第1章 原子力開発利用の動向
5 自立期を迎える原子力産業

(2)原子力の経済的・技術的波及効果

 原子力は,エネルギー分野及び放射線利用分野において広く利用されているが,原子力産業の発展は経済的にも技術的にも大きな波及効果をなすものである。

イ)経済的波及効果

(i)内需形成効果等
 我が国の経済は内需中心の経済運営が内外から期待されている。電源開発投資は,我が国の民間設備投資の約4%を占め,そのうち半分程度が原子力に対するものであり,原子力の内需形成効果は大きい。
 発電に要する経費の内外投下割合をみると,火力発電については,燃料費(その殆どが海外に支払われる)の占める割合が大きく,一方,原子力発電については建設費の占める割合が大きいため,原子力発電は火力発電に比べると資金の国内投下割合が大きいといえる。また,原子力発電の燃料費のうち,国内支払分は現在では再転換・成型加工費のみであるが,濃縮,再処理等の国産化に伴い徐々にその割合を増すものと期待される。

(ii)他の産業への波及効果
 原子力産業は多種多様な産業に関連を有する総合的なシステム産業であり,原子力関連の需要は,主として最終需要として,多くの産業に対して広く波及効果をもたらす。
 昭和55年度産業連関表に基づき分析した結果によると,原子力産業に係る産業間の取引構造は図に示すようになっており,建設・土木及び電気機械部門からの納入が多く,また,鉄鋼部門の需要誘発効果が大きいことが示される。
 また,図に示すように生産誘発効果,雇用誘発効果とも原子力産業は全産業の平均を上回っており,全産業中相対的に高い波及効果を有していると評価できる。特に原子力機器・部品製造部門は製造業の中で雇用誘発効果が大きいが,これは原子力が高度な技術分野であるため多くの熟練技術者を必要とするためと考えられる。

ロ)技術的波及効果
 原子力技術は,高度な先端技術であり,科学技術立国を目指す我が国の科学技術水準の向上に大きな役割を果たすと期待されている。
 原子力技術は多種多様な分野にわたる技術を幅広く総合化したものであり,広い技術分野に対して波及効果を有するが,特に次のような技術分野に波及効果が大きい。
① 基盤的技術分野
 イ 設計・分析技術(放射性同位元素利用による各種計測,非破壊検査等)
 ロ 新材料の開発(高温材料,高耐食材料,高難燃材料等)
 ハ 溶接技術(溶接精度,信頼性の向上)
② システム技術分野
 イ 信頼性・安全性評価技術
 ロ 品質管理技術
 ハ 耐震設計を含む大型構造物の設計技術
 ニ ロボット等自動化,遠隔操作技術
 とりわけ,原子力技術は,極めて高度な信頼性が要求される巨大システム技術として,システムの評価技術,品質管理・品質保証,エンジニアリング技術等のシステム全体の管理技術向上に大きな貢献をしていると評価できる。

 以上述べたように,原子力開発利用は,エネルギーの安定供給,放射線利用のみならず,経済的側面あるいは技術的側面からも我が国の発展に大きな寄与をなすものである。この点からも,原子力開発利用を積極的に推進する意義は大きいと考えられる。


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