の開発を中心とした研究開発が進められてきた。
 現在,原子力船「むつ」は,大湊港に係留されており,地元との協定に基づき,関根浜新定港の建設は昭和59年2月から開始されている。
 「むつ」による原子力船の研究開発について,内閣総理大臣及び運輸大臣は,今後の舶用炉の研究開発に必要不可欠な実験データ・知見を得るため,概ね1年を目途とする実験航海を行うこととし,そのために必要な最小限の規模の定係港を建設すること等を内容とする「日本原子力研究所の原子力船の開発のために必要な研究に関する基本計画」を昭和60年3月31日に策定した。
 なお,日本原子力船研究開発事業団は,行政の簡素・効率化を推進する親点から,「日本原子力研究所法の一部を改正する法律」(昭和59年7月13日公布,法律57号)により,昭和60年3月31日,日本原子力研究所と統合された。今後, 日本原子力研究所の総合的な研究・技術基盤と日本原子力研究開発事業団の技術的経験との効果的な調和をはかり,従来の経緯を踏まえつつ,段階的かつ着実に原子力船の研究開発を遂行していくこととしている。

(4)核融合
 核融合エネルギーの利用は,これが実用化された場合には極めて豊富なエネルギーの供給を可能にするものであり,人類の未来を担う有効なエネルギー源として,その開発に大きな期待が寄せられている。
 我が国における核融合研究は,日本原子力研究所,大学,国立試験研究機関等において進められており,今日,世界的水準にある。
 日本原子力研究所においては,トカマク方式による臨界プラズマ条件の達成を目指した臨界プラズマ試験装置JT-60の本体が昭和60年4月に完成し,"Firstplasma"(最初のプラズマ電流の発生)の発生に成功した。
 一方,大学,国立試験研究機関等においては,各種のプラズマ閉込め方式の研究や炉心技術及び炉工学を含む広い関連分野における基礎的研究が行われている。
 原子力委員会では,大学,その他の関係機関とも緊密な連携を保ちつつ核融合の研究開発を総合的に推進するため, 昭和50年11月に核融合会議を設置し,連携・協力の促進を図るとともに研究開発方策の検討を行っている。


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